始まりは…4 12月29日
「ジュディの携帯番号ですか?」
ノボルの問いにタカオは戸惑った表情を浮かべた。タカオはノボルの女癖の悪さを知っていた。ジュディはカナエの大事な友人だった。ノボルの餌食にみすみすさせるわけにはいかなかった。
ノボルは苦笑すると質問を変えた。
「会社の番号を教えてくれるか?」
「ああ、それなら」
ほっとしたような表情を浮かべるとタカオは電話のメモ取り用の小さな紙に番号を書くと渡した。
「藤宮ノボルです。ジュディ・チュアさんをお願いできますか」
ノボルがそう言うとカナエの声がして電話が転送されるときに使われる呼び出し音が鳴った。
「何か御用ですか?」
受話器から不機嫌そうなジュディの声が聞こえた。ノボルはその声を聞くとなんとも言えない思いに包まれた。それは遠い昔に恋をした時に感じたものと似ていた。
「ジュディ、すまないがもう一度会ってもらえないか?」
ノボルは咳払いをして自分の気持ちを落ち着けた後、そう訊ねた。しばらく沈黙が流れ、電話口からため息が漏れた。
「いいわ。いつがいいの?」
そう答えたジュディの声は感情を読み取れない冷たいものだった。
「今夜は空いてる?」
ノボルはその声で萎える気持ちを奮い立たせてそう聞いた。
「空いてるわ。場所はこの間のバーでいいでしょ?」
「ああ。時間は8時でいいか?」
「ええ」
こうしてノボルはジュディと8時にバー出会うことになった。
バーに入るとすでにジュディは来ていて、ノボルを見ると手を上げた。ノボルは笑顔を向けるとジュディの横に座った。
「誘いにのってくれてありがとう」
ノボルは思わずそう言った。それを聞いたジュディは苦笑を浮かべた
「で、用は何なの?」
ジュディは前回と同じように小さなグラスを手に持っていた。
「正直に言う。もう一度抱かせてくれ」
ノボルの言葉にジュディは目を丸くした後、笑い出した。その目には笑いすぎて涙が浮かんでる。
「あなたみたいな欲望丸出しの人みたことないわ。まあ、遠まわしに言われるよりはましだけど」
「俺はあんたを忘れられない。もう一度抱いたらきっと忘れられる。」
ジュディはノボルの真っ黒な瞳を見つめた後、妖艶に微笑んだ。そしてその唇に軽く触れた。
「いいわ。あなたとは相性がよさそうだし」
ノボルとジュディはあの夜と同じようにホテルに行き、互いの体を温めあった。しかし違ったのはお互いに身分を知っているいうことだった。
ノボルはジュディの横に寝ながら、天井を見上げた。体が火照っていた。何度も体を重ねたはずなのに、まだ体は足りないようだった。
ジュディはノボルに背中を向けていた。
ノボルがジュディの肩に触れるとわずらわしそうに手を振り払った。
「もう十分でしょ。私は疲れたわ。寝かせて」
「なあ、少し話ししないか?俺はあんたのことが知りたい」
「…いいわ」
ジュディはそう答えると寝返りをうち、ノボルを見つめた。
宝石みたいな瞳だな。
ノボルはジュディのきらきら輝く瞳をみてそう思った。
「あんたは何で日本語がそんなに流暢なんだ?」
「ああ、日本に留学に行っていたのよ」
そういう質問と答えから始まり、二人はお互いのことを話し始めた。
「なあ、ジュディ…。俺はやっぱりあんたが忘れられそうもない。会ってくれないか?」
「嫌よ。これが最後。セフレっていうんだっけ?そういう関係は嫌なの。私だって恋人くらいほしいわ。本当あなたも部下を見習って誰かを好きになったほうがいいわよ」
ジュディはそう話すとベッドから腰を上げ、シャワールームへ向かった。ノボルはシャワールームから聞こえる水音を聞きながらベッドに大の字に横たわった。
「好きになるか…」
それはずいぶん前に忘れた感情だった。