第十八話『記憶庫クラウド・ゼロ』
中央署地下から脱出した日向とリオナ。
二人が目指すのは、都市の“地下神殿”と呼ばれる禁足地――クラウド・ゼロ。
そこにはリオナの「中枢記憶」、そして警察機構の深層汚職に繋がる証拠が保管されているという。
夜明け前の都市を、黒いバイクが疾走する。
日向は運転しながら、後ろでしがみつくリオナに叫ぶ。
「本気で言ってんのか!? 地下神殿だぁ? それ、都市伝説じゃねぇのかよ!」
「本気です! 志賀が言ってたんです。中枢記憶はクラウド・ゼロに“冷蔵保管”されてるって。たぶん、軍事衛星とリンクする記憶制御システムが……」
「もう何言ってんのか半分わかんねえけど、つまり行きゃ何かわかるってことだな!」
濡れたアスファルトを滑るように走り抜け、バイクは旧下水路へと突入する。
行き先は地図に載っていない、都市最下層。
下水の匂いと錆びた鉄の音のなか、やがて二人は、巨大な扉の前に立つ。
そこには数字の羅列と文字があった。
《CLOUD-0:人格記憶保管庫》
「まさか……本当にあったのかよ……」
日向が息をのむ。
リオナが壁の端末に自分の指を当てると、指紋認証と網膜スキャンが走る。
そして機械音声が告げる。
《ようこそ、記録個体 No.041-リオナ・カグラへ。中枢記憶の同期が可能です》
「……あたし、本当に記録体だったんですね」
リオナの声は、どこか遠くを見ていた。
「リオナ」
「大丈夫です。覚悟はしてました」
扉が開くと、そこは一面の白い空間。
無数の光の柱が立ち並び、中央に浮かぶ一つの球体――それが中枢記憶装置。
「ここには、国家レベルのデータが詰まってます。人体実験計画、都市監視プログラム、そして……」
リオナが球体に触れると、彼女の意識がリンクし、光が空間全体を満たす。
――そのとき。
天井から爆音。金属の瓦礫が降り注ぎ、黒い装備の武装部隊が突入する。
「動くな!公安特別機動隊だ!」
「くそっ、やっぱり嗅ぎつけやがった!」
日向が銃を抜き、撃ち返す。
白い空間は、たちまち硝煙と怒号に包まれた戦場に変わった。
「リオナ! 記憶を抜き出せるか!?」
「できる……でもあと1分、1分だけ時間をください!」
日向は一人、迫る敵に銃を向ける。
「だったらその1分、命張ってでも作ってやらぁ!」
硝煙の中、彼の姿はいつものように軽薄でもふざけてもいなかった。
ただただ真っすぐに――大切なものを守ろうとしていた。
中枢記憶との接続、そして突入してきた公安部隊。
リオナの“記憶”が繋がったとき、都市の真実が解き明かされようとしている。
次回、第十九話『記憶は硝煙のなかに』