第十四話『眠る街、叫ぶ記憶』
“パララックス”の拠点が、都市最下層のスラム――“デッドライン”に存在するという情報を得た日向とリオナ。
かつての希望は、今や絶望の吹き溜まり。
その地下で、二人は"過去"と"現在"が交錯する記憶の亡霊に出会う。
地下鉄の廃線跡を進む。頭上のコンクリートには無数の割れ目、壁にはスプレーで描かれたグラフィティ。
リオナがつぶやく。
「こんな場所が、都市の真下にあったなんてね……地図にも載ってない」
日向は足元に転がる空き缶を蹴飛ばしながら答える。
「都市が発展するとき、こういう“忘れられた場所”ができるんだよ。誰かが忘れてくれたおかげで、誰かが何かを隠せる」
暗がりの先。地下鉄のプラットフォーム跡地に、人影が立っていた。
女。白いスーツ、無表情の顔。リオナと年も近い。
だが、彼女の目には、明らかに人間の“温度”がなかった。
「……お出迎えってわけか」
日向が上着の内側に手を伸ばしかけたとき、女が口を開いた。
「“データコード:エイリアス=リオナ・サクライ”。対象が構成記憶体であることを確認。削除命令を実行します」
「ちょ、待てよ! 命令って誰の指示だよ!」
日向が叫ぶと同時に、女の手から閃光弾が発射された。
一瞬の白い光。視界を奪われる――
その間隙を縫って、リオナが動いた。
「この記憶……わたしの中の何かが反応してる……!」
すれ違いざま、リオナは相手の頬に指先をかすめさせた。電流のような衝撃。
「――解析、開始。対象内部にアクセス……失敗。拒絶反応。エラーコード:No.Δ-021……」
女が崩れるように膝をつく。そのまま、無感情な声でつぶやく。
「……わたしも……あなたと、同じ……?」
次の瞬間、女の瞳が虚空を見つめたまま、光を失った。
日向が駆け寄る。
「おい! こいつ、人間じゃねえのか……?」
「生体部品で組み上げた、記憶保持体。いわゆる“ホムンクルス”」
背後から、低い声が響いた。
そこには、スーツ姿の男。眼鏡をかけた中年。鋭い眼光に、軍人のような姿勢。
リオナが反応する。
「……あなたは……」
男は名乗った。
「“パララックス”管理局長、志賀良道。お前の作られた理由を、教えてやろう――リオナ・サクライ」
ついに姿を現した“パララックス”幹部・志賀。
リオナの記憶の核心に近づくとき、真実が牙をむく。
次回、第十五話『死者たちのオペラ』
過去と現在、二つの戦いが交錯する。