始まりは…5 12月30日
「藤宮さん、昨日ジュディと会ったんですよね」
会社に着くなりタカオが興味ぶかそうに聞いてきた。
「ああ、一緒に酒を飲んだ。いい女だよな」
ノボルはそう答えると自分の机に座り、パソコンの電源を入れた。タカオはそれ以上の質問はできないと悟り自分の席へ戻った。年末で別の日本人スタッフが帰国していた。やることが結構たまっていた。
今朝方までジュディと一緒にいた。ほとんど寝てないはずなのに頭がなぜかすっきりしていた。
体にまたジュディの肌の暖かさが残っているようだった。
恋人か…
まあ、普通はそうだよな。
ノボルはここ数年恋人を言われる存在を持ったことがなかった。
周りの女性は皆、体だけの関係だった。
自分がジュディに対して持っている感情は、恋人に持つ感情とは違う。ジュディもそれがわかるのだろう。だからこれが最後だと言ったのだろう。
ノボルはそう決めつけると机の上に山積みになっている書類に目を通し始めた。
「明日どうするんですか?」
昼食を一緒にとりながらタカオがそう聞いた。
「ああ、家で紅白でもみる。NHKを入れてるからな」
「NHK入ってるんですか?いいなあ。僕も行ってもいいですか?」
「いいけど。彼女も来るのか?」
「いや、彼女はジュディと年末パーティに参加するみたいですよ」
「そうか」
彼女と仲がいいタカオにしても珍しいと思いながらもノボルはうなずいた。
夕方、明日の買い物のため日系のスーパーに立ち寄った。そこでノボルはジュディを見た。若い男と腕を組んで楽しげに買い物をしていた。
恋人か…
心に宿る不思議な感情をもてあましながら、ノボルはジュディたちのいる野菜売り場ではなく、別の売り場移動した。
なんだかいらいらする。
腕を組んで楽しそうに笑うジュディの顔が頭から離れなかった。
結局、むしゃくしゃしてしまい、タカオしかこないはずなのにパーティを開くかごとく食料品や酒を買い込んだ。
まあ、あいつも飲むほうだからいいか。
ワインや日本酒を抱え、車に戻りながらノボルはそう自分を納得させた。
しかし、頭の中はジュディとその恋人の並ぶ姿でいっぱいだった。
「この人、私の恋人なの。あなたとは所詮体だけの関係。もう十分でしょ?」
ジュディはそう微笑むと男の腕を掴み、ノボルに背を向けた。
「!」
ノボルはベッドから起き上がった。真っ暗な部屋にいる自分に気づき、時計を見る。時間はまだ午前2時だった。
くそっ。
馬鹿な夢をみた自分が許せなかった。
ティーンエイジャーじゃあるまいし…
ノボルはキッチンに行くと、食器棚からグラスと取りウィスキーをついで一気に飲んだ。