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超能力者が出会った霊能力者は肉食系女子で童貞(チェリー)なアイツを責め立てる。  作者: 丸尾累児
第4章「たとえオマエが忘れても、俺は絶対に忘れない」 
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第1節「先輩」


「美百合先輩っ!」



 御蔭堂の扉を強引に開けての第一声。


 その頃には、俺の身体ももうヘトヘト……。家から自転車で全力で疾走してきたせいもあって、息も苦しいし、汗もダラダラ出るしで、身体が熱いったらありゃしない。



 だけど、それ以上に美百合先輩の容態の方が心配だ。



 俺は転がるように事務所の中へと押し入った。しかし、ソファに半身を起こして横たわる先輩を見た途端、おもわず愕然としちまったぜ。

 その側では、大介の野郎と天坂がイスに座って看病し続けている。2人は、汗だくで入室してきた俺を見るなり、スゴい驚いた表情で見つめてきた。



「邑神君、大丈夫?」


「……ハァハァ……んああ……大丈夫だ」


「お水持ってくるね」



 流れ出る大量の汗を見かねてか、天坂が給湯室に消えていく。

 俺はその姿を見返ることなく、ボーッとしながら半身を起こす美百合先輩を気遣った。



「先輩、大丈夫ですか?」


「……え?」


「怪我はありませんか? どこか痛かったりしませんか?」


「あ、あの……」


「いくらなんでも無茶しすぎですよ。ガンバると言ったからって、たった一人で物霊を退治しに行くなんて」



 ん? なんだ? 先輩の反応がヘンだ――いつもなら、笑いながら「大丈夫」って言い返してくるはずなのに。



 ……あっ! もしかして、俺が汗だくで凄む勢いで話しかけたのが不味かったのか? ならば、今度は息を整えて話しかけてみよう。


 俺はフゥーっと息を整え、再度美百合先輩に話しかけた。



「スイマセン、なんか驚かせちゃったみたいで……。それより、だいじょ――」


「アナタ、誰ですか?」



 へっ……? な、な、なに言ってんの?



 なんでこんなときに真顔で冗談だなんて……。

 ハハァンッ、これは「なんちゃって」ってとか、おどけて俺をビックリさせる気なんでしょ――もうっ、先輩ったら、そんなのお見通しですからね?



「先輩~、な~にを言っちゃってるんですかぁ~俺ですよ?」


「わからないです。アナタはいったい誰なんですか?」


「またまたぁ~。美百合先輩がそうやって俺をからかおうとしてるのも、バレバレなんですからね?」


「……私、そんなことしてません。だって、目が覚めたら記憶がなかったんですよ?」


「そんな都合のいいことあるわけないですよ。美百合先輩も演技が下手だなぁ~」


「……信じてください……ホントなんです……」



 お、お、おい……なんかちょっとマジ臭くなってきたぞ?


 先輩の目つきも至って真剣そのものだし。ああ、でも、そんなことがあるわけが……って、いったいどっちなんだ?


 俺は涙目で訴える美百合先輩に困惑顔で問いただした。



「じょ、じょ、冗談ですよね……?」



 だが、返事はない。

 むしろ、記憶がないという事実を伝えきれず、どうしたら信じてもらえるかということを目で訴えかけいる。これじゃあ俺が悪人みたいじゃねえか。


 そんなとき、天坂が手に水の入ったコップを持って戻ってきた。俺はそのコップを受け取ると、渇いたノドを潤そうと一気に飲み干した。それから、後方にあったソファのテーブルの上にコップを置き、再度振り返って天坂に真実を問い質した。



「あ、あ、天坂っ! これはいったいどういうことなんだ?」


「あのね、美百合ちゃんは一人で物霊を退治しに行ってしまったの。挙げ句の果てに物霊の呪詛にやられてしまった」


「だったら、俺のときみたいに護符で直せるだろ?」


「……もう無理だよ」


「どうしてっ!?」


「邑神君は対処が早かったからよかったけど、美百合ちゃんは発見が遅れたせいで……」


「……そんな……じゃあどうすれば……」


「あのね、邑神君。そもそも物霊っていうのは、九十九神のような霊験あらたかな存在にもなれず、ただ負の感情が吹きだまりのようになって物体に宿ったモノなの」


「吹きだまりのような存在?」


「そう。そして、物霊には特定の感情を力として形を為す――だから、美百合ちゃんは『忘れる』という感情の呪詛で記憶を失ってしまってるの」


「なにか対処法はないのか?」


「祈祷や念仏でなら、どうにか解ける可能性はあるかもしれない。でも、そういった方法はすごく時間が掛かるし、護符などの購入でとてもお金がかかるの。それができないとなると、美百合ちゃんの記憶は一生このまま……」



 と言うと、天坂が急に言葉を詰まらせた。

 当然、その意味合いは、言葉にしなくても十分理解できた。だって、天坂が言わんとしてることは、先輩の記憶が戻らないかもしれないってことじゃねえか。


 だから、なにもできないことが余計腹立たしくて否定しちまった。



「冗談じゃねえっ! 頼むから、美百合先輩の記憶を戻るって言ってくれよ!」


「……邑神君……」


「どうしてだよ、どうして先輩がそんな目に遭わなきゃいけないんだ!!」


「それは美百合ちゃんに力がなかったから……」


「わかってる! でも、それ以上に悔しいのは美百合先輩自身が俺に信じてって言っておきながら、俺のことを信じてくれずに勝手に物霊退治に行っちまったことだ!」



 くそっ、どうすりゃいいんだよ……


 正直、自分でも言ってて無性に悲しくなってきた。

 あのときの先輩の悲しそうな顔が、いまでも脳裏に焼き付いて離れねえ。きっと自分のふがいなさを霊能力という力で証明しようと躍起になっていたのかもしれない。




 ある意味、それはあのときの俺と同じ――



 親友の内情を知ってしまったガキの頃の俺みたく、傷つけて、傷つけられて、とにかくあがこうとした結果がこうなったんだ。

 目の前で顔色をうかがう先輩の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。きっと、俺が激昂して叫んだから恐怖してしまったかもしれない。

 だから、自分に対しても、先輩に対しても、どうしようもなく腹が立って仕方がねえんだよ!


 やりきれなさのあまり顔を俯ける。



「――お遊戯の時間は終わったか?」



 ところが唐突に気持ちを逆撫でするような言葉が発せられる。

 顔を向けると、大介の野郎が顔色一つ買えずに立っていやがった。それだけに俺の心はカッとなって火が付いた。

 気が付けば、いつのまにか大介の胸ぐらをつかんでいた。



「アンタ、美百合先輩のハトコだろ……? 少しぐらい情ってもんはねえのかよ!」


「……情だと? あのな、俺は最初から美百合に警告してたはずだが」


「んだと……」


「『俺はオマエの仕事にかかわらない。すべてオマエの自己責任だ』ってな」


「テメエッ!!」



 もう許さねえっ、コイツだけはなんとしてもブン殴る! その気持ちに駆られ、俺は怒りに任せて大介を殴ろうとした。



「ダメだよ、邑神君!」



 しかし、とっさに天坂に右腕を押さえられて殴ることができなかった。俺は天坂を振り払おうと抵抗を試みた。



「離せ、天坂っ! コイツだけは、コイツだけはどうしても殴らないと気が済まねえ!」



 これだけ怒髪天を衝く怒鳴り声を上げてるにもかかわらず、天坂は1つも怒ろうとしない。それどころか、俺を引き留めてまるで兄貴の味方をしているみたいじゃないか。

 そのことにもスゴく腹が立つ。


 だけど、もっと腹が立つのは、上から見下ろすような物言いをするコイツだ。



「……やれやれ……これだからガキは……」


「うるせえ、クソ野郎が!」


「まあそうはやるな。美百合を助ける方法は、ゆっくり考えればいい」


「んなこと言って、テメエはこのままなにもしない気だろ?」


「なら、1つ聞こう――オマエのその身に持ってる力はいったいなんだ?」


「……はあ? 俺が持ってる力だってっ!?」


「いいから、早く答えろ」


「んなの、サイコメトリーに決まってるだろ!」


「だったら、それをフルに活用すればいいじゃねえか」


「それができたら、こんな文句は言ってねえよ!」


「……まったく勘の鈍いヤツだ」


「んだとっ、もっぺん言ってみろ!」


「最初から浄霊することを考えるからそうなる――いいか? 物霊ってのは人間が吐き捨てた感情が思念体となって各所に悪影響を及ぼす悪霊だ。感情から生まれたっていうなら、逆にそうした感情に寄ってくるかもしれないってことも考えられるんじゃないか」


「んだよっ、どういう意味だ、それは!?」


「なあに簡単なことだ。物霊が大きくなる条件は同じ感情を吸い続けることである以上、その感情をいまも出し続けている人間のところで待っていればいい」


「……物霊と……同じ感情を……出し続けている人間だと……!?」


「要は木を隠すなら森の中だ。もしかしたら、案外誰かに憑依してる可能性もあるかもな」



 意味がわからない――さっきまで俺をかかわれらさせない気でいたんじゃないのか?

 もし、そうじゃなかったとしたら、最後まで俺にやらせる腹づもり……いや、そんなことがあるわけがない。むしろ、この男は徹底的に美百合先輩を排除しようとしていたんだ。どうせロクなことを考えるに違いない。


 俺は疑いの目で大介に言ってやった。



「なんで、今更そんなことを言う?」


「おいおい、俺は誰も『美百合のことはあきらめろ』なんて一言も言ってないだろ」


「それはテメエの自己弁護じゃないのか」


「だから、何度も言わせるな。俺はオマエたち自身でやれとは言ったが、応援しないとは言ってねえぜ?」


「ハッ、どうだかね……? いまごろ、そんな言葉を聞かされて、いったい誰が聞く耳を持つってんだよ」


「そういう態度を示すってんなら、それはそれで構わん……が、俺の言うことを信じれば、オマエにとって案外いいこともあるかもしれないぜ」


「……どういう意味だ?」


「力ってのはな。それがあろうがなかろうが、それ自体が問題じゃない。なぜ持っていて、なぜ欲しがるのかという名目があるからこそ、人間はなんらかの力を持ち得るんだ。だから、オマエが力に対してどんな願いを込めるかによってその強さは変わる」


「……俺の……持ちたい力……」


「そんなに美晴を助けたいというのなら、オマエがその力でなんとかしてみせろ」



 と言うと、大介のヤツは出て行っちまった。



(――いったいなにが言いたかったんだ……?)



 残された俺はその言葉の意味を考えた。だけど、ホントに大介のヤツは俺を助ける気であんなこと言ったのか?


 だが、俺に物霊をどうにかできる手段がないのも事実。



「邑神君。お兄ちゃんの言うことは間違いないと思うよ」



 そんなとき、天坂が声を掛けられた。

 迷っている俺を見かねて、助言してくれたのだろう。でも、さっき天坂はアイツの肩を持つようなことをしてたし……ホントに信じていいのか?



「天坂、オマエはどっちの味方なんだ?」


「もちろん君の味方……と言いたいところだけど、お兄ちゃんの言ってることも間違ってないから、どちらとも言えないんだ」


「……そうか」


「でも、私も美百合ちゃんを助けたいって思ってるのは事実だから信じて」


「わかった」



 どうやら、天坂だけは信じてもいいらしい。

 そのことは、言葉の節々から気持ちが伝わってくる。それに俺一人じゃ物霊を倒すなんてことはできないしな。


 少なくとも天坂を頼らざるえないのが現状だ――いや、だからこそ頑張らなくては。


 俺は、なんとしてでも美百合先輩を救おうと、そう心に誓った。






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