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僕の家

めっちゃ歴史を捏造してます。

フィクションです

ストーリーの途中で出てくるベンテンの元は、

ベンテン=便利店=コ◯ビニです。

何とか菅原先生の注意を逸らせないかと思ったが、考えてみればその必要はなかった。

何せ菅原先生は走っているのだ。走っている時に分かる抱えている相手の情報なんて、体重とか身長とか体型とかそのくらいだろう。

それならば問題無い。

「夜樺くん、本当に病院行かない?」

「いえ、行きません。」

この人このまま病院まで抱えていくつもりか?何キロ離れていると思っている!

「夜樺くん、揺れてキツかったりしない?」

「大丈夫です。」

意外とこの人の片腕安定するな…

「菅原先生?何をするおつもりで?まさかその横断歩道突っ切ったりしませんよね?赤信号ですよ!?」

「突っ切らない突っ切らないw飛び越えていくよ!」

「うぁぁぁぁぁあ゛!!!??!!」

走るという動作の跳び上がって着地する時に少々衝撃が来るけれど。あと原石くんが凄く発狂するけれど。

「夜樺くん、足はちゃんと外れてない?大丈夫?」

「かげくん、どんな感じ?」

『ん~…ずれてきてる。』

「え!?一旦下ろすね?」

『すみません、冗談です。』

「ついていい冗談と悪い冗談があるね?」

『本当にすみませんでした。』

かげくんは珍しくふざけて怒られてた。まあ、普段怒る役…というか、注意する役はかげくんだもんな。

「菅原先生、僕まで運んでもらう必要は…」

「着いてこれないでしょ。」

「おっしゃる通りで。」

そんな感じで僕は、テンポのいい会話を聞きながら、リラックスして家まで運んでもらった。

「夜樺くん、ここで合ってる?」

「はい。合ってます。」

「菅原先生、全然息上がんないじゃん。」

「鍛え方がちが~う!」

「何かイラッとくるなこの言い方…」

とりあえずインターホンを鳴らした後、中からお父さんが出てくるのを待つ。

「…お父さん今家にいる?」

「はい。二階とかにいるとインターホンが聞こえにくいんです、この家。」

そして数秒待った後、玄関からドタドタという足音が聞こえて来て、扉が開いた。インターホンの音が聞こえたらしい。

「はーい、家庭訪問の方?」

「あ、はい!着いて早々で申し訳ないのですが、息子さんを診てもらえませんか?」

「…どうかしたのか、明?先生に抱えられて。」

そこで漸く、お父さんはこちらに疑問の視線を投げた。

「足折れたかも」

「…マジ?っぽいな。パッキリ逝ってやがる…じゃ、治すか。」

お父さんは菅原先生に玄関に座らせる菅原先生たちを玄関に通し、僕を玄関に座らせ、添え木で固定された僕の足を()()()でジッと見た後、人差し指と中指の二本指でそっと撫で、霊力を注いでいった。

「…よし、どうだ?」

「うん、ありがとう。もう大丈夫。」

「そりゃよかった…」

お父さんは張り詰めていた息をはぁー、と吐き出し、また緊張した面持ちで菅原先生に向き直った。

「…地獄学園へのお誘い?だったら願い下げだな。」

「…異界学園だよ。地獄じゃなくて。」

いや…異世界という括りなら一緒?…いや、異世界は地獄一個じゃないだろ、知らんけど。

「そうだったな、そんな名前だったな。でも関係ない。言うことは一緒だ…明、受験したくないんだったら、父さんが楽な高校を別に探してやるから、そこは辞めとけ、な?」

「…」

珍しく放任主義なお父さんが断固反対している…というか、お父さんは異界学園を知っている?

「あー…えっと…明くんのお父さん…ですよね?異界学園をご存、知…?」

治療を見てから呆気にとられていた菅原先生が、我に戻ってお父さんに聞いた。その直後、菅原先生はお父さんの顔をまじまじと見て、口元にばっと手を当てて、目を大きく見開いた。

「せ、せん…ぱい…?」

「覚えてたのかよ…久しぶりだな、元気だったか、秋雨。」

まさかのお父さん、菅原先生と先輩後輩関係でした。

「えええぇ!?明くんのお父さん、異界学園の在学生だったんですか!?」

「ああ…っていうか、おま誰。」

そういえば、お父さんに原石くんを紹介してなかったな…まあ、そんな暇無かったのだけれど。

「原石直中くんだよ。学級七不思議の噂を確かめるついでに、お互いの家にお邪魔することになった。」

他に話せること…クラスメイト、とか?

「原石直中です!異界学園に行く予定です!さっき親無しに戻ったんで、菅原先生に引き取られることになりました!よろしくお願いします!」

それ、言ってよかったんだ…。

「よろしくしない よろしくしない…さらっと重たい事実を吐かないでくれ、反応に困る…。」

だよな。そりゃそうだよな。自分の先生の家でこれから暮らすというプレッシャーも加わって…思ったより原石くん大変だな。

「重たい…?」

原石くんにとっては、あまり重たい事実というわけではなかったらしい。

「…あ、すみません…息子さんの足が折れた原因は僕です。本当にすみませんでした!」

その瞬間、玄関の空気がゾッと冷えたように感じた。怪我が治って、触覚を復活させたばかりだから誤作動でも起こしたのかと床の影にいるかげくんを見れば、『あーあ…』とでもいいたげに、頭だけ床から出して、やれやれと首を横に振っていた。

…誤作動じゃないのか?

じゃあ何なんだ?と三人を見れば、原石くんは脚をガタガタと震わせ、両腕を両手で擦りながら、青ざめた顔でお父さんを見ている。菅原先生は足下に黒い槍が突き刺さり、原石くんの前まで行く道を塞いでいた。…大方、原石くんを庇おうとしたのだろう。何から?…決まっている。お父さんは、いつも通りだった。

「そうかそうか…………人の恩を仇で返しやがって、この小僧。」

声を荒げているわけでは無い。しかし長年一緒に暮らしているのだ。これくらいは分かる。

いつも通り、意味不明に怒っている。

「お父さん、恩も何も、原石くんと関わったのは今日が初めて…」

「明、お前は何も知らない…知らないままでいい…。」

相変わらず、意味不明だ。こうなると、会話が通じない。

「殺気を抑えて下さい、先輩!」

「そうだ、知らなくてよかったんだよ…」

話そうとするだけ無駄だ。その証拠に、言っていることはコロコロ変わる。最初の怒った原因は原石くんが骨を折ったと思ったからだったのに、今は僕に何かを教えたことで怒っている。いつも通り、怒りが静まるまで適当に視界の範囲外で過ごすしかないな。

「落ち着いてください!今の貴方は冷静さを失っている!」

「ならさっさと出ていけ。明はあそこに行かせはしない。」

普段は他人に見せない特殊な方法で生成すると言っていた黒い槍と鞭を、遠慮無く玄関で振り回す。

そっか、あの槍と鞭は霊力で作ってたのか。それでいつもは使ってなかったのか。

まあ、二階の自分の部屋で待ってれば大丈夫かな。

「すみ、ませッ…ごめんなさい、ッ…もうしわけありませッ…」

…いや、原石くんと菅原先生はそれじゃダメか。原石くんは泣きかけてるし、菅原先生は原石くんを守ろうとバリアのようにドーム状に霊力を展開している。お父さんが鞭でバリアを破壊、その破壊されたバリアの隙間から槍を射し込む。だからバリアを突き破ってきた攻撃には菅原先生が作った宙に浮く盾剣…って言ったらいいのか?太い剣を、盾にして槍を防いだり弾いたりしてるっていうか…まあ、疲れてきてるし、攻撃は着実に通ってるし、その分ボロボロになってきている菅原先生はくたくたになってきているから、助けてあげなきゃヤバそうだ。

「お父さん、原石くんのせいじゃないよ。あの段階では折れてなかった。」

「…」

攻撃は止まないが、目線をこちらへ寄越すことには成功した。お父さんを止めるとか、初めてだけど…成功してくれよ!

「帰り道、金属バットが脛に飛んできてさ!その前に原石くんに手を引かれてちょっと転んじゃったから、原石くんは自分が原因だって思って、それであんな言い方を…」

「…あっそ。」

そう言った瞬間、お父さんはふっと殺気を消して、油断した菅原先生の腕の中にいた原石くんの左腕を右腕で掴み、腕の中から引きずり出すように宙吊りにしながら、何かをそっと耳打ちした。

「ーーーーー、ーーーーーーーーーーー。」

「!!」

何を言ったのかは聞こえなかったが、原石くんは驚愕の表情を露にした。

「…菅原先生、すみません、お父さんが…」

原石くんが攻撃に晒されないよう、攻撃が始まってからすぐに原石くんを自分の大きな体の内側に入れる事で庇った菅原先生の体は、背中を中心にして、所々服が破れたり、血が滲んだりしていた。

「大丈夫だよ、ここには腕のいい医者が、いるようだしね?」

「…」

お父さんは気にくわなさそうだったが、借りを作りたくないのか、目に霊力を通して光らせて、さっと怪我の状態を確認した後、そっと肌に手を滑らせ、霊力を皮膚に変換する術式を構築、そして、術式に霊力を通し、怪我を無くしていく。それを全体に施せば、怪我は一つも無くなっていた。

「相変わらず、攻撃も再生も…どれも凄いですね、先輩は。」

「先輩はやめろ、俺はもう在学生じゃねえ…そもそも退治師自体、辞めたんだ。」

お父さん、退治師だったのか…。辞めた理由は…聞かなくても、分かる。

「…ええ、知っています。」

「…明は、俺の息子だ。」

「ええ、今さっき知りました。」

お父さんは、いつになく真剣な表情で、二階に原石くんと上がっていなさいと言った。

逆らう理由もないし、元先輩後輩の間で積もる話もあるだろうしで、大人しく二階で原石くんと待つことにした。行こうと言っても原石くんは震えたまま動かないので、今度はこちらが手を引くことになった。

「明はあそこには行かせられない。」

「貴方の息子さんは、聡明でお強いですよ。」

「…明は、異界学園について、何も知らない。」

「聞かれたこと、必要なこと…知っておいてもらいたいことは、これから教えていきます。」

「…俺は二回、自分の預かり知らぬところで、大切な人間を失った…」

「…深く聞いても?」

「一回目の方だけな。…両親だ…」

階段を上がって、ギリギリ聞こえなくなる直前に聞こえた内容は、こんな感じだった気がする。

自室に原石くんを招いて、ベッドに座らせてやる。

「あー…大丈夫だった?」

「、あ、だいじょ、ぶ…」

参ったな…原石くんの両親が逮捕された件、原石くん自身が重たいと思ってないなら、詳しく聞きたかったのだけれど…そんな場合じゃなさそうだな。

「ごめん。」

「…?なんであやまるんだ?」

「お父さんのせいで…怖い目にあったから…」

完全にさっきのは誤解だった。誤解した上で傷つけて、お父さんは原石くんに、まだ謝ってない。

「お父さんには、後で謝らせるよ。」

本当に、後でになってしまうことが申し訳ない…。

「いや、こっちも言い方があれだったし!…聞いてもいい?お父さんが…その…」

「何であんな荒れてるか?」

「あ…、うん…。」

まあ、気になるよな。僕だって他人の家であんな対応されたら気になる。

「それはね…実は僕も、詳しくは知らないんだ!」

「ええ!?」

ズコーっとでもいうように、原石くんは上半身を後ろに反らした。

「だって荒れてない時に聞いてもはぐらかされるし、荒れてる時に聞いても会話のキャッチボールができなくて、そもそもお父さんが荒れるの止めるのだって今日が初めてだ。」

「なんか…苦労してそうだな、明。」

「そうでもないよ?だいたい二階にいれば被害は来ないし…でも、折角の機会だし、色々知りたいな。」

そう、菅原先生に話すと言っていた、一回目の大切な人が死んだ事件。あれが荒れてる原因なら、それを菅原先生にこれから話すというならば、きっと今、一階にこっそり降りれば、色々聞けることだろう。

「暫く帰ってこないだろうしさ。」

「…そうだな…で、何でお前は今ちゅーちゅーゼリー持ってんだ?」

手軽に水分補給と栄養補給ができていいんだよね…お気に入りはもも味なんだが、期間限定でしか出ず、今持っているのはグレープ味だ。

「下に行って、ばれた時誤魔化すためだ。原石くんはこの部屋で待ってて。あ、これ欲しかったら食べてて。」

待たせてしまう原石くんにはゼリーを持たせておこう。そして、あくまでこっそり行くのだ。盗み聞きしているとバレれば、話が中断するどころか、お説教を喰らう羽目になるだろう。それだけは避けたい。

「それでどうやって誤魔化すんだよ…まあいっか。聞くんなら早く行ってこいよ。」

そして僕は、一階へ向かった。


Noside

ここで時間は、少し前に遡る。

「…深く聞いても?」

「一回目の方だけな。…両親だ。…っと、話す前に、場所移そうぜ。」

夜樺の父…夜樺(ともり)は、息子が万が一にも聞かないよう、リビングではなく自室に秋雨を通し、自身も身を移した。

自室はリビングよりも玄関に近い位置にあり、なぜか外側から見られないように扉には壁と同化して見える術がかかっていた。

灯がドアノブに手を掛けて、漸く秋雨も気づいた程に、上手く壁と馴染んでいた。

「…秋雨、結界張ってくれないか?」

「遮音でいいですか?」

「ああ。」

秋雨は、ご自身で張られては?とは聞かなかった。この先輩が、変なところで面倒臭がることを、よく知っていたからだ。

「どこから話したもんか…そうだなぁ…俺が小学三年生の……いや、ここからじゃ長過ぎるな…」

「長くなっていいです。折角の再会なんですから。」

「…そうだな。」

しかし灯は、それから数分何も話さなかった。

「…話せませんか?」

「…切り込み方を、変えてもいいか?」

相当話しづらいことなのは元より承知の上だったため、秋雨はすぐに承諾を返した。

「ええ、構いません。」

「…ありがとう。それじゃあ、お前から…何か質問してくれないか?」

秋雨は、既に灯の両親について質問してはいたが、そこからいきなりは話しづらいことを察し、質問を変えることにした。できるだけ、短くて、簡単に答えられそうな質問を。

「先輩…いえ、明くんのお父さんは、息子さんに将来どうなってほしいですか?」

「…将来っていうか…会えれば、なんでも…」

「…確かに、学園に入れば、難しくなりますね…」

会えれば、なんでもいい。そんな簡単なようでいて、難しい要望は、異界学園で通る筈もない。

異界学園は名の通り、異界に存在する。

様々な異界から、その学園が存在する世界に様々な者が集まる。

そこでは友人を作って、確かな成績をのこして笑い合うものもいれば、挫折して、嘆いて、立ち直る暇もなく亡くなってしまう者もいる。

成績不良による実力不足や、その者の寿命そのものが不安定であったりと、死因も様々だ。

「…あの三つ子はどうしてる?」

「…二人は、現在は異界学園の教師です。もう一人は…貴方の持つ情報から、更新は無いかと。」

「まだ()()されっぱなしか…他にはなんか質問あるか?」

質問する側、される側がいつの間にか交代してしまっていることに気付き、灯は質問を促した。

「えっと…あ、そういえば貴方、今いくつです?」

「…いくつだと思う?」

秋雨は別に、灯の年齢を本当に忘れていたわけではない。

単に信じられないのだ。秋雨は自分の兄と歳が15歳離れているため、自分の年齢と兄の第一子、第二子の年齢が近い。しかし、確かこの先輩は、自分より2歳上だった筈だ。

秋雨の兄…菅原梅雨(ばいう)は、家柄の関係で18歳から本格的にお見合いを始め、20歳の頃から子作りの儀式をし始めた。

第一子を産んだのが、梅雨が21歳の頃。現在41歳だ。秋雨は26歳である。

秋雨の誕生日は既に迎えていて、灯はまだ誕生日の3/1を迎えていないから1歳差。

つまり灯は27歳…息子の年齢が15歳…否、未だ誕生日の2/28を迎えていないため14歳であることを考えると、出産当時、14年前の2/28、灯の年齢は13歳…異界学園中等部二年生に所属していた時ということになる。

親子でまさかの13歳差。妊娠期間をカウントすれば、ことに及んだのは12歳頃…

「…息子さんと年齢近くないですか?」

「ああ、スタンガンでバチッとやられて、寝ている間に搾り取られてたよ。」

灯はなんとも思っていなさそうに、そう返した。

「ちょっ…!?…強姦じゃないですか!?あなたそんな事あって尚、異界学園生活してたんですか!?」

因みに灯は異界学園を高校生まで通って、卒業している。その後子供を育てるために5年程あちら側で稼いでから界隈から退いた。

「ああ。」

「誰にも知られないまま!?」

「ああ。」

「言っっっ……えなかったんでしょうけど!確かに俺には言えなかったでしょうけど!周りには相談するべきだった!」

「俺は学園には入れたくねぇんだよ…」

今それ関係あるのか!?と秋雨は思ったが、その考えは声に出すよりも先に自身の考えでかき消された。

霊力を操れる者の子は霊力を操れる可能性が高い。これは異界学園どころか、退治師の界隈でも有名な話だ。つまり、可能性とはいえできちゃったかもしれない子供を、異界学園に通わせたくない灯からすれば、異界学園関係者にこのことを伝えるのは悪手でしかなかった。

では学校関係者ではなく、親族に相談するという発想はなかったのか?

ここまで来て、秋雨はこの会話の最初の質問を思い出し、慎重に言葉を返した。

「…ご親族の方に、相談は…?」

「両親に相談したさ。できなかったけどな。…メッセージを送ったが、何日経っても既読が付かなくて…時間の経過と共に、俺自身がメッセージを送信したことさえ忘れていたよ。」

「…それって…」

そこからは、秋雨にも容易に想像ができた。

そして灯は、その秋雨の察した顔を確認しつつ、答えを丁寧に紡いだ。

「…何日も既読が付かねえ時点で、気がつくべきだったんだろうなぁ…親父もお袋も、死んでいたらしい。」

「…そう、だったんでs」

しかし秋雨は、次の答えは予想していなかった。

「俺が異界学園の編入に誘われたのと同時期にな。」

親のいない、施設預かりだったりする子供は、本人に確認を取るだけで、あちらへ連れていける。

秋雨も教室内にいる勧誘するべき生徒数の多さに絶句しつつ、施設預かりの人数がその中に数人程いたことに少し安堵したものだ。

「………………え?それ、まさか…」

灯と灯の両親は、そのシステムに苦しめられることになったようだが。

「そのまさかだ。そのシステムを利用した勧誘さんは、なかなか俺を連れていかせることに納得しない俺の両親を殺して…俺に、お金が稼げる、両親の助けになる、と言って、小学三年生の俺に承諾を取らせ、異界学園へ編入させたのさ。」

秋雨は言葉を失った。同業者が、罪の無い人を殺していたことに。

「…滑稽だよなぁ?俺が学校でお前らと遊んでいる間、親父とお袋は俺が変な力に目覚めたばかりに、アイツに首を絞められて逝っちまったんだ。アイツは言ってたよ、見つかりっこないって…態々青木ヶ原(あおきがはら)まで運んで行ったんだってよ。」

そこは富士山の北西麓に広がる有名な樹海だ。自然が豊かで、環境破壊を防ぐため、指定されたルート以外は通ってはいけないことになっている。

そして、青木ヶ原が有名な樹海なのは、富士山の近くにあるから、というだけが理由ではない。

〈自殺志願者の場所〉として、自殺の名所でもあるからだ。

「青木ヶ原…って、確かに死体を隠すには丁度良いかもしれませんが、あそこは自殺の名所ということもあって、警備が強化されている筈では?」

「…不法な道から行ったんだとよ。」

「そんなバカな。」

青木ヶ原は天然の迷宮だ。方向感覚の狂う樹海では、用意されている道から大きく逸れれば戻れなくなるなんてネットでは有名な話である。

「〈バカな〉と〈罠だ〉って〈バナナ〉に聞こえるんだけど。」

「なんの話ですか!?今の流れでどうしてそうなったんです!?」

「そんなバカなって言ったから。」

これまでの陰鬱なムードをどこ吹く風とばかりに、灯はその空気をブチ壊した。

何も考え無しに話の腰を折ったわけではない。辛かったから話したくなくなった訳でもない。彼自身、別に秋雨にこの事を語ること自体は何らダメージを負っていないのだ。

ではなぜいきなり話の腰を折るような真似をしたのか。理由は単純。

「…そこに、誰かいるのかい?」

秋雨もその気配に気付いた。しかし、気配の正体までは分からない。秋雨は気配に鈍いわけではないし、なんなら鋭いくらいだ。そんな秋雨が気付かない程に、扉の前の気配は鈍かった。薄いのではない。下手な暗殺者のように気配を消すのではなく、周囲に混ざっているような…まるで、そこら辺の壁と同化しているような…あるいは、それよりももっと馴染みのあるような何か…

「おいおい秋雨、誰か、じゃないだろ。この家にいる他のやつらなんて二人しかいねぇ。扉の前の気配が一人なのは、片方が明の部屋に留まってるからだ。」

そこで秋雨は、靄がかった思考で、何かが弾けたような気がした。

「そして、お前は気になって聞き耳立てに来たんだろ、明。」


直中side


さっきから、明くんのお父さんに言われた言葉が、頭から離れない…

【よかったな、二度もたすけてもらえて。】

…二度も…そうか、それじゃあやっぱり、明くんは…

アカツキヒロを忘れたなんて嘘だ。ただ、あの日の全貌を隠すには、何も知らないと答えるしか、いい案が浮かばなかった。

…ていうか、明くんのお父さんは明くんの火事現場での()()を知ってるのか…

まあ、知っていても不思議じゃないか。

三歳の子供が人を助ければ、それを親に褒めてもらうために報告するなんて当たり前で、ほほえましいことじゃないか。

そういえば、明くんが火事で活躍したことは知っていても不思議じゃないけど、火事に巻き込まれていた子供を子供が助けて、その子供が親にそれを報告したとして、どうして僕が火事現場で助けられたことを知っているんだろう?

どんなに正確に容姿を伝えたところで、十一年経てば外見もほぼ変わる。

僕は十一年前とは名前も変わっているし…

本当に、どうしてだろ?

「…あ、ゼリーおいしい。」


秋雨side

扉の前の気配が、ぴくりと揺れた。

「…遮音結界は?」

自分は、確かにこの部屋に遮音結界を貼ったはずだ。遮音結界とは、結界の内側と外側の音波を完全に遮断する。しかし先輩が遮音結界すら意に介さず語りかけていることから、この会話が聞こえていないとは、もう考えられなかった。

「…」

「聞こえてないフリしたって無駄だぞ。」

「…」

「明、お前には関係無いことだ。二階に戻ってろ。」

「…あるし…。」

そこで漸く、扉の前の気配から声が発せられた。

「…そこは何も言わずにそのまま立ち去ってくれよ…。」

「また消すつもりだったの?」

「明…」

「…()()?明くんのお父さん、あなた今まで何をしてきたんです!?」

「…俺の固有超能力、覚えているか?」

問い詰める自分に向かって、先輩は静かにそう尋ねた。固有超能力とは、霊力、妖力、魔力関係の個人だけが扱える能力だ。基本術式が霊力、妖力、魔力を扱える者全員が(個人差はあるが)行使可能であるのに対し、固有超能力は似た性能を持つ事はあれど、全く同じ能力になることはない。

私は、学生時代に先輩の能力を沢山見ていた。応用性が高く、大変便利な能力である。自分だってしょっちゅうお世話になっていた…

「ええ、分かり、ま…?……??」

筈だった。

途中で言葉につっかえたかと思うと、何を言おうとしていたのかさえ思い出せなくなってしまった。

「…えっと…あれ?」

見てきていた…筈だ。さっきまで鮮明に浮かび上がっていた筈の光景が、突然浮かび上がらなくなる。

「おいおい、酷いじゃねえか。お世話になってきた先輩の固有超能力忘れるなんて、なぁ?」

先輩、それ、自分で言うのか…。

「じゃあ、もっと簡単にしようか…明の見た目、とか。」

明くんの、見た目…背が小さくて…いや、これは私から見れば大半当てはまるな。

じゃあ他には…あれ?

「何でもいいぞ?髪色、眼の色、肌色、髪型、服装、仕草、童顔?老け顔?いや、これは人によって意見が別れるな…」

「え、あ…ぁ……?うそ、何で…?」

先輩が何について喋ればいいのかは言ってくれている。だというのに…

「どうして、1個もおもいだせない…?」

先輩の固有超能力にはお世話になってきたはずだ。

明くんはさっきまで見ていた筈だ。

なのにどうして、思い出せないのか。

すぐに忘れてしまう程、何も見ていなかったのか?

頭がグルグルする…

「…なあ秋雨、疲れたんじゃねえか?お願いだから帰ってくれ。」

先輩は、説得できないのか?このまま、実家とかの監視下に置かれるのか?

いきなり退治師界隈を抜け出した先輩には、不名誉な噂が付きまとっている。

そうでなくとも先輩と明くんは、私から見ても優秀だ。実家になんて連れ去られたら、壊れる寸前まで使い潰されるのは目に見えている。

それだけは避けなければならない…のに…

説得できる道が見えない…。

「ちょっと、お父さん!」

その時、自分達が入ってきた扉が再び開くのを感じた。

「…侵入できないように、背景同化以外の結界も張ってた筈だが?」

そうだったのか、気付かなかった…。

「正式名知らないけど、侵入防止の結界でしょ?破れるよ。一々言わなくても分かってるでしょ、お父さん。」

自分を挟んで、親子が相対する。

「あきらくん…」

申し訳なさと情けなさ一緒に、再びよくその姿を見る。

その姿を、再び忘れることが無いように。

黒髪でショートカット、肌は白に近い黄色、眼の色は黒に近い茶色で、腕の長さは肩から腰の間まで、手の大きさは13cmくらいで…

「…()()()()()に留めておいたんだ?」

「ああ、お前の担任だろ?完全に消えたら困る。」

そこで、漸く何をされていたのかを知った。

「…〈特定意識外(それを考えるな)〉ですか…!」

「正解。俺の固有超能力〈特定意識外(それを考えるな)〉自身と、明の容姿を忘れてもらったんだよ。といっても、消滅じゃなくてライトの外においやってただけだったから、明を見て全部思い出しちゃったっぽいけどな。」

記憶のある場所を、図書館に例えよう。記憶は記憶を所持する本人と紐で繋がっている本、スポットライトの当たる先は意識下だ。消滅は本の焼却、ライトの外は本が見えなくなる範囲…つまりは意識外だ。

消滅されれば最後、ライトの外は(きっかけ)さえあれば手繰り寄せられるが、消滅は紐どころか(記憶)そのものが消滅しているため、何を見て感じたとしても思い出せはしない。

勘違いしやすいが、先輩の固有超能力は記憶操作に特化している訳じゃない。

ただし、意識の隅に追いやるという考え方を応用して、記憶をある程度消したり忘れさせたりできるようになっている。

漸く、思い出せた…

「…なあ秋雨、もう分かっただろ?俺は本気だ。本気であそこには行かせられないんだ。」

「私に対してまでそれを使う辺り、かなりマジなのはもう十分伝わりましたよ。」

なぜそこまで頑ななのかも、一部だが聞いたし、自分だってそんな目に会えば、身内を行かせたくはなくなるだろう。

…勧誘止めたくなってきた…。

「今ここで、お前から明の記憶を完全に消して、完全に行方を眩ませる事だってできるんだ。明日には一人空席が出来てるかもな?でもお前はその空席の持ち主の生徒を一切思い出せないんだ。そうなりたくないんだったら、大人しく引き下がれ。」

引き下がりたい…正直とても引き下がりたい…。

でも、もう明くんの志望校の受験日過ぎちゃったしどうしよう…

代わりの高校を探す?

勧誘しようと思って引き留めた生徒が、実は霊も何も見えなくて、勧誘員の勘違いだったという場合には、異界学園のツテで後日入試試験を受ける事ができる。ついでに和菓子が付いてくる。要するに、手間とらせちゃって悪かった、というお詫びだ。

しかし、明くんの場合はそうではない。

親御さんを説得できないなんて、異界学園は視野に入れていない。

できるかできないかじゃなくて、やれ、という方針だからだ。

「…」

「…勧誘は明が最後か?」

黙っていると、先輩の方から声をかけて下さった。

「いえ…今年は例年に比べて霊力を操れる人数が多く…」

「じゃあ最後に来い。」

なぜだろう?

「んな顔にはっきり分かりませんって出さなくても…」

「出てました?」

「出てたし書いてた。」

おかしいな…表情は読み取りづらい方の筈なのに…先輩には昔から読まれてしまう。

「え、これ分からないって顔なの?」

「分からないって顔なの。」

明くんは読めなかったらしい。当然だ、そんなにすぐに読まれてたまるか。

「…あ、ここら辺にいいものが…確か…」

先輩が私の昔のエピソードと共に表情の徹底解説を始めようとしたので、急いで止めた。

ていうかそのアルバムどっから出した!?

「先輩、アルバム開いて態々私の表情講座開かないで下さい。」

「えー…折角アルバム取り出したのに…」

「どこから出てきたんですかそれ…兎に角止めて下さい。」

「ちぇー…」

不服そうな顔と共に、先輩はアルバムを明くんに手渡した。

「自由に見てていいぞ。」

「あ、いいの?やった。」

純粋に嬉しそうに親のアルバムを受け取る子供は、何だか心にジーンと来るものがあって、私の昔の場面を見られるのが恥ずかしいからといって、態々取り上げる気は無くなってしまった。

「…カメラ目線少ない?」

「いつの間にか撮られてるからな。」

「マジか。」

「お陰でカメラに写しちゃいけないものまで写ってるよ…」

冗談抜きで、担任の先生の鍵入れに偽物の鍵を十個くらい混ぜたのは撮らないで欲しかった…。

お陰でアルバム確認した担任に呼び出しくらった…。

「…この写真は?」

「ん?…ああ、寮だな。」

今見ているのは高等部の卒業アルバムだ。明くんが気になった写真は、寮の部屋だったらしい。珍しくて気になったんだろうか?

「…寮が珍しくて気になった?」

「いえ……この三人、似てるのに、一人だけ寂しそうで…」

その写真は、明くんの言った三人をメインに撮られた訳ではない。談話室でお菓子を食べる卒業する生徒が中心の写真だ。でも写真の端で、よく見れば、カードゲームをする赤髪、青髪、緑髪の子供たちが写っているのが分かる。その三人は…

「あー…三つ子だな。」

部屋に入ってきた時、先輩が尋ねてきた三つ子だった。

「みつご…写真越しでも初めて見たな…」

「ああ、珍しいもんな。ただ、青髪と緑髪の二人は一卵性なんだが、赤髪の一人だけは二卵性なんだよ。」

よく似ている二人と、顔の造形が少し違う一人は、一見すれば双子とその兄弟だ。

「そんなパターンあるんだ…寂しそうなのは、一人だけいつも仲間外れだったから…とか?」

三人の子供が生まれた時、その内二人が双子ならば、残りの一人は比較的攻撃対象になりやすい。

「…まあ、そんなとこだな。ただ、三人は仲良かったぞ。」

先輩はそこで区切ると、再度私に帰還を促した。

「ほら、お連れさん上で待ってんだろ?新居楽しみなんじゃねえの?」

「ええ、それでは失礼します…また勧誘に来ますね!」

「来なくていい来なくていい…」

最後に来いって言ったのは先輩なのに…。まあいいや、お邪魔するんだし。次は賄賂にならなさそうな、でも先輩と明くんが喜びそうなお菓子でも持っていこう!

「二階の僕の部屋はこっちです。」

「ありがとう。…あ、直中くん。」

部屋の中でゴロリと転がっている直中くん。側には容器が押し潰されたちゅーちゅーゼリーがあった。

「起きて。直中くん、起きて。」

「う、ぅん?すがわぁせんせぇ?」

寝起きで呂律が回っていないらしい。仕方ない。おぶっていくか。

「ほら原石くん、帰りは寝てていいから、背中乗って。」

「…!いえ、いいです!自分で歩けます!」

おんぶは嫌だったのか、ガバリと起きた。

丁度いいので、そのまま玄関まで先輩と明くんに見送ってもらった。

「どうでした?明くん誘えそうです?」

「いや~、お父さん手強いなあ…」

「母校の先輩ですもんね…ところで、菅原先生の家ってどこですか?」

「今は甥っ子たちと同居してるよ。」

他愛の無い話をしながら、夜樺家を出て三十メートル直進したところで、角を右に曲がった。

「…あれ?それって菅原くんと同居するってことじゃ?」

「玲帑くんと、玲帑くんのお兄さんの逸辞くんがいるよ!」


Noside


「…明。」

夜樺宅にて、灯はこっちに来いと息子に手招きをした。

「なーに?」

灯が示す写真は、高等部の卒業アルバムに張られているとある一枚であった。

「この写真見てくれ。」

灯が示した写真には、老人とも大人ともとれる人物が写っていた。

「秋雨に生きてるか聞くの忘れたが…これは50歳の頃の写真。十年前になるから…今は60歳だな。」

写真の中の人物は、スーツを着て、人のよさそうな表情を浮かべている。

白髪の混じった茶色の髪を後ろで結わえて、左肩から前に下ろしている。髪はネクタイピンよりも高く肩よりも低い位置まで伸ばされていて、後ろに下ろせばそれなりに長いことが伺える。


「ああ、微妙におじさんかおじいさんで悩む年齢。」

「おじっ、www…おん…じょ、女性だw」

「あっ、マジ?いや~失敬失敬。」

誠に大変失礼である。

「ククッw、まあいい、とにかく、この女だけには見つかるな。人のよさそうな表情を浮かべているが、お前にとっちゃ天敵になり得る。」

「?なんで?」

「…まあ、色々あったんだよ。」

そう答える灯の表情は、どこか複雑そうだった。


「そういえば、菅原先生の一人称って私?オレ?」

「あれっ、オレって言ってるの聞いたことあるんだ?アイツ寝惚けてるとオレになるらしい。」

「また道角でぶつかっちゃってさ…」

「その内見つかって欲しくない人とぶつかったりしないだろうな…」

「しない!…ように、努力はする…」

「…不安だ…。」

読んでて勘のいい人は気づいていると思うので弁明させていただきますと、退治師は任務中、年齢とか偽れるようになっているんです。なので、十一年前秋雨は「おっさんじゃない!…まだ24だ!」的なことを言っていますが、当時は15歳です。ビックリ。

それでもヒロからおっさん呼ばわりされたのは、単に身長が高くてそこら辺の大人よりも頭一つぬけていたから。

因みに異界学園には飛び級制度も留年制度もあります。

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