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超能力者が出会った霊能力者は肉食系女子で童貞(チェリー)なアイツを責め立てる。  作者: 丸尾累児
第4章「たとえオマエが忘れても、俺は絶対に忘れない」 
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第4節「さよならも言えずに……/その3」


 俺は様子がおかしいことに気付いて、ゆっくり目を開いた。


 すると、いつのまにか早村は遠く離れた場所に移動していた。代わりに目の前には、天坂ではない別の誰かが立っていたのである。

 長い黒髪とスカート越しにくっきりとしたラインを保つ野郎を誘うようなお尻。スラッとした細身はどこか淫靡さを感じさせる。


 俺はそんな女の子の名をとっさに叫んで驚いた。



「み、美百合先輩っ……!?」



 紛れもなく美百合先輩だった。




 まさか美百合先輩が現れるなんて……。




 そりゃあ人違いかと思って、何度も和が目を疑ったさ。先輩は記憶を失って、なにもかも忘れちまったはずなんだし……なのに、浄霊用の槌を持って立っている。

 こんなに驚かされることなんてないだろ?



「記憶が戻ったんですねっ!」



 だから、俺はめいっぱい喜んだ。

 先輩の黒髪、先輩の柔肌、先輩の雰囲気、先輩の芳香、先輩の乳房……嗚呼、どれもこれも先輩の一部だ。

 うれしさの心を躍らせ、美百合先輩に声を掛けられるのを待つ。



「ゴメン、やっぱり君が誰だかよくわからないの」



 ところが先輩の口から出たのは、予想を裏切るモノだった。


 あ~あ、やっぱり先輩の記憶は戻ってなかったのか……。なんか期待しすぎたせいか、一瞬にして気が抜けちまったよ。

 それを考えたら、いまの俺ってヒドい顔をしてるんだろうなぁ~。


 居たたまれなさにおもわず目を背ける。



「でも、君の顔を見ているとなんだかホッとする――どうしてかしら?」



 ところが突如として、予想外の言葉が飛んでくる。

 その一言は、背けていた視線を戻させるには十分すぎるほどの言葉で、沈んでいた心も一気に引き上げられた。

 はやる気持ちを抑えながら、美百合先輩に問いかける。



「――それって、俺のことを覚えてるってことじゃないんですか?」


「ゴメンナサイ、そういう意味じゃないの。だけど、御蔭堂で会ったときも公園で会ったときも、なんだか心の中が温かくなるのを感じてたのは事実よ」


「……心が……温かくなる……?」


「ホントの私は、たぶん君のことをずっと信頼していたんだと思う。だから、君と公園で会って後、普賢さんに私が霊能力者だったって教えられて、衝動的に君を助けに行かなくちゃって思ったの」


「俺を助けるために……」



 なんだろう?

 おそらくこの人は無意識でやってきたんだと思う。けど、同時に記憶のなくす前の美百合先輩が俺を助けるために送り込んだとも考えられる。

 俺は不可思議な状況に首を傾げながらも、記憶のない美百合先輩に尋ねた。



「でも、もう倒す方法なんかなに1つありませんよ?」


「大丈夫よ。私も倒す方法とかよく覚えてないけど、なんだか君と一緒ならあの子を倒せる気がするわ」


「覚えてないって、またそんな確証もないことを……。ホントにそんな状態で倒せるんですか?」



 と疑ってかかる。


 だって、いまの美百合先輩は俺の知っている先輩じゃない。

 言ってることは、なんとなく記憶をなくす前と似通ってるところはあるけど、うろ覚えで霊能力者として力が発揮できるわけないじゃないか。

 にもかかわらず、目の前のこの人は真剣な眼差しで訴えかけてくる。



「お願い。私を信じて」



 記憶を失って尚、そこに存在する美百合先輩の信念。


 俺の心は、そんなモノに突き動かされつつあった……なんだかなぁ~。これじゃあ記憶を失う前よりも、もっと強い意思を持って行動しているように感じられるよ。

 それだけに信じてみたい気持ちにさせられるし。


 ……ホント、仕方のない先輩だな。


 俺は溜息をつくと、先輩に向かって答えた。



「――美百合先輩。俺が先輩のこと信じないワケがないじゃないですか」


「そ、それじゃあ……」


「一緒に戦わせてください」


「ありがとう。じゃあ立ち上がって、一緒にあの子を成仏させてあげましょう」



 美百合先輩が手を差し出してくる。

 俺はその手に吸い寄せられるようにしっかりと握り、立ち上がると同時に力強く「はい」と答えた。



「二人ともっ――まだ終わってないよ!」



 ふと遠くから大声が聞こえてくる。


 振り向くと、天坂が早村と攻防を繰り返していた。

 どうやら、俺が先輩と話している間、ずっとけん制し続けていてくれたらしい。ただ成仏させることまでは叶わず、俺たちに被害が及ばぬよう抗ってるみたいだ。


 やがて、戦況が膠着状態に陥ったのか、天坂が加勢を求めるようにやってくる。



「記憶は大丈夫なの、美百合ちゃん?」


「大丈夫……とは言い切れない。でも、なんだか記憶のなくす前の私が『2人を助けて』ってささやいてるみたいで、いても立ってもいられなくなってこうしてやってきたの」


「……そっか。美百合ちゃんは本能で来たんだね」


「え? 本能って?」


「ううん、なんでもない――だけど、気を付けて。いまの美百合ちゃんにあるのは、身体に染み込んだ経験だけだよ。誤った判断をすれば、全員記憶を失っちゃう」


「ありがとう、肝に銘じておくわ――だから、私と彼で一撃を与えるスキが欲しいの」


「なら、私がもう一度式神で押さえ込む。2人はそのスキに攻撃してみて」



 2人の間でそんな会話が為される。

 やがて、天坂は「先に行くね」と言って早村に立ち向かっていった。残された俺は先輩と互いの顔を見て、最初に出会ったときみたいに互いの名前を確かめ合った。



「えっと、君の名前は確か……」


「右近です――邑神右近」


「……そうだったわね。ねえ右近君、私に力を貸してくれる?」


「もちろんです、清原美百合先輩」



 美百合先輩が手に持った木槌をスッと差し出してくる。

 それは俺に自分が手にした状態で半分持って欲しいという意味なんだと思う。見遣る美百合先輩の顔には女神のような微笑みが浮かんでいて、なにも心配いらないと言っているように思えた。

 とっさに先輩の手に自分の手を重ね合わせるようにして添える。



「……行くよ、右近君」


「はいっ、美百合先輩!」



 なんだかさっきまでの恐怖心がウソみたいだ。

 美百合先輩の手は温かい以前に力強く勇気をくれる。そんなことが俺を強くしてくれるような気がしてならない。

 だから、怨嗟と忘却の呪詛にとらわれた早村もきっと助けられる気がした。




 とっさに「いまよ!」という合図が聞こえてくる。




 俺は美百合先輩の動きに合わせて、共に雄叫びを上げながら駆け出した。



 2人で1人であるかのように、1人がもう1人のためにあるかのように――俺たちは、早村に向かってグングン突き進んでいく。



 美百合先輩もまるで記憶をなくしたこと自体、ウソだったみたいだ。

 俺の身体が軽くなったみたいで、馬のように飛んで走っているような気がする。でも、実際にそれは、美百合先輩が一緒に駆けてくれているから、身も心も軽く感じるんだと思う。


 しかし、そんな軽快な勢いを打ち消す風が唐突に吹き荒れる。


 なにやら、異臭らしきモノもして、行く手を阻もうとしていた。俺は物凄い風の勢いに弱気になって、その場で立ち止まりそうになった。



「く、くそっ……」


「諦めちゃダメ! 早村さんを助けるんだったら、もう少しガンバって!」



 でも、そんな美百合先輩の声を聞かされたら、ここでへばったら男が廃るという思いが沸き上がってきた。

 渾身の力を足に込めて、美百合先輩と共に前へと進む。

 すると、ある程度進んだところで、風が吹き付けるのを諦めたみたいに止んだ。俺は好機とばかりに美百合先輩と共に早村に向かって走る。


 そして――






「「臨める兵、闘う者、

     皆陣烈(やぶ)れて前に在り――悪霊退散っ!」」






 その叫びと共に俺たちは槌を振り落ろした。


 効果は言うまでもない――頭部に叩き付けた槌は目の前で地震のような衝撃を発し、早村の霊魂を物霊ごと打ち砕いた。


 それによって、早村の『形をしていたモノ』はガラスのように割れて消え去った。

 途端にキラキラとしたモノが周囲に飛散する。しかも、目でハッキリと見える形で存在していて、なんだか貴重な自然現象を見ているみたいだった。

 しばらくして、光の欠片はゆっくりと地面に落ちて消え去る。



「早村……」



 すべてが跡形もなく消えるのを見ながら、俺はポツリとつぶやいた。


 死んでしまったことも理解できず、呪怨にとらわれてしまった早村。きっと物霊を取り込んでしまったのも、そうした悲しみからだったのかもしれない。

 成仏させてしまったから、真相はわからないけど、もう一度話す機会があったのなら話しみたかった。



 だけど、もうアイツは戻ってこない……。



 俺は俯いて、そのことを嘆いていた。

 しかし、急に頬のあたりに温かくなることに気が付いて、視線を上げることとなった。よく見れば、美百合先輩が俺の頬に手を当てながらうっすらと笑っていたのだ。



「悲しい顔をしちゃ駄目よ。もしかしたら、早村さんはこうなることを望んでいたかもしれないでしょ?」


「美百合先輩……」


「大丈夫。早村さんは、きっと天国に行けたことを喜んでくれてるわ」


「……そうですね。アイツなら、天国で幸せに暮らせると思います」



 早村の幸せを願いながら、生い茂る木々の隙間から見える空を見上げる――が、ふとあることに気が付いて、視線を元に戻さざるえなかった。


 そして、思い出したことを口にする。



「そういえば――」


「ん? どうかしたの?」


「美百合先輩、記憶が戻ったんですか?」



 物霊は早村と共に消えたわけだし、もう記憶が戻っていてもおかしくないはず。

 俺はその問いかけの答えを聞くべく、口元に手を当てたまま、じっと考え込む先輩を見た。



「……フフッ、どうかしらね?」



 ところが先輩にイタズラっぽく微笑んで、誤魔化されちまった。




 それがどっちだったのかはわからない――だけど、1つ言えることは、美百合先輩が浮かべた満面の笑顔は最高だってこと。

 記憶があってもなくても、そのまんまだ。






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