表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編まとめ

混ぜるな危険

作者: よもぎ

乙女ゲームに転生した。

一応ヒロインのはずなんだけど定かではない。


なんで?自分のことでしょ?って思うじゃん。

でもねー。

パソコン版の超廉価な、半分同人みたいなインディーズゲーム会社の、毎月二本は出る乙女ゲームシリーズの一作って言ったら分かるかな。

世界観も舞台も使いまわしで、ヒロインの出るスチルはない。

攻略対象のキラキラしたスチルだけはいくらかある。

でも廉価版だからそんなに枚数あるわけじゃない。

プレイ時間も周回しなければ2時間から3時間くらい。

そんなゲームたちだったのよ。


毎年、〇〇年セレクションとか言って詰め合わせがお得な値段で販売される程度には本数が出ていて。

それらの中のどれか。ってことしかわからない。

国の名前と学園の風景は一致するからね。

でもねえ。

そこの会社の乙女ゲームシリーズを全部やってるわけじゃないし。

そもそもヒロインの設定が作り込まれてないから、どの作品のヒロインか分からないし。



まずヒロインだって思った理由が、婚約者のまだいない私が何人か、キラキラしい令息と知り合いになったからってそれだけなのよ。

で、廉価版だから婚約者がいるとかそういうメンドクサイの一切なし。

順当にそいつらのいる場所にいって親密度を上げてイベントこなせば攻略完了ってわけ。

攻略対象も一本につき三人くらいでお手軽に。

お値段二千円もしないから声優は若手ばっか、けどフルボイスじゃなくて。

絵師はさすがにきちんとしてたけど、大手みたいにイベントごとにしっかりスチルが、なんてこともなく。ここぞというシーンにだけスチルがあって、普段は立ち絵と顔グラフィックだけ、っていうチープな感じのシリーズだったからさ。


だからさ。

誰が攻略対象なの?ってなっても仕方ないし、そもそも私ヒロイン?ってなってもしょうがないよね。

私が知ってる限り十三年はゲーム出してたんだよあの会社。

私が死んだ後もゲーム出してたら?

私が知る前に出してたゲーム本数は?

そもそも全部やったわけじゃないからやってない作品が舞台だったら?

って考えたらもうだめ。

同じ世界線らしいけどまるでわかんねえや。

ハハッ。




とか考えて鬱ってたら、同じような表情してる人を見かけてしまって。

複数人。

その人たちにだけ聞こえるように、ぼそっとゲーム会社のつけたシリーズ名口にしたらバッとこっち向いてアワアワしてて。

「あ、仲間じゃん」

ってなってね。

今じゃ全員友達。


カフェの個室を貸し切って今日も今日とて話をする。



「カーマイン様ってさぁ、攻略対象だった!って記憶ある人いる?」

「あ~。十七年度九月発売ので攻略対象だったかも」

「でも二十二年度一月の攻略対象のハルト様もいらっしゃるのよねぇ」

「時間軸全部一緒だった……ってコト?」

「そうじゃない?ケルリヤ殿下もいらっしゃるし」

「うげー。じゃあもう誰がちゃんとしたヒロインかなんて分かんないわよね」



私たちを悩ませるヒロイン問題の最大の壁。

ヒロインの名前、自分でつける形式でデフォルトがなかった。


ヒロインのスチルもなし。

ヒロインの名前もなし。

容姿を特定させるような描写も一切なし。

女性としか分からない。


そんな状態で「はい私ヒロインね!なるほどぉ!」って思いこめるのはよっぽど頭がハッピーでないと無理。

攻略対象たちって大抵女友達もそれなりにいるからさ。

私たちが勘違いしてヒロインムーブかましたとして、赤っ恥にならない可能性って低くて。

でも攻略しなきゃ…………いや待てよ……?



「ねぇ。そもそも私たち、攻略対象を攻略する義理なくない?」

「「「「え?」」」」

「だってさあ、強制力みたいなのもさして感じないじゃない?

 なのに私たちにノーヒントで攻略しろって世界、おかしいじゃない。

 反旗を翻していいと思うの。

 皆さんだって「攻略対象じゃないけどこの人素敵」って人いるんじゃないの?」

「い、います」

「いるわね」

「でしょ!?じゃあそっち狙いましょうよ。

 な~にが乙女ゲームじゃい。こちとらただの乙女ぞ」



ぱく、とプチケーキを口に運ぶ。

この一か月近く、皆で集まってはあれこれ考えてたけど、そもそもが間違ってたのかもしれない。

攻略対象山ほどいて、ヒロインと思しき存在も山ほどいる時点で原作なんて崩壊してるも同然。

そもそも原作が大挙して押し寄せてる時点で崩壊どころの騒ぎじゃない。

それをヒロイン(多分)が面倒見る必要性?ないない。



「どうせなら自分の恋叶えましょうよ。

 だってせっかく美少女に生まれたんだよ?

 家だってちょうどいい感じじゃない?みんな」

「確かに」

「公爵家は無理だけど侯爵家くらいまでならなんとか……」

「私も。好きな人も私も子爵家なの」

「ね?次からは建設的に自分の落としたい人の情報を共有しあいましょ。

 幸い行動範囲分散してるじゃない?

 だから自分が知らない情報を誰かが持ってるなんて、ね?」





そこから私たちは、攻略対象をほったらかして自分の恋に奔走した。

何せ私たちヒロイン(多分)である。

顔面偏差値は高い。

ついでに能力も高い。

この国では婚約は学園に入学した後じわじわするものなので、売約済みの男性って少ない。

そういうのもあっていっけー押せ押せを淑女的にやると、まあ落ちる落ちる。

半年後にはみんな、好ましいなあと思っていた男子生徒と婚約状態になっていた。

万が一にも攻略対象に「フッおもしれー女……」みたいに興味持たれないように、各々イベントになりそうなポイントは回避してる。


そうやって婚約関係を結んでイチャコラしまくってる間に時は過ぎて卒業間近になる頃になって、攻略対象たちも婚約を結んだりしていた。

王子は隣国の姫君を嫁にもらうことになったとか。そりゃそうか、お妃さまになる人がそこらの貴族令嬢じゃ無理だ。

乙女ゲームの時は一年かそこらで結ばれてたから多分その後めっちゃ教育受けさせられたんだろうなあ。

って考えたらトンデモ物件だな王子。



かくいう私もきっちり嫁ぎ先を確保済み。

ほんわか癒し系な雰囲気のある人で、ほっとけないタイプのひとだ。

メープルシロップが特産品の北方に領地を持つ伯爵家の跡継ぎなんだけど、そのせいかほんのりふくよか。

でもお太~い、って感じじゃなく、ちょっとだけふっくら、程度で、おなかもぽっこりしてるわけじゃない。

要するにまあ、平均とぽっちゃりの中間。健康的なふっくら。

そういうところが可愛くて好きなのよね。


それで世界がおかしくなるということもなく、平穏無事に卒業式間際っていう。

卒業後は各々準備が出来たら順次結婚式、となるわけで。

王子の結婚式はメチャクチャ時間が掛かるから二十歳超えた辺りになるんじゃないかな。

姫君が結婚早くした~い!って意気込んでも、ドレスや装飾品の準備だけでも二年くらいは普通に掛かるし。

その準備が確実に終わった頃を結婚式と考えて日付を決めて近隣国家から招待客を、とかしなきゃいけないから大変よね。

私たちみたいな普通の貴族はお互いの家と分家や親戚の代表者でいいからまだマシ。



そんな私たちの裏側で、ひっそり爆死していた自称ヒロインちゃんがいたなんて、知りもしなかったわけで。

卒業前の、在学中最後のお茶会でその存在を共有されてビックリした。

手あたり次第イベント全てに手を出して不審がられて、最終的に複数の家から「おたくのお嬢さんどうなってんだ?」って苦情が送られてしまって、途中退学の修道院入りを果たしたそう。


ウェブ小説でよく見る勘違い系ヒロインちゃんの道を曇りなき眼で爆走した感じね。


まあ多分だけど、シリーズのいくつかには手を出してたけど深く考えてなかった、的な人だったんでしょう。

あと多分だけど学生さんだったのかな。

常識的に考えてそうはならんやろ、を、なっとるやろがい、にしちゃってる未熟な部分がね。そう思わせるよね。

まあ、あのゲーム全年齢だったし。

年上の姉とかがやってたのを横から見てたとか、やらなくなったのをやらせてもらったとか、色々ありそうだし。



ま、結局ヒロインちゃんもケジメはつけてるし。生きてるし。問題ないでしょ。

大抵の人たちは「そうしてヒロインは幸せになりました」ってオチがついてるわけだしね。

その相手が推定攻略対象じゃないってだけで。



もしこの世界を作った時に、あのシリーズ群を参考にした神様かなにかが現状に「こんなことになるとは」って思ってたなら一言だけ言いたい。



混ぜるな危険!!




イメージとしてはS〇eamとかD〇SITEで売ってるひとやまいくらの廉価ゲー。

あるいはエ□ゲのSe〇lの100本1万円セット。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ