第1節「探し物はなんですか?/その1」
美百合先輩に協力することになった数日後。
俺は天坂の席の前に立った。
少し前まで近寄りがたいと思っていた天坂。だけど、美百合先輩の親戚というだけで話す機会が増えた。
とはいえ、相変わらず天坂の周りには誰もいない――むしろ、以前と変わらず一人で本を読みふける文学少女なんてイメージはいまも変わらないな。
……なんて思ってたら、とっさに俺の存在に気付いた天坂と目が合った。
「何か用?」
「あっ、いや。たいした用事じゃないんだが、天坂って美百合先輩の親戚なんだろ?」
「そうだよ……と言っても、ちょっと前までは親戚同士の集まりのときぐらいしか話す機会はなかったけど」
「そうなのか?」
「ウチは代々対魔士の家柄だから、もう霊能力云々とは関係のない親戚も多いの。美百合ちゃんちもそういった類いの家だよ」
「へぇ~そうだったのか。あ、それよりさ、ちょっと美百合先輩について教えて欲しいことがあるんだけど」
「いいよ、なにが知りたいの? 身長? 体重? それともスリーサイズ?」
「それは是非にも聞いてみたいが、いまは遠慮しておくよ」
「なら、なにがしりたいの?」
「本人に聞いたら、不味いような話……かな」
「私が知ってる話であれば話せるけど、そうじゃない話はできないよ?」
「もちろん、わかってるよ――で、話ってのは、美百合先輩自身がなにか悩みを抱えていないか、天坂自身が知らないかってこと」
俺が聞きたかったのは、マンションを出る際に見せた美百合先輩の悲しげな後ろ姿のことである。
あれから何度か聞いてみようと思った。しかし、あのときの先輩の後ろ姿を思い出しちまったら、どうしても勇気が出なかった。
仮に聞いたとして、「もし嫌われるような結果になったら?」なんて考えちまったら、昔のようなことになるかもしれない――それが怖くて言い出せなかった。
それゆえ、俺は天坂を頼ることにしたのである。
「……美百合ちゃんの悩みか……」
「なにか聞いてたりしないか?」
パタンッと音を立てて、天坂が本を閉じる。
それがなんとなく意味ありげで、話すことをもったいぶっているようだった。俺はあまりの不気味な笑顔におもわず聞き返した。
「……な、な、なんだよ?」
「邑神君は優しいね」
「優しい? 俺はそんなんじゃ……って、とにかくもったいぶらずに教えてくれ」
「残念だけど、私の口からは説明できないよ」
「どうして?」
「もし仮にそれを説明したとして、邑神君は美百合ちゃんになんて言うつもりなの?」
「そりゃあ深く悩んでるなら、励ましてあげるとかそういうことするのが普通だろ」
「でも、それが押しつけがましいことだってあるんだよ?」
「俺だって、そのぐらいのことはわかってるつもりさ」
「……『つもり』ね。だったら、もし本当にそうだった場合はどうするの?」
「それは、あのだな……」
天坂に詰め寄られ、俺は黙るしかなかった。
答えは単純、俺にはどうすることもできない。
天坂が言いたいことはそういうことだろ? 下手をすれば、無神経にも美百合先輩の触れてはならない傷口に泥を塗りかねないし……。
だから、天坂は説明したくなかったのかもしれない。
俺はその答えに口を閉ざすしかなかった。
立て続けに天坂が話す。
「いずれにしても、この話は美百合ちゃんが話したいと思うまでするべきじゃないと思う」
「……そういう……ものか……?」
「そういうものだよ。邑神君が気になっちゃうはわかるけど、もう少しだけ待ってあげて。まだ美百合ちゃんも、邑神君も、お互いのすべてを知り得たわけじゃないでしょ?」
饒舌とは言えないながらも、天坂の言葉からは優しさがあふれている。
……少し無神経すぎたかもしれないな。
俺は天坂の優しい言葉に感化され、重く考えることをやめた。
「余計なことを聞いて済まなかったな」
「気にしないで」
と言うと同時に天坂が立ち上がる。
とっさにチャイムが鳴り、中休みの終わりを告げ始めた。
「……次の時間って移動じゃなかった?」
「あっ、そうだった!」
すっかり忘れてたぜ。
天坂に言われなきゃ完全に遅刻だったかも。しかも、良く見るとクラスの連中もとっくにいなくなってるし。
誰も声を掛けなかったところを見ると、俺と天坂が喋ってるのがそんなに珍しかったのか?
俺は自分の席に戻り、急いで教科書と筆記用具を取り出した。
「先に行くね」
と言って、天坂が教室を出て行く。
もう少し話をしたかったが、天坂にはその気はないらしい。せめてどういう日常を送ってるのか、教えて欲しかったなぁ~。
俺は教科書と筆記用具一式を手に持つと教室を出ようとした――が、廊下に出たところで、ふと扉のところににカギが刺さっているのに気付かされる。
……これは、俺が閉めろと言うことか?
どうやら、天坂はこのことを承知で先に出て行ったらしい。
「天坂のヤツ、俺に面倒なことを押しつけやがったな」
したたかというか、なんというか……あとで天坂に抗議してやらないとな。とりあえず、急いで教室のカギを閉めて社会科学習室に急ぐか。
俺はカギを閉めて、教室をあとにした。それから、二階へと繋がっている階段を駆け上り、その階の中央にある渡り廊下をひた走る。
ところがチラリと見た中庭に人影があることに気付かされた。
もちろん、眼下に広がる中庭を通って、体育の授業ために校庭へと向かう生徒がいてもおかしくない。しかし、足を止めて見たその生徒は体育に行く様子など微塵もなかった。
むしろ、なにかを探しているようにも思える。
すぐさまそれが早村であることに気付かされる。俺は両手をガラス戸に押しつけ、眼下に広がる中庭の様子をうかがった。
(……アイツ、もうとっくに授業始まってんのになにやってんだ?)
さすがに授業が始まってるとあっては気にもなる。
俺は歩いてきた道を戻り、一階に降りて中庭へと出る通路へ向かった。
早村は、中庭に設けられたオープンテラスにいた。俺が言うのもなんだが、遊水路上に土台を作って屋根まで設けるなんてやり過ぎじゃないのかと思う。
あまつさえ、ここはへんぴな田舎町だ。
都会の学校ならまだしも、神道系の学校で金があるからってやり過ぎだろ?
そんなことを思いながら、早村へとゆっくりと近づいていく――が、とっさに声を掛けようとした途端、俺はあられもない姿に顔を背けることとなった。
なぜか?
それはスカートの中身が丸見えだったからだ。理由は、例の捜し物のために地面に屈んであちこちを探し回っていたからである。
だが、今日はパンツを履いているらしい。
先日のような恥部を露出する真似はしていない分、なんだかホッとするぜ……ってか、いまの俺ってば、アイツの父親になった気分だぜ。
そう思いながらも、マジマジと見る。
しかし、さすがにあれは見えすぎじゃね? 早村には貞操観念とかそういったものはないみたいじゃないか。先日の指摘した際の反応といい、いまの状況を考えれば見るに明らかだ。
まったくっ、きちんと指摘してやらないとどうしようもないな。
俺は声を張り上げて、早村に注意してやろうと呼び掛けた。
「おい、早村!」
ところがどういうわけか、無視されてしまった。
どうやら探すのに夢中になっているらしく、俺に気付いてないっぽい。
「早村さぁ~ん?」
再度、撫で声で呼び掛けてみる。
しかし、それでも早村が応答することはなかった。
(さて、どうしたものか? このままじゃらちがあかないぞ)
などと困り果てていると、急に早村のお尻がタモリ倶楽部のオープニングのようになまめかしい動きを見せた。
(ちょっと待てっ! さすがにその動きは卑猥すぎて直視できねえよ!)
とっさに俺は顔を真っ赤にして目を伏せた。しかし、本能が「見せろ」と言い始めたので、やむなく早村の尻を直視した。
……繰り返すが、やむなくだからな?
しかも、可愛らしい現役女子高生のパンツなので、余計に興奮……もとい見入ってしまうというおまけつきだ。
無論、早村の艶っぽい円を描くお尻に興奮を覚えないはずがない。
だから俺は見た――早村の尻をマジマジと見た。
ただそれだけで、ありとあらゆる体液と心臓の鼓動が高鳴る。ならば、ちょっとここで女の子のお尻の話について語らせてもらおう。
お尻にはあらゆる可能性が秘められているというのが俺の持論である。
ちなみに野郎の尻には興味がないのであしからず。
可能性、其の一。
お尻と言っても千差万別だ。巨尻、美尻、貧尻、など尻は個人によって形が違う。また年齢による成長や肥満による体重増加によっても尻の形は変わってしまうだろう。
そんな尻だからこそ、オッパイとは違う魅力を見いだせる。
もっとも贅肉が付きやすく、もっとも強調されるであろうラインは、艶めかしいの一言で表すには惜しい。日の出の太陽を見て感嘆とし、日の入りの太陽を見て黄昏れるがごとく本当に美しいお尻は特有の造形美を有しているモノだ。
それゆえ、お尻は肉付きによって形を変えやすい部分であり、その変わった部分を見て楽しむことができる可能性を秘めている。
可能性、其の二。
着衣によるシュチュエーション。これは言わずもがな、お尻はスカートの下に隠れ、パンツの下に隠れ、そこにストッキングやガーターベルトがあるだけで趣が違ってくる部位と言えよう。
特に長い靴下類とパンツを履いた際のエロさは上物だ。下着および靴下類とお尻の隙間にできた肌を晒すという意味で非常に素晴らしい。
まさにエロスという名の境界線上のホライゾンである。
さらにトランクスというマニアックな選択もアリだ。
あえて女性用ではなく、男性用の下着をチョイスする。一見、エロスとかけ離れて見えるがそうではない。トランクスを履くことによって、女性用下着にはないお尻のラインが見えるか見えないかという状態が中の様子を妄想としてかき立てることができるのだ。
このように着衣による組み合わせによってお尻は楽しむことができるし、またそのうえから触って遊ぶということができるオッパイにはない可能性を含んでいるのがお尻だ。
フッフッフ、どうだ? お尻は最高だろ? 素晴らしいだろ?
では、実際にお尻を撫でてみよう……などと妄想してたら、いつの間にか目の前で早村が不思議そうな顔で見ていた。
「うわぁぁっ!」
おもわず大声を上げてビックリ。ついよろめいちまったぜ。
「なにしてるの?」
「……いやちょっと考え事してた」
「ふぅ~ん、なんだかイヤらしい顔をしてた気がするんだけどな」
「そ、そんなことはねえよ」
ふぅ、危うくバレるところだったぜ。
どうやら、いまのは顔に出てたみたいだな……こりゃあ実演は無理そうだ。というか、本気でやったら訴えらるし。
俺はどうにか話題を変えようと話しかけた。
「あ~それでここでなにやってるんだ?」
「なにやってるって、捜し物だよ――というか、君って誰だっけ?」
おいおい、それを忘れないためにこの前メモしてなかったか? それはさすがの俺でも唖然とする発言だぜ。
なにかの冗談かと思い、俺は言葉を返した。
「オマエなぁ~。この前、自分でメモ帳に俺の名前書いてただろ?」
「ああ、そういえば……」
と、早村が胸ポケットからメモ帳を取り出す。
コイツ、それすらも忘れてるってどれだけ忘れっぽいんだよ。ペラペラとめくって一頁ずつ丁寧に見て読み上げてるあたり、きっといろんなヤツの名前が書いてあるんだろうな。
考え込んでいると、唐突に早村から「あっ!」という声を上げる。
ようやく、俺のことを記した項目を見つけたらしい。名前と学年しか書いていないはずなのに、なぜか何度も頷きながら確かめている。
間違っていないかを確認しようと耳を傾ける。
「……えっと、ムラムラ君だよね?」
「そんな年中発情してるような名前じゃねえよ! 邑神だよ、む・ら・か・み!」
どうやら、早村の俺の対する認識は、盛りの付いたオスのようです。
怒る気にもなれねえよ……。
途端に早村が笑って誤魔化してくる。
「アハハ、間違えちゃったよ」
「どうやったら、そんなに間違うんだよ……」
「単純なメモの読み違いだってば――ゴメンね」
茶目っ気を交えてに言われてもな。カワイイとは思うんだが、心の許されない気持ちはぬぐえなそうにない。
しかし、それでは話が進まなくなる。
俺は仕切り直しとばかりに咳払いをして、早村に話しかけた。
「とっくに授業始まってるぞ?」
「あ、そうなんだ?」
「気付かなかったのか?」
「うん、どうしても見つけたかったからさ。そういう邑神君こそ、授業に出なくていいの?」
「俺の方はいいんだよ。もうとっくに遅刻しちまったからな。そんなことより、まだ見つかってなかったのか?」
「……うん、そうなんだ。どうしても、このあたりにあったという場所すらわからなくて」
「そんなに大事なモノなら、肌身離さず持っておくとか、バックに閉まっておくとかしとけよ」
「……そう……なんだけどね……」
「どうかしたのか?」
そう問いかけると、早村は急にシュンとして顔をうつむいちまった。探してたモノは、そんなに大事なモノだろうか。
早村の答えを待つ。
「あのさ、君はボクが落としたモノがなんなのかを聞いて驚かない?」
ところが出てきたのは、俺に対する問いかけだった。
なぜそんな問いかけをしたのかはわからない。しかし、質問を質問で返すあたりなにか思うところがあるのだろう。
俺は即座に答えを返した。
「聞かないうちから言われてもな――というか、そんなに驚くモノなのか?」
「たぶんね」
「……たぶん?」
「実はね。ボクは自分が落としたモノがなんなのか、よくわからないんだ」
「なんじゃそりゃ?」
探しているモノを知らないって、どういうことだ?
当人が落としたモノのことをわからないんじゃ、そりゃあ一生かかったって見つかるわけがない。
にも関わらず、早村は一生懸命探している――こんな矛盾があってたまるものか。
俺はたまらず早村を問い質した。
「探してるモノがわからないって……じゃあオマエはいったいなにを探してたんだよ?」
「それが自分でもよくわからないんだ。でもね、とにかく探さなきゃっていう強い気持ちだけがボクを突き動かすんだ」
「それじゃあ、もし俺に聞かれなかったら、ずっとなにを探しているのかもわからないまま一人で探し続けてたってことか?」
「……そうなるね……」
「ちょっと待てよ! そしたら、オマエが捜し物をしてる意味なんかまったくないじゃないかっ!?」
おもわず声を荒げる。
それに対して、早村は言葉を詰まらせていた。コイツからすれば、ホントに大事なモノだったんだろう。気持ちをいっぱいにしてまで探そうなんてのは、よほどのことがないかぎりは探そうなんて思わないはずだ。
それを踏まえて、俺は早村に言った。
「なにかそうしなきゃいけない理由でもあるのか……?」
「……ううん、理由なんてないよ」
「だったら、探す意味なんかないだろ?」
「あのね、邑神君。それでも、ボクは大切ななにかを探さなきゃいけない気がするんだ」
「……早村……」
いったいなにが早村にそうさせているんだろう?
早村を見ていると、まるで探す理由も、探し物の正体も、まったく見当が付いていない――そんな風に考えているようにも思える。
どうして自分でもわからないような代物を探し続け必要がある?
同時にそこになんの意味があるのか?
それを考えると、どうしても出口の見えない迷路を考えなしに突き進んでいるようにしか思えなかった。
俺は暗く沈んだムードを壊すべく、大きく息を吸ってある決意を口にした。
「よしっ、俺が手伝ってやる!」
「……え? いいの?」
「いいに決まってるじゃないか」
「で、でも、探してるモノがなんなのか、まったくわからないんだよ?」
「いいから手伝ってやるよ。ここで出会ったのもひとつの縁だしな」
「……邑神君、ありがとう」
「気にすんな。それより、どのあたりに落としたかはわかるか?」
「えっと、それは学校だっていうのは間違いないんだ」
「……学校ね。そりゃまたずいぶん曖昧だな」
ポツリとつぶやく。
ある意味、探す範囲が広すぎるんだけど、学校という場所がわかってるだけでも幾分マシってことか。
俺は気合いを入れるべく、右の拳を左の手の甲にバシンッと叩き付けた。それから、早村が探した場所を聞いて、手当たり次第に記憶の断片を拾っていくことにした。
「ちなみに最初はどのあたりから探し始めた?」
「体育館の裏側付近からだよ」
「……ということは、そのあたりのモノに触れていけばなんとかなるか」
「ん? なにが?」
「いやなんでもない」
……そうだ、忘れてた。
早村にはサイコメトリーのことを話してないんだっけ。まあいま話したところで信じてもらえる保証もないし、特に言わなくていいよな?
俺は早村と別れ、体育館の方へ行くにした。
そして、そこで地面に手を当て、記憶の断片を拾い始める。
なにか早村に関する記憶の断片でもあればいいのだが、これがそうそう巧くいくはずがなかった。
見えたモノといえば、リア充になろうと意中の女子に告白する野郎の記憶と転けた拍子に女の子のパンツをチラ見した野郎の記憶。ちなみに俺もスッ転んだ女子のパンツを下から覗き見る行為がどんなものだかを知ることができた。
ぶっちゃけイチゴパンツって、都市伝説だと思ってたわ……ホントにあってビックリ。
俺はその発見をうれしく思いつつも、早村に関する記憶の断片を探し続けた。しかし、ようやく探し当てた記憶の断片は、早村が見つからずに嘆いているモノだけだった。
これじゃあ真相にたどり着けねえ。もっと真相にたどり着くヒントになるような記憶の断片を読み取らないと。
他を探してみようとグラウンドの方へと向かう。すると、隅っこに生えた芝生のあたりで、早村が1人で懸命探し回っていた。
俺は近くまで寄っていき、捜し物が見つかったかどうかを訊ねた。
「――見つかったか?」
その問いかけに早村が首を振って答える。
「ううん、全然」
「そうか。あっさり見つかると思ったんだがな……」
「ボクの捜し物って、本当にあるのかな?」
「心配すんな――二人で探せば、必ず見つかるって」
「……うん、ボク頑張るよ」
「ついでで悪いんだが、なんかヒントになるモノってないのか?」
「ヒント?」
「ほら、色とか形とか」
「そう言われてもなぁ~……。ボク自身が無くしたこと自体、思い出せないんだもん」
「ここまで来ると本当に奇々怪々だな」
「ゴメンね。ワケのわからないことを言ったばっかりに……」
「いや、いいよ。ヘンな話なのはたしかだけど、確証があって落としたって言うのなら、俺はそれを信じて付き合ってやるだけのことさ」
「邑神君は、ボクの言ってることがウソだとは思わないの?」
「……う~ん。それなら、もっと巧妙なウソをついてるじゃないか。それにオマエの顔が『いかにも深刻です』って顔をしてるしな」
「それでもウソをついていたらとしたら……?」
「まあ多少は傷つくだろうけど、笑って許すよ。友達として、困ってるヤツのことを見過ごせないしな」
そう言った途端、早村の顔がパッと華やいだ。
別に褒められるようなことを言ったつもりはなかったんだが、早村にはそれがホッとするような出来事だったらしい。さっきまでの表情が雲の切れ間から現れた太陽のよう明るくなった気がする。
それだけ大切ななにかを落としたことを気に病んでたのかもな。
……やれやれ、こりゃあトコトン付き合ってやるしかないか。
「んじゃ、授業をサボっちまったし……。とっとと見つけて授業に出ようぜ?」
と言って、俺は捜索再開をうながす。
だが、早村と同じ場所を探し始めた直後。
予告なしに記憶の断片が頭の中に流れてきた。ノイズが混じっていたため、スゴく曖昧なイメージだったが、映っていたのは間違いなく早村である。
しかも、今度は探しているだけの映像じゃない――この記憶の断片はいままでのモノとも違う。
教師からなにかを聞かされた早村が走り出し、大雨の降る校庭で立ち止まって泣き叫んでいる映像だったからだ。
俺はそれが大切ななにかを失って、悲痛な叫び声を上げているように思えた。
だからこそ、早村は探している。そう考えると、探しているモノの正体が日用品のたぐいではなく、もっと温かで大事なモノのような気がした。
ならば、早村はなぜこんな場所を探し続けているんだろう? 俺はその疑問にある一つの推論を打ち立てた。
そして、その推論を元に早村へと駆け寄る。
「早村っ!」
「えっ? な、なに……?」
「オマエ、校庭で泣いたことはあるか?」
「……校庭で? 突然なんなの?」
「いいからっ!」
「ううん、そんなこと一度もないよ。第一、誰かが見てるかもしれない場所で泣くなんて、恥ずかしくてできるわけないじゃないか」
「……それもそうか……」
「邑神君、いったいどうしちゃったの……?」
「わりぃ早村。放課後、俺にちょっと付き合ってくれないか?」
「別にいいけど……。なにかわかった?」
「ああ、凄く思い当たり過ぎて忘れそうになるぐらいだ」