幕間~ハロウィン~
やべーな、r18かもしれん。
r18だめな人は、過去編すっ飛ばしてくれ。
今日はハロウィンだ。
「トリック・オア・トリート!」
「はい!チョコレートだよ~」
「わ~い!」
といっても、僕自身には関係のないことだ。
10月31日がハロウィンだということも、登校中に仮装をした子供がやたらと多いことでやっと気がついたくらいだ。
「…かげくんは年中仮装しっぱなしだなw」
全身黒タイツならぬ黒靄。生者よりもおばけに近く、仮装どころかいつも本物のおばけだ。
『お?どういう意味だ?顔つくったろか?』
勝手に喧嘩を売っていると解釈して、普段は靄がかっている顔をはっきりとした造形のものに変えていく。これを見るのが楽しい。
黒い靄は形を持っていく。長い髪に、そこそこ整った鼻筋、つり目のようだが優しい目元。
「…色は?」
『焦らないでよw…これからつける。』
そして全体的に黒かったその姿は、まるで絵具でも垂らしたかのようにみるみると色づいていった。
『…よし!できたよ~。』
「お~!」
髪は白く、肌色は黄色がかっていて血の気も感じられる。目は太陽のような火の色が光っている。
ハロウィンは僕自身には関係のないことだ。しかし、かげくんには関係のあることだ。
「きれいじゃん!毎日それで過ごさないの?」
『アキラ以外には見えないし、第一、アキラが…!』
「…?…どうしたの?」
急に俯いて黙り込んだかげくんの表情を伺おうと顔を覗けば、そこにはもういつも通りの真っ黒な靄があるだけだった。どうやら変身を解いたらしい。
『…何でもない。』
そう言って、かげくんは影に潜ってしまった。
「いや、絶対なんかあるじゃん。そこまで言ったなら言えよ。」
そう問い掛けても、答えは返ってこない。外に出て喋ってくれる気分では無くなってしまったらしい。
ハロウィンはやはり、意味のないものだ。
おかしは好きだが、僕の家にはそういったご近所付き合いがないため、くれる人なんていない。
ハロウィンという文化は、保育園で知った。ハロウィンでおかしがもらえるということは、小学校で知った。
小学一年生の時、担任が気さくで、教室でハロウィンパーティーを開いた時に知った。
そこでおかしをもらった。どこにでもある市販の、でもハロウィン用の小包に入れられたそれは、当時の自分にとっては宝物でももらったかのような感覚がした。
カボチャと魔女と、おばけとお墓のポップなイラストが付いた、かわいらしい小包。その中に入っていたおかしはチョコレート。生チョコが固いチョコの外壁で包まれていて、口に入れて噛み砕くと、不思議な食感がした。
甘くて美味しい思い出。
「…チョコ食べたいな…」
家に今おいてあったっけ?いや、そういえばプラゴミにお徳用チョコの大袋が捨ててあったな。お母さんがお徳用のを全部食べたんだろう。
「…週末の買い物まで我慢だな。」
「ハッピーハロウィーン!」
そんなことを悶々と考えていると、すぐ前の方から大きな明るい声が聞こえてきた。
「今日は年に一度のハロウィン!さあさあおかしはいかが?代金は合言葉一つだよ!」
カボチャ頭を被った人が黒いマントを羽織って、おかしの小包がたくさん入ったカボチャの籠を持っている。
足元には子供たちがたくさんいて、自転車に乗った人が歩道から車道へ移る場面も見られた。
子供たちは「トリック・オア・トリート!」と口々に言い、カボチャの人から小包を貰っていた。
欲しい…けど、学校には持っていけないからスルーを決め込んで学校に向かった。
教室の後ろの扉の手前に立てば、ハロウィンの常套句が聞こえてきた。誰が誰にあげたのかは知らないが、おかしを渡し終わったであろうタイミングを見計らって教室に入る。
なるだけ音を立てないようにと思ってゆっくり開けても、音は鳴ってしまうもので…
「…」
「「…」」
教室の後ろにいた人達にはすぐに気づかれ、慌てておかしの袋を隠したのが分かった。
「…」
ここで、下手にフォローするなんてことはしない。一昨年の二の舞を演じるなんてごめんだからだ。
【僕別に先生に言わないよ。】
別に僕に対しておかしを隠さなくても大丈夫だよ、という意味合いで、そう声をかけた。
【…】
(声小さかったかな?伝わらなかったかな?二回も言いたくないよ…)
通りすぎるまで無反応だったから、突然声をかけられてビックリさせてしまったのだろうか、それとも、そもそも声が届いていなかったのだろうか…とも思ったが、そんな気遣いは不要だったようだ。
【アイツ、何独り言いってんだろw】
【…】
後ろから放たれた凶器が、背中に突き刺さった気がした。
(言わなきゃよかった喋らなきゃよかった黙ってればよかった、一生発言を縛る道具とか無いかな…)
いつも余計な発言で、空回ってばかりだね。
確かに僕も、仲良くないのに喋りかけたら誰に言ってんだよって話だよな…と言った直後に理解しつつ、あれは本当に地獄だった。その日、一日中周囲の視線が気になって仕方がなかった。
そんなことがあったから、僕は特に何も言わず、いつも通り席について机の上に腕を組み、背中を少し丸めて頭を埋めた。
いつでも寝れる。寝ているように見える。周りも自分も緊張しない良い姿勢。
話しかけづらいことこの上ないが、僕には話しかけてくれる相手がいないから問題ない。授業はきちんと起きているから問題ない。
「…あれ、寝た?」
そんなことを考えながら、意識もぼんやりしてきた辺りでそんな声が聞こえた。
「こいつにも配るんじゃないの?」
「起きて~!」
ここで下手に起き上がるなんてことはしない。おかしを貰えたらいいが、そんなことは絶対に無いからだ。
【起きて~!】
(さっき扉の近くにいた子達だ…それと、さっきはいなかったけど、よく大きな声を出してる子もいるな…僕に言ってるのかな?起きた方がいいかな?)
【…】
そして僕はゆっくりと、頭を上げた。
【あ、起きた。今日ハロウィンだからさ~】
でも、実際は違くて…
【ほらほらサハナちゃん!トリック・オア・トリートって言って?】
僕の後ろにいる転校生に、話しかけていただけだった。夏休み明けに転校してきた彼女は、もうすっかり教室に馴染んでいた。
僕とは違って。
【と、トリック・オア・トリート!】
【はい、どうぞ~!】
そりゃそうだ。仲良くしようなんて努力は、したことはあってもほとんど空回りした。小学校で、やっと仲良くなれた子が転校していってからは、かげくんにいつもくっついて、努力さえもやめた。
全部が無駄に終わった時、これ程虚しいことは無かったから。
【ていうか、こいつも起きたんだけど。】
【自分が貰えるかも~とか思ったんじゃね?】
【キショw】
僕はもう一度机に突っ伏して、朝の会が終わるまで、顔をあげられなかった。
朝の会の時に、先生がおやつを持ってきていないかチェックをし始めて、僕だけが引っ掛からなかった。僕だけが持っていなかった。
優越感が湧いて、孤独感や虚しさは、次第に麻痺していった。
下手に起き上がるなんてことはしない。今この教室に転校生がいなくたって、彼らの仲のいい子達なんてたくさんいる。
「おーい、先生そろそろ来ちゃうよ~!」
「起きろって!どうせお前、今年もこの雰囲気で空気になるつもりで、一個もおかし持ってないんだろ!?」
机に反響して、教室全体の音が近くで聞こえる。おかしを包みから取り出して食べる音。おかしのお礼を言う声…
そして、おかし配る人達の声。僕とよく似たやつもいるんだな…
「早く起きて廉夏!」
なるほど、青柳廉夏くんか。たしかにおかしを持っているイメージは無いな…。
「…ほっといてよ…甘いもの好きじゃない…」
寝起きの声で、不機嫌な声が聞こえた。
「「…」」
おかしを持っている人達から気まずい雰囲気を感じた。貰えるものでも貰わないんだろうか?家族にあげればいいのに…それとも、家族も甘いもの好きじゃないのかな?何にしても、断り方にトゲがあり過ぎだ。これじゃ人は離れていってしまうと思う。
「…じゃあ、こいつはスルーで、今渡してないのって誰だっけ?」
「50個入りで、今廉夏がいらないって言ったから、余りが10個になる…はず?」
「…11個あるな。」
あ、41人分マイナス1人…クラス全体に配るつもりなのか。だとしたら僕から行くべきなのかな?
「…あと配ってないの、誰だっけ?」
「…あ、ヤバい。もうそろ笹堅来る。」
しかし、そんな間も無く笹堅先生が来る時間になってしまった。いつもは時間きっかりに来ることなんて無いのだが、こういうイベントがある日は別だ。
理由は…去年の笹堅先生を知る生徒達ならば知っているだろう。
「ヤバッ来た!座れ座れ!」
「みんな!あげたやつ急いで食べちゃって!」
おかしを配っていた子達が笹堅先生がこちらに向かってくるのを確認し、急いで着席を促す。
「…おはよー」
「「おはようございます」」
そして、笹堅先生が教室の扉を開けるギリギリのタイミングに、なんとか全員着席したのだった。
「それじゃあ朝読書…といきたいところだが、ついさっき、一年生のクラスからお菓子の袋が出てきたらしくてな…先生もやりたくないんだが、急遽身体チェックをすることになった!」
笹堅先生の表情は…とても口角が上がっていて、目元がうっすらと開いていた。俗に言う、ニヤニヤしている状態。
「それじゃ、先生が呼んだらこっちこい。」
「「…はい…」」
対照的に生徒達は、遠い目をする子もいれば、真っ青に青ざめて、ガタガタ震える子もいた。
「じゃあまずは…桜音妻さん。」
「はい…」
呼ばれる順番は番号順ではない。先生が目を付けている生徒からだ。
「ポケット裏返して。」
「…」
桜音妻さんは、震える手でポケットをひっくり返した。ポケットからは、一つの個包装が出てきた。さっき食べてなかったのか…
「後で生徒指導室な。他には?」
「ありません…」
「信用できないな。」
「ごめんなさい…」
おかしは先生に没収された。しかし笹堅先生は、おかしが複数あることを疑ってか、解放するつもりは無いらしい。まあ、こればかりは自業自得なので、本来ならば自分でどうにかしてもらいたかったところである。
「それじゃ、ちょっと教室を変えようか…」
一層笹堅先生の笑みが深くなった。僕は去年、笹堅先生が副担任のクラスで、ちょっとした誤解により生徒指導室に行ったことがあるため、その笑みの意味を知っている。
去年の担任は、少しだけ子供心の分かる先生だったが、副担任は子供心どころか、自分の性欲優先で、持ち物検査で二列に別れた時に、必ずと言っていいほど列の人数に偏りが出た。勿論、担任の列が圧倒的多数だった。
しかし僕は、そんな噂を一切知らなかったため、ハロウィンのその日まで、ずっと笹堅先生の列を利用していた。
並ぶ人数が少なくて、すぐに席に戻れたから。
【ちょっと今日は、番号が30番以降の生徒は笹堅先生の列に並ぶように!】
【【え、!?】】
あの時は、少しだけ同情した。すぐに無駄だったと気づかされたが。
【…夜樺くん、このゴミは何かな?】
担任の先生が、僕の机の下から、どこにでもありそうな個包装を拾い上げた。
【え…?】
【こういうのは、学校に持ってきて食べちゃダメって、昨日先生行ったよね?】
当然ながらその年だって、僕はおかしを貰ってなんかいなかった。大方、誰かがおかしのゴミを僕の机の近くに落としたんだろう。
【違います、食べてません。】
【ゴミが落ちてるでしょ?】
【今気がつきました。】
【そうやって周りへの配慮が欠けているから、君はいつも一人なんじゃないかな?】
担任は、子供心が分かる先生を、演じていただけだと、知ったのは、この時だった。
【大人になった時困るよ?】
【…そうですね、そうかもしれません。】
段々と、目の後ろが熱くなってきた。心臓辺りがヒリヒリしてキュッとする。
【…放課後、生徒指導室で反省文書いてね。】
【何についてですか?】
思考が纏まらなくなって、反省文を書かされそうになって、反省文を書くほど何をやらかしてしまったのかも分からなくて、先生に聞いた。
【はあー…自分で少しは考えてみたら?】
返ってきたのは、答えではなかった。
何をしたっけ?
ゴミが落ちていて、気づけなくて、拾わなかった。
ゴミが落ちていて、拾わなかったことについて書けばいいよね?
しらばっくれるな!とか怒られたりしないよね?
誠心誠意謝れば許してくれるよね?
まだ僕が食べたって勘違いしてないよね?
そんなことをグルグルと考えていた気がする。
【…それじゃ、後で生徒指導室な。】
笹堅先生は、笑いながらそう言った。
放課後になって生徒指導室の場所へ向かうと、中から複数人の声が聞こえた。
その声が反省文を書いているにはどこか不自然な声で、珍しく扉のガラスもカーテンで遮られ、見えないようになっていることに気づけなかったのは、完全に僕のミスだった。
ノックをして、生徒指導室に入る。
【失礼します。】
僕は普通に、生徒指導室へ入って、中で何が行われているかを認識した。
【…と、来たか夜樺くん。】
【だず、けで…ッ!も、いやぁ…!!】
聞き慣れてはいるが、決してここで聞くはずの無い音が、見るはずの無い光景が、広がっていた。笹堅先生が、生徒とことに及んでいた。
【うわぁ…】
しかも、生徒は一人だけではなく、他にも五人程いた。五人とも怯えたままそこから動いてはいなかったが、顔色は青く、正気も保っているようなので、こちらはまだセーフだったらしい。
笹堅先生は、口角が上がっていて、目はうっすらと開いていた。
法律違反だったので、その日は反省文を諦めて、職員室の電話を勝手に借りた。
【いちいちぜろ…っと、】
【ちょっと君!?何してるの!】
その後は、警察が来て生徒達の介抱。笹堅は厳重注意を受ける羽目になった。
よって、あの顔は結構ヤバい合図である。
因みに青ざめていた五人は、成績を稼ぐチャンスを奪われて、大層ご立腹でした。
「かげくん…」
『ヤダ』
協力を求めてそう呟いたが、かげくんは協力を拒否した。
「何でだよ、いつもなら真っ先に助けにいくのに。」
『逆にアキラは、いつもより積極的に助けようとするね。』
僕、いつも人助けには積極的なんだけど…
「嫌がってるじゃん。助けたって大丈夫だよ。」
『君は、去年何があったのか忘れたの!?』
忘れるわけがない。昨日まで忘れていたかもしれないが、この日になれば嫌でも思い出す。
あれはいけないことだ。だから積極的に助けたんじゃないか。
「生徒をその…もにゃもにゃしてたね。」
『その濁し方ヤメロ!?内容と効果音のミスマッチが酷過ぎるよ!?…俺は助けるやつは選ぶ。アキラみたいに、誰かの願いを取り入れようとするのとは…違うんだ。』
かげくんの声は、段々と萎んでいった。
それは知っている。かげくんは、僕のためになるように人を助けている。
かげくんは、僕を守ってくれる人が、なるべく多くなるように、人を助けている。
かげくんは、僕の情操教育のために、人を助けている。
「まあ、助ける基準は人それぞれか。」
『待って、何する気な……ッ!?アキラ!!』
「あいつ、マジか…」
「…あ、海藤!夜樺くんだよ。おかし配ってなかったの。」
「あ、マジだ。夜樺には配った記憶ねーな…」
視界の外から、クラスメイトの声が聞こえた。
かげくんの制止を振り切って、笹堅先生たちが移動した部屋に影を送るため、僕は移動した部屋の扉の前に立った。
移動した部屋は、向かい側の教室で、現在は倉庫みたいになっていたはずだ。
向かい側の教室は、鍵がかかっていた。
影だけならば中に入るだなんてちょちょいのちょいだが、僕が教室の中を見れなければ操縦はできない。つまり影に全て判断を委ねるオートモードに切り替えるしかなくなる。
しかし、かげくんのあの嫌がりようから、他の影も桜音妻さんを助けない可能性がある以上、それはできれば避けたい。
扉のガラスは去年同様見えなくされていたが、僕の耳は、散々聞き慣れた音を意識せずとも拾った。
いよいよ中身で何が行われているのか、見えはしないが想像が容易になってきたな…
「あのー、笹堅先生?」
ノックをしてから、そう呼び掛ける。
数秒して、扉の鍵が開く音がして、扉も開いた。
「…桜音妻さん、何で服装違うの?」
「脱がされたのよ!変わったんじゃなくて!」
扉を開けたのは、桜音妻さんだった。
服着てからでよかったのに…
「服着てからでよかったのに…」
「夜樺くんの心と口が一致している気がする…」
「僕は意味の無い嘘は吐かないよ。」
そして扉に手をかけ、もう一度閉めようとした。
「…服着てからでいいってば。恥ずかしくないの?思春期じゃないの?寒くないの?」
「…」
しかし、それは桜音妻さんに阻まれた。なんだ?
「…一人で着替えるの…こわい、から…いっしょにいて?」
本当に不安そうな表情だと思った。なんだろう?思春期じゃないのか?いや、人それぞれか…
「そういえば、笹堅先生は?」
「ッ!」
桜音妻さんの表情が強張った。不安そうな表情はそのままだが、そこに焦りも混じったような…
「とにかくこっちに入って!」
「うわわっ」
いきなり引っ張られて前のめりになる。前に倒れないように、ギリギリでかげくんに支えてもらったが、不自然な体勢でずっと留まるのは、目に見えないものを晒すに等しいため、適当な速度で倒してもらった。
結果的に、教室に入ることになった。
「危ないんじゃない?桜音妻さん。」
「…ごめん」
謝ったのでよし。でもなんか納得いってないな…何だろう?
「ねえ、何で…」
「夜樺くん、君はまた…先生たちの邪魔をしたんだよ。」
その声は、すぐ後ろから聞こえた。
振り向く前に頭に強い衝撃を受けて、星が散った。
気絶する程では無かったが、遅れて痛みがじんじんとやってくる。
…殴られた?いや、それだけだとしたら…
『アキラ!!ッ血が…どうしよ、塞がなきゃ…ッ』
「せ、先生、やりすぎでは?」
頭から血なんて出ないだろう。
…でもどうだろう?鍛えてる人に殴られたら出るかも?
「でも、気絶はしない程度だ。そうだろう?夜樺くん。」
まあ、笹堅先生は手に机を持っていたけど。
「…そーですね…」
まだ頭がガンガンする。たんこぶ確定だ。
「じゃま…でしたか…」
「そうだよ?去年同様、君は先生たちの邪魔をしたんだ。」
去年、確かに僕は笹堅先生の私欲の邪魔をしたんだろう。当時助けたつもりだった生徒たちからは、批判だって浴びた。
『アキラ…彼女はね…』
つまり、桜音妻さんも合意の上だったというわけだ。
「…なんだ…そっか…ごめんね、おとづまさん…」
「ッ…本当に、いい迷惑よ!今回も…前回も…!」
『…去年、君が助けて、その厚意を無下にした生徒なんだ…。』
去年いたのか。全く覚えていなかった。
「というわけだ。君は早々に出ていってくれ…と言いたいところだが、君はまた同じ過ちを繰り返しそうだね?」
「…」
全くもって否定できない…そもそも、なんで桜音妻さんは笹堅先生と?どこに惚れたんだ?
…いや、惚れるポイントは人それぞれか。
「今後気を付けます、としか言えませんね…合意の上での合法ハーレムは予想外でしたし…」
「「『??????』」」
『ちょっ、アキラ?何がどうしてそうなったの?』
「よければハーレムメンバーを顔写真と共に教えていただけません?そうすれば、笹堅先生と行為に及んでいても、何もしませんから!」
『アキラ、ストッ…』
「今時少子高齢化解消のために、政府も性犯罪への取り締まりは緩和してきている時代ですもんね!ハーレムだってそりゃありますよね!理解がなくてすみません。」
『アキ…』
「夜樺くん??」
「本当に、わざと合意の上での行為を邪魔するつもりは無くて…本当に申し訳ありませんでした!!」
『アキラ!!』
「夜樺くん!!」
かげくんは、大声で僕を呼んでいた。しかし、不自然に会話を止めるのはマズイので、そのまま続けた。桜音妻さんの声は、また責め立てられるんじゃないかと不安で、謝罪の言葉を止める気にはなれなかった。
ようやく謝罪の文言が尽きたところで、僕が頭を下げたまま、教室が静まり返る形となった。
「…顔を上げなさい、夜樺くん。」
「…はい。」
顔を上げた時の笹堅先生の顔は…
「そこまで反省しているというのなら、私も多くは罰を与えないでおいてやろう。とはいえ、何も無しでは世の中通らない。そこで…」
「…ヒッ…!?」
「君には、先生なりの教育方をちゃんと見ててもらうよ。」
醜く歪んでいるように見えた。
…桜音妻さんの表情が、ひきつっているように感じる。本当に合法ハーレムなんだろうな?
「見る…ですか?教育方?」
「ああ、先生はね…快楽で体にやってはいけないことを覚えさせ…」
割とアウトだお。影に拘束させるお。
「…え、あれ?体が動かない…」
これで笹堅先生は暫く動けないし、どうして動かないのかなんて周りには分からない。
「…AV観賞は興味ないですね。先生も体にガタが来ていらっしゃるようですし、僕は遠慮指せていただきます。失礼しました。…桜音妻さんは?」
「あっ、私もお暇させていただきます!失礼しました。」
そうして、僕らはその部屋をあとにした。
「…っいて…」
部家の扉を閉めると、緊張感からか頭痛が襲ってきた。痛む場所を押さえようとした手は、届く前に前のめりに倒れた自分の体を支えるため地面に付く羽目になった。
「あッ、ごめん…ごめんなさい、ごめんなさい、本当に…ごめんなさい…」
桜音妻さんは、血相を悪くして必死に謝っていた。
「あ、出てきた…って、何!?どうしたの!?」
「みさきちゃっ、どうしよ、よかくんの血がッとまらないのぉ!!」
向かい側の教室から、先程おかしを配っていた子が慌てて聞く。桜音妻さんは泣きそうでパニックになりながら、必死に現状を伝えようとしていた。
「…血なんて出てないよ?」
「…え?、」
しかしおかしを配っていた子は、僕の頭を見て、不思議そうにそう言った。
僕も頭を触ってみるが、手に血が付く様子はない。かげくんが血とか騒ぐから、てっきり出ているのだとばかり思っていた。
きっと、二人とも気が動転していたんだろう。
「あ、そうなんだ。じゃあよかった。」
「なんで血が出てるなんて思ったの?」
「だ、だって、笹堅先生が机を持ち上げて思い切りぶつけたから…」
「…ふぁ??」
僕は衝撃を受けた頭の部分をもう一度確認する。
手に血が付く様子はなし。押しても痛くはない。先程の立ちくらみも嘘のように、最初から頭に打撃なんて受けていなかったかのように、全ていつも通りになっていた。
「病院行った方がいいよ!?なんで夜樺くんそんなことに…いや、想像はついたわ。ごめん。」
「…本当にごめんね、夜樺くん。」
「いや、いい。邪魔した僕も悪いからな。」
かなりプライベートな範囲に踏み込んでしまった気がする…
「邪魔じゃない!邪魔じゃなかった!…本当に、ごめんなさい…」
?
よく分からないな…多分あれ、反応的にハーレムではないんだろう。
ハーレムじゃないとしたら、恋愛ではなく双方にメリットが成り立つ取り引き関係があったと見るべきだ。
例えば、片方が快楽を得る代わりに、もう片方は成績を上げてもらう…とかな。
「…多分もう、夜樺くんは分かってるんだよね…」
「さっき外したから、不安なところではあるけどな。」
「…そうだったね。さっきのは違うね…でも、想像が当たっていることが前提で進めるよ。私は最初、君を邪魔に思ってた。…去年も、同じ条件だったから。これ以上ない好機だと思ったの。」
「…そっか。」
体の価値観は、人それぞれか。
痛い思いをしても、成績が上がらなければお先真っ暗だと言って、体を差し出す子供もいるんだろう。
…かつて、我が家に来た人達のように。
「…でも、恐くなったのッ、去年も、今回も、私は直前になって、逃げ出したくなった!全部汚されると思って、恐くなったのッ」
「…そっか。」
ああいった行為は、他者の反応により好奇心も恐怖心も容易くひっくり返されるものだ。
「でも、引き返せなくてッ、自業自得だし、叫ぶこともできなくてッ」
「…うん。」
「だからッ、…来てくれて、ありがと…安心したんだ…去年も…ッ今回も…邪魔だなんて言ってッごめんねぇっ」
嗚咽混じりでところどころつっかえる言葉を聞きながら、僕はひたすらに相づちをうった。大半は理解できなかったが、ありがとうとごめんなさいが貰えただけずっと嬉しい気分だ。
「…大丈夫だよ、僕のエゴだから。…どういたしまして。」
「ッうん、」
その後、めちゃくちゃ謝られた。いいよって言ってるのに…
おかしを配っていた子を横に置いてけぼりにしたまま、それは一限目開始の五分前のチャイムが鳴るまで続いた。
『…君は本当に…いや、元来こういう性格なのかな…それなのに周りが優しくないから、あんなことになってしまっているだけで…』
「う、動けない…いつまでこんな体勢でいればいいんだ~!?誰か、助けてくれ~!」
『俺の扱えるエネルギー量は、俺を救う時に過剰に注がれた余剰分エネルギー量に等しい。当時は加減が下手だったからね…だから…』
俺の扱えるエネルギー量は、この教室一帯を容易く包み込める。成仏覚悟でいけば学校全体を飲み込めるだろうな。
だから、この教室と外界の間に影を隔てて防音するなんてこと、造作もない。
『さあ、記憶操作には多少自信があるんだ。思う存分楽しもうじゃないか?まあ…』
他人の記憶は、消すしかできないんだけどね。
おかしいな…コメディにするはずだったのに…
思い切りつまらない話になるのはなぜなんだ…
かげくんね…いろいろ言わせましたよ。




