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第一章・第十一話 ガゼルへ

揃った足音が、病室の前でいったん止まった。


扉をノックする音が二回。間。もう一回。

昨日と同じ規則正しさなのに、今日は少しだけ硬い。朝の空気がまだ乾いているせいかもしれない。


「――出発の説明に参りました」


扉が開く。向こうに衛兵が三人。

肩当ての金具が、同じ角度で光を跳ね返す。揃った光は綺麗だ。綺麗すぎて、目が滑る。


先頭の男は、私たちを見た瞬間に視線を上から下へ流した。

顔には礼儀の形だけがある。中身だけ、どこかへ置いてきたみたいだ。


「旅装は整っていますか。……そちらの小柄な方は、歩けるんですか?」


“小柄な方”。

名前は呼ばない。呼ぶ価値がない、とでも言いたげに。


リトリーが、布団の端をばさっと払って立ち上がった。

昨日のふらつきはもう薄い。代わりに目だけが元気だ。


「歩けるよ。ほら、元気。走ってもいい?」


「……走る必要はありません」


隊長の声が、綺麗に拒む。

リトリーはにこっと笑って、わざと一歩だけ大きく踏み出した。


「じゃあ、跳ねる?」


「……」


衛兵の後ろ二人が口元をひくつかせる。笑いじゃない。面倒くささの形。


私は外套の留め具を直しながら、深く息を吸った。

石灰の匂いはもう薄い。代わりに外の朝の匂いが混じってくる。冷たい金属と、馬の汗と、遠いパンの匂い。


「荷物は――」


衛兵の一人が言いかけたところで、リトリーが手を上げた。


「荷物なら――」


“空”を探るみたいに、指をひゅっと伸ばす。

次の瞬間、何もないところから布袋がひとつ落ちてきた。床にどん、と鈍い音がなる。


衛兵たちの揃った姿勢が、一瞬だけ崩れた。


「……っ」


「驚かせないでください」


隊長が低く言う。


リトリーは悪びれずに肩をすくめた。


「だってそういう能力なんだもん。ね、シルア」


私は小さく頷いた。


指先を見る。何もない。

何もないのに、まだ何かが残っている感じだけがある。


「では出発します。――我々はアルガルド王都の命令で護衛に付きますが、勘違いしないでいただきたい」


隊長の言葉が、空気を一度切った。


「これは“親切”ではない。危険区域への移動に対する管理です。あなた方が原因で問題が起きれば、責任は――」


「全部わたしたち?」


リトリーが明るく言う。明るすぎる声で、言葉の刃を鈍らせる。


隊長は一瞬、返す言葉を探す顔になって、すぐにいつもの平坦に戻った。


「……そうです。余計なことはしないように」


余計なこと。

その“余計”の中に、昨日の私が入っている気がして、胸の内側が少しだけ熱くなった。


私は視線を上げて言った。


「分かった」


短く。揃った返事みたいに。

でも揃えきれない部分が、自分の中に残っている。


リトリーが私の肘を軽くつつく。


「ねえ、あの人、絶対『なんで俺らがこんな小娘を』って思ってるよ」


声は小さい。笑っているのに、目が真面目だ。


「……聞こえる」


「聞こえるように言ってるもんね。これ、技術だよ技術。嫌味の技術」


私は笑いそうになって、喉の奥で止めた。

笑うと、昨日の“ありがとう”がまた刺さりそうだったから。


△▼△▼△▼△


街を出る門は大きい。

大きいのに、空が近く感じるのは壁が高いからだ。


門を抜けた瞬間、風の匂いが変わった。

石と金属の匂いが薄れて、土と草の匂いが増える。遠くで水が流れる音もする。揃っていない音。


街道には馬車が何台も並び、荷の縄が軋む。

護衛の衛兵たちは慣れた手つきで隊列を組むけれど、私たちを見る目だけは慣れていない。いや、慣れたくないのかもしれない。


「あなた方は馬車の後ろです。――余計なことはするなよ」


隊長が言い捨てる。


リトリーが、わざとらしく頷いた。


「余計なって、何のこと?」


「……」


「ねえシルア、余計って何。お料理に入れるハーブのこと?」


「……静かに」


私が言うと、リトリーは口を尖らせてから、くすっと笑った。


「了解。シルアの言うことは聞くって言ったもんね」


その言葉のせいで、胸の奥が少しだけ楽になる。

“勝手に決めない”という約束が、まだそこにある。


出発してしばらくは、何も起きなかった。

ただ、揃った足音と、車輪の音と、馬の鼻息。揃っていない風が、外套の裾を揺らす。


昼を過ぎ、日が傾き始めた頃。

前方の木立が、妙に静かになった。鳥の声が一段だけ薄い。


衛兵の一人が、肩の高さで手を止める合図を出した。


「――影霊だ」


その言葉だけで空気が冷える。

本当に温度が落ちる。闘技場の“深い影”ほどではない。けれど、あの嫌な引っ張りが薄く触れてくる。


木の陰から、黒いものが滲み出る。

地面の影が増殖するみたいに、輪郭のない足が増えていく。音がない。あるのは寒気だけ。


隊長が剣を抜いた。動きは揃っている。

でも、その揃い方が硬い。相手は形がないのに、形で斬ろうとしている。


「戦う必要はありません」


隊長がこちらを見ずに言う。


「――あんたたちは下がれ」


下がれ。

守ってくれる言葉にも聞こえる。けれど実際は、“邪魔をするな”の響きが強い。


リトリーが私の耳元で囁く。


「ねえ、どうする? 見てるだけ?」


私は影霊を見た。

昨日ほど多くはない。闘技場の時みたいに街全体が飲み込まれる感じもない。


衛兵が一歩前に出る。

その瞬間、影霊の一体が“引っ張る”ように腕を伸ばした。触れたところが、じわっと寒くなる。


「っ……!」


衛兵の足が止まる。揃っていた隊列が、微かに崩れる。


私は息を吸って――指を立てた。


風はいつも通り、ここにある。

ここにあるものを、ここにある形で使う。昨日みたいに、誰かの光をほどいたりしない。


指先を軽く払う。

風が薄い刃になる。刃というより、乾いた布で影を撫でるみたいに。


影霊の輪郭が、ふっと薄くなる。

黒がほどける。糸が切れるみたいに、抵抗がなく、静かに。


リトリーが、空から何かを掴んで引き出した。

小さな鉄球――いや、鎖付きの錘。

そんなものを持っていたんだと思っているとリトリーはそれを振り回して影に打ち込む。


「はい、これ、余計な魔法!」


影霊が散る。

散るとき、あの“寒さ”がひと息だけ残って――消えた。


静かになった。


衛兵たちが振り返る。

揃った目が、私とリトリーを同じ角度で見た。


隊長が、舌打ちしそうな顔をするのを、ぎりぎりで堪えたのが分かった。


「……余計なことをするなと言ったはずだ」


リトリーが、にこっとする。


「だって、あなたたち、ちょっとやられそうだったし。ほら、親切じゃないけど管理です、管理」


隊長の眉間が一瞬だけ寄る。


私はその間に、影が消えた場所を見る。

指先が少しだけ熱い。

昨日の熱とは違う。


△▼△▼△▼△


その日の夜は野宿になった。


衛兵たちは手際がいい。火を起こし、見張りを立て、馬を繋ぐ。

揃った動き。揃った段取り。揃った安心。


でも、揃った安心はひとつだけ弱い。

“予想外”が来たとき、揃いは裂ける。


焚き火の匂いが、乾いた薪と脂を混ぜる。

リトリーは、どこからか出した干し肉を齧りながら、衛兵たちの陰口――というより、陰のない陰口――を楽しそうに聞いていた。


「ねえシルア、あの人たち絶対言ってる。『闘技場で目立ったのがこの女か』って」


「……聞こえる、からやめて」


「聞こえるように言ってるんだって。さっきも言ったじゃん。嫌味の技術」


リトリーは笑ってから、急に真面目な声になる。


「……ねえ、シルア」


リトリーが声を落とす。


「明日、森に入るじゃん。ガゼルの。でさ、ガゼルの森には影霊よりも恐ろしい動物がたくさん出るんだって、でも絶対お肉とか……」


「結局そこ」


「そこ。でも、そこが大事。大事な楽しみがあると、人は歩けるの」


リトリーが笑う。

笑いの形が、焚き火の揺れと同じくらい柔らかい。


私は小さく頷いた。


「……歩くか」


歩ける。昨日も言った。

言葉にすると、少しだけ本当になる。


夜が深くなる。

見張りの交代の足音が、揃って遠ざかる。空は広い。病室の天井とは違って、影がちゃんと落ちる。


眠りかける直前、ふと思った。

影霊は街道にもいる。

増えている。


“原因が分からない”という言葉が、まだ耳の奥で鳴っている。


そして、原因の中に自分が混ざっていないか――

それを考え始めると、風が止まる。


私は考えるのをやめるみたいに目を閉じた。

目を閉じても、指先は閉じられない。


△▼△▼△▼△


翌朝、森の匂いが先に来た。


見える前に分かる。

湿った土、濃い葉、樹皮の苦味。朝露の冷たさ。空気が、王都より重い。


やがて国境の手前に、巨大な森が現れた。

大密林。言葉にすると簡単なのに、実物は“壁”だ。緑の壁。


道はある。

石を敷いた大きな道が、森へ真っ直ぐ伸びている。人が通るために作られた道。でも森の方は道を許していない。すぐに枝と葉が覆いかぶさってくる。


境界の標柱を越える手前で、隊長が足を止めた。


「ここから先は、ガゼルの領域だ。森には――影霊よりも強力な獣が出る。特にガゼル固有の大型獣に気をつけろ」


“大型獣”。

それを言うときだけ、隊長の声が少しだけ慎重になる。


「道があるからといって油断するな。獣は道を知っている。道を狩場にする」


衛兵の一人が小声で付け足す。


「……あいつら、皮膚が硬くて影霊よりよっぽどタチが悪いらしいぜ」


リトリーが目を輝かせた。


「え、硬いってことは、噛みごたえが――」


「食うな」


私が即答すると、リトリーが肩をすくめた。


「冗談だって。……たぶん」


森に入った瞬間、光が変わった。

上から降る光が葉で砕かれて、細かい針みたいになる。影は濃い。濃いのに動く。風で揺れて、影が生き物みたいに動く。


“今日は怖い”。

昨日の影の怖さとは違う。

これは自然の影。生き物の影。


道を進む。

しばらくは何もない。鳥の声が戻る。虫の音もある。風もある。


だからこそ、“無音”が来たとき分かる。


ふっと、全部が止まった。

葉の擦れる音も、鳥の鳴き声も、遠い水音も。

世界が息を止める。


隊長が手を上げる。


「――止まれ」


その瞬間、前方の道の上に影が落ちた。


いや、影じゃない。

影みたいに黒い“毛”が、低い位置でうねっている。


巨大な獣が、道を横切るように現れた。

肩の高さが馬より高い。背中は木の幹みたいに太い。頭は――角がある。枝角じゃない。刃みたいな角。苔が絡んで、森と同じ色をしている。


目だけが、濡れた黒で光った。


「……出たぞ」


衛兵の一人が息を呑む。


獣は、こちらを見た。

ただ見ただけ。なのに脚が冷える。

影霊の寒さとは違う。生き物としての強さが、体温を奪う。


隊長が剣を構える。


「陣形を組め!」


揃った動きが戻る。

盾が前に、槍が後ろに、弓が横に。秩序の形。


「女たちは下がれ!」


隊長が叫ぶ。

“女たち”。今度ははっきり言った。小娘ではない。危険の前では、分類が雑になる。


リトリーが私を見る。


「下がる?」


「……下がらない」


私は言った。

勝手に決めない。リトリーと一緒に決める。

そして、守る。


衛兵たちが前へ出る。

弓が放たれる。矢が獣の肩に刺さって――止まった。刺さったけれど浅い。皮膚が鎧みたいに矢を弾く。


獣が唸った。低い音。地面が震える。


盾役が踏ん張る。

獣が突進した。


衝突の音が、森に響く。

盾が押し潰される。人が跳ねる。揃った陣形が、一撃でほどけた。


「――っ!」


隊長が斬り込む。刃が獣の脚に当たる。

火花が散る。金属と硬い皮膚の音。斬れない。


獣の尾が振られる。

尾が当たった衛兵が木に叩きつけられる。呻き声。揃っていた呼吸が乱れる。


「結構、タフじゃん……!」


リトリーはそう言って空から、太い杭みたいな槍を引き抜く。

振りかぶって投げる――けれど、獣の肩に当たって弾かれた。音だけが硬い。


私も風を走らせる。

刃の形にして、関節を狙う。膝、肩、首の付け根。


風は切れる。

切れるはずなのに、獣の毛と皮膚が風を“吸う”みたいに受け止めてしまう。勢いが削れる。刃が丸くなる。


「……効かない」


口に出した瞬間、悔しさが熱になる。


獣がこちらへ向き直る。

目が、私たちを見た。小さい獲物としてではない。邪魔なものとして。


リトリーが私の前に出る。


「シルア、下がって!」


「――リトリー!」


獣が踏み込む。

角が道の石を削る。火花が散る。森の中の火花は怖い。燃えるのは獣じゃなく、私たちだ。


衛兵たちが立ち直ろうとする。

でも、もう揃いが戻らない。恐怖で揃いが乱れる。盾を落とす者、立てない者。


隊長が歯を食いしばりながら叫ぶ。


「――退け! 立てる者は後退しろ!」


命令が、初めて“守る”形になる。

遅い。でも遅くてもいい。生きていれば、揃い直せる。


獣が再び突進する。

このままでは、誰かが死ぬ。


私は指先を見た。


何もない。

でも、昨日の“ほどく”感覚が、まだここにある。


――見てない。

衛兵たちは今、獣と負傷者で精一杯だ。私の手元を見ていない。


他のものと引き換えに。

誰かの光じゃなくて。

この森の何か。価値のあるものを。


私が指を立てた、その瞬間。


森の奥から、違う風が来た。


矢のように真っ直ぐで、獣の匂いを切り裂く風。

私の風とは違う。軽さがない。研いだ刃の重さがある。


「――下がって!」


澄んだ声が響いた。女の声。

命令なのに嫌じゃない。背筋が伸びる声。


次の瞬間、獣の横腹に影が跳びついた。


細い体。速い。

獣の硬い皮膚の“隙間”を知っている動き。刃が閃いて、獣の脇の下――関節の柔らかい部分に深く入った。


獣が咆哮する。


その咆哮に被せるように、もう一つの影が地面を蹴った。


重い一撃。

剣が獣の脚を叩く。叩くというより、地面ごと割る。獣の体勢が崩れる。


「今だ、ティーナ!」


「分かってる!」


名前が飛ぶ。

ティーナ。

そして、そう呼ばれた犬耳の女の声が応える。


「――カムイ、角を折る。合わせて」


カムイ。


二人は言葉が短い。短いのに、全部伝わっている。

呼吸が揃っている。衛兵たちの揃いとは違う。硬くない揃い。生きている揃い。


犬耳の女が獣の前へ滑り込む。

刃が、角の付け根を狙う。角は硬い。だからこそ、角を支える筋を切る。


カムイと呼ばれた狼耳の男が反対側から剣を突き上げる。

獣の顎が跳ねる。視線がぶれる。

その一瞬に、犬耳の女の刃が深く入る。


“骨”の音がした。

森に似合わない、乾いた折れる音。


角が片方、折れた。


獣が暴れる。

暴れても、二人は離れない。

犬耳の女は獣の影に潜って、刃を関節へ通す。

狼耳の男は獣の動きを読んで、次に来る重さを受け止め、返す。


まるで――踊っているみたいだった。

攻撃と回避が、同じ流れの中にある。


最後は、狼耳の男の一撃だった。


獣の胸元へ、剣が真っ直ぐ入る。

硬い皮膚の“縫い目”みたいな場所。心臓へ届く道。


獣の巨体が、ぐらりと揺れて――

道の石に崩れ落ちた。


地響き。

土が跳ねる。葉が揺れる。


無音が解けた。

鳥が一羽、慌てて飛び立つ音がした。虫が鳴き始める。森が息を吐く。


私は指を立てたまま固まっていた。

ほどく寸前だった指先が、今度は別の震えを持っている。


リトリーが隣でぽかんと口を開けていた。


「……なに、あれ。すご」


衛兵たちも呆然としている。

隊長でさえ剣を下ろせない。揃った秩序が、驚きで止まっている。


倒れた獣の向こうから、二人がこちらへ歩いてきた。


犬耳の女は刃を布で拭いながら、淡々と周囲を見る。

森の人みたいな目だ。


狼耳の男は武器を肩に担いでいる。背が高い。歩幅が大きい。

無駄な動きがないのに、存在感だけが重い。


犬耳の女が、こちらに視線を向けた。


「怪我人は?」


隊長が、少し遅れて答える。


「……数名、打撲と骨折の疑いが。命に別状はない」


犬耳の女は頷く。


「なら良かった。――この道、最近こいつが縄張りにしててさ。大通りでも油断しないでって、伝わってないかと思って」


言い方が責めていないのに、刺さる。

隊長の顔が少しだけ強張る。


狼耳の男がこちらを見る。

私とリトリーを、同じように見る。上からでも下からでもない。測るような目。


「旅人か」


リトリーが、反射で笑った。


「そう! 旅人! えっと、助けてくれてありがとう! すごかった! ねえ今の連携、何? すごくピッタリだったじゃん」


「え…お、おう」


狼耳の男が少し驚きながら答える。

犬耳の女が小さくため息をついた。


「そんなんだから友達少ないのよ。もっとシャキッとしなさいよ」


そのやりとりだけで、二人の距離が分かる。


私は遅れて口を開いた。


「……助けてくれて、ありがとう」


声が少しだけ震えた。

驚きの震え。安心の震え。悔しさの震え。


犬耳の女が私の剣を――一瞬だけ――見た気がした。

でも何も言わない。言わないまま、視線を戻す。


「見たところ、アルガルドの兵士さんたちと旅人みたいだけどガゼルに向かう途中?」


「うん!」


リトリーが元気よく頷く。

衛兵たちの前でそれを言うのは、少しだけ怖い。でも、もう決めた。


私はもう一度、倒れた獣を見る。

硬い皮膚。折れた角。森の匂いに混じる、獣の熱。


私の風は、届かなかった。

でも、届かなかったからこそ見えたものがある。

次はもっと……。


犬耳の女と狼耳の男が、当たり前みたいに歩く。

その背中が、森の影をちゃんと背負っている。


私は指をそっと下ろした。

ほどく前に止められた指先が、今は少しだけ軽い。


リトリーが私の袖を引く。


「ねえシルア。ガゼル、すごいね。いきなり凄腕の人たちに出会っちゃった」


「……うん」


「楽しみになってきた。お肉も、強さも」


「……そこは揃えるんだ」


私が言うと、リトリーが笑った。


森の中、道は続いている。

大きな道の先に、獣王連邦ガゼルがある。


そして――たぶん、影霊とは別の“何か”も。


でも今は。

この森の風の匂いを、ちゃんと吸って歩ける気がした。

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