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第2節「解明への手がかり/その2」

 ガサガサという葉音を立てて、雑木林の中を進む。



 ……え? なんでそんなことをしてるのかって?



 そりゃあ昨日天坂が感じたという霊の正体を確かめるためだ。

 3人で手分けして、それらしい痕跡がないかを探す。気付いていると思うが、3人という人数からもわかるとおり、この場には早村はいない。



 どうやら、今日は学校を休んだらしい。

 メールしようとも思ったが、アイツから直接メアドを教えてもらっていなかったっけ。



 まあそんなこんなで、本日は3人での捜索。

 個々の能力を生かして、霊の居場所を突き止める。そして、早村の落としたモノのッ正体を突き止め、アイツに返してやるんだ。それが早村にしてやれる唯一にして最大のことかもしれないしな。


 俺はその思いから一意専心の気持ちで探し回った。


 そんな中、深く生い茂った草むらをサイコメトリーを駆使して探し回っていると、美百合先輩に声を掛けられた。

 俺が目を合わせると、先輩は状況を確かめるように話しかけてきた。



「どう? 見つかりそう?」


「いえ、全然ダメですね」


「そっかぁ~」


「先輩の方はどうですか? なにか見つかりましたか?」


「私の方も全然よ。あたりに霊力の残りカスみたいなのはあるんだけど、フッと本体らしき霊力に近づいていくと見えなくなっちゃうの」


「えっ、霊って見えなくなったりするモノなんですか?」


「そういう意味じゃないわよ。なんていうか霊そのものに邪魔されてるみたいな感じかな」


「う~ん、わかったようなわからないような……」


「とにかく途端にパッと気配が消えちゃうのよ。これっておかしいでしょ?」


「そういえば、俺のサイコメトリーもノイズが掛かってハッキリとイメージが浮かび上がりませんね」


「でしょ? ということは、やっぱりこのあたりに物霊がいるのよ」



 そう断言する美百合先輩。

 確かにそう考えると納得がいく……ということは、天坂も似たようなモノを感じ取っているはず。

 天坂の意見も聞こうと、すぐさま身体を振り向ける。しかし、肝心の当人が離れた場所にいたため、大声で呼びかけることとなった。



「お~い、天坂!」



 俺の声に気付いたゆっくりと歩いてくる天坂。

 そして、目の前まで来ると「なに?」と返事をかえしてきた。



「どうだ? 見つかったか?」


「……まったくダメ。蜘蛛たちをどれだけ網の目のように張り巡らせても、私の視界に霊体らしきものは映らないの」


「そうか……。天坂でも見つからないのかぁ~」


「それより、なにか用事があって呼んだんじゃないの?」


「……ああ、そうだ。あのさ、捜索してて美百合先輩が霊そのものに邪魔されてる感じがするていうんだけど、オマエも同じように探しててそういう感じがしなかったか?」



 そう問いかけると、なぜか天坂は黙り込んじまった。

 なぜ黙り込んだのか――おそらくは思うところがあったんだと思う。しばらく俯いた状態で考え込んでいたが、わずかして顔を上げると訴えかけるような目で見てきた。



「たしかになにかに阻害されてるっていう感じはあったかも」


「どんな感じだったんだ?」


「そうだね、こう頭がボーッとしてなにも考えられない感じような……」


「ずいぶん感じ方が違うんだな」


「そこは霊感の強さも関係してるかもしれないよ。特に私のは周囲を探る力がだし」


「どういうことだ?」


「美百合ちゃんが違和感で済んでいるのは、おそらく私には見えてる瘴気が阻害しているせい。私ぐらい強い霊感を持ってると、瘴気そのものが見えて風邪を引いて頭がボーッとするみたいになるの」


「なるほどな。霊感が強いってのも見方によっては考え物か」


「そうだね。周囲に霊がいるってだけで人一倍影響を受けやすいこともあるよ」



 霊能力者には霊能力者なりの苦悩があるんだなぁ……ってことは、俺の能力が街中で発現して周囲から奇異な目で見られるというような場面と一緒か。

 そのあたりについては、あとで二人と話し合うとして。

 いまはもっと周囲を捜索する方が先決だな。



「とりあえず、もう少し範囲を広げ――」



 と言いかけた直後。


 突然、周囲の木が嵐のような強い風に当たって激しく揺れ始める。しかも、肌に触れる空気が降り出した雨のように冷たい。


 なんだ? なんだ? あたりの空気が異様に変化したぞ?


 とっさの状況の変化に周囲を見回す。しかし、それらしい変化はなく、風は気のせいだったと言わんばかりにパタリと止んでしまった。



(……いったいなんだったんだ?)



 状況を飲み込めず、美百合先輩に見解を求める。

 けれども、美百合先輩はなぜか険しい表情を浮かべていた。しかも、あたりを警戒しているみたいだし。

 そうした様子を見て、俺は美百合先輩にその理由を尋ねた。



「どうかしたんですか……?」


「――いるの」


「いるって……まさか、物霊ですか!?」



 と問いかけると、先輩が無言で頷く。

 俺にはまったく見えないが、2人の様子からいることは確かだ。まるで蛇に睨まれた蛙みたいに強張った表情で汗を垂れ流している。



「……かなり近くにいるわ。瘴気が濃いせいか位置までは特定できてないけど、私たちをじ~っと見てる」


「よくわからないですけど、いまの状況って相当マズいんですよね?」


「マズいっていうより、とてつもなく危険と表現した方が正解かも。おそらく私たちを襲う気でいるみたい」


「ど、ど、どうするんですか……?」


「右近君は優ちゃんのそばにいて。私が仕掛けてみるから」


「わかりました――先輩、気を付けてください!」



 俺は先輩の指示に従い、天坂の元へ駆け寄っていった。

 それから、後ろを振り返ると美百合先輩が走り出していた。

 合わせて俺の前に立った天坂が周囲を警戒し始める。

 何度も言うようだが、俺には霊が見えない。だけど、先輩が走って行く方向になにかがいるってのだけはわかる。




 どうやら、それが物霊らしいのだ。




 唐突に天坂が手を高く掲げる。

 なにかと思えば、使役している蜘蛛を手から一匹、一匹と宙に向かって放っている。一応、霊を攻撃することもできるらしんだけど、あの黒くてちっこいのがウニョウニョ~って動いてるのだけはどうにも慣れんよな。

 そうこうしているうちに二人は互いの能力を生かして物霊退治を始めた――にもかかわらず、俺は二人の活躍を横目で見ているだけ。



 ……本当にこのままでいいのか?



 あまりの外野っぷりにおもわず天坂に問い質す。



「なあ天坂。俺にもなにかできることはないか?」



 けれども、天坂が俺の言葉に耳を貸すことはなかった。

 当たり前だ。いま物霊を退治そうと集中しているのに、そんな質問に構っている余裕などあるはずがない。


 なら、俺はどうすべきか?


 答えは簡単――できうることを独断でなんとかするしかないということである。

 しかし、どうやって? 第一にして、俺には霊が見えないんだぞ。

 自分自身で言うのもなんだが、運動神経は抜群とは言いがたいものの、割といい方だと自負している。だが、それとは違って第六感に例えられる霊感は運動神経の良さなどなんの役にも立たない。


 そんな俺が2人を助けるなんて真似ができるのか?



「危ないっ、右近君!」



 不意に大きな声が耳に入ってくる。

 俺はその声で我に返り、とっさに叫び声の主の方を向いた。すると、美百合先輩が悲痛な面持ちで見ていた。

 しかも、なにかを指し示して警鐘を鳴らしているように思える。

 ワケがわからず、美百合先輩にその意味を尋ねる。



「え? なんですか、先輩?」


「いいから、逃げて!」


「逃げてって、いったいなにか――」



 と言いかけた直後、腹部に激痛が走る。


 ナイフで突き刺されたような痛みじゃない――

 どちらかというと肉体の欠損による直接的な痛みではなく、野球ボールほどのなにかが身体に穴も開けずに突き抜けていく感覚だ。





 それがした瞬間、俺の意識はある1つの映像にとらわれた。





 コレはたぶん頭の中で流れている映像に違いない。

 だが、サイコメトリーが見せる記憶の断片とは違う。とても鮮明でブルーレイで見せられたかのような動画である。


 正体はなにか――おそらく貫いたモノの正体が物霊でソイツが見せた幻なんだろう。


 現に見ている映像は見たこともない赤の他人の記憶。可愛らしいおかっぱ頭の女の子と母親が笑いながらかくれんぼをしている映像だった。

 一瞬、その映像は美百合先輩の記憶かとも思った。でも、眼筋、鼻筋、顔立ちともに明らかに別人のだ。むしろ、最近会った身近な人間にそっくりな気がするんだが……って、あ、あれ? なんだか眠くなってきたぞ。


 急に意識が薄れてきて、目の前が真っ黒な世界に変わっていく。





 いったい俺はどうなっちまうんだ……?






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