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義娘のはずが使用人になる。

 期待していたのだ。

 だから、こんな間違いが起きてしまったのかもしれない。

「これが私の娘の写真だよ」

 そう言って、お義父様に手渡されたのは、白と黒で印刷された写真。そこに映るのは、まさに人形と言っていいほどのかわいい子どもだった。八歳ぐらいの、顔だけをこちらに向かせて、口を開けて呆けている女の子。

 絵ではない。顔を幾らでも変えられる絵ではない。大商人という、金持ち故の写真。

 きっとこの子は上品で、とてもすばらしい女の子に違いない。

 話を聞くには、庶民学校のお嬢様学校に通っていて、お金持ちであろうと頭が良くなければならない学校に通っていたんだとか。

 今年で十四歳となり、庶民学校を卒業し、性格は明るめ。

 私達は、新しい妹に対して、期待した。


 名前も知らない妹とお義父様、そして今日新しく来る、妹専属の侍女を家の中でそわそわしながら待っていた。お姉様には邪魔だと言われてしまったけど、しょうがないじゃない! 楽しみなんだから。

 玄関先に長く立っていたら疲れてしまったので、ソファーに腰をかける。お姉様もお母様も待ちくたびれたのか、ソファーに座って三人で玄関を見ていた。

 パカッパカッパカッ。

 聞こえてくるは馬の足音。てっきりお義父様と妹が到着したのかと思ったけど、少し違う。……多分、早馬だ。

「奥様! 奥様!」

「なんですの? 騒々しい。何がありましたの?」

「だ、旦那様が! 新しい旦那様が、道中病で倒れ、そのまま……」

 荒々しく家の中に入ってきた男。

 まさか、そんな! お義父様が! お義父さまと過ごす生活だって楽しみでしたのに!

「お姉様、お母様! 妹は無事なの?」

「お嬢様は用事があり、一足先にこちらに来ていたそうです。徒歩でのご到着になります。そちらにも早馬が出てます。荷物は旦那様の馬車へ乗せてあったようで……後で届きます」

「……わかりました。下がりなさい」

 男が出て行ったあとお母様は私室へと消えてしまった。戻ってきた頃には目が赤くなっていたから、多分泣いたんだと思う。

「……お姉様、大変なことになったわね」

「そうね……。妹は、二人で慰めましょう?」

 ええ、と頷いて、変に落ち着いた気持ちで玄関を見つめる。引っ越しの当日に、父が死ぬ。妹の心は大丈夫だろうか。とても心配だわ。

 コンコンッと控えめに叩かれたドア。

 三人で目を見合わせてゆっくりと頷く。お母様がゆっくりと扉の方へ歩いて、取っ手に手をかけて開ける。妹と、初対面になるのだ。まあ、もしかしたら侍女かもしれないけど。

 そこにいたのは、落ち着いた色の、飾り気のないドレスを来た女の子、

 顔は色白、目は少し釣り目、髪の毛はふわふわの金糸、目も恐らく金。

 妹だ。

 私達は確信した。

「待ってたわ! ささ、入って入って!」

「え、あ、はい」

 声も鈴を転がしたようにかわいい声。ああなんてすばらしい妹なの!

「お父様が亡くなって、とてもお気の毒に……」

「え? ご存じでしたか……。いえいえ」

「寂しいなら寂しいって言っていいのよ? あなたは今日から私達の妹なるの」

「……わ、私、皆様の妹になるんですか!?」

「何を驚いてるの。当たり前じゃない? 侍女も手配したのよ? 私は長女のメリッサ」

「私は次女。アリソン」

「え、あ、わ、私はイザベラです! よろしくお願いします!」

 かわいいかわいい妹の名前はイザベラという名前らしい。かわいい妹に相応しい、かわいい名前だ。私、妹が大好きになると思う。

 未だに来ない侍女に呆れつつも、仕方ないから自分達でイザベラに部屋を案内する。

 こういうと変態かもしれないが、イザベラの髪から匂う香りがとてもいい。

「侍女はまだついてないの。あ、あなたの服とかは後で届くわ」

「ふ、服、ですか。それに、侍女って、あの」

「ああ、あなたの侍女よ」

「は、はい」

「家の中を案内してもいいんだけど……一人でする? それとも私達とする?」

「色々考えたいので……一人にしていただいても良いですか?」

 そうよね。この子、お父様を亡くしたばかりですものね。

「ええ、もちろん。侍女が来たら部屋に荷物を置かせとくわね。」

「はい!」

 さって、と。

 私達が部屋にいると、イザベラも部屋から出れなさそうなので、お姉様を目を合わせてうなずいて出る。そのまま一階に下がると、お母様が待っていた。

「これ、服ですって。あとで持って行きなさい。そういえばあなた達、名前聞いた?」

いつの間に馬車が来たのだろうか。とりあえず、袋を床に置く。結構量があるから、簡単に持てるものじゃないわ。

「イザベラって言うんですって!」

「あら、良い名前。寂しがってたら慰めるのよ?」

お母様が自室に入るのを最後まで見て、色々と溜めて興奮を吐きだした。

「ね、ね、お姉様! イザベラ、すばらしい妹じゃない!」

「ね! 私、もうあの子大好きですわ! あの子の言うことならなんでも聞いちゃうし信じちゃう! もうそっれぐらい大好き!」

「そうよね、ね! しかも――」

 コンッコンッ。

 私の声を遮る形で叩かれた扉。

 せっかく妹の事について語り合ってたのに……と不貞腐れつつも、大雑把に扉を開ける。どうせ侍女だし。まったくもう。

「は、はじめまして……」

 妹と違って、何か暗そう。

髪の毛は茶。暗そうって思ったのは、前髪が目を覆い隠してるから、服はまさに庶民って感じ。そういえば、妹が商人だし、世話役は庶民から選ぶってお母様が言ってたわね。一応侍女ってことになってるけど、使用人に近いのかしら。さっきちょっと興奮とか色々遮られちゃったし……意地悪しようかしら。

「あんたには今日からびっしばし働いて貰うわよ」

 お姉様の方を向けば、いいこと考えたわね、とでもいうようにニヤッと笑っている。

「そうね、まずはこの荷物、すぐに妹の部屋に運びなさい。二階の廊下の突き当たりの部屋よ?」

 お姉様も意地の悪いことを言う……荷物、結構あるのに。それに、そういうのは普通、侍女の仕事じゃなくて使用人の仕事。

「あ、は、はい」

 侍女としての仕事に戸惑いを感じたのか、はたしてどうなのかはしらないが、顔に疑問を浮かべながらあわてて床に置いてある荷物を持ち上げる。

 意外と力があるのか、荷物の半分は持ち上げた。

 ドタバタと階段を上がっていく侍女。……もう使用人でいいかしら。

 妹は静かに階段を上がって言ったっていうのに……やっぱお嬢様学校卒業って違うわね。

 少しして降りてきたその子にお姉様が声をかける。

「あなた、今日から使用人ね。住み込みだし、いいわよね? お金は出すわ」

 ……使用人にするのね。やっぱお姉様と考えることって似てるわ。

「は、はぁ。ええ、まぁ」

「使用人なら使用人らしくなさい。私はメリッサ。こっちは妹のアリソン。今度から何かあるときは様付で呼ぶのよ? あ、上の妹はイザベラ。いい? わかったかしら」

「は、はいわかりまし――」

「わかりましたお嬢様、それかわかりましたメリッサ様、でしょ? それぐらいもわからないの? 低脳ね」

「……申し訳ございません、お嬢様」

 流石お姉様。使用人への教育がしっかりしている。

「わかったならそれでいいのよ。さ、荷物さっさと運んじゃいなさい」

「……はい、では失礼いたします」

 そういうと、使用人、って名前聞くの忘れたわ。使用人は残りの荷物を抱えてバタバタと上に行った。

「流石お姉様ですわ! 教育がしっかりしてます!」

「おほほ。当り前ですわ。ま、使用人にしたからにはお金もあげるし、他に色々なこともしてもらおうかしらね」

「あ、お母様に報告しましょう?」

「そうね」

 お母様はまだ部屋で泣いてるのかしら。そしたら申し訳ないのだけれども……。わ、私だってお義父様が亡くなって悲しいけど……。あ、あとでイザベラの様子を見なきゃ。

「お母様。メリッサとアリソンでございます」

 お姉様が控えめにドアを叩いて声をかける。

「どうぞ。どうしたの?」

「お母様、あの侍女、使用人にしてもよろしいですよね?」

「本人が良いって言ったなら、それでいいわよ」

 さっき一応良いっていったし、問題ないはず。

「住み込みですし、イザベラのまわり以外のこともやらせていいですわよね。そのかわりにお金を出しますの」

「それもいいわね。住み込みなら仕事時間も多いし……。そうね。他の使用人は全て首になさい」

 お母様も思い切ったことをやるわ。今日入った使用人以外で住み込みの使用人はいなかったから、夜は仕事をする人がいなかった。今日みたいに使用人を家に来させない日もあるし。その分あの使用人には頑張ってもらおう。

「イザベラにも、侍女じゃなくて使用人になったことを言わなくてわね。呼びなさい」

「はい。イザベラー! 階段の下に来なさーい!」

 お姉様が大声で、家の中に響き渡るように叫ぶ。階段の下に来るように言ったのは、まだイザベラにお母様の部屋の場所を言ってなかったからかしら。

 普段は淑女らしく大声なんて出さないけど、使用人がいない今はこうするしかない。

 ほどなくしてお姉様とイザベラが一緒に来て、使用人になったことを説明した。

 イザベラは使用人に何を言えばいいのかわからなかったようだけれども、仕事させればいいのよといったら納得した。さーてっと! 今日から楽しい、妹との生活が始まるわ!


読んで下さりありがとうございました!

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