私の普通は、両親が最強な事です。
魔王は、争いを終わらせた。
そして《原初の悪魔》は、その傍で膝を折った。
世界を焼き尽くした者たちが望んだのは――静かな暮らし。
血と咆哮の果て、彼らが辿り着いたのは“魔法なき世界”。
そこで二人は家族となり、
命を宿し、愛を知り、
再び世界へと帰る。
彼らの選んだ、最も優しい選択が。
後に、世界を震わせる“脅威”を生むとも知らずに――
燃え尽きた大地に、たった二つの影が立っていた。
血に濡れた空。砕けた神の骸。
それらを背に、魔王とその忠実なる悪魔が静かに向き合う。
「……終わったな、アーテル」
「ええ、主様」
世界を焼き尽くすほどの力を振るった魔王――フェリス=アルドヴァリオス。
その隣に仕えるは、最古にして最強の悪魔――《原初の悪魔》アーテル。
数千年に及ぶ戦乱に、ようやく終止符が打たれた。
だが、魔王の瞳に宿るのは、覇気でも怒りでもない。
それはまるで――遠い憧れを見つめるような、やわらかな光だった。
「もう……戦う理由も、敵もいない」
「そうでございますね、主様」
「だったら……俺は、もう一度、生きてみたい。血に染まってない、ただの人生を」
アーテルは静かに微笑む。
その表情には、魔でも悪でもない、ひとりの“妻”としてのあたたかさがあった。
「では、私もお供いたします。どこまでも……主様と共に」
「当然だ。お前は、俺の嫁だからな」
「……はい、主様。誇りにございます」
かくして――
魔王と原初の悪魔は、“魔法の存在しない世界”へと旅立った。
そこは、争いの少ない青き星――地球。
⸻
それから十数年。
主従ではなく、夫婦として歩んだ日々の中で、ふたりは一つの命を授かる。
「……女の子ですね、主様。……ほら、手を、指を握りました」
小さな指が、フェリスの手に絡みつく。
その温もりに、魔王は言葉も出せず、ただただ見つめていた。
「この子の名は……アリスだ」
「はい、アリス=アルドヴァリオス。お名前も、とても愛らしいです」
それは、“家族”としての始まりだった。
血を浴びていた手に、優しさを。
殺意の中にあった魂に、愛を。
ふたりの魔は、ひとりの娘によって――心の温かさを取り戻していった。
だが。
やがて気づく。
アリスの魔力量は、世界の理に触れるほどに膨大で。
彼女が無意識に発した魔力の余波だけで、周囲の自然現象が歪むことすらあった。
この世界は、優しすぎた。
この世界は、狭すぎた。
「……主様、この子はもう……地球には収まりきらないのでは?」
「どうやらそのようだな…じゃあ…帰ろうか、魔法のある…あの世界へ。」
そして、魔王と原初の悪魔、そしてその娘・アリスは――
再び、魔法の世界へと帰還した。
これは、その娘が世界に“脅威”と呼ばれるまでの物語。
だが彼女自身は、ずっと変わらずにこう思っている。
――これは、私の“普通”です、と。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
この作品は、私が「いつか書きたい」と温め続けてきた物語です。
魔王と悪魔の娘が、“普通”の感覚で世界を揺るがしていく――
そんなギャップと成長を、楽しんでもらえたら嬉しいです。
初めての投稿で不慣れな点もあると思いますが、
どうぞよろしくお願いいたします!
もし少しでも面白いと感じていただけたら、
お気に入り登録や感想などで応援いただけると励みになります!
次回の投稿は5月23日予定になります!よろしくお願いします!