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第4節「探し物はなんですか?/その4」


「大きな家だなぁ~」



 と感嘆の声を漏らす。


 それぐらい早村の家は大きかった。

 見るからにお金持ちそうな家で、貧相なたたずまいの我が家に比べたら、そりゃもう何倍も目立ってる。


 以前、ニュースで話題になった馬頭(めず)かずおの家みたいだ。


 アニメ調のキャラが描かれたボードが植え込まれた白塗りのコンクリート塀。その塀の中に築かれたモダンな感じのする三階建ての家は、丸、三角、四角の形状をした三つの積み木を組み上げて作ったようにも見える。


 ……つーか、ぱっと見串刺しおでんみたいだな。チビ太でも住んでそうな感じです。



「入って」



 早村に勧められるがまま家の中へと入る。



「あら、どちら様?」



 ところが屋内に入ったところで、廊下の右手から現れた女性に声を掛けられた。

 174センチある俺の身長よりちょっと低めだが、肉付きは若干ふっくらして笑うと優しそうな印象を受ける女性だった。


 どうやら、この人が早村のお母さんらしい。



「初めまして。俺たちはお嬢さんの友達です」


「まあ夢ちゃんのっ!?」



 思いの外、大歓迎ようだ。

 俺たちは手招きされるがまま、家の中へと入った。

 屋内は逆L字型の廊下を進むと吹き抜けのリビングになっていて、入り口から見渡せる二階は左右に部屋が三つずつあるようだった。



「ワァ~オッ! 素敵なおうち」



 リビングに入った途端、美百合先輩が感極まった様子で声を上げる。


 感嘆とするのも無理はない。

 なにせ某番組の匠が一から家を造り、あの番組のナレーターが「なんということでしょう」と連呼してしまうぐらいモダンな家だからな。

 共感したいところだが、俺には場違いな家に思えるぜ。



「そんなことないわよ、フツーの家よ」


「いえいえ、じゅうぶん自慢できる家ですよ」


「フフッ、ありがとう……。さあ、夢ちゃんの部屋は二階よ」


「お邪魔します」


 おばさんの案内に従って、早村の部屋に向かう。


 ところが部屋の前でおばさんが「御茶を入れてくる」と一階へ下りていったので、俺たちはそのまま部屋の中に入ることにした。

 部屋の中はオレンジ色のカーテンが印象的な六畳ほどの広さのある部屋だった。女の子らしく、大きなウサギの人形やらティーンズコミックが並べられている。




 ふとあることに気付く。

 それは女三人、男一人だということ……つまりは、そんな中に野郎が一人だけってのはものスゴく居づらいんだよ。




 

 これは実際に中学時代に経験した出来事だが、当時在籍してたクラスの男女比率が偏っていたせいで男子のグループからあぶれるなんてことがあった。


 しかも、そのクラスの男女比率は女子が圧倒的多数。


 そのせいで、あぶれたことを教師に報告すると、



「そうしたら、邑神くんは人数の少ないAさんのグループに入って」



 などと、半ば強制的に女子三人のグループに入れられた。


 いまの気分がまさにソレ――「よろしく」と挨拶しながらも、気まずさ全開の雰囲気である。

 俺はそうした雰囲気に飲まれまいと軽く咳払いをしてみた。それから、美百合先輩に向かって小さな声で聞いてみた。



「どうですか? あたりに物霊の気配ってあります?」


「う~ん、それらしい反応はないみたいね」


「そうですか」



 ここも外れかと思わせるような出だしの悪さ。

 あとはサイコメトリーだけが頼りってことかなぁ~?



「優ちゃんはどう?」



 と、美百合先輩が目の前で天坂に意見を求めている。


 俺はその言葉に反応して、チラリと天坂を一瞥した。けれども、なぜか天坂は窓際に据えられたベッドの上のぬいぐるみと睨み合っていた。


 不審に思い、天坂に理由を訊ねる。



「どうかしたのか?」


「……なにが?」


「いや、『なにが』じゃなくてだな」


「この部屋、とってもカワイイ」


「気にするのは、そっちかよっ!」



 天坂さん、仕事してください。



 というか、天坂も女の子なんだな。確かに可愛げがあっていいとは思うのだが、物霊の話をしているときにその反応はズレているとしか言いようがない……ちゃんと働こうね。


 閑話休題、改めて天坂に問いかける。



「――で、物霊はいそうか?」


「残念だけど、あたりに放った蜘蛛たちも見つけられないみたい」


「どういうことだ?」



「並の物霊なら広範囲にはなった蜘蛛たちを介してある程度の霊力を感じられるんだけど、今回の物霊はまるで最初からいないみたい。私の能力が届く範囲から完全に消えちゃってるの」


「つまり、それってなにか? 見えないうえに霊力も感じられないってことなのか?」


「そういうことになるね」


「かなり厄介じゃないか」


「うん。だから、今回は少し手こずるかもしれない」



 と断言する天坂。


 その口ぶりはさすが専門家と思わせるモノでつい納得してしまった。




 ……ということはだ。




 残るは、俺のサイコメトリーで地道に探すのみ。この家の隅々には、早村の思い出がたくさん詰まっているはずだし、そうした思い出の中から特定の記憶の断片を探すことになるだろう。

 逆にありすぎて、かなりキツイ作業になりそう。



 だけど、ここで踏ん張って探すのが友達としての務めじゃん?



「とりあえず、おばさんに怪しまれない程度に家の内外を探ってみますか」



 俺は美百合先輩たちにそう提案し、少しでも早村を助ける為の情報を得られるように努力してみることにした。

 そして、立ち上がって部屋から出て行こうとする。



「ねえ? どうしてお母さんに怪しまれちゃいけないの?」



 ところが身体を扉の方へ向けた途端、後ろから早村に話しかけられた。


 瞬時に向き直ると、早村は首を傾げながら俺を見ていた。どうやら、言葉の意味をまったく理解していないらしい。

 俺は溜息をつき、すぐさま早村にその理由を説明した。



「いきなり霊能力者やら超能力者だなんて言って信じる人なんていないだろ? それにおばさんにヘンに勘繰られたら、それこそ説明しなきゃいけなくなる」


「あっ、そういうことか」


「そうならない為にも作業は慎重にやるんだよ。具体的に言うなら、かくれんぼかなにかをやっているように思わせつつ作業をするんだ」


「なるほど。それならお母さんに怪しまれずに済むね」


「とりあえず、オマエはなくした物をどこで落としたかをもう一度思い出してみてくれ。俺はその間にサイコメトリーでくまなく探してみる」


「わかったよ――もう一度よく思い出してみる。そっちはお願いね」


「任せとけ」



 と胸元で拳を握って自信を示してみせる。頼りにされている以上、いままで以上に頑張らないとな。


 俺はドアノブに手を掛け、部屋の外に出た。


 ところが廊下で二階へ上がってきたおばさんと鉢合わせになってしまう。これから、勝手に徘徊しようってときに出くわしてしまったことは気まずい以外の何物でもない。

 しかも、おばさんは紙パックのオレンジジュースとガラスのコップをトレーに載せて、早村の部屋まで持って行こうとしている。これはどう考えても、俺たちに気を遣って飲み物を持ってきてくれたに違いない。


 それだけにいま出て行くのは、とてもタイミングが割るような気がした。



「あら? どうかしたの?」



 帰ってしまうのかと思っているんだろう。

 俺を見たおばさんが少し寂しげな表情を露わにした。



「い、いえ……。トイレついでに家の中を少し拝見させてもらおうと思って」


「そうなの? ホントにたいした家じゃないわよ?」


「そんなことないですよ。とても面白い作りの家をしてるし、見るだけでも為になります」


「まあっ! 為になるだなんて……」


「ホントのことですよ。スゴくいい家だと思います」


「フフッ、ありがとう。実のところ、ここへ初めて来る全員がアナタみたいに驚くの」


「なかなかありそうでない作りの家ですからね」


「ジュースとお菓子を部屋の中に置いておくから、あとで夢と一緒に食べてちょうだい」


「ごちそうになります」



 それから、俺はおばさんの横を通り抜けると一階のリビングへと降りた。


 改めて見る早村の家――ここで早村と早村の家族が生活してるんだなと思うとなんか感慨深いモノがある。



 なにより、ここは女の子の家だ。

 至る所に女の子らしい小物が置かれている……って、よく考えたらいま過ごしてたのって女の子の部屋じゃないか! どうしよう、今頃になってメチャクチャ恥ずかしくなってきちまったぜ。

 自分でもわかるぐらいに顔が紅潮してる。さっきまでは早村を助けることに頭がいっぱいで全然気にしてなかったのに。



「あ~もうっ! なんかエラい場所に来ちまったぁ~!」



 恥ずかしさに耐えかねて、頭を掻きむしる。

 後悔先に立たずと言うべきか、なんと言うべきか……。と、とりあえず、気を落ち着かせようぜ。

 話はそれからだ。


 俺はすぐさま目を瞑って深呼吸した。それから、軽く背伸びをして、「よしっ」と気合いを入れ直した。



「さてっと! とっとと記憶の断片を探しますか」


「うんうん。その調子、その調子」


「張り切っていくぜ!」


「ガンバって、右近君」


「おうっ!」



 ……ん? なんかおかしくね? ここにいるのは俺一人のはずなんだが。なんか別の誰かがいるような。



 唐突に聞こえてきた声に顔を後ろへと向ける。すると、ぶつかるんじゃないかと思うぐらいの距離に美百合先輩が立っていた。

 しかも、満面の笑みを浮かべて、俺を見ている。もちろん、そんな表情で真後ろに立っていられたら、驚かないはずがない。

 俺は大声を上げて、身体を仰け反らせた。


 それから、一呼吸置いて先輩に話しかける。



「き、急にビックリさせないでくださいよ」


「ゴメン、ゴメン。ちょっと気になったから来ちゃった」


「気になったって……」


「それにしても凄い驚きようだったよ?」


「からかわないでください」



 またこの人は……。

 人の気も知らないで、どうしてそんなに小悪魔スマイルを浮かべられるんだ? これじゃ怒るどころか、呆れてモノも言えないよ。



 俺の気持ちをよそに美百合先輩が顔を近づけてくる。



 同時に這うようにして、クルリと背中の方へと回り込まれた。気が付けば、俺は先輩の両腕に羽交い締めにされていた。

 美百合先輩が耳元で囁く。



「じゃあさ。今度はもっと別な方法でアプローチして欲しい?」


「べ、別なアプローチって……」


「たとえば、こ~んな感じかな?」



 と、急に伝わってくる大きくて柔らかな感触。


 それはAIDで電気ショックを撃ち込まれたような強い衝撃で、俺の顔を真っ赤に染め上げた……というか、いいのかコレ?

  明らかに美百合先輩の胸が当たってるじゃん。先日は真っ正面からだったけど、今度は後ろから。しかも、今日は先輩自身が押しつけてきている……いや、うれしいかって聞かれれば、もちろんうれしいけどさ。


 でも、本人は体裁なんか気にしている様子はないんだよな。むしろ、絡みつく蛇のごとく、にらまれたカエルのような俺を弄んでいる。




 いったいどうすりゃいいの、俺……?




 すぐさま美百合先輩に状況の異常さを問い質す。



「ちょ、ちょっとっ! 先輩、なにやってるんですか?」


「いいから、お姉さんの言うとおりにして」



 そんなの無茶だ。だって、人様の家だぞ?

 しかも、すぐにおばさんが早村の部屋から戻ってくるだろうし、他の誰かに見られているかもしれない。そんなところを見られたら、ハレンチな行為を目撃されたら社会的に生きていけなくなる。



 俺がお嫁に行けなくなっちゃうよ!



 けれども、先輩は俺の心情を知ろうともしない。それどころか、胸を背中にこすり付け、追い打ちを掛けるように首筋にネットリとした舌を這わせてきている。まるで獲物の首筋に食らいつこうとする猥褻な雌虎みたいな気がして、ホントに喰われてしまうんじゃないかと思った。

 そうした気持ちもあって、俺の心は完全に狼狽しきっていた。


 先輩が言葉と共に俺の理性を責め立てる。



「ホラ、こんなのはどう?」


「ど、どうって言われても……」



 もちろん、気持ちいいに決まってます!


 こんな事されれば、誰だって美百合先輩になびいちゃうじゃん……ねえ?

 さらに美百合先輩が「舌使うの上手でしょ?」なんて甘い言葉を囁いてきたことで、俺の理性はショート寸前になった。




 このままでは身が持たない――どうにかして、美百合先輩の誘惑から逃れなくては。




 俺は絡みつく腕を必死に引っぺがそうと試みた。しかし、先輩の力は思いの外強く、なかなか外れようとはしなかった。

 さらに言葉での説得を開始する。


「ここはマズイですって!」


「大丈夫よ。おばさんはすぐには降りてこないから」


「と、とにかく離れてくださいっ」


「どうして……? こんなに気持ちよさそうにしてるのに」


「別に気持ちよくなんか……ひっ!」



 ふと先輩の舌が俺の一番感じる部分に触れる。


 冗談抜きでマズイぞ? このままじゃホントにどうにかなってしてしまいそうだ。おばさんが戻ってくるまでに早く美百合先輩から離れないと……。

 俺は強引に手を振り払って、先輩の魔の手から逃れた。そして、一言注意してやろうと、向かい合った美百合先輩の顔を見た。




 ところが――



「どうかしたの?」



 突然、背中越しに女性の声が聞こえてくる。

 それは美百合先輩よりも凛々しくも甲高い声で、まさに「奥様」を連想させるような声色だった。慌てて声の振り返ると、美百合先輩の背後に早村のおばさんが立っていた。




 どうやら、トレーを持って二階から降りてきたところらしい。




 空のティーカップが三つ並んでいることから察するに、台所へ持って行くために上から降りてきたのだろう。運が良かったのは、俺と先輩がしていたことを見ていないらしいことである。

 キョトンとした顔で俺たちを見ていた。


 俺はラッキーと思い、慌てておばさんに語りかけた。



「い、いえ……。なんかあまりにも広いんで、ここで美百合先輩と一緒に踊ってみたら楽しいんじゃないかって、話をしてたところなんです」



 などと言って、とぼけた顔で笑う俺。


 ああもう、誤魔化すのも一苦労だよ! それもこれも、すべては先輩のせいだって言うのに。

 俺はすぐに先輩の手を取って、その場で踊ってみせる。すると、おばさんが俺たちの様子にクスクスと笑い始めた。



「フフフッ、なんだかとっても楽しそうね」



 良かった、どうやらバレてなかったみたい。

 俺は踊るのをやめ、愛想笑いを浮かべながら、わざとらしく照れて見せた。



「どうぞ遠慮なく家の中を見て回ってちょうだい。夢がお友達を連れてくるなんて、初めてのことだから、おばさんも凄くうれしいの」



 と言って、早村のおばさんが台所の奥へと消えていく。


 その姿を最期まで見届けると、俺はその場で胸をなで下ろした。

 なんとか誤魔化すことができたらしい。

 まったく、おもわず口からホッと息を漏らしちまったぜ。だけど、問題はこれだけに留まらないんだよなぁ~。


 その思いにチラリと先輩の顔をみる。


 すると、案の定と言うべきか、予想通りというか。美百合先輩が小さな子供みたいに頬を膨らませて俺を見ていた。



「どうして、途中で止めちゃうのよぉ~?」



 嗚呼、これはなだめるのも一苦労するパターンだ。なんとかして、わかってもらわないと。

 俺はあやすように先輩に言い聞かせた。



「よく考えてくださいよ。いくらなんでも人様の家でできることと、できないことぐらいあるのはわかるじゃないですか?」


「そのスリルが楽しいのっ!」


「そういう問題じゃないですってば」



 ダメだ、先輩はどこか常識に欠けている。

 それどころか、本当に状況を楽しんでいるし。しかも、途端に「右近君のイジワル」とそっぽ向かれちまった。


 どうにも真面目に探してくれる様子がない。


 この状況、ホントにヒドくめまいがするよ。どうしたらいいんだ?



 俺は深くため息をつき、



「イジワルで結構です。とにかく記憶の断片を探しましょう」



 と言って、嫌がる先輩の手を無理矢理引いて外へと出た。




 向かった先は、早村の家の庭だった。




 大きさは坪庭と言って差し支えない程度の広さで、隣の家との境界線を敷くブロック塀のそばに大きなモミの木が植えられている。その左手には、小さな家庭菜園があり、茄子やミニトマトといった手軽に栽培できる野菜の苗が植えられていた。

 俺は美百合先輩に「大人しくしててくださいね」と言い聞かせると、近くにあったモミの地肌に手を当てた。


 そして、ゆっくりと目を閉じる。


 最初は真っ暗で視界にはなにも映ってはいなかったが、徐々に読み込まれた記憶の断片が頭の中でイメージとして投影され始める。

 とはいうものの、本当に欲しい記憶の断片がそう簡単に見つかるわけがない。

 全神経を手に集中させて、ノイズ混じりの雑多なイメージの中から「コレだ」と思うような記憶の断片を探すのは容易じゃない。




 ある意味、ゴミ山の中から一粒のダイヤモンドを見つけるようなモノだ。




 だから、記憶の断片は手にすくった水のようにこぼれやすい。沢山の人の思いがあって、その中から目的の記憶の断片を探すというのは簡単じゃないんだ。

 だから、横から美百合先輩に「見つかりそう?」なんて言われても返事をすることができなかった。



 しばらくして、俺は周囲にそれらしいモノが無いことを悟り、ゆっくりと目を開いた。

 とっさにモミの木の表面から手を離す。

 そして、続けざまに先輩に結果を報告しようと口を開いた。



「ダメですね。どうしても、それらしいイメージが浮かんでこないんです。まるで映りの悪い旧式のブラウン管テレビを見せられてる気分ですよ」


「つまり、それってここにはなんにも無いってことなの?」


「おそらくですけど……。でも、もう少しだけ調べてみようと思います」



 そう言って、今度は台所側に回り込むことにする。


 後ろから先輩がソワソワした様子で付いてきていたが、俺は気にすることなくサイコメトリーでありとあらゆる場所を読み取り続けた。





 ふと家の中から鼻歌が聞こえてくる。





 どうやら、おばさんが洗い物をしているらしい。網戸が掛かった通気窓の内側からどこか帰庫覚えのある鼻歌が聞こえてきた。



(……そういえば、さっき早村が友達を連れてくるのは初めてって言ってたっけ? そのことがうれしいのか、どうかはよくわからないけど、おばさんは明らかに楽しそうだよな)



 それに気付いた途端、後ろにいた先輩に声を掛けられた。



「右近君、どうしたの?」


「あ、いえ……。なんだか早村のおばさん、スゴく楽しそうだなって思って……」


「そういえば、たしかにさっき友達が来るのは初めてとか言ってたわね。でも、早村さんって見た感じは、たくさん友達がいそうなイメージよねぇ~?」


「俺もそう思います。アイツは凄く天然だけど、周りを和ます雰囲気を持っているから、いつも友達を家に呼んでいるんだとばかり」


「そうねえ、なんだか少し意外だわ。そう考えると私たちが最初って言うのも、ちょっとこそばゆう気がする」



 まったくその通りだ。


 ぶっちゃけ、普段の早村がどういう生活を送っているのかは知らない。

 けれども、おばさんの様子を見るからに早村が友達を家に連れてきたことがないんだと思う。それだけに「あの子が友達を連れてきた」という喜びが鼻歌を歌う結果を生んだんじゃないだろうか。



 そんな微笑ましいおばさんの気持ちを考えると、なんとしてでも早村のなくした記憶を取り戻してやらねばなるまい――そんな気持ちが沸いてきた。


 ふと事務所での出来事を思い出す。



「あの、さっきの事務所で起きたことなんですけど……」


「事務所でのこと?」


「先輩が大介さんに言われた一言ことです。あれは、なんか俺のせいで美百合先輩に迷惑かけちゃったみたいで本当に申し訳ありませんでした」


「ああ、アレのことね。別に右近君は気にしなくていいのよ? 私も早村さんをどうにかしてあげたいって思ったのは事実なんだから」


「けど、それが原因で美百合先輩と大介さんの対立をあおったじゃないですか」


「ホントに気にしなくていいんだって」


「いやでも……」


「もうっ、何度も言わせないでちょうだい。それにこの前も言ったけど、大ちゃんは早く私に霊能力者を辞めて欲しいと思ってるだけだし」


「……ですけど」


「だから、ホントにいいのよ。それに言ったでしょ? 私はあきらめるないって!」



 と、美百合先輩が目の前でピョンピョンと飛び跳ねる。


 その軽やかな足運びはなんの問題もないんだと言っているみたいだ。しかも、見せる笑顔は俺の心配が杞憂だと思わんばかりに可憐だった。




 でも、その目の奥にあるモノは……


 唐突に先輩が話しかけてくる。



「右近君は優しいね」


「俺はそんなんじゃないです。ただ美百合先輩は苦しんでるように思えるから……」


「それが優しいのよ。私の周りにはそういう風に思ってくれる人なんて全然いなかったし」


「……先輩はホントにそれでいいんですか?」


「もちろんいいとは思わないわ。でも、だからこそ右近君は早村さんを助けることに集中してあげて」


「わかってます。けど、俺は先輩も助けたいです。もし、なにか困ってることがあったら、遠慮なくいつでも言ってください」


「うん、わかった」



 と先輩に笑って返事をされる。



 どんな風に言われても絶えない笑顔。そんな笑顔を見ていると俺なんかより美百合先輩の方が何倍も優しいじゃないかと思う。




(……もっと美百合先輩を助けてあげたい)



 気付くと、そんな気持ちが心の中で昂ぶり始めていた。






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