第6話 リハビリダンジョン
午前七時、黒瀬は小さなアパートを出て、依頼先へと向かった。
今日は屋根修理の仕事。朝早くから取り掛かり、彼の手際は驚くほどだった。瓦を固定し、釘を打ち直す作業は、午前中のうちに完璧に終わった。
通りから見ていた依頼主の老夫婦は、後から玄関に出てきて目を丸くする。
「もう終わってるのか!? まさか、こんなに早く!」
「ええ、でも確かにきれいに直してくれている……すごいな」
黒瀬は振り返らず、軽く肩をすくめるだけだった。
この町では、誰にも知られず、誰の記録にも残らずに仕事を終えるのが彼の日常だった。
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その午後、ユナは配信の準備を整えていた。
今日はリハビリ用の初心者ダンジョンで、軽い戦闘を行いながら、配信で視聴者の反応を確認する。
「みんな、今日はゆるくダンジョンを回るよ!」
コメント欄は瞬く間に盛り上がる。
【やっぱユナちつえーな】
【リハビリなのに強すぎ】
【安全確認してから行けよ】
【コメント欄盛り上がりすぎw】
【黒フードとのコラボ希望】
【ユナち、マジで根性ある】
【管理局マジで見てる?】
【ユナち頑張れー】
【敵倒す速度やばすぎ】
【魔法の操作参考になる】
【安全第一で頼む】
【リハビリなのに戦闘力高すぎw】
【ユナちの笑顔が最高】
【黒影って本当に関わってるの?】
【コラボマジ希望】
【安心した、無事でよかった】
【ユナちの動き見てて勉強になる】
【黒フードと一緒に戦う姿見たい】
【次回も楽しみ】
【復帰おめでとう】
ユナは画面越しに手を振り、視聴者に笑顔を向ける。コメントの嵐に少し笑いながらも、心の奥で五年前に助けられたことをうろおぼえに思い出す。
「その時のことは、まだはっきりとは覚えていないけれど…あの人にどこか親近感を覚えたんだ」
そして直近の深層災害級で黒瀬に助けられた記憶が鮮明に蘇る。
「この人に助けてもらったから、今も無事でいられるんだ」
「みんなの応援、いつもありがとう! 今日も楽しんでいこうね!」
ユナの明るい声に、コメント欄はさらに熱気を増す。黒フードの人物の正体について議論が続き、黒影説を推す勢力は声を大きくして盛り上がる。
一方で、ただ純粋にユナのリハビリ成功を喜ぶ視聴者も多い。
戦闘は軽めながら、ユナの操作の正確さ、魔法の操作は視聴者を魅了する。
彼女はコメントに反応しつつ、落ち着いた動きでモンスターを次々と倒していった。
「簡単なダンジョンのはずが、意外と集中してる自分がいる……」
視聴者の期待と応援に応えながら、ユナは笑顔を絶やさずダンジョンを進む。
画面の向こうで盛り上がるコメントは、黒影説やコラボ希望であふれ、配信は予想以上の熱気に包まれていた。