第四話 負けたいわけじゃない
ニートは、布団に寝転んだまま天井を見ていた。
別に考え事をしているわけじゃない。
ただ、何もしないでいると、勝手に考えが浮かんでくる。
「……負けたいわけじゃないんだよな」
独り言だった。
昨日のゲームのことを思い出す。
勝った。
圧勝だった。
操作している間も、その結果は最初から見えていた。
だから、つまらなかった。
「……別にさ」
誰に説明するわけでもなく、言葉が続く。
「負けたいとか、ボコられたいとか、そういう話じゃねぇんだよ」
負けたら負けたで、たぶん面倒だ。
悔しいとか、腹が立つとか、そういう感情が湧くのは想像できる。
それも、それで鬱陶しい。
ニートは、ゆっくりと息を吐いた。
「……結果が分かってるのが、嫌なんだよな」
ゲームに限らない。
マッチングした瞬間に、勝敗がなんとなく分かる。
相手の動きを見た時点で、終わりが見える。
最初の一手で、「ああ、これはこうなるな」と分かってしまう。
だから、操作はただの確認作業になる。
「……作業じゃん」
勝つために考えているつもりでも、
実際は「分かっている答えをなぞっているだけ」。
そりゃ、面白くない。
スマホを手に取る。
ゲームの掲示板や、攻略サイトを眺める。
「読み合いが熱い」
「逆転が最高」
「最後まで分からないのが楽しい」
そう書いてある。
ニートは、画面を見ながら小さく鼻で笑った。
「……最後まで分からない、か」
そんな状況を、
自分はもう何年も見ていない気がした。
思い出そうとするが、
いつからそうだったのかは分からない。
気づいたときには、
もう「分かる側」だった。
「……俺が悪いわけじゃねぇよな」
誰に向けた言葉でもない。
ただ、自分に言い聞かせるように。
「ゲームの出来が悪いだけだろ」
そう思うことにしている。
そう思わないと、
自分の方がおかしい気がしてしまうからだ。
コントローラーを手に取る。
電源を入れようとして、止める。
「……やっても同じだしな」
どうせ勝つ。
どうせ終わる。
どうせ、途中経過も全部見える。
だったら、
最初からやらない方が楽だ。
布団に戻り、天井を見る。
外から、車の音が聞こえる。
人の声がする。
世界は今日も普通だ。
「……負けたいわけじゃない」
もう一度、はっきりと言う。
「分からないのが、欲しいだけなんだよ」
でも、
それが手に入らないことも、
なんとなく分かっていた。
だからニートは、
今日も何も選ばない。
何もしないという選択が、
一番、結果が変わらないからだ。




