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目が覚めると、漆黒の闇がどこまでも続く空間が広がっている。
そんな暗闇の中、遥か遠くにスポットライトに照らされたような、光が差す場所がある。
これでも数々のゲームやなろう系小説を楽しんできた自負はある。
ゲームであればチュートリアルに入る前の序盤であることは間違いない。
夢であれば、明日家族と話すネタになると思い、しょうがないので楽しむことにする。
光の差す場所までは体感で1キロくらい先。徒歩10分程度というところか。
暗闇ながらも段々目も慣れてきたので、歩きながら自分の状況を観察する。
服装は昨日ベットに入った時と同じ、Tシャツに短パン。
知り合いに家に帰ると裸族になる奴がいたが、今は裸族でなくてよかったとか思いながら歩いていると、ほどなくして光の差す場所に到着する。
光の差す場所は、春の木漏れ日のように暖かく何故かとても心地よい。
光の中心に入ると、周囲の暗闇が晴れ周囲が鮮明になり、どこからか語り掛ける声がする。
「まさかここに来れる人の子がいようとは」
目が周りの明るさに慣れると、そこには3人と1匹が自分を囲んでいる。
『これあれか、なんか断罪されるやつか?これまでの人生、そこまで悪いことはしてきていないと思うんだが』
なんて考えていると、正面にいるサンタクロースみたいな髭をした老人が、こちらを見下ろしながら語りかけてくる。それにしてもデケェ爺さんだな。3mくらいあるんじゃないか?
「お主は精神と時の狭間におる。お前はこれから選択をしなければならん……この場にいる我らは、それぞれがお主が転生する可能性のある種族を司る者たちじゃ」
『いや、精神と時の狭間って。著作権ギリギリどころか?アウトじゃね?あの有名な修行の部屋とほとんど変わらんぞ。』
とか心の中で突っ込みを入れていると、右手のこれまた3mくらいある絶世の美女から、
「あなたには3つの選択肢から1つを選んでもらいます」
とか、言ってくる。
これ、あれか。テキストか?まあチュートリアルだしな。いつものパターンでいうと、中央が創造神。右手には女神ってことか?
でも、女神っていつも思うけど、素晴らしいよね。その美貌と抜群のプロポーション。
だが、髪型がソバージュヘアなのは……、まぁ女性の髪型をとやかくいうのは止めておこう。俺の青春時代には流行ってたし。
「おい小僧。ちゃんと聞いているのか?」
左手からは怖い顔をしながらイケメンが凄んでくる。所謂醤油顔ってやつだ。切れ長の目に、引き締まった口元。まるで彫刻のような整った顔立ちだが、その表情は険しい。
白いローブを着ているのに、背中には黒い6枚の天使の羽が生えている。
『あれは堕天した元天使長様か何かか?』
とか思いながら目をパチクリしていると、背後の空間が大きく歪み、次いで耳を劈くような轟音が響き渡る。同時に、生温かく、しかし強烈な突風が吹き付け、俺のTシャツと短パンを大きくはためかせた。思わず身をかがめると、目の前に現れたのは……リアルドラゴン、初めて見たよ。頭だけでゾウの10倍くらいデカいドラゴン。
しゃべるたびに突風が吹くのは勘弁してもらいたい。
「お前は、勇者、魔王、ドラゴンのうちのどれかに転生するんだよ」
『おいおい、いきなり三択かよ。それぞれの役割とか、何にも説明なし!?』
正面に向き直し、余りにも情報が不足しているので、サンタ爺に問いかける。
「もう少し説明して頂けないでしょうか?」
あくまで丁寧に。
この分岐、間違えるとドエライことになるのは火を見るよりも明らか。
「それもそうじゃの。お前が今までいたのは地球という世界線。ただ、世界線は1つではなく、もちろん複数存在する。今回は地球と異なる世界線においての話じゃ」
「ここからは、私が説明しましょう」
右手の女神が語りだす。
「私が育てている世界線は、人族・魔族・竜族を中心とした世界。魔法とスキルを使いながらこれらの種族によりバランスが取られていました。ですが先の大戦により、人族の勇者と、魔族の王である魔王との戦により双方が共倒れとなり、新たな勇者と魔王の誕生が望まれる状況にあります」
「ドラゴンへの転生というのはどういう経緯から?」
「勇者との決戦の前に、魔王が統一を掲げ、竜王に攻め込んだの。結果として竜王が打倒されたことで人族の勇者が立ち上がる契機となったのよ。だから、三族の長の席全てが空席ってことね」
「選ばれなかった種族はどうなりますか?」
「今いる者達から最適者が選ばれるわ。能力はかなり落ちるけど」
「……」
「そうなると、結局私が選んだ種族が最も力を持つのだから、三族の均衡など難しいのでは?」
「だから、こうして事前に話しているのよ。バランスを取ってほしいと」