クラスメイトに真面目君以外の霊感持ちが居た。
はい、二作品目です!めっちゃ文字数多くなりました…気付くと本題から逸れに逸れまくってて…
では、楽しんでください!
給食の時間終了のチャイムが鳴った。
「…知らん顔して教室戻ろっかな?」
流石に先生に何かは言われるだろうし、ここで倒れている真面目君との関係性が疑われそうだし、知らん顔して戻っても、いいこと無さそう…ただ、教室で、公衆の面前で、祓霊の力は使わないだろう。
そう思い、普通に近くの扉から教室に入ろうとすると…
「…げぇっ」
「「いや、酷くね?」」
何と、クラスメイトの大半が、というか確認する限り全員が、扉からこちらを覗いていたのだ。
「え、いつから見てたの?」
「いや、菅原が廊下に倒れてて、夜樺くんが独り言話し始めた辺りから…」
「俺はその前から見てたぜ!配膳係の女子たちが、菅原が中二病だとか言うから、ちょっと気になってな!」
年中長袖長ズボンの男子には、僕がかげくんに向かって話しかけていた時から、腕に包帯巻いた七分袖のシャツと長ズボンの男子にいたっては、その前から見られていたらしい…
やべえ…
クラスメイトの名前ド忘れした!
「…誰でしたっけ?」
クラスメイトの顔が、マジかコイツ、とでも言いたげな表情になる。
「敬語の辺りがなんかマジっぽいな…俺の名前は蓮間!えっと…名字も言うか?」
包帯を巻いている男子が蓮間と名乗った。
…ああ、思い出した。
「中二病の海藤蓮間くんか。」
「あ、そこは覚えてるの…って!中二病!?どゆこと!?」
俺は中二病じゃねえ!本当に悪魔の力が使えるんだー!と叫ぶ海藤くんを横目に、もう一人に向き直す。
「…いや、自分は自己紹介しないよ?だってしたって忘れるんでしょ?じゃあ意味ないじゃん。」
そう言って席に戻ろうとする年中長袖長ズボンの男子の態度に、少し…というか、だいぶ罪悪感が募る。
確かに、僕結構失礼なことしちゃったな…
でも、謝ろうにも、ごめんで許されるものなんだろうか…。
自力で思い出して呼びかけるのが効果的なのだろうが、残念ながら思い出せない。学級委員だったのは覚えてるんだが…
ああ、本当に、どうしよ…
「…ごめん、えっと、人の名前、覚えらんなくて…」
「そりゃそうだよ。覚えられてる名前すら、脳内で変な名前に置き換えてんだろ?真面目君とか。覚える努力もしてないんだから、ただでさえ覚えんの苦手なやつが、覚えられるわけ無いじゃん。」
…残り二ヶ月とかそこらの付き合いだし、このまま放置するのが得策なんだろうか…いやでも、それは、人としてどうなんだろうか…
…ん?人として?
「…ちょっと逃げさせて。というか、謝り方考える時間下さい。菅原くん保健室に運ぶから。」
忘れてた。真面目君…菅原くん、廊下に放置しっぱなしだった。
「…」
さっきの子は、席に着いて、もう何も返してくれはしなかったが、後で謝ることにしよう。
「さて、ここでの定番は姫抱きだが…」
そう言うと、周りが少し…というか、だいぶ止めておけ的雰囲気になった。何もやるだなんて言ってないんだが。
「流石に体格的にそれは無理。」
見た目からでは分からないが、相手は普段から怪異を相手取ったり、訓練したりしている陰陽師の見習いだ。そんなあからさま筋肉つけてます的生活しててもおかしくない相手を、ようやく最近身長145センチ超したばかりの自他共に認める小柄な僕が、姫抱きなんてできる筈もないのだ。
じゃあ、別の運び方を考えなくちゃな…
「おんぶ…」
「まあ、普通にいけばな。」
「でも、相手が起きてないとキツくないか?」
「俵担ぎ…」
「雑だな!?ていうか、それも起きてなきゃキツいだろ。」
「蹴飛ばして運ぶ?」
周りのオーバーな反応が面白くなり、ついつい遊んでしまっていると、見かねたのか、さっきの子が、こちらに話しかけてきた。
「おい…先生を連れてくるという選択肢は無いのか?」
…平時ならば、そういった選択肢もあったな。
「ていうか、廉夏くんの意見が普通だよね…あれ?担任の笹堅先生どこ行ったの?」
上品なブルーグレーのロングスカートの女子が、担任が居ないことに気付き、そう言った。
ていうか、廉夏って言うのか、学級委員。名字は…青柳だ!
「…このフロアの先生は、今全員出払ってると思うよ。」
そう言ったのは、さっきまで静かにしていた、少し大人しい女の子だ。この子は知っている。一年生の頃クラスが一緒だったから。瀬世綾香さんだ。常に昼休み、本を読んでいる。ズボラなのか、寒がりなのか、室内でもずっとフード付きのモコモココートを脱がない。まあ、さっきの騒動で誰一人出てこない時点で、違和感はあったが…まさか全員出払っているとは思わなかった。
「え、何で!?」
「分かんない。トイレ行くとき、急用ができたから、ここで待ってなさい。大きな音がしても、動かないことって言ってたのが聞こえただけだし。その後、先生二人とも廊下を走って階段降りてってたよ。笹堅先生は、菅原くんが出ていってすぐ、教室出ていった。」
…避難誘導もしていないどころか、待機命令を出しただと?
何を考えているんだ?
しかも、我先に逃げたのか?
「…本当に、何を、考えているんだ…」
「え、えっと…夜樺くん?」
「…うん?」
おっと、思いっきり口から漏れていたらしい。誤魔化した方がいいよな~…完全に瀬世さん怯えちまったし。
「先生達、避難誘導くらい、してくれてもよかったのにな~って思ってさー。下手すりゃ死ぬとこだったんだからね?僕ら。」
「え、そうなの!?」
こういうのは、下手に言った事実事態を誤魔化すより、相手の感情を同調させた方が、少しもやっとした感情が残ることになるが、恐怖心を薄れさせることができる。
「うん、多分先生達は、知っているんだ。菅原くんが、ワゴン室に飛び込んだ理由も。それがこれから、どんな危険性を孕む行為なのかも。」
瀬世さんは、流石に菅原くんのことについては分からなかったらしく、ぽかんとしていたが、そこに、もう一人のクラスメイトが話しかけてきた。
「それって、さっきのスッゴク黒くなった影と、紫色の煤みたいなやつと、関係ある感じ?」
チェック柄のミニスカートと黒のハイネックを着た女子が、そう聞いてきた。
「うん、スッゴク関係ある。」
どうやらあれが見えていたらしい。
多分だが、菅原くんにワゴン室から出るように言われた女子生徒も、悲鳴をあげていたことから、あれが見えていたんだろう。
「えっと?影?煤?心咲ちゃん、何のこと?」
「あれ?綾香は見えなかったの?」
一方瀬世さんは、全く見えないらしい。
そして見える方の…みさき…ああ、輝滝心咲さんだ。輝滝さんは見えているらしい。
輝滝さんは、好奇心旺盛で、昼休み、友達と遊ぶタイプかと思いきや、校舎裏に行っては、先生にバレないよう帰ってくる、というのが常だ。因みに、見つからないよう戻るルートは、校舎に近くて高い木を登って…と、まあ、とてもアクティブな子だ。
「俺には見えてたぜヒーロー!お前の漆黒に光る左腕がな!ああ、俺の右腕が共鳴して…!」
「してない、してない。」
「え゛」
何で驚いてんだよ…僕、左腕黒くなってないし。てか、ヒーローって誰…。
因みに両腕包帯しているから分かりづらいが、海藤の右腕は、マジで火傷しているから、あまりそちらはひきづらない方がいいだろう。
「どーんまい海藤!アタシの方が、選ばれし者だったようだな!」
「クソゥッ!」
海藤のせいで霞んで見えるが、輝滝さんもなかなかの中二病だと、僕は思う。
「…えっと…菅原のヤツ、運ばなくていいのか?」
そう言ったのは、クラス一背が高い、高崎出水くんだ。服に基本、沢山のポケットがついていて、そこから工具で色々面倒事を解決するほど面倒見がよく、人当たりもよく、クラスメイトからよく名前を呼ばれているため、覚えていた。
…確かに、先生じゃなくても、力持ちの人たちに協力をあおげばいいのか。
「えっと…高崎くんって、力に自信ある?」
「ああ。ただ、さっきちょっと菅原持ち上げてみたけど、想像よりも重かった。一人で運ぶのは無理だから…坂原!」
「あ、そこで俺召喚?」
「元野球部だし、腕力ありそうじゃん?」
どうやら年中半袖短パンの男子…坂原くんは、元野球部らしい。残念ながら、下の名前は思い出せなかった。
「根性見せろよ野球部ー!」
「元野球部だ!…分かったよいくぞ!出水、足の方頼む。」
「ああ。頭ガクンってならないように、もう一人必要か?」
「あー…確かに、両肩掴むと手が塞がる…よし、明!お前も手伝え!」
え、そこで僕なの!?
「…まあ、確かに…任せっきりもアレか…」
よし、軽く揺すってみて…うん、起きないね。運ぶの決定!
「それじゃいくよ!スリー、ツー、ワン、よいしょ!」
高崎くんの号令と共に、菅原くんの体はあっさりと持ち上がった。まあ、三人がかりだしな。
高崎くんは両足首をガッチリ掴み、坂原くんは横から背中を両腕で支え、僕は頭をなるだけ首の少し上で持ち上げて揺らさないようにする。
「それじゃ、そこにある階段から一階に降りよう…」
幸いにも、三年生の階は二階。一階降りるだけで済むのは、幸運だった。一階に降りて、校庭で遊ぶ後輩たちの声が聞こえ、ふと、これらは今日、失っていたかもしれない命なんだと思い、失くなっていないことに安堵した。ただし、保健室は隣の塔なので、階段を降りた後、長距離移動がキツい。うちの学校は、塔が二つに別れているのだ。屋上にプール、その下に体育館、体育館と同じ階に一年生の教室四クラスと、多目的準備室。その下の階に美術室、技術室、音楽室、二年生の教室二クラス、その下の階が、僕ら三年生の教室三クラスと、図書室、実験室、実験準備室、といった具合だ。一階は、職員室、校長室、保健室…以外は覚えていない。
まあ、なんとかやりきって保健室までたどり着いた後、高崎くんに保健室の扉を開けてもらったのだが、保健室に、人は居なかった。
校庭で、サッカーでもやっていたのだろう。鉄にボールが思いっきり当たる音が聞こえ、次いでドンマイという、声かけも聞こえた。
「…保健の先生、誰だっけ。」
二階の先生だけ逃げたのかと思っていたが、職員室の明かりが消えていたのが見えたため、どうやら、一階に居た先生達も逃げたらしい。
「…明くんって、本当に名前覚えるの苦手なんだね…鈴城先生だよ。」
ちょっと頭の中でぐちぐちネチネチするために、高崎くんから保健室の先生の名前を聞き出す。
「あー…そっか。ありがと、高崎くん。」
今度はゴールにきちんと入れられたのだろう。校庭から歓声が聞こえた。
「ちょっと名字覚えててくれたことに感動している俺がいる。」
感謝を伝えると、名前を覚えていたことに感動された。
「あはは…」
「顔とかは?」
「顔は覚えられる。そういえば…失礼なんだけど、坂原くんの下の名前って…」
そういえば、とついでに聞いた。まだ坂原くんの名前を聞いていなかったのだ。
「茜だよ。ただ、ちょっと坊主っていう見た目と、中性的な名前が一致しないから、殆どが名字呼び。」
まあ…野球部だったから、坊主にしてるしな…うちの学校、坊主は義務では無いが、試合中邪魔になるので、部員の大半は坊主なのだ。
確かに、茜くんよりも、坂原くんの方が、しっくりくる。
「まあ、そもそも僕は全員上の名前にさんくん付けだし…。」
誰かを下の名前で呼んだことは…別に、無いわけではない。なんだったら、めっちゃ呼んだことある。それこそ、他の人たちよりもめっちゃ呼んだことあるのではなかろうか。
「ああ、確かに。」
「何で全員上の名前にさんくん付け?」
「…親しくなったり、友達になってからやるつもりでいたら…タイミング逃して…」
というか、そもそもそんなに仲良くなれなかったというか…
「「あー…」」
二人ともそれを察したのだろう。完全に哀れみの目を向けられている。
「…そういえば明くん、さっき何て言ってたの?」
「え?」
高崎くんから脈絡もなく告げられた疑問に、疑問を返す 。
「ほら、菅原くんがどうのこうの~とか、危険性が~とか。瀬世さんと話してたじゃん。」
そこまで言われて、漸く思い出した。瀬世さんと話していた時、輝滝さんに話しかけられる直前だ。
「ああ、あれか…いやほら、二階に先生、誰も居なかったじゃん?」
「うん。それどころか、今は鈴城先生も居ないね。」
…さて、どう話そうか。包み隠さずに話すか?いや、でもその前に確認しておかないとな…。
「高崎くん、坂原くん、これ見える?」
そう言って、足下の影をゆらゆらと揺らしてみる。かげくんは、ついでとばかりに床から出てきてフラダンスをしていた。
「ンフッwえ、何これw」
「うん、見える……え、何これ!?」
「因みに、何やってると思う?」
「変なのがフラダンスしてる」
「影がゆらゆらしてる…って、フラダンス?フラダンスでは無くね?」
どうやら、両方見えるらしい。 ただし、見え方に違いがあるようだ。まあ、二つの顕現率には違いがあるからな。波長とかの違いもあるんだろう。
「高崎くんも坂原くんも合ってる。かげくんにフラダンスしてもらって、僕の足下の影を、ちょっと伸縮させた。」
「へー…」
「出水はもうちょい興味持てよ!お前から聞いたんだろ!」
「いや、興味深々よ?ただ、どう反応したらいいのか…」
まあ、反応はどうでもいい。オーバーであればある程面白いが、やる気も無いやつにそこまで求めるのは酷だろう。そして、これならば、だいたい誤魔化さずに話せる。
「じゃあ、話を戻すね。これは、まあ…ちょっと妖怪とかそういうのだと認識してもらって…」
「「うんうん。」」
「こういうのを退治するのが祓い屋、退治屋…っていう職業、妖力だとか霊力だとか持つ者の血縁者に発現することが多いから、家系ぐるみで祓い屋を営むことが多い。」
「…あー…漫画の中だけじゃないんだ…」
そう、漫画の中だけでは無いのだ。もっとも、僕は漫画の存在よりも、こちらの方が、知覚するのは早かったのだが。その話は関係ないので割愛する。
「…え、今まで俺見えたこと無かったんだけど?」
まあ、その説明も必要だろうが、結局それは、教室に戻ってからもすることになるんだろうし、菅原くんのことについても、どこまで話していいかは分からない。祓い屋だということは、もう誤魔化しようが無いので、そこは腹を括ってもらうが、なるだけ菅原くんの意思も汲みたい。
なので、最初の質問について戻そうと思う。
「あー…今さっき見えるようになったことについては、教室に戻ってからも同じ説明することになるだろうし、教室に戻ってからでいい?」
「確かに。じゃあそれでいいよ。」
坂原くんも納得したので、高崎くんの質問に答えていく。
「えーっと…瀬世さんと話してた内容についてね?」
「あ、俺自身が忘れてた。」
「おい出水~…」
坂原くんが、呆れた声を出している。
「ごめ~ん。」
軽い謝罪を受け流し、本題に移った。
「まあ、さっき話した祓い屋についてなんだけど…多分菅原くんが、その家系。」
「え…それって勝手に話していいやつ?」
「坂原って、坊主もあるけど、顔とかヤンチャそうなのに、意外とそういうの敏感だよな。だけどまあ確かに、勝手に聞いちゃいけないんだったら、俺の質問は答えなくても…」
そう言って、二人は少し、気を遣う素振りを見せる。恐らくだが二人は…勝手に好き勝手話されて、噂されて、散々な目に合ったことがあるのだろう。もしくは、そういったことに人一倍敏感なのだ。
ただしこれは、なるだけ多くの人に知ってもらう必要があることだ。先生達があてにならない今、自分の身を守らなければならないタイミングくらいは、知っておいて欲しいから。十一年前の事件を、また繰り返さぬように。
「…祓い屋っていうのは、妖怪を祓う職だが、その根幹には人の命を救うという理念がある。要するに、黙ってて、それで人の命がなくなるなんてこと、あってはならないんだよ。」
「あきら…?」
「…なんか、めっちゃ深刻な話?」
「うん。…って、これじゃあ全員、誤魔化しちゃダメだね。教室に戻ってから同じこと話すから、簡単に纏めると…」
「いや、誤魔化す気だったの!?」
「今は誤魔化す気ないよ。というか無くなった。影が見えないんじゃ、これ以上巻き込まれないように黙っておくつもりだったんだけど…祓い屋が近くにいるんじゃ、そうもいかないしね。」
二人は沈黙した。聞く方がいいのか、悪いのか、分からないのだろう。罪悪感を払拭するために、さっさと本題を話して、済ませてしまおう。
「聞かなきゃ命に関わるんだ。多分先生達は、菅原くんが祓い屋だって知ってて、これから危険なことになると知って、避難した。生徒に待機命令を出して、とどのつまり…生徒の命を見放して。」
「「!?」」
二人とも、驚愕の表情を浮かべ、動かなくなってしまった。なんとか声を捻り出そうとしたようだが、それは、あ、とか、う、とか、意味の成さない音にしかならなかった。
校庭から聞こえる無邪気な声が、より一層大きく聞こえた。
「細かい所は、教室で全体に向けて説明する。戻ってきた先生に尋問するのもあり。」
「…戻ってくるかな?」
漸く硬直の解けた高崎くんが、そう言った。確かに、このまま自宅にとんずらする可能性もあるだろう。しかし、まさかシェルターにまでは入れない筈だ。確かに、こういった怪異の類いは、確か政府も存在を密かに認めていて、専用の避難場所もあると聞いたことはあるが、生徒を置いてとんずらした先生達が、堂々と入れる場所では無いだろう。
「…菅原くん、このまま寝かせておいて、俺らは戻って大丈夫なのか?」
「…一応、まだ体は万全には動かない…か、それなら…」
確かに、先生達はこれから、批難の嵐を受けることになるかもしれない。そうなると、菅原くんに、逆恨みの矛先を向けるかもしれない。そうなればマズイので、影を菅原くんの影に潜ませておくことにした。
「え、何してんの?」
「影を護衛に付けとく。…あれ?」
「どうした?」
「…もう既に入ってる…」
「…お前の影が?」
「うん。…でも、ちょっと弱体化してるから、また追加しておかないとな。」
…もしかしたら、一度入れたことがあるのかもな。なんせ僕は、影を他者の影に入れるのは、これが初めてではないのだから。
「…うん、これならある程度の襲撃は防げる筈だ。」
「へ~、お前超有能じゃん!」
「明くん、菅原くんと一緒に祓い屋できるんじゃない?」
…まあ、確かに菅原くんよりも強い自信はある。ただし、現実はそう簡単では無いのだ。
「残念だけど、僕は既に、どっちかっていうと怪異…妖怪に括られる部類だからね。祓い屋の本部に引っ張られて行くなんて、まっぴら御免なんだ。」
そう、他者から見れば、かげくんは立派な妖怪である。
「あ~、これ明の異能力的なやつじゃなくて、妖怪なんだ…」
「うん。だから、祓い屋はできない。」
「…さて、もう用事が済んだなら、教室に戻って、早く皆にさっきの事を話そう!」
高崎くんの意気揚々とした言葉に、躊躇いは微塵も感じられない。普通は人の信頼を貶めるのだから、少しは罪悪感なりわくかと思ったのだが…
「ああ!楽しみだな~!」
どうやら、坂原くん共々、二人ともいい性格しているらしい。軽い足取りで教室に向かっていた。
「悪い顔だね。二人とも。」
「そういう明だって、楽しみで仕方がないって顔だぜ~?」
バレたか。
「だってこんな面白そうなこと、滅多に無いじゃん?それに、こんな貶めるのに罪悪感無い人って、そうそう居ないし!」
実はこの学校の教師達は、あまりいい噂は聞かない。事実と噂は異なるとはいえ、あの人達に限っては、噂の方がマシとまで言えるレベルなのだ。
セクハラ、パワハラ、万引き強要…等といった、どこにでも転がってそうな単語ばかりで噂されているが、詳細を語れば、そんな単語が可愛らしいとさえ思えてしまう所業をやらかしているのだ。
「あー…今年の秋に、推薦を脅しに女子生徒を八人レイプ、担当している部活の部員達に、体罰と、科学室にある薬品を何も知らない生徒に服用させ、違法薬物と偽って脅し、本物の違法薬物を入手させたり…」
「…あれらに避難誘導を期待した僕も、結構馬鹿だったかもな…。」
だから昨日、菅原くんに祓い屋であることを、わざわざ公表させなかったのだけど、避難誘導なんて、夢のまた夢だったのだ。
「…あ、先生まだ戻ってねー。」
廊下を戻り、数歩先を行っていた坂原くんがそう言った。
なるほど…
「なら、都合がいい。」
「「?」」
「先に皆に色々話そう。あ、それと…青柳くんに、謝罪しないと!」
考えてから来るつもりだったのに…考えるの忘れてた!!まあ、土壇場でなんとかなるだろう。直球でぶつけてしまった方がいいことだってあるのだから。
「「ただいま~( ´ ▽ ` )ノ」」
「…え、た、ただいま…?」
なんか二人が教室に入る時にただいまと言って入ったので、僕もただいまと言って入った。
「あれ?夜樺くんがそれやるの、ちょっと意外かも。」
確かに、普段こういうことするキャラじゃないしな。
それから…
「青柳くん、さっきは名前思い出せなくてごめんね。」
「…どうした、二人に名前でも聞き出したか?」
まあ、一旦視界から外れたんだし、そう考えるのが普通だよね。
「ちょっ、俺らは教えてないよ!」
「明が自分で思い出したんだよ!」
「いや、誰かが廉夏って呼んでたから、それで思い出した。自力で思い出せなくてごめんね。」
「…」
「あと三ヶ月くらいの付き合いだけど、僕はなるだけ、全員と仲良くしたい。今後のことも踏まえて。」
「何?なんか利用するつもり?」
「違うよ。…とにかく、仲良くしたいから、えっと…ごめんね……ゆるして…ほしい…」
最後はたどたどしくなってしまった。はっきり言わなきゃ聞き取りづらくてムカつくだろうが!
「…まあ…」
「本当に!すみませんでした!!」
「被せんなよ!?」
「ごめんなさい!」
言い直そうとしたら、相手のセリフと被ってしまった。いや、マジでこめんよ。
「…いいよ、許す。こっちこそ、鬱陶しいこと言ってごめん。昔から存在消されがちだったから、目立つ努力してたのに、これでもダメなのか…って思ったら、ムキになっちゃって…」
…青柳くんの心には、想像していたよりもずっと深い何かが根を張っているらしい。何も知らずに無神経だったと、再度反省する。
「…まあまあ二人とも、謝罪祭りはこの辺にして、そろそろ本題に入ろうぜ。」
「先生が戻って来る前に済ませた方がよさげな事案だしな。」
おっと、また本題を忘れるところだった。危ない危ない…坂原くんと高崎くんに感謝だな。
「本題?」
「青柳くんも、一旦席に座って。ちょっとやりたいことがあって。」
「分かった。」
和解した青柳くんは、大人しく席に着いた。もともと反抗的な性格というわけでは無いのだろう。
そして僕は本題に入るため、自分の影を黒板にのばしてみたり、かげくんを影からこちらに引っ張り出してみたりした。それまでざわついていた教室が、一瞬で静まり返った。
「今、影を変形させたりしてるんだけど…何人かこれ、見えてるよね?なるだけ見えてる子、後で僕に話して。今後の対策に必要になってくるから。」
この場で自己申告を願い出たところで、誰も手なんて挙げないだろう。挙げたとしても、実際はもっといる筈だ。だから秘匿性を守るために、自分にこっそり申告するように言う。そして先程の、対策というのは、当然怪異が現れた時、どう生き延びるか、要するに、避難方法である。
「これは、安全な…怪異?幽霊?とか…まあ、そんな感じ。見えない子は、頭でイメージして。で、こんな感じで無害なのもいる。…今全員、頭痛くはないよね?」
何人かは頷いてくれて、何人かは無反応だった。まあ、影響が無いという証だろう。
「で、有害なのもいる。それがさっきのワゴン室に出てきたやつ。」
「あ~…あのモヤモヤ。」
そう言った男の子が、あ、ヤベッ…という表情を浮かべる。周りからヤバイやつ認定されたくないためだろう。
「うん、正解。そんなに怖がらなくていいよ。今年の生徒は、幽霊見える子多いから。」
実際、このクラスにも見た感じ十名以上、幽霊とか見えてる子がいそうだしな。
「今度危なくなったら、他のクラスにも伝達して、なるべく幽霊見える子とグループ組んで行動して、避難して欲しいんだ。校舎が崩れると困るから、校庭に。」
「壊れるの!?校舎が!?」
「それ、校庭に逃げた程度で大丈夫なんですか?」
クラスメイトから、不安の声が上がる。まあ、当然のことだな。
「校庭に逃げて。それが、今できる最善なんだ。」
非情なことを言った気がする。まあ、助かる確率は少ししか上がらない、と言っているのと同じなのだから、そりゃそうか。
「…一箇所に集まってくれれば、僕が何とかする。影で覆って、あれらを近づけないようにすることは可能だ。ただ、もとの影が小さいと本領発揮できないから、集まって欲しいんだ。」
「…冗談みたいな話だな。」
「…でも、事実だ…原石と同じで、俺にも見えたから…」
どうやら、さっきうっかりカミングアウトしちゃった男子は、原石直中くんというらしい。そこまで目立つわけでも無いが、友達は多い印象がある。常に着物を着ていて、かげくんが時代劇でも見ている気分だと言っていた。
「山中にも見えたのかよ…」
そして、僕の言葉を肯定してくれたのが、山中高志くんだ。こちらは珍しく、常に制服を着崩さず、私服姿を見たことが…いや、あるんだろうが、覚えていない。
「わ、私も見えます!」
「儂にも見える。」
「俺も俺も!」
「オ、オレモ!」
「妾もだ。」
「一気に増えたな~…僕もだよ。」
「我もそうさな。なんなら、ちいと我の影も操れるぞ?」
そうして、段々と声は上がっていき…
「俺も見えるぞ!」
「海藤は見えんだろうが!」
「ふざけてる場合じゃねーんだよ!」
などという、ちょっとした騒ぎもあった…。
聞いただけだと覚えられないので、ノートにメモをすることにした。
名前は…
荒田海斗
飯嶋皐月
石原礼華
江島戒
桜音妻咲希
海藤蓮間
加山伝説
坂原茜
高橋出水
平優
輝滝心咲
崇徳雷子
原石直中
山中高志
そして転入生、菅原玲帑に、僕、夜樺明の、以上、十六名である。
いやー…すごい名前の子出てきましたね…他にもちょこちょこ気になる名前が…
伏線回収いつしよっかな…