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黄金の宿命 ―故郷のない咎人と動乱の王国―  作者: 鈴宮
1. 黄金の麗人と王都の宝玉
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王都エリヒルダの中心にそびえる王城の向こうに見える空は太陽が沈み緋色と紫黒が拮抗して美しくも禍々しい様相を呈していたが、王都の東の外れにあるこの城の空には既に暗雲が立ち込めていた。月白城と呼ばれるこの城は空の色を映し出して重苦しい色を放っているが中にいる分にはそんな外壁の様子など関知することではない。ルジェは王城の向うの妖艶な空を眺めながら降りはじめた雨の音を聞いていた。


王都一美しい呼び声高く、亡国の宝石と謳われる現国王の末娘ははしたなく窓辺に寄りかかって手元の紙片を弄った。何度も開かれ折り畳まれたその紙片はくたびれ湿気て手元でしなる。

しかし、ルジェの深緑の瞳は遠く王都の中心を見つめていた。ルジェはこの月白城を離れて王城に戻ることを王太后である母に決められた。その決定にルジェの意思は全くない。容姿とは裏腹にルジェの気性は華やかな王城の暮らしを好かなかった。彼女の趣味は読書でこの書籍に埋め尽くされた月白城はまさにルジェの城だった。とはいえ、王城にもたくさんの本があることは知っているし、王城の書庫にしかない本があるのも大いに魅力的だった。なにより母の寂しさが分からないわけではない。だがルジェの憂いは、目の前の王城を眺めれば眺めるほど募る。


あの空は正しく今の王宮の色だとルジェは思った。



 * * *



窓が軋む音がした。この月白城は遠くから見れば白く輝く美しい城だが、実際には使用に困る程古く、建てつけが悪くなっている所が多々ある。それを直さないのは主の責任なのだが、その主に責任を問うたところで聞き流されるだけに違いない。だが今回ばかりは、特に気に留める必要のないその音にはただならない原因があった。


「王都のオリステスと呼ばれる姫か?」


くぐもった低い声と共にルジェは後ろ手に腕を取られ、身動きができなくなった。静かな声は続く。


「騒がなければ危害は加えない。・・セレン・・・いや・・・・・」


半端なところで言葉は止まったが、聞き覚えのある響きにルジェは息を飲んで言葉の続きを待った。


「・・・デュシスという者のことを知っているか?」


数ヶ月の間に諦めたはずの名前だった。しかしまだこうして心を揺さ振られる。大きく息を吸いこみ、二度と声に出さないだろうと心の中に秘めていた名を、なぞるように口から吐きだした。


「セイレン・オルデ=デュシス・・?」


侵入者は思案するかのように一息吐いた。


「白金の髪に碧い目をした男だ」


嗚咽しないように、侵入者の声に一筋たりとも希望を見いださないように、ルジェは身を堅くして頷いた。



「その男は死んだ」



侵入者はルジェの心のを内を知ってか知らずか淡々と絶望の言葉をぶつけてきた。この数ヶ月、その言葉は遠い将来にはある意味ルジェの幸せに繋がるかもしれないと、心の片隅で言い聞かせられる程度にはその絶望と向き合ってきた。しかし今のルジェには一片の光も見いだせなかった。少しの冷静さはやはり時の流れの賜物だろうか。ただ、不作法に侵りこんだ無法者のくせにルジェのことを気遣っているような態度になぜだか湧きあがった苛立ちが、ルジェの口調を荒くした。


「知っているわ。もう何ヵ月も前の話だもの」


侵入者は首を傾げた。


「あの男の死を知っているのは私だけだと思っていたが…。それにあの男が死んだのは1ヵ月ほど前の話だ」


ルジェは顔を歪めた。助ける余地があったことなど知りたくなかった。


「正確には、助からないことを知っていただけよ」


侵入者はそれには答えなかった。


「その男からこれを貴女に渡すように頼まれた」


差し出されたのは指輪だった。薔薇をモチーフにした金の台座に白く輝く石が埋め込まれている。姫の護衛を勤める清廉潔白な騎士の証だ。


「私にはもう役目を果たすことができないからお返しする、と」


手酷く突き放されたような気持ちと共に本当に突き飛ばされたような気がしてルジェは崩れるように地面にへたりこんだ。今度は我慢しても涙をせきとめることができなかった。


黄金の宿命をお読みくださりありがとうございます。

ロマンスまでは遠く長い道のりがありますが、どうぞお付き合いください。

***

諸説あるようですが、当小説での亜麻色は淡い金髪のことです。

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