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菅原秋雨という男

秋雨side

玲帑のクラスの朝のホームルームが終わって、隣の教室など、その他の教室にも渡った。一仕事済ませた後、私は玲帑のクラスに戻ると、先程呼び出した四人がいないことに気がついた。とりあえず、近くにいた生徒に聞こう。

「…あー、天川(あまかわ)さん、呼び出した四人はどこに行ったか知ってる?」

「え?職員室じゃないんですか?先生呼び出してたし…」

失念していた。他のクラスもあるから、全部終わったら迎えに行く予定だったのに。私がこの教室を出てすぐに職員室に行ったのだとしたら…何分待たせてしまったんだ?

先週の土日、とりあえず犯罪の証拠が掴めている教師を片っ端からクビにして捕まえたから、結構大きく人員が減った。だから荷物とかの処分だって間に合ってないし、電話からの問い合わせが殺到していてとてもうるさい…

書類や荷物が積み上がっていたりで危険だから、近づいちゃいけない場所だってあるのに、大丈夫だろうか?

そんなことを悶々と考えながら歩いていると、職員室にたどり着いた。先週の二日で、学内構造は把握したつもりだ。職員室からは、コール音や怒声、謝罪が絶え間なく聞こえていた。

「ごめんな四人とも、待たせてしまって…」

「あんたのせいよ!」

入室と同時にパチン!という音が響いた。

どうやら平手打ちをされたらしい。…瀬世さんが。

「花山先生、落ち着いて!」

「瀬世!」

海藤くんが頬を弾かれて体勢を崩した瀬世さんを支える。

輝滝さんは職員室の扉が開いたのに反応し、こちらに振り返った。

「…どういう状況か説明できる?」

「…あ、あきちゃん…えっと、入ってきた途端に電話ガチャ切りした後怒鳴り付けられて…海藤と口論になって…海藤が平手打ち避けたら綾香に当たっちゃって…」

平手打ちをして他の先生たちに宥められているのは、花山朝霞(はなやまあさか)先生だ。確か一年三組担当だったはず。

「花山先生、少し落ち着きませんか?」

「…菅原先生!?」

こちらを視認するとみるみる顔が青くなっていった。

「…詳しい事情は後で聞きます。いいですね?」

「…はい…」

「別に私は気にしていません…」

「…お人好しだよな、瀬世は。」

「瀬世さん…もうちょっと怒ったりした方がいいと思う。」

「というか、恨むとか憎むっていう感覚が分からなくて…」

…喜怒哀楽の怒が鈍いのかな?一先ず、ぶたれた場所の確認をしよう。

「瀬世さん、ぶたれた所は平気?」

一応冷やすものだけなら保健室に行けばあるだろうし。

「はい!大丈夫です。」

幸い四人とも、明らかに危険な書類タワーには近づかなかったらしい。よしよしいいこだ。

「四人とも…後で職員室に来るように、と言ったのは私だし、誤解を招く言い方だったことは反省しているのだけれど…次からは私が迎えに行くまで、教室で待っていてくれよ?」

「え、なぜ?」

瀬世さんがそう言った。さっきの教室でもそうだったけど、意外とズバッと聞く子なんだよな…声静かなのに。

「…ですか?」

後から忘れていた丁寧語を付け足すと、私のツボに入るからやめてくれ…

「、…。」

「あ、おじ…秋雨先生笑ってる。」

「え、あれ笑ってるのか?」

「笑ってるの。」

「笑ってるのか…」

玲帑と海藤くん、仲良くなってるのかな?叔父さん感動。

「お…秋雨先生、演技してる時は表情喜怒哀楽激しいんだけど、演技しないと本当に感情露にするの苦手なんだ。精神のスペシャリストになる過程で、ポーカーフェイスが抜けなくなっちゃって…」

「れ…菅原くん、ちょっとストップそれは聞き捨てならない。」

私のどこがポーカーフェイスだと言うんだ。

こんなにも感情を露にしているというのに!

「で、あきちゃんはどうしてアタシ達を呼び出したわけ?」

「ああ、本題に入るか。その前に、空き教室に場所を移すぞ?」

そう言って私たちは、隣の空き教室に移った。ていうか最初から、空き教室に行くよう伝えればよかったかな…いや、空き教室なんて行ったら、前任のセクハラ教師を連想させただろう。結果オーライだ。

空き教室の中は木の板が禿げたり落書きがしてあるぼろぼろの机だったり、そんな机や転入生のために備蓄してある机があったり、椅子があったり、ごちゃごちゃとしていた。

「…これとこれと、これと…これでいっか。さあ座って!」

「あ、どうもありがとうございます。」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「…叔父上のは?」

私の分が無いこと気にしてくれたのかな?玲帑は優しいな~

「私はこの机。」

「叔父上、行儀が悪いです。」

「だって椅子小さいじゃないか。」

「…叔父上…2メートルマウントやめてください。」

「2.1メートルだ。」

「どうでもいいですよ!」

どうでもよくないだろう!10cmだぞ!

…まあ、そろそろ本題に入るか。

「それじゃあ本題…君らシャドウ持ちだろ?」

「いえ、違います。」

即否定してきたのは、瀬世さんだった。この子、さっきから他の子たちが口を滑らせないように、わざと先に発言しているんだよな…

「…海藤くんと輝滝さんは?」

「違います。」

「知りません。」

輝滝さんは違うって明言したけど…海藤くんは、知らない、か…まあ、普通は知らないよね。確かめる方法なんて無いし。だから普通は、瀬世さんと輝滝さんで決定なんだけど…

こっちにはもう情報伝達済みだからね。

「輝滝さんは、嘘つくの苦手?」

「失礼だねあきちゃん!?」

「いや…答えるときニヤついちゃってるし…」

「輝滝、確かにババ抜きいっつもビリだよな~」

「うるさい!海藤だって、綾香にはいっつも嘘バレる癖に!」

「あや…ッ……瀬世にだけだし!」

目の前で、なんか言い合いが始まった…

「海藤くんと輝滝さんだね、持ってるのは。」

明言すれば、二人はちょっとガンを飛ばしてきた。オー怖い。

「先週の金曜、本家がやらかした件っていうのは、君ら三人の誘拐未遂事件だ。三人誘拐しようと思っていたが、内二人はシャドウ持ちで、返り討ちにあった。というのが報告で入っている。ただし、詳しい容姿までは言葉だけだと伝わらなかったからね。ちょっと試させてもらったよ。」

「…俺は一人だけ男だから、最初から報告で分かっていたってことか。」

「勘が鋭いね。その通りだよ。」

男子一人、女子二人の三人グループの内、男子一人と女子一人がシャドウを持っていた、という報告が来たんだ。ただし女子っていうのが、どっちなのか分からなかった。

「…叔父上?それ俺のところには連絡来ていないのですが…」

やっべ…玲帑の地雷に触れる前に言わなきゃ。

「連絡なんて来てないよ。報告は本家へのみ♪」

私のところに報告は来たが、あっちには私に報告したなんて思ってないんだろうね。

「叔父上…いつ仕掛けたんです?」

「え?何を?」

瀬世さんがそう聞くが、これはあまり教えるべきでは無いだろう。

玲帑が口パクで、正解を答える。

〔と〕〔う〕〔ちょ〕〔う〕〔き〕盗聴器

「ヒミツだ。さて、それじゃあ一つ目の問題が解決したところで…君ら二人には、ちょっとした提案があるんだ。」

ぶっちゃけこっちが本題だったりするんだが…これは、受験期に言いたくないんだよね…

「海藤くん、輝滝さん、推薦で私のオススメの高校に入らない?怪異を退治する退治師を育てる学校なんだけど…」

「「は?」」

まあ、そういう反応になるよね…私だって早く言えるのなら言いたい問題なんだよコレ…

受験期になって必死こいて選んだ学校捨ててこっち来いとか、ふざけてるだろうしマジサーセン。

「寮生活あり?」

あれ?輝滝さんが意外とノリ気…

「ありだよ。」

「叔父上、それはいくらなんでも急すぎでは…」

「菅原くん、君もここでのタスクを完了したら、即刻あっちの学校に戻ってもらうよ。友達は多い方がいいと思うけど?」

「…それはそうですが、知り合いがいつ死ぬか分からない環境に置かれるのは…」

おい、それを言うな。どっちにしろ二人は学校どうであれ死の淵彷徨ってんだから。

「え!?死ぬの!?」

海藤くんでも輝滝さんでもなく、瀬世さんが驚いてる…当の本人二人は、めっちゃ落ち着いてるな…というか、異能系統に興味のあるお年頃か。

「俺は別になんでもいいけど…高校選びも適当だったし…」

「私もだなー…寮があるんなら何でもいい。」

「「それに怪異退治するとか、普通の高校よりも面白そう!」」

「二人とも、そんな適当な…」

「別に、俺らの命は俺らのもんだし、どう扱おうが勝手だろ?」

「…」

…めーっちゃ瀬世さん泣きそう。

まあ、友人の瀬世さんにとっては、不意打ちくらった感じだし、どうしようもないよな…

一人だけ置いてけぼりは辛いだろうが、一般人が入れる場所じゃないし…

「せんせぇ…」

完全に泣き声混じりの声…若干もう泣いてるな…ごめんね…入れてあげられないのよせんせぇ。

「学校のなまえと場所おしえて…オープンスクールのとき遊びにいくから…」

「ほらほら綾香、泣かないで~。」

「う~…」

やめてー。場所秘密なんだよ、トップシークレットなの。

「叔父上…」

やめて、私も反省しているよ、何も目の前で話すことじゃなかったなって。

三人グループで自分だけハブられんのは辛いの分かってたけど、高校選びにも通用するなんて思わなかったんだもん。

高校は三人とも同じ高校に行く予定だったらしいけど、そもそも高校選びって友達が行くから~で決めるようなもんじゃないし!

「ごめんな…高校には特殊な方法でしかいけなくて…」

「…?」

泣いたまま首をかしげられました。海藤選手、赤面して撃沈ー!好きなの?瀬世さんのこと。

「あれ?じゃあ結構生徒数少ないの?」

鋭い指摘だね輝滝さん。でも、それは違うよ。

「いや、本家の生まれの子達は殆どが霊力や神通力持ちだし、今私がやってるみたいに、現役の人たちが偶々発見して学校に推薦出して入学させるからそれなりに人も居る。それに妖怪にとってあそこは、高校からの義務教育的な場所だから、高校生と大学生は結構多いよ。」

「妖怪いるの!?怪異祓う高校で!?」

あれ?何かズレてる…高校だけじゃないし、妖怪と怪異は違うんだけどな…

「高校…というか、小中高大一貫の学校だよ。それと、妖怪と怪異は別々の存在だから、間違わないようにしてね。」

「え?…じゃあ、くねくねとかって…」

「それは怪異だね。」

「猫又」

「妖怪だね」

「口避け女」

「怪異だね」

「酒呑童子」

「妖怪…っていつまで続けるつもり?」

「規則性を掴めるまで…」

規則性が知りたいなら、そう聞いてくれればいいのに…

「妖怪は、霊力とは別のエネルギー、妖力を持つ。我々と同じで生きている。生命力も強いが死ぬ時は死ぬ。一方怪異は、霊力を持つ場合もあれば、妖力を持つ場合もあるし、どちらも持っている場合もあれば、どちらも持たない場合もある。妖怪に神通力は殆ど効かないし妖怪が神通力を持つ場合もあるけれど、怪異に神通力は特効薬と言っても過言じゃないんだよね。」

他にも天使とか悪魔とか魔人とか幽霊とか宇宙人とか…ペットとして魔獣連れているやつもいたな…

「…おじうえ」

…ヤベー。

話題を切り上げなきゃ…

「それじゃあ菅原くんだけ残って、君ら三人は教室に戻ってていいよ!できるだけシャドウ持ちとか霊力持ちとかに学校のこと話しといてくれれば嬉しいな。学校来ないとシャドウ持ちは監視対象として本家とかのお偉いさんのお家に拐われて監禁生活待った無しだから!」

「「「……………えぇぇぇぇー!?!??!!」」」

何か大絶叫されたけど…言ってなかったっけ?

「叔父上…そういう大切なことは、始めに言っといて下さい!」

「ごめんピ。」

「ブッフォ!」

そして瀬世さんがツボりながら、三人は退室した。

さて…

「ごめんね玲帑、嫌なこと思い出させて…。」

「……………ぃぇ」

声ちっさ!!まあ、仕方がないんだけどさ…

「大丈夫だよ。祓い屋界隈の掟にだってあるでしょ?死ななきゃ勝ちなんだよ。」

玲帑は結構、あのこと気にしてるからな…

「叔父上は!…持ってるじゃないですか、神通力。」

「…滅多に使わないけどね。」

「…俺がもってたら、追い出されなかったんでしょうか…俺がいなければ、兄上だって、今頃本家でのんびり幸せに…」

あー…結構ネガってんね。

まあ、そのための私か。

「れーいーど!君の兄上の考えは知らんが、私から見ればアイツは結構重度のブラコンだから、お前が生まれなければ良かったなんて思っていやしないさ。」

「ですが、それは俺が元から生まれなければ良かった話です。神通力があっても得られた幸せです。」

「お前が生まれなければ、逸辞は笑顔が少なかったんじゃない?神通力があったんじゃあ、権力争いの的だ。少なくとも、神通力持ちだったらもうちょい逸辞ともギスギスしてたんじゃない?」

「…あっちの学校では、腫れ物扱いだし落ちこぼれ扱いです。」

「当主になれない弟同士、仲良くしよ?」

「…叔父上も兄上も…やさしすぎるのです…」

「そっ…、か、そっか!」

ヤバい。不意打ちでデレをくらった。

玲帑はツンツンヤミヤミデレみたいな感じだからな…

「それでは、失礼しました。教師の仕事、頑張ってください。」

「あれ、もういいの?」

「あとは家でいくらでもできます。それでは。」

…やっぱり、かわいい甥っ子だ…

何としてでも、シャドウに乗っ取られない内に、殺されない内に、対処法を見つけてみせる!

そのためにも…

「一先ず、花山先生の話も聞いてあげますかね~。」

職員室に戻ろー!

「花山先生、落ち着きましたか?」

「すみません菅原先生、また後で…」

花山先生は業務に戻って、クレーム対応をしていた。

「…瀬世さんには、謝りましたか?」

「…あー…その節はどうも……………はい、ごもっともです…」

…君はデスクワークとかクレーム対応以前に、やらなければいけないことがあるよね?人間として問題あるの?

…あるんだろうな!

「…花山先生、お電話かわりますので、あなたはまず瀬世さんに謝罪をしてきてください。」

「………お電話かわります」

そう言って彼女は、受話器を私に渡して、職員室を出ていった。

「…お電話かわりました、菅原と申します。」


朝霞side

なんなのよあの新任!生意気生意気クソ生意気!!

生徒も生徒よ!用が無いなら入ってくるなって言っただけなのに、何で私が悪者みたく扱われてるわけ!?

納得できない!

…そうだ、あの男って確か、最近転入してきた子の叔父だったわよね?

…丁度いい、アイツの甥っ子から、あの生意気な新任の弱点ゲットしてやるんだから!

「はーい、菅原先生の代わりに、私が担当するわよ~。」

「あれ?あの先生って一年担当じゃ…」

「まあ、一時間目始まりそうだけど菅原先生来ないし、いいんじゃね?」

「ていうかあの先生の名前分かんないんだけど…」

「「「「…」」」」

他の生徒は納得しているけど、さっきの四人だけめっちゃ見てくるわね…嫌な目ですこと。

…いや、なんかよりにもよってビンタした子だけ好奇心旺盛って感じしか読み取れないんだけど!?それどういう心境!?

「ほら、菅原先生新任だし、忙しいから…任されたのよ。」

まあ、アイツが来る前に逃げて、さっさと職員室に戻ることにしましょう。

「と言っても、皆受験期だし、今日は自習よ!私立の子達は、明後日受験でしょ?」

「うわサイッコー」

「ヒューヒュー!」

この位の時期なんて、自習とか言っとけば大抵どうにでもなるのよ。さて、皆が受験勉強している間に、私は甥っ子くんに話を聞くことにしますかね~。

「菅原くん、菅原くんって確かさ、もう進学先行けること決定してるよね?」

「え、ああ…はい。」

「ごめんね~次の授業で使いたい荷物、結構重いのよ。手伝ってくれない?」

「分かりました」

素直ね~。まあ、一人だけ受験無いんだし、浮かれムーブになるのも無理ないか。

「因みに、荷物ってどれくらいあります?」

「あー…ダンボール四つくらい?」

本当は、運ぶ荷物なんて無いんだけどね。準備室に行ってから、見つからないフリして「あ、やっぱもう持っていってたかも~」なんて言えば、多少不自然でも言い訳にはなるわよね。

「でしたら…海藤くん、手伝ってくれない?」

………何で!?何でその子に助けを求める!?その子内定もらってたっけ??

「…あー…まあ、いいよ。」

OKしちゃったし!

「助かる。」

…人が増えちゃったな…まあいいや。コイツもついさっき菅原先生と話していたしね。ちょっとは菅原先生の情報が聞き出せるかも!

「ところで二人とも、さっき菅原先生と何のお話してたの?」

「…瀬世に謝ったんですか?花山先生。」

「ちょっと?私が先に質問したんだけど?」

「謝ってくださいよ、瀬世に。」

海藤くんって子の方は、話が通じなさそうだな。

甥っ子くんの方はどうだろう?

「…菅原くんは?何話したの。」

「え…学校に馴染めているか、みたいな感じです。」

「転入したばっかりだもんね~。一緒にいた三人とは仲いいの?」

「…どうでしょう?」

「…確信を持って仲がいいって、言えるようになればいいわね!」

「……はい」

仲良くないのかしら?じゃあ何であの三人も一緒に話していたのかしら。それもわざわざ、職員室から出てまでして…

「…ところで菅原くんって、菅原先生の甥っ子だよね?あの人クレームの電話全然取ってくれないの。何か先生に効く方法知らない?」

ていうか、二人とも足速いな!?二階の教室から隣の棟に移って、更に四階まで上がらないといけないから結構時間取れると思ってたんだけど…時間稼ぎの為に私がゆっくり歩いているのに、二人ともお構いなしに進むじゃない!!

ある程度会話できたら、そろそろ本題に切り出さないと!準備室に着いちゃう。

「わざわざ受験期に菅原引っ張り出して何のようだと思ったら…菅原先生の弱点探りかよ。」

「嫌だなぁ人聞きが悪い。くすぐってみたり揺すってみたりご褒美にスイーツとか肩もみとかすれば、言うこと聞いてくれるのかなって思っただけよ。」

「パワハラ?」

「セクハラでは??」

今時何でもパワハラセクハラモラハラってうるっさいわねー!

「ものの例えよ。それで動いてくれるんだったらやぶさかではないけどね。今は猫の手でも借りたいの。」

本当にコール音鳴り止まなくて辛いんだから!それもこれも、あの新任が、いきなり土曜日職員室に乗り込んで、教師の机をひっくり返したせいよ!!

「…まあ、確かに叔父上はいい加減なところがありますよね。」

「そうなのよ~!分かってくれる?」

「…ですが、大丈夫だと思います。叔父上は確かに面倒臭いことには結構直前までごねますが、結局はちゃんとやってくれますので。」

「…ほんとかな~?」

「本当です。叔父上はあれでも、子供好きですから!クレーム対応を怠ることで生徒に危害が加えられる可能性を考慮すれば、渋りつつもクレーム対応くらいはしてくれます。」

…ふーん…

イイコト聞いちゃった。

「そっか、ありがとね。」

子供好き、ねえ?

じゃあその子供を、どこまで優先させられるのか…見物だわ…!

「…あ、準備室着いたわ。菅原くんも、三年生だけど、一応覚えておいてね。」

「はい。」

「…あれ?」

「どうかされましたか?」

「ごめんね…もう運んじゃってたみたい。」

兎に角、もう用は無いからそろそろこの茶番も終わりにしましょう。

「お詫びといってはなんだけど…飴ちゃんあげるわね。」

少しぼんやりとして、頭がふわふわして、依存性も高いのよ♪

「あ、いや俺は…」

「?…菅原が断るのは意外だな。まあ、俺も甘いもん好きじゃないんで!」

…可愛げの無いガキ共ね。

「そっか、それじゃあ仕方がないわね。」

「折角の気遣いを、どうもすみません…代わりと言ってはなんですが、クレーム対応の件は俺から秋雨先生に言いますね、今。」

…今?

「ところで秋雨先生は…」

そう言って菅原くんは、私の少し後ろに視線を向けた。

待って、菅原くんは今、どこに向かって話しているの?

「クレーム対応をしない…と言うのは、本当のことですか?」

まさか…

「まさか。私はちゃんとクレーム対応をしたよ。菅原くんと学校に来て、職員室に着いてから、今に至るまでサボっていたつもりはないよ。休んでいたのは、君らと一緒に居た時くらいだね。」

心臓が止まったかと思いましたわ。顔から血の気が引いていくのが分かる。上手く頭を働かせて…何とか上手い言い訳を…

「ところで花山先生、あなたはいったい、ここで何をしていらっしゃるのですか?」

「あ…えっと、一年生たちの教材を運ぶのに、協力していただけないかと思いまして…菅原くんに助力していただこうと思っていたんです…」

「ちゃんと瀬世さんに、謝りましたか?」

まずいまずいどうしよう…

菅原くんと海藤くんの目の前で堂々と嘘なんかついたところですぐにバレる!

「…………」

永い沈黙に、菅原先生の笑顔が段々と恐ろしいものに感じて仕方がない。

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!

「謝っていないんですね?」

「あ、えっと……その…………………」

「沈黙はどうちゃら…とは言いませんよ、私は。きちんと、あなたの口から聞くまでね。」

沈黙は肯定なんだよ察しろよ!!この鬼!悪魔!

「…はい…」

「…それ、どっちです?謝ったか謝っていないのか、どちらの質問に答えたのかさっぱり分かりません。もっとはっきりとした言い回しにして下さい。謝ったか、謝っていないのか、どっちなんです?」

ヤバい、直接言ってしまえば、今録音されていた場合、コイツに弱味を握らせてしまうことになる!

何でこうなるのよ、私はこの生意気な新任の弱味を握ろうと生徒二人を連れ出したのに、こんなところで裏目に出てしまうなんて…!

「…いません…」

「意味が分かりません。」

直接的な表現は避けた!後はどうにかしてこの男から逃げるだけ。

「分かっていらっしゃるのでしょう?」

「…そうですか、それでは次の問題に移りましょう。」

階段に向かおうとすると、新任に退路を塞がれた。…こいつ図体も態度もデカイわね。

「菅原くん、海藤くん、お疲れ様。先に教室に戻ってていいよ。」

「…花山先生周りを加害者に仕立て上げるの上手いから、気をつけろよ秋雨先生。」

ちょっと、どういう意味よ。確かに気に入らない先生や生徒を教頭にチクったり同僚に愚痴ったり自分の化粧品が無かったからアイツらが隠したんだって同僚に愚痴ったりはしたけどさ~。

「そりゃ、ご忠告どうも。でも大丈夫だよ。安心して。理由は、菅原くんに教えてもらうといいよ。」

大丈夫な理由…ね。

ここには防犯カメラなんて無い、だとするとやはり、録音機を使っているのね。

下手なことを口走らないようにしなくては…

「私はあなたに用件はありません。どいてください。」

「私は用があるんです。あなた先ほど…飴を持っていられましたよね?」

見られていたの!?いったいいつから背後にいたのよこの男!

「その飴…ちょっとよく見せていただけます?」

こうなったら…

「ええ、構わないわよ。」

「ありがとうございます。では…」

そして、新任が飴を掴んだその瞬間に…!

「きゃー!?」

廊下に響く程の声で叫ぶ!

「!?えっと…花山先生?何して…」

「怖いわ!誰か助けてーーー!!!」

「え?ええ……??」

新任が困惑していると、準備室に他の誰かが入ってきた。

「花山先生、どうかされましたか?」

準備室に駆け込んで来てくれたのは、ここの隣のクラス、一年一組担当の前田渡士(まえだわたし)先生だった。

男の先生ね…ラッキー!

「ぐすっ……この人に…乱暴されそうになって…ッ」

「…!?」

ふふ、驚いてる驚いてる♪

「え、菅原先生じゃないですか!?」

「ヤられたくなかったら、薬を飲めって…言われました…!」

「…菅原先生、ちょっとお話を伺えますか?」

そう言って、前田先生は菅原先生の飴を持っている腕を掴んだ。

「…あーあ……こんな時に限って…!」

男って本当に簡単ね。

すぐにコロッと騙されちゃうんだから!


Noside

「本当に大丈夫なのかよ、秋雨先生。お前の叔父さんなんだろ?」

「大丈夫だよ。叔父上あれでも俺ら相手にしてる時は、結構加減してたから。」

二人は二階と三階の階段の踊り場で留まって話していた。

「加減してた?何で?」

踊り場で蓮間はジャンプし…

「…叔父上は天才というか何というか…色々規格外なんだ。」

そのすぐ側で玲帑はかがんだ。

「ヒイロよりも?」

「ヒイロ?」

二人は話していた。

「あー…そっか、お前引っ越してきたばっかだもんな。地元の同年代の間じゃ有名なんだけどな…めっちゃ強い。んでもって頼もしい。」

「へー…」

二人は喋る。

「俺らのヒーローだ!…あの後周り探したかったんだけど、俺はすぐに病院連れてかれちゃったから、探せなかったんだよな…。」

二人は喋る。

「え、いや…何してたの?病院送りってよっぽどじゃ…」

「あー…つっても、あんまし覚えてねーんだよ。もう十年経つんじゃないか?」

蓮間は過去に想いを馳せ

「あ、結構昔なのか。じゃあよっぽどのことじゃない限り覚えてないよな……………いや病院送りはよっぽどのことだよな?」

玲帑は一般人にとっての病院送りがどのくらいヤバいのかという感覚を思い出す。

「結構間があったな。退治師の仕事も物騒そうだな。」

物騒そうって、なんか語呂悪い気がするの作者だけ?

「そうそう。」

「…」

☆冷たい沈黙が流れた☆

「……………命懸けなんだし、当たり前じゃん。」

☆玲帑は沈黙に耐えきれなくなった☆

「…今、あんまし命の危機感じないの俺だけ?」

その姿を、鏡が一部始終捉えていた。普段縦150cm横60cmのそれは、普段から壁にかかっている一枚の鏡である。

そう…普段ならば。

しかし今は違った。

鏡は明らかに肥大化し、踊り場も終わりが見えないほど広大で、下りる階段どころか、下りてきた階段すら見当たらない。肥大化した鏡は先程から大量の鏡の住人を送り出し、現実世界に住まう二人を取り込もうとする。鏡の住人は取り込んだ相手を養分に、現実世界に顕現し、成り代わろうとする。それを知らない蓮間も、知っている玲帑も、今は呑気に喋っている。

影は二人を守るように鏡の住人たちを足止めしていた。しかし鏡の住人たちは次々と鏡から這い出し、踊り場から離れられる気配もない。一般人ならば、泣いてわめいてもおかしくはない状況である。

それなのに二人とも全く危機感を抱かないのは、己の影に信頼を寄せているが故である。

「…普通〈踊り場の鏡〉なんて怪異、条件踏まない限り出てこないし、条件付きで出てくる分、凄く厄介な性質を持っていたりするんだけどな…」

そう、二人を先程からこの場に引きとどめて放さないのは、〈踊り場の鏡〉という学校七不思議のうちの一つであった。

普段は普通の鏡だが、ある一定の条件を踏むと、〈踊り場の鏡〉から鏡の住人が出てきて、午前二時までは仲良く踊り場で遊んでくれる。

午前一時から二時の間に、鏡の前で校歌を歌うのだ。ただし歌詞は、鏡が配置されているそれぞれの学校の校歌を歌うこと。そして、一番の歌詞は最後に歌うことが条件である。

例えば一番から四番の歌詞があった時、二から四のいずれから歌い始めてもいいが、一番は必ず最後に歌わなければいけないのだ。

一番を最初に歌い始めれば、怪異〈踊り場の鏡〉はただの鏡のまま。住人を呼び出すのは失敗に終わる。

そして、絶対にやってはいけない行為がある。

校歌の一番目を、最初でも最後でもなく、真ん中で歌ってしまうこと。

そして…

午前二時までに、鏡の住人を鏡に帰さないこと。

やれば鏡の世界に引きずり込まれてしまうから。

鏡の住人を鏡に帰すには、遊んでくれた感謝と、校歌を正しく歌う必要があるため、住人と遊ぶ時は計画的に遊ぶ必要がある。

「まあ、現に祓えてはいないしな。」

〈踊り場の鏡〉は、基本的に祓えない。

怪異にはルールが存在する。

元から独自の対処法が存在する怪異は、基本的にそれ以外の方法を受け付けない。今回の場合は、住人を鏡に帰す方法が元から存在するため、それ以外の方法は基本的に効かないのだ。当然だが、住人を消す、鏡を怪異に変化させないようにするなど、住人を鏡に帰す以上のこととなると、至難の技である。その至難の技を易々とやってのけるのが神通力という稀有な力であるため、本当に神通力は退治師にとって重宝される存在なのだ。

稀に怪異のルールフルシカトして霊力ゴリ押しで祓える例外も存在するが、怪異が弱いのではなく、退治師の方が規格外の場合だった。

「俺が祓えるのは、名無しの怪異がせいぜいだ。ネームドの…それも、学校七不思議に載るような怪異なんて、出力可能総合顕現率が高過ぎて、根本から絶ちきれない。」

☆ネームド…名前のある怪異。先週の配膳室に出たのは名もなき生まれたての比較的弱い怪異。祓えなかったのは、玲帑の苦手分野だったから。今回の場合は〈踊り場の鏡〉という名前がついている。これによって知名度が上がると、怪異を呼ぼうとする人たちも出てくるため、祓いづらくなるよ☆

☆出力可能総合顕現率…退治師の言う顕現率とは、怪異がどの程度現実世界に干渉できるか、どのくらい影かたちがしっかりしているかを指す。〈踊り場の鏡〉は住人に顕現率を分け与えることができる。顕現率は他に分け与えると自分の分が減って、下手すると消えちゃうので怪異にとって無くてはならないものだよ☆

「しゅつ…なんとかはおいといて…根本から?表層だけなら祓えるのか?」

「表層だけってことは、祓っても秒で復活できるってことだ。保持している霊力量にもよるけどな。」

因みに今影たちがやっている方法がそれ。住人たちを倒すことで、少しずつ顕現率を削ぎ落としていく作戦であった。しかし人がそれをやろうとすると、怪異の顕現率よりも先に人の体力が尽きてしまうので、人ならざる影ならではの方法だった。

「早く秋雨先生が来てくれることを願うしか無いか~…」

すると不意に、鏡の住人たちは何かを叩きつけられたように、霧散した。影は動きを止め、蓮間と玲帑の影に潜った。いつの間にか、鏡は正常に戻っていた。

「やっほ~」

因みに秋雨は、神通力を使っていない。

使えば、下手するとシャドウまで祓ってしまいかねなかったから。

「叔父上!」

「秋雨先生!」

だから霊力を叩きつけた。

彼は神通力を持ちながら、神通力を使わず怪異のルールをぶち破る、規格外であった。

「ほらほら二人とも、もう居なくなったから、早く教室に戻ろうね。」

うん…なんか…後半めっちゃ説明口調になっちゃった…

楽しんでいただけたならば幸いです。

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