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笑う警官と硝煙の街(まち)  作者: たむ


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第九話『リオナの嘘』

崩壊したBLK-13から生還した日向とリオナ。

だが、表では公安も警察も彼女の“存在”そのものを封じ込めようとしていた。

正義とは何か。本物とは何か。今、リオナの過去と“嘘”が明らかになる――。

 署の仮眠室にリオナを匿って三日が経った。

 誰も彼女のことは知らないことになっている。俺がそう、勝手に決めた。


「……なあ、本当に覚えてないのか? 署で働いてた頃のこと」


 ベッドに座るリオナは、静かに首を振った。


「ぼんやりと……夢の中で見たみたいには、思い出せる。でも、それが“私の記憶”なのか、他人のものなのか、わからないの」


「……あの時のリオナは、笑ってた。どんなに疲れてても、ちゃんと朝にコーヒーいれて、俺のこと“巡回サボり魔”って叱ってくれてた。そんなの、誰かの記憶じゃねぇだろ。お前自身の人生だ」


 彼女は黙って、指先でベッドのシーツをなぞる。


「ありがとう、日向。でも……その人はもう、いないのかもしれない」


 ちょうどその時、ノックがあった。


 ――上司の湊だった。


「話がある。二人とも、署の地下応接室に来い」



 地下の応接室は、夜のように静かだった。


 テーブルの上には一枚の書類。


 そこには「三咲涼子死亡報告書」と書かれていた。


「おい、どういう意味だよ、これ……!」


「三咲涼子――彼女の市民登録は、2週間前に“公式に抹消”された。公安からの要請だ。つまり、法律上は彼女は“もういない”。存在しない人間は、署では扱えない」


「ふざけんな! 目の前にいるだろうが!」


 湊の声が低くなる。


「それでもな、日向……。俺はな、あの子をこの街に置いてやりたいんだ。だから、ひとつだけ方法がある」


「……方法?」


「“三咲涼子”を完全に消す代わりに、新たな身分を与える。“リオナ・アキツキ”。戸籍ごと新しく作る。だが、条件がある」


「……条件?」


「過去を一切口にしないこと。あの研究所のことも。日向、お前もだ」


 俺は黙って拳を握った。


 嘘で生きる。それが、彼女に残された唯一の道なのか。


「……私、それでいい。私の過去がどんなに汚れていても、私自身がそれを許せなくても――」


 リオナは小さく笑った。


「今は、ここにいたい。日向と、朝のバカ話ができる場所にいたい。それで……十分よ」


 俺は、その笑顔を見て、心のどこかが少しだけ、救われた気がした。


 湊が言った。


「ただし、公安は動いてる。やつらが彼女の“記憶”を欲しがってるのは確かだ。日向――お前にその覚悟があるか?」


 俺は即答した。


「ああ。俺が最後まで守る。リオナが本物の笑顔でいられる街を、作ってやるさ」

“存在しない者”として生きる道を選んだリオナ。

だが、公安は静かに包囲を始めていた。

次回、第十話『公安の客人』

日向の前に現れたのは、公安の“別の顔”――。

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