表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/44

第十二話『標的の街』

リオナを襲った車両の正体は、公安とは別筋――つまり、もう一つの敵の存在。

日向は"監視"の任務を抱えたまま、彼女を守る覚悟を決めた。

闇は広がっている。都市の影が、ふたりを試す。

「車のナンバーは偽装。中の奴らは、身元不明。指紋もねぇ。どういうことだよ……」


 警察署の資料室。日向は壁にもたれかかりながら、現場検証の報告書を読み込んでいた。

 隣ではリオナが猫背になってコーヒーを啜っている。


「公安が動いてないのはわかった。ってことは……」


「公安じゃない何者かが、私を消そうとしてるってことでしょ?」


「だからお前、なんでそんな冷静なんだよ……」


 言いかけた日向に、リオナがチラッと目線を向ける。

 その目は笑っていた。でも、その奥には何かが沈んでいた。


「ねぇ日向。あの人に聞いてみない? 署長の神津さん」


「……あの人、簡単に口を割るようなタマじゃねえ」


「でも、あの人……私が公安の管理下に置かれたこと、最初から知ってたよ」


 日向は資料の束をテーブルに叩きつけた。


「……あの人が知ってたのに、俺には何も言わなかった。なのに、俺を監視役に指名したってわけかよ」


 リオナが笑う。


「うん、そういうのって、なんかダークでカッコいいね」


「褒めてんじゃねえよ……」


 ふたりは署長室へ向かった。


 その部屋は、どこか懐かしい古びた革の匂いがした。

 窓際の男は背を向けたまま、灰皿の中の煙草を見つめている。


「何の用だ、日向。……それと“彼女”も、か」


 神津署長。現場叩き上げの強面。かつて裏社会の抗争で両足に銃弾を受けてなお、現場に立ち続けた伝説の人間。


「単刀直入に聞きます。リオナを狙った連中……公安じゃないですよね」


「……」


「公安の連中、あれだけの襲撃を黙殺してる。ってことは、こっちも“知らないふり”しなきゃいけない相手だ」


 神津はゆっくり振り向き、煙草を指に挟んだまま微笑んだ。


「ようやく目が覚めたか。お前も、バカのままでいられなかったか」


「答えてください」


「奴らは、“パララックス”だ」


 室内の空気が一瞬で凍りついた。


「都市の裏社会で動いている影の組織。麻薬でもない、銃器でもない。――“記憶”を売買してる」


「記憶……?」


「機密情報、偽造の記録、操作された真実。情報を“脳に埋め込む”新技術のブラックマーケットだ。政府も手を出しきれない。奴らは裏で大手企業と繋がってる」


 神津が言葉を止め、煙を吐いた。


「リオナ。お前の“中”にある記憶……奴らはそれを手に入れたがってる。理由は俺にもわからん。だが――」


 リオナが立ち上がり、静かに言った。


「じゃあ、私を餌に使うんですか? おとりに?」


「……正解だ」


 沈黙。日向は机を強く殴った。


「ふざけんなよ。こいつは人間だ。生きてるんだ」


「わかってる。だが都市全体が巻き込まれる可能性がある。“パララックス”はそれほど危険だ。だからお前を選んだ。バカで正直で、裏切らないお前をな」


 日向は拳を下ろし、リオナを見た。


「どうする、リオナ。逃げるなら、今だ。俺が……」


「――戦うよ」


 リオナの声は静かだった。


「だって、私、ようやくわかったの。私が“誰か”に作られた存在だとしても、それでも、今こうしてる私は私だから」


「……バカか、お前も」


 ふたりの間に、ほんのわずかに笑いがこぼれた。

新たな敵“パララックス”の影。

都市はすでに彼らの網にかかっていた。

次回、第十三話『影の交錯』――日向とリオナ、都市の裏側へ足を踏み入れる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ