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第1回 『濡れた髪に触れられた時』

 今日もコタツでお茶を飲む。相変わらずここは参拝者が来ない。私、博麗霊夢は暇を持て余していた。


「新聞でも読むかな」


 最近どこかの妖怪から奪った「文々。新聞」を読む。最近は特に大きな異変も起きないし平和で助かっている。が、その分仕事も無い。どこかの本に書いてあったが、平和というものはそれすなわち退屈らしい。コタツで寝ながら外を見ていると、風を切る音とともに空から人影が見えた。


「霊夢~!」


 …コイツも暇なんだなぁ。いつもの金髪女がやってきた。


「おい、霊夢~異変だ異変だ」

「私は忙しいのよ」

「寝てるだけじゃねえか!それより聞いてくれよ」


 魔理沙の話にはたまにデマなどがある。まともに付き合っていると疲れ損だったりするので、話半分に聞いてやることにした。


「というわけで幻想郷にコンビニが出来たんだって!行こうぜ」

「で、コンビニって何?」

「お前、人間なのにコンビニも知らないのか?」


 なるほど。話を聞いていると、外の世界では常識の様に並んでいるよろず屋のようなものらしい。でもそこまで世の中にありふれているのなら、なんで幻想郷に?外の世界のものがこっちに来ることがあるものは「幻想となった」と判断されるほど、絶滅の危機に瀕した生き物とかが多いのに。


「面白そうね、まあデマじゃなさそうだし」

「そうなんだよ!で、今は妖怪も人間もコンビニブームってわけ、今行列もできてるんだよ」

「人間は、並ぶのが好きだものねぇ」


 ひとまず、異変か?と言われれば何とも言えないがちょうど小腹も空いていたし、そのコンビニとやらに魔理沙行くことになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 辿り着いたのは『人間の里』。文字通り人間がたくさん住んでいる。

 普通に人間もいるし、妖怪もたまにいる。けれど、滅多なことでは妖怪は襲ってこないし、比較的安全な場所である。


「いらっしゃいませ~」

「急に雨が降ってくるなんてなぁ」

「やっぱり、アンタといるとろくなことがないわ…」


 突如降りだしたスコールレベルの大雨にずぶ濡れになった二人は、急いでコンビニに入った。突如幻想郷に現れたコンビニ、名前は「an/pnエーエヌピーエヌ」。魔理沙の話によるとこのコンビニはどこかの大手コンビニに吸収合併されたらしく、外の世界には無くなり「幻想となった」と判断されて突如現れたらしい。なるほど、多少違和感を感じるが、まあ幻想郷なんてそんなものだ。


「傘も売ってるのねぇ」

「薬もあるぞ、二日酔いに効くやつとか」

「いつ萃香が来るかも分からないから買っておこうかしら…」

「おい!お菓子もあるぞ。幻想郷に無いものばかりだな!」


 コンビニが現れれば、そこにある商品自体も外の世界のものばかりらしい。

 どうやって運んだんだろう…確かにここまでくるとこれは異変といえば異変だ。魔理沙は相変わらずはしゃいでいる。ほかの客は妖怪もいれば人間もいる。超有名な妖怪も超ラフな格好で来ている。コンビニには、様々な生き物を呼びこむ魔力みたいなものがあるのかも知れない。


 今日はやはりいきなりの雨が降ったということもあり、たくさんの人間たちが傘を買って行っている。需要と供給が成立する瞬間を見た。うちの神社にもこういった成り立つビジネスモデルがあれば貧乏に困らないのだが。

 なにせうちには神がいるのか…いないのかも分かってない。あ、これ以上参拝者が来なくなると困るので、この話はどうか内密にして頂きたい。


 魔理沙は大量のお菓子を買い物カゴに入れている。傘を眺めていると、1本だけ、明らかにおかしな傘がある。なんというか時代錯誤というか…興味本位で抜いてみる。


「(小さな声で)ひひひ、上手くいったぞ~」

「………」


 傘から声が聞こえる。どうやら妖怪らしい。相変わらずひとりごとが聞こえてくる。面白そうだと思った私はその傘をレジまで持っていった。


「4円になります」

「高いわね…」


 傘のくせにあまりに高い…ちなみに幻想郷での1円は外の世界での1万円に値するそうだ。神隠しなどで外からやってきた人間には「まるで明治時代ですね」と驚かれる。


「(小さな声で)あれれ、高いの…?じゃあこれならどうかな」


 また声が聞こえてきた。バーコード?と言われる部分の形が変わっていく。

 私は再びレジに持っていく。今度は隣のレジの店員に持っていった。


「4銭になります」


 せっかくなら1銭にしてよと思ったが、まあ相応の値段になったので購入。

 どこに持っていたのか魔理沙は、泥棒が使うような巨大な風呂敷に商品を入れて背負っていた。


「せっかくだし人間の里もうちょっとぶらついて行こうぜ」

「まあ、いいかもね」


 私は買った傘に魔理沙を入れてやった。最初は異変だとかなんとか言ってうちに来たのに、今となってはただ遊んでるだけ。

 まあ久々だし、嫌じゃないけれど…


「(小さな声で)今日のイタズラは、傘に化けて間違って買わせてしまうって言う、超極悪非道なイタズラ…ふふ、こんなこと考える私ってほんとワルだよね~」


 この謎の妖怪。能力は『ネタバレをする程度の能力』とかだろうか?想像以上にアホの子のようだ。よし、ここは逆にイタズラをしてやるとするか。そんなことを考えていたら、いいタイミングで珍しい知り合いが現れた。


「あら、紫じゃない?」

「あら、霊夢と魔理沙…おひさしぶり」

「あんたいつもその傘ね?」

「この傘はいつもの日傘とは違うわ、同じデザインなだけよ…」

「それより、これアナタに似合うと思うんだけど」


 そう言い傘を見せた。


「へぇ、紫色でなかなかいい趣味してるわね」

「良かったらアナタの傘と交換しない?さっきそこのお店で買ったばかりなの」

「こ、交換?変なこと言うわね…、何か企んでるんじゃないでしょうね?」

「(鋭いな…)」


 そんなこんなで疑う紫と、なんとか傘の交換が成立した。


「うん、結構気に入ったかも。感謝するわ霊夢」

「いやぁ私もよ。これくるくる回して遊んでみたかったのよね」


 お互い納得トレードが出来た。手渡す時に、傘が明らかに動揺しているのが分かった。冷や汗なのか手汗なのか分からないが。


「(小さい声で)ひ、ひぃ…コイツって、もしかしてあの…?」


「(ぁ、なんか霊夢の手のあったかいのが残ってる…なんか、変な感じね)」


 明らかに動揺する傘。紫もなぜか同様に動揺している。そして雨も小雨になってきた。


 その後、その傘の行方は分からない。ただ、紫の傘はかなりの額で売れた。


続く

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