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違法品壊すのはいいが周りに迷惑をかけるな/23番の家庭訪問②

駐車場編若干グロくなったような…気のせいだろ、多分!

注意事項はいつものです!

トイレに籠り、上がった口角を必死に下げる。ヤバい、演技が下手過ぎる。

…かげくん、ちゃんと隠し部屋に行けたかな?暗くて見えなかったりしたら…いや、かげくんは暗い方が得意だな。万が一隠し部屋に人がいたら…まあ、普通はかげくん見えないか。

…心配いらないな!うん!

とはいえ、かげくんがいないと落ち着かないな…常時かげくんに任せている作業をこっちで引き受けることになる。

例えば記憶の整理、かげくんの持つ能力は、記憶保管所という図書館のような場所を作り出して、僕やかげくん自身の記憶を整理、整頓する。それでも僕がクラスメイトの名前を覚えていなかったり、思い出せなかったりするのは、記憶保管所の閲覧権限が、かげくんにしかないからだ。僕がやる記憶の整理は、あくまで記憶保管所に侵入者がいないか見張る程度である。たまにいるんだよな…他人の記憶を盗める奴。

例えば五感の管理、この体は過去の事故で損傷し、霊力で代用された細胞組織で構成されている。そのため、少し油断すると感覚神経が機能しなくなるのだ。運動神経は問題ない。もともと霊力は、術者の意思によって自由に動くことができる粒子だからだ。実体化さえできれば、殴る蹴る程度はお手の物である。

例えば霊力の循環、先程も述べた通り、この体は霊力で細胞を作っている。霊力の循環が滞れば、一般的な人体でいうところの血流停止レベルでヤバいことになる。

…その他諸々、かげくんは色々なことをやってくれていた。かげくんがいない今、忙しくててんやわんやだ。

かげくん以外の影は、諸々の管理ができないことはないが、かげくんの方が信用できる。

「…そろそろ出るか。」

ずっとトイレに居ても、不自然だしな。

そう思って、トイレから出ようとする…が、

「…あれ?開かない…」

ドアが開かない。立て付けは悪くなかったと思うが…じゃあ、何が原因だ?

鍵は開いている。扉の前に、人の気配はない。しかし…

「…これか。」

扉と枠の隙間に、何かドアノブで開閉する以外のつっかえている物が見えた。もっと注意深く覗くため、視覚を与えた薄っぺらに影を隙間に送り込む。覗いてみれば、機械が薄い板をドアと壁に対して平行に、中心を通るようにして差し込んでいて、まるで(かんぬき)のような役割を果たしている。

この機械は施錠装置なのだろう。

施錠装置は赤のLEDライトを点灯させ、機械音を殆ど響かせていない。

「…引っ込めるか壊すか…そもそも引っ込められるのか、これ?」

機械はあんまし得意じゃないんだけどな…そもそも、何で作動したんだよこれ!?

「アンテナっぽいの伸びてるな…遠隔操作?」

リモコンのような物で、施錠装置を作動させたのか?

「…益々怪しいな、この家。」

ここのトイレは、窓がなく、おまけに二階に居れば常に聞こえた筈の一階の喋り声が聞こえなくなっていた。

単に喋っていないのか、それとも遮音性があるのか…喋っていないだけなら、ここから大声で叫べば誰か来るだろう。一度やってみるか。

「誰か!開けてくださーい!」

しかし、数分待っても音沙汰がなかった。家庭によっては、水洗音が不快だということでトイレの壁は遮音性のある材料にする家庭も珍しくないが、ドアと壁には隙間があったため、遮音性があるとは考えづらかった。

僕以上に大きな音をたてている何かがあるのか、誰も動けないのか…

「影に見させてこよ…」

困った時は、これが一番である。

そして、トイレの壁の隙間から、影を出して偵察させる。勿論視覚共有をして。

結果見えてきたのは、一階でものすごい形相をしている菅原先生と、青ざめて平伏している原石くんの両親だった。

原石くんは、それを見ながらニコニコしている。

カオスだ。

それにしても、少し目を離した隙に、随分と展開が進んでいるな…。

「…?」

菅原先生は、こちら…正確には影を見つけて表情を幾分か柔らかくし、口を動かしている。しかし残念ながら、視覚しか共有していないため、一切聞き取れない。聴覚を共有できないこともないが、それは完成した毛糸にもう一本繊維を綺麗に寄り合わせるようなもの。当然時間がかかるし集中力も割くため、体の構成が疎かになる。

…かげくん、マジで早く帰ってきて~!

いや、もしかしたら隠し部屋で僕が来るまで待っているかも?

だとしたら、二度手間にはなるが今視覚共有している方を一旦崩して、視覚と聴覚を共有したものを再構成して一階に渡らせた方がいいか…。

「…それとも音波を発生させて、筆談に変えるよう頼むか…でもな…音波となると見えない奴にも気付かれやすいんだよな…」

いや、待てよ?そもそもそういう学校に行くことを想定して訪問に来ているんだよな?今までの癖で隠すことを前提にしていたが、親だってこういう見えない存在を認知せざるを得ないのだし、特に隠れなくても問題ないのでは…?

そうとなれば、崩す必要はない。霊力で音の波を発生させればそれで伝わる。

「えーっと…菅原先生、今聞こえないので筆談でお願いします…」

小学生の頃の放送室を思い出す。一日限りの献立紹介係。係は日替わり制で、四年生だった頃当番になり、緊張したことを覚えている。僕たちとは違い毎日昼食中に曲とかを流す放送倶楽部の先輩たちがプリントを紙飛行機にして飛ばしたり、こっそり苦手な給食を誰かに食べてもらったり…時折放送を切り忘れて、大惨事になっていたっけ。

そんなことを考えていると、菅原はスマホを手に取り、メモ帳アプリを使って筆談を始めた。

[どこかに隠し部屋があって、人がそこにいるらしい。]

菅原先生は、ちらりと原石くんのお父さんの方を見た。

「…隠し部屋の位置は知っていますが、人がいるのは知りませんでした。今かげくんを行かせています。ところでご両親土下座してますけど、学園の話は纏まったんですか?」

原石くんのお父さんの表情は、相変わらず青ざめていて…いや、にやけている?青ざめながら?

[原石くんのお父さん…坂山源蔵(さかやまげんぞう)さんって言う人を脅し…げふんっ、ちょっと聞いてみたんだ。土下座は多分そのせい…君、今どこにいるの?]

その表情を、菅原先生は見逃さなかったのだろう。何かを不自然に思い僕の現在地を確認してきた。若干声には焦りが混じっている。よく分からないが、土下座は原石くんを預けることに対するお願いします的な意味ではないらしい。

坂山…夫婦別姓なのか、じゃあ原石は母親の姓なのか?

「隠し部屋に通ずる通路がある部屋の隣にある…トイレです。」

[トイレ多いねきみ。]

つい数分前トイレに閉じ籠った方がいい理由があったんですよ…!

「因みに妙な施錠システムが作動していて、普通には開けられません。」

そこで菅原先生は、漸く現状に合点がいったらしい。

[え、待って…閉じ込められてたの?]

「閉じ込められて()()()。現在進行形です。」

[え…マズいじゃん。]

そこへ、原石父…源蔵さんが、話へ割り込んできた。と言っても、源蔵さんが話を捲し立てる様子と、菅原先生が段々と青ざめていくような、真っ赤になっていくような様子しか分からなかったけれど。

[夜樺くん…マズいことになった。]

「元からでしょう。」

[その部屋、いつでも密閉状態にできる上、睡眠、催眠、猛毒ガスを放出可能らしい。]

「…マズいですね。」

ていうかそんなガス、日常で使うトイレに設置するか!?普通!?万が一それ自分が吸い込んだら~とか考えなかったのか!?

換気できるような窓も無いのはガスを充満させるためか…

ガスって息止めてどうにかなるかな…皮膚突き抜けてくるタイプだと流石に効かなきゃ不自然だしな…

ガス放出されたら寝こけてよう。うん、そうしよう。

[普通じゃない方法…ドアや壁だったら壊して出れるのかい?]

「…壁が支柱の役割を果たしていると、最悪隠し部屋にいる人が落ちますね。危険です。時間はかかりますが、ドアに専念してみます。」

そういえば、原石くんさっきからずっと冷静だな。単婚届ずっと持ったまま。あれ?スマホ持ち出してきた。手招きされてる…来てってことか?

「原石くん、どーしたの?」

そう言うと、にっこりしながら、わくわくした表情をしながら、原石くんは、スマホで筆談を開始した。

[ヒロなら毒ガスの一つや二つ、どうってこと無いんじゃない?]

「ヒロは毒に耐性があるってこと?いくら超人的でも、毒は効いちゃうんじゃない?」

[いや、僕も効かないし。結構可能性あると思うよ?]

…マジか。原石くんガスくらったことあるのか。というか、記憶がないのにヒロへの信頼凄いな。

「…でも、何でいきなりその話?ヒロと原石くんが大丈夫でも、僕は大丈夫な自信ないよ?」

嘘ですめっちゃ大丈夫な自信あります。…体を溶かしたりするタイプじゃなければ。

[…本当に?本当に自信ない?]

「うん、僕は普通だし。睡眠ガスならさっきぶつけたところを叩けば起きられるかもだけど…」

[いや、マジで脛はごめん。]

「別にいいって。寧ろ今は役に立ちそうじゃん?…睡眠ガスであれば。」

ガスの強さがどのくらいか分からない今、ガスに抵抗できる理由は適当にでも挙げておいた方がいいだろう。

さて、ガスが放出できる部屋となれば、下手に壊すと変な場所からガスが漏れ出る可能性があるな…となると、地道に施錠機能を解除するのが得策というわけか。

「…そういえば、施錠する機械が見えるくらいにはドアに隙間があるのに、毒ガスは外に漏れ出さないのか?」

毒ガス自体ハッタリ?それとも毒ガスを噴出する時だけ隙間を塞ぐ術がある?

「…今のところ施錠機械は隙間から見えるし…」

[自分の家の便所だけど、それは僕も見たことなかったな…とにかく、今は最悪の事態を想定して、毒ガスがある方向で考えて対策しよう。]

…というか、施錠機械の閂部分を影で切断しちゃえばいい話では?

…うっかりしてたな。

「いや、大丈夫、なんか出れそうだわ。」

[マジかよ。]

とりあえず、影を糸鋸みたいにして閂に擦り付けていく。

閂部分は金属でできているのか、キイキイと不快な音を立てながら削れていった。

数秒後、上方部のみからでは効率が悪いことに気付き、糸鋸をチェーンソーのように変形、閂に纏わりつかせ、内側を削るチェーンソーで閂をゴリゴリと削った。

しかし、ここで原石父…源蔵さんが、リモコンのスイッチを押した。流れ的にトイレのガススイッチだろうな…

源蔵さんは、高笑いしながら何かを言っているようだった。膝立ちしながら、大口を開けて、口角を上げて、手からはリモコンを滑り落とし、舌を饒舌に回す。

きっと一階は煩いことだろう。まあ、何も聞こえないのだが。

おや、菅原先生がもうダッシュで二階に駆けていく…って、僕の所か。

様子が見えなくなってしまったので、影を急いで自分の近くまで手繰り寄せる。

菅原先生は、何やらトイレの扉を叩きながらこちらに叫んでいる様子だったが、一切聞こえない。聴覚共有はしていないのだと何度伝えれば…あれ?

「…もう扉一枚隔てて向こうにいるんだよな…?」

だというのに、声も、扉を叩く音も聞こえない。

よく見れば、扉の隙間も見当たらず、閂も見えなくなっている。

…あれ?ヤバくね?

スイッチを押したら密閉される仕組みになっていたのか…となると、毒ガスっていうのもガチだろうな…。

今開けたところで毒ガスが家中に散布されるだけだ。

だからといって、このままじゃ正体不明のガスにやられる。

ガスが大丈夫って、霊力で身体はすぐに再構築できるから別に死ぬ心配が無いってだけで、普通に苦しいし痛い時は痛いんだけどな…

仕方がない、影で体を覆っておこう。これが一番確実だ。

覆い続けると外界から遮断されるから、どのタイミングで影を解除すればいいのか分からなくなるんだけどな…

「まあ、長時間出てこなければ菅原先生が無理矢理にでも影を破るだろ…いや、その前にトイレのドアを開ける業者さんかな…」

考えている内に、室内にプシューという気体が突き抜けるスプレー缶を彷彿とさせる音が聞こえてきた。本格的に時間は無さそうだ。

「聴覚…ヤバい、通せない!時間がない!」

感覚神経を通すのは苦手なんだよ!

周囲に形成しようとした影は、まだ少しも完成していない。焦りから霊力の操作が乱雑になっていく。

周りが見えなくなっていく。何も聞こえなくなっていく。そして走馬灯のように記憶が…なが、れ…

「…??」

こノ景色何だ?知らないモノばかリ…アれ?今どうなって…

『アキラ!!』


気がつけば、僕はピンクのブランケットを掛けられた状態で寝転がっていた。

「夜樺くん、目は覚めたかい?」

菅原先生のほっとした顔が目の前にある状態で。…いやいや、どういう状況?ていうか菅原先生、そんなに前のめりにならなくても…

「…はい。」

とりあえず、枕になっていたかげくんを解放するために頭を少し浮かせると、頭を上から押し戻され、結局かげくんの膝…?らしき部分にダイブした。

『横になってて。』

「…はい。」

無言の圧力で釘を刺される。

「…原石くんは?」

「キッチンにいるよ。」

菅原先生にそう答えられた直後、横から足音が聞こえてきた。原石くんが、マグカップを持ってこちらに近づいてきていた。

「…あ、夜樺くん、目が覚めたんだ。」

菅原先生が落ち着いているのと対照的に、こちらは緊張した面持ちだ。

「…えっと…お父さんとお母さんたち…逮捕されたよ。」

「あ…えっ…!?」

え、そんないきなり!?いや、まあ…隠し部屋から人が見つかったんだし、普通に考えれば疚しいこといっぱいだよな。

「えっと…それで、謝りたくて…」

「あやまる?」

「色々巻き込んで、本当にごめんなさい!」

「…まきこむ?」

「原石くん、もうちょい詳しく言わなきゃ…」

「あ…えっと…」

そこからたじたじになってしまい、原石くんは何も言えなくなってしまった。しかし、何となく分かってはいた。

「…僕を招待したこと謝ってるのか?きみの両親を逮捕してもらうために。」

「…………うん、ごめんなさい…きみを、我が家の秘密を…ばらすために、利用、してました…。でも、毒ガスは、狙ってなかった…知らなかった!…本当に、ごめんなさい…ッ」

まあ、大体予測はできていた。つい最近まで大して仲も良くなかった人物を、家にあげるだなんて、普通は考えられない。おまけに影越しに覗いたあの笑顔…あの状況になることを望んでいたかのような笑みだった。

ただ、僕が隠し部屋に辿り着くのではなく、トイレに閉じ込められることだけが予想外だったのだろう。

「夜樺くんを家に招待できたのは、本当にまぐれって感じで…居てくれた方が、今までと違って、ちゃんと解決できるんじゃないかって…」

今までと違って…ってことは、これまでにやったことがあるのか。同じようなことを。

「…今まで、家庭訪問の度に、先生にそれとなく合図を送ったことはあった…最初は、小学一年生の頃。父親がトイレに行ってる隙に、先生を隠し部屋に連れていって…でも、先生はその後見つかっちゃって…僕も罰を喰らう羽目になっちゃった。」

原石くんの顔色は、その日のことを思い出したせいか悪くなっていた。

「オーケー分かった。それで間接的に、自分が導かずとも隠し部屋が発見されるように仕向けた…合ってる?」

カタカタと震え始めた原石くんに、起き上がってブランケットを譲る。そうすると、ブランケットの中にある原石くんの腕が僕を掴んで、僕も一緒にブランケットに包まれることになった。

「…ゑ?」

母親の袋に入ってる子カンガルーの気分…

と思ったが、意外と抱き締める力が強く、まだぼーっとしていた頭を覚醒させた。ぐえぇ…

『…アキラ、大丈夫そ?』

「うん…大丈夫、だけど…いきなりどうしたの?」

「いや、()()助けてもらったな…って。」

…また?

「僕、前にも何かしたっけ?」

「うん!…覚えてない?」

「覚えてない。」

「嘘でしょ…クラスメイトの名前忘れててもこれだけは覚えてる自信あったんだけど…」

えー…という気の抜ける声が耳元から聞こえる。え、本当に僕何した?

「いや、じゅう…」

『アキラ。』

何か原石くんが言いかけたのを、かげくんが遮った。

「かげくん、原石くん何か言いかけてたんだけど…」

『この後俺らの家の家庭訪問だよ?これ以上時間喰っていいの?』

そう言われて、僕ではなく菅原先生が焦り始めた。

「ヤバい!!今午後二時だ…」

意外と滅茶苦茶寝ていたらしい。トラブルに巻き込まれた時間は、せいぜい体感三十分かそこらだというのに…一時間半以上寝てたな…。

「急いで向かいましょう…原石くんも来る?」

「あ…うん。…ねえ、明って呼んでもいい?」

一瞬原石くんは口を噤んだ後、僕に下の名前で呼ぶ許可を求めてきた。その間、かげくんがまた言葉を遮る準備をして止めたのを見かけて、何をやってんだアイツ…と思いながら、原石くんに向き直った。

「いいよ?」

「やった!」

許可をすれば、無邪気な子供のように喜んだ。いや、実際子供か。無邪気かどうかは置いといて。

「…行こっか、二人とも。」

菅原先生のこちらを見つめる目は優しい。いつか街中で見た、幼い子供を見つめる保護者のようなとびっきり優しい視線だ。

「…何で保護者みたいな視線なんですか…」

「あ、言い忘れてたね。学園に入学するまで、暫く直中くんは私が預かることになったから。」

だから実質保護者だよ。という発言に、かげくんは衝撃と、そうじゃない、という何処からともなく溢れてくるツッコミを飲み下したという。言っちゃえばよかったのに。

玄関に来て、靴が来た時に脱いだ位置よりも遠い気がして、試しに片足を伸ばしてみたけどやっぱり届かなくて、忘れていた脛の痛みがジンジンと響いて、バランスを崩してかげくんに抱き抱えられた。

「警察が来た後、源蔵さんは暴れながら連行されていったからね。靴がバラバラになっているんだよ。」

菅原先生はそう言った後、長い足を活かして自分の遠くに放られた靴に足を通した。

原石くんは自分の靴に足を中途半端に入れて、靴の踵を踏まないように足の踵を浮かせて、パタパタと靴音を立てながら、僕の靴を揃えて近くに置いてくれた。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

菅原先生がニコニコしながら見ている。…どこまで計算してたんだ、この人…。

ちゃんと靴を履いて…帰路につく。

普段通らない、つい数時間前に通った道。某便利店は…はてさて、いったいいくつあったっけな?

「…あ、駐車場。」

行きに散々聞いた、金属同士が衝突して変形する音が、少しずつ、件の駐車場に近づくに連れて大きく耳に入ってくる。

「…え、車壊してる音だったの!?」

行きの時の事情を知らない原石くんは、直接見た今気がついたらしい。

「うん、菅原先生曰く、違法品だから問題無いんだと。」

「実際、法律的に()問題無いんだよ。」

……他に何か…あ!

「持ち主とのトラブル?」

「正解!」

そう言われて、頭をグシグシと撫でられる。少し伸びた前髪が目に入りそうになって目を瞑る。視覚からの情報が無くなり、かげくんとはまた違った撫で方に少しぼーっとしていると、金属音にも勝る、怒声が響いてきた。

「おい!!!!何だコレは!!!??!!」

声に反応して目を開く。

怒声の直後、菅原先生と原石くんがビクリと体を震わせた。頭を撫でていた手を離し、菅原先生は駐車場の方に向き直った。

「…持ち主のお出ましだね。」

状況を説明するように、菅原先生がそう言った。

「違法品を破壊しています!」

「ふざけるな!!!人様の物を勝手に壊していいはずが無いだろう!!!!」

原石くんがスマホで警察に連絡しようとしていたので、急いで止めた。

「原石くん、ちょっと待って。」

「な、何で!?今凄く危ないじゃん!」

「両方興奮状態だし、どっちも警察沙汰は望んでいないんだよ…えっと、バット持ってる人…名前…忘れたけど、その人は妹さんがあの車のせいで体調悪化させてて、自分で車を壊したくて…それで今あれだから、今から警察は不完全燃焼になると思う!」

「暴力沙汰になったらどうするの!?持ち主がバットで殴り殺されるかもよ!?」

確かに、周りに一般人しかいなければ、警察を呼ぶのが正解だろう。ただし、それは暴力沙汰を止められない一般人しかいなかった場合に限る。

「…ちょっと言ってくる。」

要するに、人を殴りそうになったら影で庇えばいいのだ。()()でも流石にそれくらいはできる。

「え、待って、嘘でしょ明くん!?」

「夜樺くん、流石に教師として止めさせて。」

二人はノリノリででしゃばろうとしていた僕を止めた。

「家庭訪問、これ以上長引くのは、ちょっと流石に飽きてきてるんですけど…」

「本格的に家庭訪問したの私だよ!君は殆どトイレにいたよね!?しかも一時間くらい寝てたよね!?」

それはそうだが、家に帰ってゴロゴロしていたいんだ…

「かげくん、おんぶして…」

『霊力の無い人から見たら宙に浮いてるやつになるでしょ、ダメ。』

ここで、間違っても脛が痛むなどとは言ってはいけない。そんなことをすれば、かげくんの過保護モードが発動するからだ。

「あっ、脛が痛む?だったら僕がおんぶしよっか?」

…言わなくても過保護発動しているやつがいた…

「いや、脛は大丈夫…単純に歩くの飽きただけ…」

「遠慮しないで!僕の家に来たせいで…色々と疲れたでしょ?」

…否定はしないけど、大して原石くんの家でのダメージは無いんだよな…かげくん側にいるし…。

「いや、別に原石くんの家のせ…」

『アキラ、!』

何か銀色の物が先程強く打ち付けた脛に飛来して…ポキン、と足のそれが、小気味いい音を立てて折れた。

小気味いい…だと少し語弊を生むかもしれないが、僕の場合は痛覚が甘い時そんな感覚を抱くのだ。

完全に曲がる筈の無い場所が、曲がるようになる音。他の人の骨の音は聞いたことがないが、きっともっと違う音がするのだろう。僕の場合は、菅原先生がいったように、きっと骨密度が低いから、参考にはならないんだろうな…骨折した時の音が、ASMRよろしい音だなんて。

あ、いや、聞いたことあるな、他の人の骨折音。ゴキャンって感じだった気がする。直後に、骨の周りの器官のあちこちに折れた骨が刺さるブチブチ、ぐちゃぐちゃという音がする。これ聞くとなんか頭が痛くなってくるんだよな…

「あ、かげくんナイスキャッチ。」

今回もその器官に骨が刺さらずに済んだのは、かげくんが支えてくれるお陰である。

「え、まって、明くん、救急車…!」

「待って待って待って!救急車はダメ!お父さんがちょっと特殊な方法で治せるから!!そっちにするから!」

救急車なんて呼んでたら、益々帰りが遅くなるじゃないか!

「…夜樺くん、そのお父さんがどのくらい信頼できるのか知らないけれど、先生はこれからあの人達に()()があるから、救急車呼ばないんだったらまた死角に居てくれる?原石くんと一緒に。」

あー…口角が上がっているのに…口では笑っているのに…ってやつだな。

「分かりました。原石くん、あそこ…さっきの曲がり角にいよう。」

「う、うん…」

原石くんは青ざめた顔で二回縦に頷いた。

あーあ、菅原先生が変な笑い方するから、原石くんが怯えちゃった。

『アキラは足動かさないでね。運ぶから。』

「うん、ありがと。」

それにしても、移動が不便だな。

かげくんが持ち上げてくれるから足こそ引きずっていないものの、咄嗟にかげくんの腕が差し込まれた脇に僕の全体重が集中して、先程から血流が滞っていた腕が若干痺れてきた。

腰から下の痛覚は遮断しているが、腰から上は健在だしな…。

「かげくん、腕しびれちゃった…」

『あとちょっとで死角に着くから、もうちょい我慢して。』

「はーい。」

かげくんの言った通り死角にはすぐに到着した。しかし会話が途切れてしまい、大人の会話…もとい車の持ち主と、違法品を壊した人と、僕らの教師の話し合いが始まった。

先程脛に飛来してきた銀色の物体の正体は、金属バットだったらしい。車にぶつけても全くひしゃげていないそれは、きっと特殊な加工がされているんだろう。ダイヤモンドコーティングかな?

そんな硬度の物が足にぶつかってしまえば、一溜りもない、というわけだ。

金属バットで足が折れた後、そのまま皮膚を突き破っていかずに跳ね返ったのは、大して投げられた時の威力がなかったからなんだろうな。

「本当に骨密度が雑魚…」

「僕がヒビ入れたせいでもあるんだろうけどね…ごめんなさい…。」

「大丈夫だよ、実は痛覚をかげくんに遮断してもらっているから。」

「え、かげくんが…?え?」

いきなりの事で、頭が追い付かなくなったらしい。まあ、普通の人はかげくんがいないので、痛覚のみ自由に遮断する経験なんて滅多に無いんだろうな。

僕だけで痛覚を引っこ抜こうとすると、別の感覚神経まで抜けちゃって…大変なんだよね…。しかも感覚神経抜けた後、自分じゃ再度挿入できないし。

かげくんが担ってくれる役割は、本当に大きい…

『アキラ、菅原先生がお話終わったっぽいよ。』

「あ、意外と早い…。」

「さて、夜樺くん、原石くん、ちょっと急ぐよ…!」

そう言って菅原先生は、何故か僕の足に添え木をくっ付けて手持ちのハンカチで固定した後、僕と原石くんを両脇に抱えて僕の家まで全力疾走した。

「菅原先生、いつから筋肉キャラに…」

「折角の高身長なんだ!活かさなきゃ意味ないだろ?」

あんたもう既にメンタリストっていう特殊設定が…いや、今のところメンタリストというより話術を駆使して相手を丸め込んだり操ったりしているだけだな…。

「…筋肉キャラ、爆誕…」

敢えて言おう。注意が逸れるように。

「何か嫌だなぁ…頭脳系がいいんだけど。」

「と言っても、今のところ菅原先生は筋肉キャラですよね…」

「原石くんまで!?」

接触行為は、リスクがとても高いから。

リスクが高い…どういう意味なんでしょうね!w

私は登場人物も読者も欺くスタイルです

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