エピローグ/右近のチカラ
あれから、ひと月近くが経った七月の半ば。
早村は俺たちの浄霊によって天国へと旅立った。
もちろん、物霊の呪詛の影響で記憶喪失になった人たちも元通り。町は何事もなかったかのように平穏だった。
ただ1つ。
悔やまれるのは、早村と最後に話す機会がなかったこと。代わりに俺は美百合先輩に付き添ってもらって、早村の墓参りに行くことにした。
遠くでミンミンゼミが鳴き声を響かせる――今年初めて、聞いた蝉の声だ。
いつもは小うるさいだけと思っていた昆虫も、今年は悲しく泣いているように聞こえてならない。
言うまでもなく、その理由は俺が早村の死を悼んでいるから。なんだか蝉の声が哀愁と虚無感が入り交じった夏の残響のように思えるぜ。
「右近君? 準備できたよ」
そんなことを考えていたら、新聞紙で線香に火を付けていた美百合先輩に声を掛けられた。
「あ、スミマセン……」
「どうしたの? さっきからボーッとしちゃってたよ」
「いえ、なんだか蝉が悲しんでるように聞こえるんです」
「蝉が……?」
「きっと俺が早村のことを考えていたせいかもしれませんね。俺はアイツときちんと話をして、お別れを言うこともできませんでしたから」
「それで蝉の声が悲しい鳴き声みたいに聞こえちゃったのね」
「ええ、まあ……」
少し言い訳じみたことだったかもな。
けど、それだけ俺の中で早村という存在が大きくなっていたのも事実。わずか数日過ごしたとはいえど、早村は記憶を取り戻そうと一生懸命だった。
それから、俺たちはそれぞれ墓前で手を合わせた。
その間、いろんなことを考えた。
けど、後悔後先立たずってヤツ? 早村はもう二度と返ってこないことを現実として受け入れたら、そんな考えはかき消さざるえなかった。
「じゃあ帰ろうか」
合掌し終えると、先輩がそう声を掛けてきた。
俺はその一言に返事をし、桶を保管場所に戻しに行くことにした。その道すがら、先輩から早村の家のことについて訊ねられた。
「ねえ、右近運。まだ早村さんのおうちには行ってるの?」
「義理立てってほどじゃないんですけど……。早村を失ったオバさんのことを考えたら、どうしても放っておけなくて」
「気持ちはわかるわ。けど、少し深入りしすぎじゃないかしら」
「もちろん、わかってますよ。だから、こうして墓参りという形でアイツにケジメを付けたいと思って、ここにやってきたんです」
「ああ、それで『墓参りがしたい』って言い出したのね」
「まあなんというか、早村のオバさんはアルツハイマーで大変だし、オジさんからも『もう義理立てしてもいいから』とは言われてたんですけど」
「――なのに、右近君はずっと早村さんのおうちに通い続けてたの?」
「そういうことになりますかね? 少なくとも、俺の中では早村は天国に逝ったという認識を形にできましたし」
「……そっか……」
「ただ心残りなのは、オバさんのことなんです」
「どういうこと?」
「実はこの一ヶ月。タイミングが合わなかったのか、なかなか状態のいいときにお話しする機会を設けられなくて……。それでオバさんが早村の死を受け入れているのかどうか、まったく知るよしもなかったんですよ」
「――なぁ~んだ、そんなことで悩んでたんだ」
「えっ……!?」
「きっと大丈夫よ。オバさんだって、いまはああなっちゃってるかもしれないけど、心の内ではきっと早村さんの死を受け入れているわ」
「そうだといいんですが……」
「信じましょう。早村さんのご家族はあんなに素敵なんだから」
「……そう……ですね……」
言葉を紡ぐ口が止まる。
……やめよう。
これ以上、早村の死について深く考えるのは無駄なのかもしれない。だって、美百合先輩の言うとおり、その死を受け入れるかどうかは本人次第なんだし。
俺は桶がたくさん並ぶ保管庫に自分が使ったモノを置き、立ち止まってオバさんが死を受け入れてくれることを願った。
「なにしてるの、右近君。私、先に帰っちゃうよ?」
不意に先輩から話しかけられる。
顔を上げると、美百合先輩はいつのまにか元来た道を戻り始めている。俺は慌てて「待ってください」と声を上げ、その背中を追いかけた。
それから、お寺の外へと続く大路を2人で歩いた。
「美百合先輩」
その道の半途――俺は、先輩に向かって呼び掛けた。
とっさに顔があらわになるが、先輩はゆっくりと身を翻してきた。
そこにあった表情が目を細めて口元を緩ませた優しいモノだったせいか、スゴくドキッとさせられてしまったぜ。
俺はそれを見ただけで、おもわず口籠もってしまった。
ホントは言うことがあったんだけど、先輩のそんな表情を見てたら、言い出せなくなっちまった。
「――どうかしたの?」
さすがの先輩もまごまごした様子に気付いたんだろう――途端に何事かと訊ねられた。
それでどうするよ、俺。言いたいことがあるんだろ? スゴく勇気がいるけど、言うべきじゃないのか――などと、ただいま脳内で葛藤中。
だからといって、言わなかったら後悔するし、ホント迷ってるんだよ。その間も、先輩から「なに?」って、半笑いで訊ねられてるし。
う~ん、これは早く腹をくくらないと、言うべきタイミングを逸してしまうかもしれないな……よぉ~しっ、ならば。
俺は一世一代の覚悟を決め、大きく深呼吸して貯めていた思いを口にすることにした。
「え、えっと、ですね……」
「ん? なあに?」
「とっても言いづらいことなんですけど……あの、言ってもいいですか?」
「フフッ、別にいいけど……。そんなに私が戸惑うようなことなの?」
「ええ、まあそうなんですが」
「う~ん、なんだかよくわからないけどOKよ。右近君の言うことなら、そんなにヘンなことじゃないと思うから」
「じゃあ言ってもいいですか?」
「もちろんっ!」
「で、ではお言葉に甘えて……」
「どうぞ、どうぞ!」
「コホンッ……。えっと、美百合先輩」
「なにかね、右近少年?」
「――好きです」
やべえ~超ハズかしい! でも、素直に告白できたことは、俺の中で今世紀最大の進歩と言えるよな、うん。
でも、先輩はどんな風に思ったんだろう?
なんっつーか小っ恥ずかしくて顔も見れないよ。最悪、返答なんてしてもらえないかもしれないし、嫌われちまうかもしれない。
とっさに顔を上げて、先輩の目を見る。
すると、美百合先輩はなんだか驚いているみたいだった……いっこうに答えてくれる気配を見せないし、やっぱりビックリさせちゃったかなぁ~?
もちろん、その間俺はドキドキしっぱなし。
だから、気まずさに耐えかねて、次の瞬間には発言を撤回しちまってた。
「あぁ~スイマセン! いまのは冗談ですよ、冗談っ!」
こりゃあ後でなに言われるか、たまったもんじゃないよなぁ。にしても、先輩はなんにも反応しないな?
そう思っていると、先輩がなにも言わずに道を歩き出した。
「あ、あの、先輩……?」
マズったかなぁ~? なんとかして許してもらうしかないよね。
俺は必死に先輩に呼びかけ、謝罪の機会をもらおうと試みた。
「やっぱり、ご迷惑でしたか?」
その言葉にも応えてくれない先輩。
あ~もう言うんじゃなかったぜ。 これで断れたら、俺の人生初の失恋ってことになる。もし、そうなったら明日からどんな顔して会えばいいんだよ。
そんな風に迷っていると、突然先輩が三メートル先で立ち止まった。
どうにかして会話をつなごうと思考を巡らせる――が、それより早く振り返った先輩が頬を膨らませて睨み付けるような目で見てきたので、頭の中が真っ白になっちまった。
これは言うまでもないよな――きっと先輩は怒っている。
まあ当然の結果か。
あまりにも突拍子もないことを言ったんだし、こればっかりはしょうがない。先輩にとっても迷惑な告白だったのかもしれないんだしさ。
「――もうっ、右近君のくせに生意気よ!」
ところが直後に返ってきたのは、意外にもそんな言葉。
そのせいで、一瞬なにが起きたのかわからなくて、頭が真っ白になっちまった。でも、徐々に言葉の意味を理解していくうちにそれが照れ隠しであることに気付かされた。
それで、ようやく先輩は照れているんだってわかった。
もうそれがおかしくてさ、たまらなかったぜ。だって、顔を膨らませているのにどこか恥ずかしがっているようにも見えるんだぜ?
そんな顔を見せられたら、カワイイなんて思わないはずがないじゃないか。まあ肝心の先輩の気持ちは教えてもらえなかったけど。
「先輩~っ!」
うれしさのあまり、先輩の元へと駆け寄っていく。
でも、当の美百合先輩は照れくさいのか、俺を避けるように先を急ごうとしている。
俺はその後ろでニヤニヤとした顔を浮かべながら、先輩の言葉を言いように受け取って一人心を躍らせた。
え? 現金すぎやしないかって?
別にいいじゃん、とにかくいまは幸せなんだしさ。俺はもうエロくて、カワイイこの先輩に付いていくって決めたんだ――たぶん、一生。
もちろん、そこにはいろいろと問題があるかもしれない。けど、同時にそれを解決するための力は備わっている。
それが俺に与えられた『サイコメトリー』という力なんだと思う。
さて、恥ずかしがる先輩の後ろ姿でも見ながら、帰宅の途に就こうっと!
了
こんにちは、初めまして、お久しぶりです……等々、いろいろと申し上げたい筆者の丸尾累児です。
拙作「超能力者が出会った霊能力者は肉食系女子で童貞なアイツを責め立てる。」――いかがだったでしょうか?
長ったらしいラノベタイトルでゴメンナサイ。しかし、インパクトを付けようとしたら、こんな感じになってしまいまして、仮タイトルからそのまま流用させていただきました。
今回はギャグファンタジー>VRMMOモノ と来て、ミステリー&エロコメです。某オッパイスイッチの先輩だとか、妹が魔王で兄貴にオッパイ揉まれまくるあのラノベとか、いろいろと連想するモノもあると思います。
――が、どうにも自分には想像力というか、構成力というか、そういうモノが足りなくて描き切れていない部分があったんじゃないかと反省しております。
またこの作品は完成と同時に某公募賞に出品させていただきました。
おそらくダメだろうとは思っておりますが、失敗は成功の元と申しますように明日の糧となる作品として、自分の中で1つの反省材料としていきたいと思っております。
(選考通れば万々歳ですけどねw)
最後になりますが、ここまでお読みいただいて本当にありがとうございました。次回作もご一読いただけたら、作者としてこの上ない喜びでございます。
今後とも、どうかご愛顧いただきますようお願い申し上げます。
では、今回はこの辺で――さよなら、さよなら、さよなら!




