表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

第十五話『死者たちのオペラ』

“パララックス”の幹部、志賀良道――

リオナの過去を知る男の登場は、封じられていた記憶の箱をこじ開ける鍵となる。

地下に響く銃声と、語られる真実。

死者たちの歌声が、今夜も闇にこだまする。

 リオナの拳が震えていた。感情の震えではない。体のどこか深部――心臓よりも奥、記憶の底が疼いていた。


 志賀良道。かつてリオナの“名前”をデータとして与えた男。その存在が目の前にあるというだけで、呼吸が浅くなる。


「お前は……私を知っている?」


 リオナが問うと、志賀は無言のまま、懐から端末を取り出した。そこには幾つもの映像ファイル。凍りついたリオナの幼少期が、そこにあった。


 白い病室。冷たい検査器具。何度も繰り返される言葉。


「痛みは幻です、サクライさん。あなたの感情は、すでに最適化されています」


 映像の中の少女は泣いていた。だが、その涙は何度見返しても――冷たい。


「……実験体、だったの?」


 志賀が初めて口を開いた。


「お前は、軍の“記憶同期計画”における唯一の生存サンプルだ。テスト対象番号Δ-021。正式名は“模倣記憶体リオナ”。人間ではない。だが、限りなく人間に近い“兵器”だった」


 リオナの足が崩れる。


「嘘……わたしの家族は?」


「記憶の中の“家族”は全て構成情報だ。お前の記憶の90%は合成。だが唯一――」


 志賀が日向を見た。


「こいつとの記憶だけは、構成できなかった。同期できなかった。唯一、予定外だった“感情因子”だ」


 日向は咥えていたタバコを床に落とし、ぐりぐりと踏みつぶした。


「……で? オレが邪魔だったってか?」


「否。むしろ、君には感謝している。実験は、想定を越えて成功した。感情が生まれた。兵器に心が芽吹いた――ただし、それは制御できない」


 志賀は銃を抜いた。


 次の瞬間、銃声が響いた。


 ……だが、それは志賀の銃ではなかった。


 撃ったのは、リオナだった。


 彼女の震える手が、志賀の肩を撃ち抜いていた。


 崩れ落ちる男。血の海。


「わたしは“記憶”じゃない……“人間”でいたい……日向と一緒に……」


 リオナの頬を涙が伝う。今度のそれは、冷たくなかった。


 日向は肩をすくめ、リオナに上着をかけた。


「……ああ。オレの相棒は、人間だ。おバカで、おっちょこちょいで、でも、ちゃんと人間だ」

暴かれたリオナの出生。

だが日向の言葉が、彼女の“存在”を認めたとき、ようやく彼女の足元に地面が戻る。

志賀はまだ息をしている――

次回、第十六話『黒い報告書』

警察組織の奥深くに潜む“共犯者”が、今夜、明かされる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ