新しい教師
月曜日 七曜一の 憂鬱日
下手な五七五…でも誰もがそうじゃね?あ、違う?そう…
僕はめっちゃ憂鬱だ!一週間の中でいっっちばん嫌!
友人に会えないから平日の方がいい?
勉強好きだから平日も休日も変わんない?
家でも学校でも勉強漬けだからなんだったら寧ろ学校の方が休憩時間長いから学校の方がいい?
親が怖いから学校の方が安全?
…あ、待って、三つ目のはちょっと共感できる…
というか最後ォ!?闇深そうだなお前…
『アキラ、前から人が…』
そんなことを登校中にごちゃごちゃと頭で考えている今日この頃。
「「わっ!?」」
人とぶつかりました。何かデジャブ…
因みにかげくんは、人が来ることを察知して隠れてくれたらしい。見つからなくてよかった。
「…って、夜樺くん?」
「あれ?菅原くんじゃん。」
前回ぶつかった時と違ったのは、ぶつかった相手が知り合いだったということ、転ばなかったということ…
「あ~…玲帑、知り合いか?」
そして、知らないおっさんがいたということだ。
うおー…背ぇ高ぇ。
「…叔父上、こちらクラスメイトの…」
菅原くんから、口パクで何かを伝えられる。恐らく、自己紹介しろ、的な事を伝えたかったのだろう。
「あ…夜樺明、です…」
「お~、御丁寧にどうもな~。オレは菅原秋雨…玲帑の叔父だ。」
「…それでは叔父上、赴任先で準備もありますし…」
「あ~、そうだな。急ぐか。」
そして、菅原二人は先に行ってしまった。
二人が完全に見えなくなった辺りで、影からひょっこりとかげくんが現れた。
『…菅原くんって、親同伴で登校しているのかな?車でも無いのに…。』
「まあ、そういうところも珍しくないよ?子どもがいつ災害に巻き込まれるか分かんない、不安だ~って。」
特に、転校してすぐ、そんでもって、影が昔に入ったことがある人物ともなれば、その過去の一部はお察しできる。同時に、保護者の不安も。
…いや、菅原くんって、落ちこぼれとか呼ばれてなかったっけ?…親以外が心配した?それとも…
『アキラ、ぼーっとしながら歩くのも危険だけど、立ち止まるのは遅刻という危険が迫るよ?』
あ、やっべ。
「サンキュ」
『いえいえー』
微妙な疑問が頭に残ったが、学校についてから菅原くんに聞けばいいか、と思い、そのまま学校へ行くことにした。
この後僕は、行かなきゃよかった、と後悔することになる。
学校の教室へ行けば、こちらから探すまでもなく、菅原くんがこちらへタッタという足音と共に、こちらへ駆け寄り、
「後で紙見つかんないようにしろ」
と言って、四つ折りの…いや、四つ折りをさらに四つ折りにした紙を僕の手に握らせた。
「叔父上には…極力近付かないでくれ、本当にごめん。」
そう言って、彼は席に戻っていった。教室の注目を浴びていた気がしないでもないが、僕は自意識過剰なやつではない、というかなりたくないので、気のせいだ、と自分を納得させることにした。
そして、自分の机に戻って一応クラスメイトにも見られないよう、引き出し部分に当たる所で、紙を広げた。
(叔父上は精神のスペシャリスト
こっちの界隈を避けたいんなら
まず叔父上には近づくな。
叔父上は精神を巧みに誘導するから、
助っ人が君だとバレるかもしれない。
子ども好きだが、油断ならない方だ。
気をつけてくれ。)
手紙とも、報告書とも取れない内容に、なんだこれ。と思い、最後まで読み進めた所で、チャイムが鳴った。
入ってきたのは、先程菅原くんから紹介された菅原秋雨さん…
「急だが、今日からこの学校を担当することになった、菅原秋雨だ。菅原先生とか、秋雨先生とか…あっ、あきちゃんはヤメロよ~?」
菅原先生だった。
…え、この人今、学校を担当するって言ったか?
「他に質問はあるかー?」
「はいは~い!」
そう言って、手を上げたのは輝滝さんだった。
「あきちゃんは、どうしてここの教師になったの?」
「あきちゃんはヤメロな~…まあ、子ども好きで、暇してて、独身だからだな。」
「独身関係者あるの?w」
「じゃああきちゃん先生は、何でこのタイミングでここの教師に?」
早速あきちゃん呼びが定着しつつあったが、菅原先生自身、そんなに嫌がっているようには見えなかった。むしろ…
そう呼んで欲しかったとでもいうような…
そう呼んで欲しくて、あの自己紹介の仕方をしたのだとしたら?
…とんでもない策士…いや、精神に詳しい人か。
「他に質問は~?何でもいいぞ、例えばそう…
君らもご存知、シャドウのこと、とかな。」
その瞬間、教室が静まり返った。素直に聞いていいものなのか?聞いた対価を支払えと言われたら?まだ
「…菅原先生、シャドウって?」
瀬世さんが言った。ナイスだ。彼女は影が動くどころか、霊さえ見えないから、知ったところでそっちの界隈に入ることを強いられることはない。
ぶっちゃけ、言ってしまえば霊が見えないやつらに聞いてもらった方が、リスクは少ない。
「あれ?じゃあ皆何て呼んでるんだ?」
「何を?」
間髪を容れずに、瀬世さんが質問を重ねる。もしもここでカゲと呼んでいる、などと答えるのは、このクラス内にカゲに関わるものがいることを自白するに等しい。
そうすれば必ず、僕にたどり着くことになる。全員が見てしまったのだから。僕が影で、笹堅先生を拘束した場面を。
そうならないように瀬世さんは、他の人たちよりも先に、質問を重ねてくれている。
「お前ら、シャドウを知らないのか?」
「…あきちゃん、脈絡が無さすぎ。もうちょい最初から説明して!」
輝滝さんからの追い討ちで、菅原先生は話すことになった。
「…シャドウって言うのは…まず、取り憑いてる人間の影が、本人の動きに関係なく、動くんだよ。そんでもって仕舞いにゃ、人の体を乗っとる。」
「は!?」
「祓えるもんなら祓ってやりてえんだが…もう一度聞く。本当に、シャドウを知らないのか?」
まずいな…皆の雰囲気から、緊張に焦り、恐怖が混じり始める。死ぬかもしれないのだ、自分が。死ぬかもしれないのだ、自分の友が。焦ったりしてしまうのは必然だった。しかし本当にこの教師、精神に詳しいな。話術にも、欠陥だらけに見えて、実のところ、こちらを探るための罠だ。
「あ、あの、せんせ…」
「ん?」
我慢できなくなったというように、一人の女子生徒が手を上げた。
「わた、し…見たんです。動く影…シャドウではなく、かげくんって呼んでました…。」
あーあ…言っちゃった。誰だったっけあの子。昨日カゲあるか聞いた時に手を上げていたような…崇徳さんだっけ?
「ふーん…誰かな?」
「えっと、その…」
視界はチラチラとこちらを伺っている。名前を言っていいのか、迷っているのだろうか?だが、もう手遅れだろう。
「叔父上、俺です。」
そう思っていたが、予想外の事が起きた。菅原くんが名乗りをあげたのだ。
教室の全員が、菅原先生か菅原くんを見ていた。
「昨日の件で、少しトラブルがありましたので…やむを得ず、シャドウを呼び出しました。」
「ああ、そういえば昨日聞いたな。ヘブンメンバーに遭遇して、捕まえたんだったね。」
「ええ。」
少しのやり取りの後、菅原先生は菅原くんに近づきながらこう言った。
「…ところで菅原くん、今は学校だ。君も、叔父上ではなく菅原先生か秋雨先生と呼んでね。」
「…はい。失礼しました、秋雨先生。」
きっと凄い圧力を感じたのだろう。菅原くんも周りも…主に霊が見える組も、凄く顔色が悪かった。
おいおい、どこが子ども好きだって?子どもを脅すのが好き、の間違いだろう。
今のところ子ども好き要素あきちゃん呼びくらいだぞ。
「君、かげくんなんて名前つけたの?」
そしてさっきの脅しは、菅原くんからボロを引き摺り出して、あの女子生徒が言っていた生徒の正体を探るためだろう。
「…そう呼んでいたらしいですね。」
「…らしい?」
「無意識でした。」
「ああそう。ダメだよ~、固有の名前なんてつけちゃ。愛着がわくじゃないか。」
そして、菅原くんに詰めより、小声でこう言った。
「…いずれは、祓わなきゃいけなくなるんだからさ。」
「その言い方的に、まだ祓い方が分からないんですね。」
小声で菅原先生が言ったことを、菅原くんがクラス内に響き渡る声で簡潔にまとめる。
…誰がカゲを持つのか知りたいがために、祓う方法が無いことは伏せておきたかった菅原先生と、僕の名前が出ることを防ぐために、菅原先生の邪魔をする菅原くん。
菅原先生は、あたかも方法があるかのように生徒に振る舞う辺り、性格悪そうだな。
菅原くんは…
「安心しました!」
「?…菅原くん?…!?」
狂喜と安堵に満ちた、恍惚とした顔をしていた。
…何かあいつの琴線に触れたのかな?
「ッぁ…」
「あんまりにも俺が落ちこぼれだから、また俺にだけ情報が来ていないのかと思いましたよ!」
…あー…前にもそういうことあって、情報が遮断されてんの地雷になったのかな?
「れいど、」
「そしたら叔父上は、情報を遮断され衰弱するか怪異に乗っ取られている俺を祓う、という口実を得て、俺を殺しに来た…敵ということになります。」
自分の地雷把握した上で、菅原先生に牽制かけてるわけか。
「ッれい」
「ねえ…叔父上、あなたが敵なのだとしたら、あなたを呼んだ俺の兄上も、俺は疑わねばなりません。」
「…それはやめてやれ…そしてやめてくれ。私が逸辞くんに怒られてしまう…」
…誰だ、逸辞くんって…くんづけだから、部下か年下なのかな…。
菅原くんが菅原先生のせいで菅原兄を疑うことで菅原先生を怒る人物…
菅原くんが疑心暗鬼になって怒るんだったら、菅原先生をカウンセラー目的でこの学校に送りつけたと考えられるが…そしたら菅原先生を疑う時点で怒るだろう。
疑われる菅原兄自身か?それだったら辻褄は合う。
「ですのでくれぐれも…そういう詮索の仕方は、止めてくださいね?」
「…分かった、悪かったよ…。」
…菅原くんも、菅原先生の血縁なんだな…似てるよ、あの二人。
「…でもな玲帑、そもそもシャドウは発見件数が少ない、増えれば今まで見つからなかった打開策だって見えてくるかもしれないんだぞ?」
尚も食らいつく辺り、菅原先生スゲーな。
「叔父上、俺はそもそもシャドウを一刻も早く祓いたいとは思いません。」
「玲帑!!」
何でか菅原先生が焦ったような怒ったような声を出した。
「祓い屋の都合で、人に害を為す怪異を祓わねばならないのは分かっています。」
人に害を為す怪異?かげくんが?昨日助けられたばかりの菅原くんが、はっきりと人に害を為すと言った。怪異殲滅思考なのか?いや、それは…あり得るけれども、だとしても菅原くんが根拠もなくかげくんのことを人に害をなす怪異だと言うか?助けられてるんだぞ?考えづらいな…もしかして、既に実害が出ているのか?…だとしたら、菅原先生が最初に言っていたことは、嘘というわけではなさそうだな…。
「ですが、俺の中にいるシャドウが悪さを働いたことはありません。」
「悪さをしてからじゃ遅いんだ…」
えー…もしかして怪異殲滅思考タイプ?本当に怪異だったら撲滅させちゃうタイプ?だとしたら、なおのこと隠さなきゃ…絶対関わらないようにしなくちゃ。
「そんなことを言っていたら、罪を犯すかもしれないからと、罪なき人まで投獄しなければならなくなります。」
それな!
「人には個性がある。それまでの環境の差もな。ただし怪異は、どんな環境を歩もうが、発生からの経過時間と吸収したエネルギー量が等しけりゃ、全部同じ結果になるんだ。…過去にそういう実験をした所があった。お前だって知っている筈だ、玲帑。」
え、実験したの?それってどのくらいのサンプル集めてやったんだろ…それによって信頼度変わってくるんだけど。
「行動のおかしい友人を霊媒師に調べてもらったら、シャドウに乗っ取られていた…この報告は八年前に上がりました。その人は、シャドウを祓うと死んでしまった…」
「玲帑、情報漏洩だ…」
…だいたい僕が6、7歳くらいの時か。
「…失礼しました。では、簡潔に結論だけ。俺に憑いてるシャドウは、俺を殺すことはありません。」
あーあ…秘匿情報を隠蔽したら、どうしてシャドウを祓うつもりが無いのかという肝心な部分が省かれてしまった…。
Noside
菅原秋雨は焦っていた。それはもう、菅原くん、とわざわざ変えていた呼び方を、玲帑、と連呼しても気がつかないくらいに。
(まずいな…どうしよう…玲帑は確実に俺らに話していないことを知っている…何故だ玲帑!)
それは情報において、相手が少し有利だということもあったが、それだけならば相手から聞き出せた。むしろ彼は、そういう方面のスペシャリストだ。
しかし焦っているのは、それが理由ではなかった。
普段の身内の、極一部の心を許してくれている者にしか見せない側面を見せてくれるかわいいかわいい甥っ子が、自分に秘め事を打ち明けてくれないのだ。死ぬかもしれないというのに。焦りもするだろう。秋雨は玲帑に対して、玲帑の父と違い、普通に叔父として情を注いでいた。
怪異が猛威を振るう時期というのは、発生してから経った年月と、吸収エネルギー量の計測をすれば予測はできる。
逆に言えば、それしか知る術は無い。できたとしても予測だけ。予測はできるが、その予測結果が確実というわけではない。
シャドウの発見数は3件…いや、昨日本家のバカが拐おうとしたやつの3人のうち2人がシャドウ持ちであると報告が入ったため、プラス一件だから4件…人数を見れば、プラス2人、合計5人と極僅か…
しかも発見できるのは、決まって被害者が取り憑かれた後。
そもそも取り憑かれて且つ乗っ取られていないで済んでいる事例は、玲帑以外に無かった。いつから体に潜伏していて、いつから乗っ取られていたのか、それが全く掴めていないのが、シャドウの厄介なところだった。
補足だが、この場合における《取り憑く》は相手の体に憑いているだけであって、意識や体を奪うには至らない場合も含む。奪っている場合も含む。
「玲帑、自棄になっているのか?困っていたら私に相談してって言ってなかったか?」
「自棄になったことはありますが、兄上におさめてもらいました。」
「そして現在、また自棄になったと…」
「精神のスペシャリストが聞いて呆れますね。俺は至って冷静ですよ。」
そして玲帑は、シャドウに関しての情報を、一切明け渡さない。
両者一歩も退かず、といった姿勢だったが、秋雨は急な方向転換をすることにした。
「あー、そういえば、先週の金曜、本家のバカが、何かやらかしたらしいんだよな。菅原くん以外にも関係あるぞー。」
秋雨はクラス全体に向き直りこう言った。
「暫くここで、シャドウ持ちに目星付けて乱獲するらしいから、なるべく十人以上、もしくは保護者同伴で帰るように!以上で私の話は終わりだよ。何か質問はあるかい?」
クラス全体が、騒然とした。
「あ、言い忘れてた。この後、瀬世さんと海藤くんと輝滝さんと菅原くんは、職員室に来てなー。」
この時、昨日の誘拐されそうになっていた三人は、ああもう蓮間と心咲はシャドウ持ちなのバレてるな。という一種の諦めを抱いた。
「それと…受験期だしやらないとは思うけど、問題起こしたら昼休み潰して関係者全員こってり(精神的に)絞るから。」
そして急遽来た秋雨は、嵐のように去っていった。
クラスメイトたちは暫く、瀬世、海藤、輝滝、玲帑の四人を質問責めした。