第4節「失意の中で……/その1」(15/03/23※サブタイトル修正)
中休みになって、天坂が俺の席にやってきた。
天坂ははぐれメタルのように偶然遭遇するぐらいしか接点がないヤツだ。
それが急に話しかけてくるなんてビックリだぜ。しかも、天坂はそんな驚きも些細なことと思わせんばかりの深刻そうな顔つきをしている。
……なんかあったか?
「なにか用か?」
「用ってほどでもないんだけど、美百合ちゃんのことでちょっと……」
その一言で一気に昨日のことを思い出しちまった。
なんせ、あの後美百合先輩が戻ってくることはなかったんだ。すぐに探しに行こうしたけど、天坂の「いまはそっとしておいてあげて」という一言に従うしかなかった。
そんな言葉を聞いて、追わなかった俺にも責任があるのかもしれない。
だってさ、あのとき大介の野郎は先輩をけなすような言葉を並び立てやがったんだぜ? そりゃあ眉間にしわを寄せて起こりたくもなるってもんだ。しかも、すぐに先輩に制された上に「1人にして」なんて言われたら、いったいどんな顔して追っかけりゃあ良かったんだよ?
だから、気になった俺はその日の夜中にメールをしてみた。
しかし、かえってきた返事は「だいじょうぶいッ☆」という一言。んなVサインの顔文字を書かれても、明らかに気丈を張ってバレバレじゃないか。
俺はそのことが気になって、天坂に美百合先輩の様子を尋ねたかった。
「今日、美百合先輩は?」
「学校には来てる見たい。さっき様子を見に行ってきたら、クラスの人たちと会話しながら笑ってた」
「……そっか。じゃあやっぱり大丈夫か」
どうやら、俺の杞憂だったらしい。あの絵文字に含まれていた意味は本当に「元気だよ」という意味だったってことか。
けれども、ハシゴを外すように天坂が首を横に振る。
「全然大丈夫じゃないよ。あれはきっと元気そうに装っているんだと思う」
「え……? それじゃあ、やっぱり先輩は気落ちしてるってことなのかっ!?」
「間違いないよ」
と、悲壮な顔で天坂が言う。
しかし、そんなことを言われてもどうしろって言うんだ? 実際のところ、俺は美百合先輩についてなにも知らない。容姿や性格については知っていても、内面についてはいっさい聞いていないのだ。
だから、余計にわからなかった。
「俺はどうすればいいんだ?」
「――君が支えてあげて」
「しかし、そうは言っても……」
「いまの美百合ちゃんを支えられるのは君だけだよ」
「つまり、どういう意味なんだよ?」
「まず前提として。邑神君は、美百合ちゃんがどうして霊能力者になったかって話を聞いたことはあるの?」
「いや、まったく」
「……そう。じゃあ答えるね。でも、私の口からは具体的なことは説明できないから、そのことだけは覚えておいて」
「わかった……。それで先輩が霊能力者になった経緯って?」
「美百合ちゃんはね、遠い親戚の子なの。だから、私やお兄ちゃんみたいに対魔士の家に生まれて家業的な意味でなったとかじゃなくて、見えるから霊能力者になったの」
「どう違うんだ?」
「私たちの場合、子供の頃からあらゆる霊に対する知識を叩き込まれてきたの。でも、美百合ちゃんは予備知識もなしに『なりたい』と言って、御影堂に飛び込んできたんだよ」
「それがつまり大介さんが辞めろと言っている理由なのか?」
「ううん、それだけじゃない。お兄ちゃんも美百合ちゃんがどうして霊能力者になりたかったかっていう理由を知ってるからこそ、あんな事を言ってるんだと思う」
「なんか奥歯に詰まったような言い方だな」
「ゴメンね。でも、その理由を私が言っちゃダメだと思うの。たとえ辛くても直接本人が告げなきゃいけない問題だから」
と言って、言い淀む天坂。
無論、言いたいことはわかる。反面、そうした問題はとてもデリケートで対応を誤れば、美百合先輩の抱えている問題をさらに悪化させてしまうかもしれない。
そんなことを考えたら、どう対処したらいいのかわからなくなるじゃないか。
でも、天坂は続けざまに決断を迫ってきた。
「だからね、邑神君。美百合ちゃんを元気にしてあげられるのは君だけなんだよ」
その言葉に「オマエでは無理なのか?」という質問が頭をよぎる。
だけど、それを口にしたところで、きっと無理と言われてしまうんだろうな。だって、天坂も霊の霊能力者なんだぜ?
先輩と同じ霊能力者である以上、どうしたって優劣が出てきてしまう。その意味で、先輩が劣等感を感じちまってるならば、天坂は役不足だということになる。
だったら、超能力という違う能力を持つ俺の方がいい――そう考えたんだと思う。
俺はその意図を汲み、短く溜息をついて答えた。
「……わかった。やれるだけのことはやってみる」
「ありがとう。どうにか美百合ちゃんの力になってあげて」
「早速、先輩に話を聞いてみるよ」
頼まれた以上やるしかない。
俺はその足で美百合先輩のクラスへとおもむいた。




