表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された悪役令嬢ですが、前世の知識で辺境を最強の農業特区にしてみせます!〜毒で人間不信の王子を美味しい野菜で餌付け中〜  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

第8話「踏みにじられた畑と守るべきもの」

 翌日の昼下がり。雲一つない秋晴れの空の下、辺境の静かな大地に重々しい金属音が響き渡った。


 土煙を上げて現れたのは、王家の紋章を掲げた三十人の武装した騎士たちだった。彼らは屋敷の前で馬を降りると、土足のまま乱暴に畑の敷地内へと足を踏み入れた。


「おい、ここが追放された悪役令嬢の隠れ家か。随分と泥臭い場所だな」


 先頭を歩く小太りの隊長が、鼻をつまみながら嫌悪感たっぷりに顔をしかめた。彼の足元の分厚いブーツが、ルシアナが丁寧に手入れをしていた畝の縁を無残に崩していく。


「やめてください。そこは種を蒔いたばかりの場所です」


 ルシアナはクワを放り出し、隊長の前に立ちはだかった。彼女の目は怒りに燃え、泥だらけの作業着姿のままでも、侯爵令嬢としての誇りを失っていない凜とした態度だった。


「おっと、これはルシアナ様。随分と落ちぶれた格好になられましたな。王太子殿下からの伝言をお持ちしました」


 隊長は薄ら笑いを浮かべ、懐から羊皮紙を取り出した。


「『辺境での罪滅ぼしは見事に実を結んだようだな。その畑の作物をすべて王都へ献上し、貴様自身も王都の管理下に戻れ。さすれば、侯爵家への冷遇も少しは考えてやらんこともない』……とのことです」


 つまり、ルシアナの努力の結晶をすべて差し出し、再び王太子の道具として生きろという命令だ。断れば、人質となっている家族がどうなるかわからないという脅しでもあった。


「ふざけないでください。この畑は、私が自分の手で開墾し、育て上げた私の領地です。あなたたちのように土の重みも命の価値も知らない者たちに、奪い取られるいわれはありません」


 ルシアナは一歩も引かずに言い放った。


 その毅然とした態度に、隊長の顔から笑みが消え、醜い怒りが浮かび上がった。


「生意気な女だ。たかが土いじりをして調子に乗るな。おい、この女を拘束しろ。抵抗するなら、この薄汚い畑を端から焼き払ってしまえ」


 隊長が怒鳴り声を上げると、背後に控えていた騎士たちが一斉に剣を抜き、ルシアナに向かってじりじりと距離を詰めてきた。


『どうしよう。私一人じゃ、畑を守りきれない……』


 ルシアナが恐怖で足を踏み外しそうになったその瞬間。


「そこまでだ」


 低く、しかし驚くほどよく通る声が畑に響き渡った。


 ルシアナの前に進み出たのは、使い込まれたカマを片手に持ったアルトだった。彼の服装は粗末な農作業着だったが、背筋を真っすぐに伸ばし、騎士たちを見据えるその姿には、誰もが息を呑むような圧倒的な威圧感があった。


「なんだ貴様は。ただの小作農が、王太子殿下の騎士に逆らうつもりか」


 隊長が剣を振りかざして威嚇するが、アルトは瞬き一つしなかった。


「王太子だと。自国の民の飢えを放置し、一人の女性が作り上げた成果を権力で奪い取ろうとするような愚か者が、王の器だとでも思っているのか」


 アルトの声は静かだったが、鋭い刃のように騎士たちの胸を刺した。彼の群青色の瞳には、冷酷なまでの怒りが静かに燃えている。


「貴様、不敬罪で斬り捨ててやる」


 激昂した一人の騎士が、アルトに向かって剣を振り下ろした。


 しかし、アルトは一歩も引かず、手に持っていたカマの柄を使って、最小限の動きで剣の軌道を逸らした。金属が激しくぶつかる高い音が響き、体勢を崩した騎士の足元を払って、あっという間に地面に叩き伏せる。


「な、なんだこいつの動きは……」


 ただの農民ではない洗練された体術に、騎士たちはあからさまに動揺し、後ずさりをした。


「俺は、この畑の土の匂いも、彼女が流した汗の尊さも知っている。貴様らのような薄汚い権力の手先が、土足で踏み入っていい場所ではない」


 アルトは倒れた騎士から奪い取った剣を拾い上げ、切っ先を隊長の喉元に真っすぐに向けた。


「すぐにここから立ち去れ。さもなくば、隣国の名において、貴様らの王太子に宣戦布告することになるぞ」


 その言葉の意味を理解した瞬間、隊長の顔からすっと血の気が引いた。


「と、隣国だと……。まさか、貴様……」


 アルトが纏う隠しきれない王族としての覇気と、特徴的な群青色の髪。それは、行方不明になっていた隣国の王族の姿そのものだった。


 ルシアナは、目の前で剣を構え、自分と畑を庇うように立つアルトの広い背中を見つめていた。秋風が吹き抜け、土の香りが彼女を包み込む。彼がただの旅人ではないことは薄々感じていたが、まさか隣国を背負うほどの人物だったとは。


 それでも、ルシアナの心にあるのは恐怖ではなく、共に土にまみれて汗を流した彼への、揺るぎない信頼と深い安堵だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ