第一章・第十二話 獣王連邦ガゼル
ティーナ――そう呼ばれた犬耳の女は、刃を拭う手を止めずにこちらを見ていた。
助けに来たのに、恩を着せる顔をしていない。
ここでは、そういうのが普通なのかもしれない。
カムイの方は、肩に担いだ剣の重さより、視線の置き方が重かった。
私とリトリーと、衛兵たちと、倒れた獣と。
全部を同じ熱で見て、それから静かに息を吐く。
「怪我人。動けるやつがいるなら……枝道の方に寄せろ。道の真ん中にいると、邪魔だ」
隊長が一瞬だけ眉を寄せる。
「……分かった。担架を」
衛兵たちが動き出す。さっきほど揃ってはいない。
その様子を見てから、犬耳の女が小さく頷いた。
「で、あんたたちは…」
「私たち、ガゼルに行く途中。……あなたたち、ガゼルの人だよね?」
犬耳の女が、ようやく少しだけ笑った。
「そう。ガゼルの冒険者よ。――私、アルティナ、よろしくね」
その名を言った瞬間、耳の先がぴくっと動いた。
尻尾も、外套の影で揺れた気がする。感情が、先に出る。
「で、こっちがカムイ」
「俺は――」
カムイが口を開きかけたところで、アルティナが先に言葉を被せる。
「ほら、ちゃんと名乗りなさいよ。“俺はカムイだ”って」
「今言おうとしたんだよ。……俺はカムイ。よろしく」
短い。短いのに、言い淀みが混じる。
その言い淀みが、さっきの戦いの迷いのなさと、別の場所にあるのが見えてしまう。
リトリーがぱちぱちと手を叩いた。
「アルティナさんと、カムイさんね! 私リトリー。で、こっちがシルアだよ。よろしく!」
「…よろしく」
「アルティナさんって……あれ、でもさっき、カムイさんが『ティーナ』って呼んでたような?」
アルティナの耳が、もう一回ぴくっと動いた。
「せっかくだし私もティーナちゃんって呼んでいい?」
リトリーの距離の詰め方が凄まじい。
アルティナは、いったん口を閉じた。
閉じて、次に開くまでに、尻尾が一度だけ大きく揺れた。
「えーっと……すごく嬉しいんだけど、ティーナは……その、カムイだけというか。幼馴染だから」
「カムイだけ」
リトリーが、わざと復唱した。
「……カムイだけ、って。もしかして夫婦だった?」
私の横で、カムイが咳払いみたいに息を吐いた。
「そ、そんなんじゃねぇ。……ただの呼び方だ。昔から、短い方が楽だっただけだ」
耳のつけ根が赤い。狼耳が、気づかれたくないみたいに少しだけ伏せる。
アルティナは、そんなカムイを見て、わざとらしく肩をすくめた。
「はいはい。言い訳が早いね」
「言い訳じゃねぇし」
「じゃあ、なんで照れてるの」
「照れてねぇ」
アルティナの尻尾が、楽しそうに揺れる。
カムイの尻尾は、ぴしっと固まっている。固まってるのに、先だけ震えてる。
リトリーが私の袖を引いて囁く。
「ねえシルア。ガゼルっていいでしょ。アルガルドなんかよりずっと」
「……本人たちを前にそれ言うの、強いね」
私が返すと、リトリーは笑った。
その笑いの途中で、森の奥から足音が増えた。
枝を踏む音。草を払う音。人の呼吸の音。
アルティナが、顔を上げる。
「来た」
カムイも視線をずらす。戦いの時みたいに、音の前に気配を拾っている。
次の瞬間、道のカーブの向こうから、別の影が二つ、三つ飛び出してきた。
「アルティナ!!」
高い声。焦りの混じった声。
続けて低い声。
「おい、カムイ! 無事か!」
出てきたのは、アルティナとカムイと同じように“森の匂い”をまとった連中だった。
猫の耳を立てた細身の女が弓を背負い、熊みたいな体格の男が大斧のような剣を担いでいる。もう一人、背の低い兎耳の青年が、薬包を抱えたまま息を切らしていた。
弓の女が、倒れた獣を見て目を見開く。
「……倒してる。もう?」
「遅いよ」
アルティナが言う。責めてるんじゃなく、いつもの調子かのように。
熊みたいな男が、地面に落ちた折れ角を見て、口の端を上げた。
「角、折れてる。カムイの仕業か」
「俺じゃねぇ。ティーナ――アルティナが切った」
その言い直しで、弓の女がにやっとした。
「またティーナって言ってる〜」
「言ってねぇ」
「言ったじゃん」
アルティナの尻尾が、また揺れる。
兎耳の青年が、衛兵の負傷者を見つけて慌てて駆け寄った。
「怪我してる人いる! とりあえず止血――骨まで折れてるよ……」
衛兵たちが戸惑いながらも道を空ける。
揃ってはいない。でも邪魔はしない。揃わないまま、相手に合わせる動き。
それを見て、私は少しだけ息を吐いた。
エクトたちを見て私が勝手に勘違いしていただけかもしれない。
△▼△▼△▼△
負傷者の処置が一段落すると、隊長がアルティナたちに頭を下げた。
「助力、感謝する。我々はアルガルド王都の命令で――」
「うん、聞いたよ。アルガルドの護衛さんでしょ」
アルティナが言葉を遮る。
「で、ガゼルに入るなら、ここから先はうちの人間の方が道は分かる。……怪我人も出てるし、引き返した方がいいよ。森は優しくないからね」
“優しくない”。
淡々とした言葉なのに、さっきの獣の一撃の重さが、まだ残っている。
隊長は歯を噛んだ。仕事を離れたくない顔。
けれど負傷者が呻く声が、その顔を現実に戻した。
その間に、リトリーが一歩前に出た。
「ねえ、護衛さんたち」
隊長の視線が刺さる。けれどリトリーは、気にせずに笑う。
「ちょうどいい機会だし、帰っていいよ」
衛兵の一人が目を剥いた。
「はぁ!? お前、何を――」
「だって怪我人もいるし、森でこれ以上足手まとい増やしたら、迷惑なだけだよ。これ以上醜態を晒す前に帰った方がいいんじゃない?」
衛兵たちが言い返そうとして、言葉が詰まる。
隊長が低く言った。
「……我々の任務は、あなた方をガゼルの街まで護衛することだ」
「街までなら、ガゼルの冒険者さんに引き継ぎでいいよね」
リトリーがアルティナを見る。
「ね、アルティナ。引き継ぎ、お願いしていい?」
アルティナは少しだけ目を細めた。
「できるよ。ガゼル領内に入ったなら、こっちの責任になる。……アルガルドの兵士さん、無理はしなくていい。怪我人もいるし尚更ね」
結局、少し葛藤した表情を見せた後、隊長は視線を落とした。
「……分かった。負傷者を優先する。だが――いいように報告すると思うなよ」
言い残すことで、面子を立てる。
リトリーはそれを拾わずに、明るく手を振った。
「はいはい。帰り道、影霊にも気をつけて」
その忠告だけは、嫌味じゃなく真面目だった。
衛兵たちが一瞬だけ黙って、それから渋々と隊列を組み直し始める。
隊列が森の入口へ引き返していく背を見ながら、私は自分の指先を握った。
さっきアルティナたちがきていなかったら私は何を差し出していたのだろう。
それが少し怖い。
リトリーが私の肩に軽くぶつかる。
「ね。帰ってもらえた」
「……言い方」
「私、優しいでしょ」
「まあ…居心地悪かったし、よかったかな」
「褒めてくれた!」
△▼△▼△▼△
アルティナたちの案内で、私たちはそのまま森の中の小さな街へ向かった。
街道から外れてしばらく歩くと、匂いが変わる。
獣の匂いが増えるのに、不思議と嫌じゃない。汗と毛と、干した草の匂い。火を使う匂い。生き物が集まって暮らす匂い。
木々の隙間から、屋根が見えた。
石じゃなく、木と革と、編んだ蔓で作られた屋根。壁も、完璧に真っ直ぐじゃない。なのに不安にならないのは、揃っていない形が“森に馴染んでる”からだ。
門はあったけど、アルガルドの門みたいに重くない。
見張りがいる。けれど槍の角度は揃っていない。揃ってないのに、目はちゃんとこちらを見る。
「お、アルティナたちか」
門番の獣人が手を上げる。狼の耳が片方欠けている。
「今日は早いじゃねぇか。血の匂い……何かあったのか?」
「街道で大きいのが出た。もう倒したけど、アルガルドの人たちが怪我して引き返した」
「へぇ。……それで後ろのは?」
門番の視線が私とリトリーに落ちる。
距離を測るみたいな見方。
アルティナが軽く言った。
「アルガルドから来た旅人。これからガゼルを見たいって」
「ふぅん。歓迎するぜ。……騒ぎを起こさなきゃな」
リトリーがにこっと笑う。
「そんなことしない! 美味しいものを食べにきたの!」
門番は笑った。
「それなら大丈夫だ。美味いものならたくさんあるぜ」
門を抜けると、街の音が肌に触れた。
呼び声。笑い声。鍛冶の槌の音。肉を炙る匂い。
通りの端で、子どもが尻尾を振りながら走っている。ぶつかっても怒られない。
アルガルドの雰囲気まるでとは違う。
ここは、揃っていないのに、ちゃんと回っている。
私は外套の留め具に、無意識に触れていた指を止めた。
息が、少しだけ深く入る。
「どう? 私たちの国は」
アルティナが横から聞く。
その声は、森で聞いた命令の声と同じ人とは思えないくらい柔らかい。
「……匂いが、違う」
「でしょ。みんな自由だから」
尻尾がまた揺れる。嬉しいのが分かりやすい。
カムイは街を見回しながら、私たちに視線を戻す。
「ここ、森際の小さいとこだけどな。奥に行けばもっとごちゃごちゃしてる。……悪い意味じゃねぇぜ」
「ごちゃごちゃ、いいね」
リトリーが即答する。
「ごちゃごちゃってことは、ご飯も多いってことでしょ」
「まぁ……多いな」
カムイが少し笑いそうになって、やめる。
アルティナが手を叩いた。
「宿はあっちだよ。せっかくだしそこで一緒にお昼食べましょ」
△▼△▼△▼△
宿は木の匂いが強かった。床板が少しだけ軋む。けれどその軋みが、不安より生活に近い。
「で」
アルティナが湯気の立つ茶を置いて、私とリトリーを見る。
「ガゼルに来た理由。観光? それとも……仕事?」
リトリーが私を見る。
私は息を吸ってから、短く言った。
「…両方」
言った瞬間、自分の声が少しだけ硬いのが分かった。
でも、嘘じゃない。
アルティナは頷いた。
「じゃあ冒険者はどう?それで私たちとパーティーを組まない?」
「えぇ!? いきなりだな…」
カムイがギョッとアルティナを見て言う。
ミラが弓の紐を指で弄びながら言う。
「だって今のパーティー組んでる人たち私たちについていけてないもん。それにアルガルドの兵士さんたちはやられてたのにあなた達は無傷だったでしょ?そりゃあ誘いたくなるもんでしょ」
「お前、あいつらがいないからってそんな堂々と…」
カムイが悲しそうな目でアルティナを見る。
それを見てムーッとしながらアルティナが続けた。
「それにガゼルだと冒険者って結構稼げるんだよ。結構あなた達にあってると思わない?」
「確かに。それに私たちもガゼルじゃないけど前まで冒険者やってたし。ねえ、シルアそうしない?」
稼げると聞いた途端リトリーの目がキラキラし出した気がするけど悪くない案だ。
「うん、そうしよ」
「やった!」
アルティナが嬉しそうに言う。
カムイも特に反対はしないみたいだ。
「冒険者をしてたって言ってもガゼルの外ででしょ。ガゼルはね、冒険者業が盛んだからこの国だけ冒険者協会があるの。依頼もスムーズに受けられるし、宿の割引とか、治療の紹介とか、いろいろお得なんだよ」
「冒険者協会……」
私が言葉を繰り返すと、リトリーが立ち上がってこちらを見る。
「さっそく登録しに行く?」
私は小さく頷いた。
「……登録する」
リトリーも同時に頷く。
「よしじゃあ、行こう!」
△▼△▼△▼△
冒険者協会は、街の真ん中にあった。
木造の建物なのに、妙に“強い”匂いがする。
汗と鉄と、薬草と、乾いた紙。人の声が壁に染みついているみたいだった。
扉を開けると、視線が何本も飛んできた。
でもアルガルドの視線みたいに、刺さってこない。
受付には角のある獣人の女が座っていて、書類を捲りながら顔を上げた。
「依頼ですか?」
アルティナが首を横にふる。
「登録。新しい子たちだよ」
受付の女は私とリトリーを見て、頷く。
「わかりました。ではまずお名前を」
リトリーが元気よく言う。
「リトリー!」
私は一拍置いてから。
「……シルア」
受付の女が羽根ペンを走らせる。
「登録手続きは二つだけです」
受付の女が指を二本立てる。
「剣能力の申告。それから、潜在魔力量の測定」
潜在魔力量。
聞いたことのない言葉が、机の上に落ちたみたいに重い。
「……潜在」
私が小さく呟くと、リトリーがしまったという顔をする。
「後で教えるね」
そう囁いてからリトリーが腰の剣に手を置く。
「私の剣の力は、収納。……空に色々出し入れできるの」
言いながら、指を“空”へ伸ばす。
次の瞬間、何もないところから小さな木札が落ちてきた。受付の女は驚かない。ただ頷いて書く。
「収納。便利ですね。次、シルアさん」
私の番。
剣能力。
私は“風”を使ってきた。風なら、見せられる。
でも、剣がない。
形だけの剣を、私は腰に下げている。
喉の奥が少し乾く。
私は剣の柄に手を置いた。木の感触が薄い。嘘の感触。
「……風」
短く言う。
受付の女はペンを止めない。
「見せてください」
私は息を吸って、剣を半分だけ抜いた。
刃は鈍い。光も薄い。嘘は嘘の光しか跳ね返さない。
でも風は、嘘を嫌わない。
風は、ここにあるものだから。
刃の先に、薄い流れを集める。
空気の粒が、指先の熱で動くみたいに。
机の上の紙が、ふわりと揺れた。
受付の女の前髪が一筋だけ持ち上がる。
それだけで止めた。
受付の女が頷く。
「風ですね。……次は潜在魔力量を測ります」
そう言って受付の女が手を前に出す。
「魔力量は私の能力で測ります。私の手に触れていただけますか」
私は彼女の手に触れる。
受付の女の眉が、少しだけ上がった。
「……多いですね」
その言葉が軽いのに、重い。
「え」
私の声が漏れた。
「どのくらい多いの?」
アルティナが身を乗り出して尋ねる。
受付の女は少し考えてから続ける。
「アルティナさんやカムイさんよりも少し多いですね」
「嘘ぉ、負けたの!」
アルティナがあり得ないと言うような顔でこちらを見てくる。
カムイも驚いているようだ。
「そんなに驚く?」
「だって私たちよりも多い人なんて少なくともこの街にはいないよ。だよね、カムイ」
アルティナは尻尾を大きく振りながらカムイの方を見て言う。
「しらねぇよ」
カムイは冷たく返事をするがアルティナと同じくなんだか悔しそうな顔だ。
リトリーが、横から小声で言った。
「ねえシルア。つまり、シルアは……すごいってこと?」
“すごい”。
その言葉が、嬉しいより怖い。
すごいものは、目立つ。目立つことは良くない。
でも――目立たないようにして、誰かが死ぬのも嫌だ。
私は息を吐いて、頷いたとも首を振ったとも言えない動きをした。
「あはは、何それ。まあいいや、次は私。案外シルアより多かったりして」
そう言ってリトリーは受付の女の手に触れる。
「これは……!」
受付の女が驚きを示す。
「ちょっ、リトリーまで私たちより多いの!?」
「い、いいえ…アルティナさん達よりは少ないです。ただそれでも少し少ないだけで、多いには多いので……こんなに魔力量が多い方々を測るのは滅多に無いものですから」
アルティナは少し安堵したのかその場にへたれこむ。
リトリーは少し頬を膨らませている。
「なんか悔しい…」
「別にいいでしょ。…それより潜在魔力ってなに?」
私はずっと疑問に思っていたことを口にする。
「リトリーが、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「あ、それね。潜在魔力っていうのは、体の中に“ためられる魔力”のこと。
潜在魔力量っていうのは、その器の大きさ――どれだけ入るか、って目安だよ。多いほど、剣の力を長く強く引き出せるって言われてるの」
もしかして、今まで体の内側が削れる感覚って、魔力だったのだろうか。
無意識のうちに、差し出していたのかもしれない。
「で、もう一個大事なのがさ――魔力が多いと、身体能力も底上げされるの。
世界には身体強化で、音より速いって言われる人もいるんだよ」
リトリーはなぜか自慢げに言う。今まで教えてくれなかったのに。
「それ、すごく大事なことなんだけど…」
「えへへ、…忘れてた」
こちらの話が終わったのを見て受付の女が書類を差し出す。
「登録完了です。こちら、冒険者証になります。無くさないでくださいね」
木札。刻印入り。
リトリーが嬉しそうに受け取って、私も遅れて受け取る。
木札の重さが、意外にしっかりしていた。
初めてこの国にいていいのだと実感する。
△▼△▼△▼△
協会を出ると、外の空気が少しだけ軽かった。
リトリーは木札を指で弾きながら歩いている。
「冒険者だー。やっぱこれ、テンション上がるね」
「……浮かれすぎ」
「浮かれるよ。だって、ここからガゼルを満喫できるんだもん」
アルティナが先を歩きながら振り返る。
「で、あんたたち。登録したなら、さっそく一個、仕事しない?」
「仕事?」
リトリーが食いつく。
「お金? それともお肉?」
「両方」
アルティナが即答した。
尻尾がぴん、と立つ。自分も好きなんだと思う。
カムイが咳払いみたいに言う。
「大型獣の討伐依頼が出てる。街道じゃなくて、もう少し奥。……さっきのは単独だったが今度のは群れっぽい」
「群れ」
私が繰り返すと、アルティナが腕を組んだ。
「一匹だけならまだいいんだけどね。群れは厄介。賢い獣だと連携をとってくるしね」
「だが、報酬はいい。素材も取れる。……登録したばかりでも、俺らがいるから大丈夫だ」
カムイが私を見る。
「どうする? シルア」
さっきの戦いを見て思う。カムイとアルティナは相当な手練だ。
それに剣の力らしきものも見ていない。きっと多く学べるだろう。
それに潜在魔力量の話で自分の力についてわかってきた。試したいこともある。
私は顔を上げた。
「……行く」
言った後で、リトリーを見る。
リトリーは満面の笑みで頷いた。
「行こ! 討伐! そして稼いだお金でお肉!」
アルティナが笑って、カムイの肩を軽く叩いた。
「ほら、きっとティーナちゃんの目に狂いはないよ。行こ、カムイ」
「……揶揄う必要ないだろ、全く」
カムイが呆れる。
呆れたまま、前を向く。
「準備したら、すぐ出ようぜ。日が落ちる前に、巣に近づきたいしな」
私たちは歩き出す。
街の匂いを背に、森の匂いへ戻る。
「討伐に行こう」
私が小さく言うと、リトリーが同じくらい小さく返した。
「うん。行こう、シルア」
風が、外套の裾を揺らした。
森の影が揺れても、今日は――止まらずに歩ける気がした。




