僕だけのお友達
日常系の描写にほっこりしてもらったり、シリアスな描写にゾクゾクしてもらったり、楽しんでもらえればなと思います。
影とは、簡単に言えば、ものに光が当たって、地面なんかにその光が遮られた部分が暗く映し出されるものだ。
要するに、人の影とは、その人の影と同じ動きをしないとおかしい。
だから俺の影は…
『やっほー明、遊ぼうよ。』
絶対におかしい。
「…かげくん、今は受験勉強あるから…」
僕の名前は夜樺 明。15歳で、中学三年生だ。因みにこの成長期もうそろそろ終わるだろみたいな時期にして、身長145cmという絶望的なまでの低身長男子だ。
『そうだったね…あとちょっとか…』
正直将来への興味なんて無いから、受験勉強なんて放ってどこかで思考放棄して死にたいなと思わなくもない時期である。
まあ、勉強は…やるんだけどさ。めんどくせー…
昔はよくかげくんとじゃんけんしたなー…懐かし。
数学はいけるんだけど、国語は運ゲー、英語はマジで無理。記憶系苦手。英語は記憶じゃないよなんていうけど、単語も文法も記憶だよりだろうがふざけんなよ。
「あ゛ー…」
『集中力切れてない?飴いる?』
「…台所の桃味ののど飴。」
『りょーかい。』
こういうとき、本当にかげくんが居てよかったなと思う。依存する対象があると、すごく落ち着くんだ。
普通の人が依存する対象は色々だ。ネットに依存したり、引きこもったり、自傷行為にいそしんだりするらしいが、僕にそんな選択肢は無い。
自傷行為の選択肢は元から無い。痛いのは嫌だ。絶対にだ。あと僕貧血気味だし。
別に自傷している人を否定するつもりはない。それが生きるために必要だというのなら、鉄分しっかりとって受験とか次の日ぶっ倒れないようにしてくれとしか言わない。別にぶっ倒れて心配されるのが目的なら、もうちょい効果的な方法知ってるよ。嘔吐なら簡単だよ。喉がらがらだけど。骨折とかも受験期じゃなければ効果的じゃない?やったこと無いけど。
別に、構ってほしくてやってる訳じゃない人達は、次自傷行為する前に、自問自答でポジティブシンキングしてくれ。無理だからやってるんだろうけど。まあ、友人に相談するでもいい。世話焼きなお節介なんて、意外とそこら辺に居るものだ。あ、でも自傷行為に相談相手誘うのはNGだ。きっかけになるんじゃないよ、後で罪悪感やらで出血酷くなるのは容易におっ察しできる。
『桃味~』
…話がそれたな。
「サンキュ」
僕の依存対象は、普通の人のような選択肢は用意してくれなかった。
車の前に飛び出そうとすれば首根っこを掴み(わざとではない。うっかりだ)、一瓶丸々睡眠薬を一気飲み(エナドリと勘違いしたんだ。)しようとすれば瓶の口を塞ぎ、包丁を首の裏に当てれば(…まあ、成り行きで)すごい衝撃で気絶している。という有り様だ。自傷しようと思ってしているわけではないので、正直凄く助かっている。
『どう?先週胃から内容物を逆流させた感想は。』
「不味かったけど、メリットも大きいね。もっかいやっていい?」
むにー…とほっぺを引っ張られる。いたいいたい…
『いいと思う?』
「うん」
『そう。俺は思わない。』
「て言っても、あれは不可抗力じゃん…あ、はい、ごめんなさい。」
…かげくん。顔真っ白というか靄というか、霧みたいな感じで顔のパーツが見えないのに圧が凄いよ。
『…否定して、口上だけでいい。』
「…おもわない…」
『ん。』
よしよしされた。ガキでは無いが、気持ちいいのでまあよしとする。
『…アキラ、高校…』
「行く気あるのか、なんて聞くなよ、カゲ。そのセリフは、こっちの頑張りを否定されている気がして大嫌いだ。」
『違うよ…就活っていう手もあるのに、どうして高校にしたのかなって思ったの。』
…今更だな。そういえば、話したこと無かったな。
「…優越感が欲しかった。これじゃダメ?」
だから順位とかが出るであろう私立を選んだんだ。うちはお金だけはあるからな。
『ダメじゃないよ。ちゃんとした目的があれば、それでいいんだ。目的が無いと、すぐに折れちゃう…諦めちゃうからさ。』
…確かに。じゃあ、気晴らしにもう幾つか目的作るか。
「あとはー…中卒より大卒の方が収入いいから。」
『わお、リアルー!』
そして今日は水曜日。
冬休み明けからは、全員(クラスに二人は居るアホ共除き)隠す気も無く勉強している感が醸し出されている。
あー、何て言うか…
「登校時間ってさー…無駄じゃね?」
『アキラの学校遠いもんねw』
片道30分。これもうちょい他のことに使えそうじゃね?
『ほらほら、余計なこと考えてないで、教科書読むだけでもいいからさ。』
「…やりますかー…」
…依存対象にこう言われたら仕方がない。
やるかー…。
…やる気出ねー…
『終わるまで君の性癖暴露大会でもする?』
「全集中するんでそれだけは勘弁して。」
まあ、翌日になってー…
「…おはよー…」
『おはようアキラ。』
かげくんは日光浴をしながら、こちらに挨拶をしてきた。
そして僕が起きたと分かると、カーテンを全開にし、こちらにも日光を当ててきた。
「まぶしー…」
さて、下の階に降りますかね~。
「おい!俺の髭剃りどこにやった!」
「知らないわよ!私動かしてないもの!」
まーたやってるよー…
両親の喧嘩。昨日は二人揃って別々の用事で外出していたから、静かだったんだけどなー…
とにかく、脳内で3分クッキングのBGMでも流しながら支度しますかねー…
パジャマを洗濯機にin!
「ちょっと!また私の化粧品動かした!?」
「俺のスキンケア用品が!お前の化粧品が邪魔で取り出せないから!どかしたんだよ!」
僕が通う学校は、式とかの特別な日は制服の着用の義務がある。それ以外は基本、全員私服だ。そのため、今日は制服。ワイシャツ着てー…
「ちゃんと元の位置に戻しなさいよ!」
「いちいち覚えてられるかそんなもの!ていうか、お前も俺の髭剃り元の位置に戻せてねーだろーが!」
ズボン履いて…
「だから、私動かしてないわよ!」
「お前以外に誰が居るんだよ!明は滅多にスキンケア用品とか触らねーし!」
ベルト…とめるの苦手なんだよね、僕。
「あの子、まだ髭剃り必要ないのね。」
「…そろそろ生えてもいいころだけどな。」
ブレザー着たら…よし、後は朝御飯の調達かな。
「…食パン…あった。」
歩きながら食べますかねー。
『今回はケチャップ諸々つけてないとはいえ、ちゃんと周りには注意しなよ?』
「はーい」
子供っぽいと思うかい?それでこの間、ケチャップかけたホットドッグ作って食べながら登校したら、何か変な服着た人にぶつかっちゃったんだよ!
「いってきまーす」
んで、ケチャップでその人の服も僕の制服もめちゃめちゃ。その人の服の件に関しては、その人がスマホ見ながら歩きしていたこともあって、道案内でチャラにしてもらえたんだけどさー…学校には遅刻しちゃったし、制服はケチャップでべっとりだったしで、なんか、色々…散々なことになっちゃったんだよね。
だから、今回は気を付けるんだ!
そうそう、ここの角!家から出て三十メートルくらいの所にある曲がり角!
ここを左にいつも行くんだけど、あの人を案内した時は、右に曲がったな…。
そう思って、ふと右を見てみると…
誰も居ない。
当たり前だよね。この間が特別だっただけだ。ここは人通りが少なくて、普段滅多に人が通らない。だからこの間油断して、左右確認せずに出たわけだし。
そして左も、誰も居なかった。
学校に行くまで、結局何もなかった。
そして学校の教室について、違和感を覚えた。
机が一つ多い。
ここでテンプレなのは、転入生が来ましたー…とかそんな感じだろう。しかしそれなら、主人公もヒロインも、僕のクラスメイトということになる。
この受験期に、大変なことだな。
イチャコラするなら受験生の邪魔にならないようにしてくれよ。
他人事のように、この時はそんなことを考えていた。
朝のSHRが始まり、テンプレだなー…と思っていた展開通り、転入生が入ってきた。漫画の中によくあるように、教師が黒板に書いた名前を背に、軽い自己紹介を済ませる。名前は菅原玲帑。出身地はここだが、11年前にここを引っ越して、つい最近、ここに戻ってきたばかりだから、あまりこの街のことを知らないらしい。髪は一見して真っ黒で、茶髪ではないと思う。目もその髪と同様に真っ黒だった。特徴といえる特徴は…メガネだ。丸くて縁が青みがかった銀の眼鏡。
僕は銀より、赤とか紫の方が好きだな!
…何も無いって思うじゃん?思ったじゃん?
…何も無いよ!そう!その子の特徴、メガネしかないの!髪型だって普通だし、目つきだって普通!切れ目でも垂れ目でもウルフカットでもマッシュルームヘアでもない!角刈りとかツーブロでもない!ほんっっとに普通!特徴を挙げる方が大変なんだよ…。あ、でもちょっと真面目君っぽい?
そしてそんな真面目君(仮)は、やはり急遽増えた机に着くと、普通に座った。
他の子と話すことはなかった。
…どこまでも普通で、いっそ珍しかった。
その日は冬休み明けで、三時限やったら帰る日だったから、何事もなくそのまま帰った。
…背後から、彼が僕のことを、ずっと視界の端に留めていたのは、あえてその日はつっこまなかった。
…自意識過剰?教科書読んでるかなと思ったらガン見されててうっかり目が合ったこっちの気分考えてもそれ言える?
そんな彼でも、少し…いや、大分変わったところがあると知ったのは、翌日の給食の配膳の時である。
給食当番は一週間周期での交代制とはいえ、木曜日始まりのため、また来週もやることになってしまった一班が、ぶーつく文句を垂れながら、配膳のワゴンを取りに行ったときの事だ。
急に真面目君が席を立ったかと思うと、鞄から白い袋のようなものを取り出し、教室から走って出ていってしまったのだ。
その数秒後、隣のワゴン室からの悲鳴が、僕たちの教室に届いた。
ここは中学校だ、平時ならば悲鳴喚声奇声が轟くことなど、そう珍しくはないだろう。
しかし今は受験期だ。そんな問題を起こそうと思って起こすものでは無い。それに何より、急に出ていった真面目君との関係が、どうしたって頭から拭えなかった。
ワゴン室は教室の隣にある。だから声だってよく届いたし、その現場だって見れた。
…真面目君が、数珠をジャリジャリ言わせながら、呪文みたいなの唱えてなんかやってた。
実際に紫の煙が立っていて、それを真面目君が持っている数珠から出ている青く光る鎖が、掴めない筈の紫の煙を縛っていた。
ワゴン室から急いで逃げ出す女子達と、うっかり出入口でぶつかりそうになったのはご愛嬌というやつだ。
そして気になり、ワゴン室に入り、真面目君の背後に立って、話しかけた。
「…ねえ、何してんの?」
「は!?待って、部屋から出てけって言ったよな!?」
どうやら、先程の女子達には、部屋から出るように言ったらしい。しかし僕はそんなことは言われていないので、出ていかない。
察しはしても、出ていかない。
だって、気になるじゃん、こんなの!
「僕は言われてないからノーカンね。で、何してんの?」
「見てわからない!?祓霊してんの!邪魔だから出てけよ!」
…ふつれい?
…祓霊、数珠、紫の煙…『菅原』…
……ああ、まさかとは思ったけど、なるほどね。
「…その祓霊って、何分くらいで終わるの?」
「知るかそんなの!」
そう言っている間にも、真面目君の疲労は蓄積していっているようで、肩が上下してきている。
祓うとは言っても、スタミナの無さから見て、かなり初心者なのか、適性が無いのだろう。
…もう、ヤバいかなー?
「…一旦退いて、プロに祓ってもらえば?」
「は!?いきなり何言って…」
「ちょっと聞いたことあるんだ。道案内の御礼にね。下手すりゃ死人が出る仕事だった筈だよ。判断を誤るな。それは君の手に負えるものか?」
真面目君はグッと言葉を詰まらせ、黙り込んでしまった。しかし、注意を逸らしてしまったのが、いけなかったのだろう。先程までギリギリで抑えていた紫の煙は、ワゴン室から出ようとしていた。
「お願いしますって言えば、これを祓えるレベルのが駆けつけるよ?ほら、大声で、よろしくお願いしまーす!って。」
「サマーウォー◯?お前マジで何言ってんの!?ふざけてる場合じゃねーんだよ!頼むから集中を…」
真面目君の言葉は、途中で途切れた。鎖が千切れ、身体がワゴン室から出て、廊下の壁に叩きつけられたからだ。
「え、真面目君、大丈夫?」
「誰だよ真面目君!?」
おっと、心の中の呼称が表に…
「間違えた、間違えた…えっと…菅原くん。」
まあ、大声出せる余裕はあるようだ。
紫の煙は、幸いなことに、自分に攻撃をした真面目君にターゲットロックオンしたらしく、校内で散り散りになるようなことはしていなかった。
煙型みたいな実体を持たないタイプは、広範囲攻撃が取り柄だからな。
「ぐぁっ、ガハッ!げほ、ごほっ!」
そしてその紫の煙は、真面目君の口から、肺へと、侵食していく。
このままいけば、窒息死するだろうな。
「真面目く…菅原くん~!大丈夫そ~?」
「これがッ、だい、じょーぶに…みえるか…ッ!」
どうやら、キツイ様子。
「助けてほしい?」
「アッ…、ガハッ!」
喋れなくなってきたようだ。
まあ、プロに頼もうとせずに、実力に見合わない相手と対峙するからこうなっているのだ。自業自得だろう。だから…
「出てくるなよ、カゲ。」
『ッ!』
優しすぎるんだよ。君は。まあ、仕方のない事なのだけれど。
「もしここで君が出れば、どうなっちゃうか、分かるよね?だから絶対ダメ。」
彼は恐らく、というか確実に、退治屋、祓い屋の家系だ。そんな相手の目の前に、プロならともかく、中途半端に力を持つやつの目の前に姿を現すなんて、自殺行為だ。
君が躊躇い無くあちらに飛び付いたのなら、僕だって最大限サポートをするつもりだった。でも…
「君は躊躇った。躊躇ってくれた。まだ、祓われたくはないんだよね?」
威圧するように、かげくんを睨みながら、問いかける。というかちょっと、脅す。
『…うん』
かげくんは小さく、頷いた。ただしそれは、二つの相反する要求を、無理矢理押し潰そうとするそれだった。
「…大丈夫、見殺しになんかしないよ。」
『!』
僕の影が、小さく揺れる。それはだんだんと、波打つように大きく揺れて、膨らんで…真っ昼間で自分の足下にしか無かった影は、とうとう紫の煙と真面目君の所まで大きく伸びて、どす黒くなっていた。
「真面目君~!まだ生きてるよね?」
「…ッ…、…」
身体を時折痙攣させながらも、 真面目君は必死にこちらを見ている。僕が独り言を話し始めた辺りから、いや、かげくんがその存在を現そうと、気配を揺らした時から、彼は勘づいてしまっていただろう。
彼をこのまま助ければ、かげくんを祓おうとするだろう。だからと言って見殺しは、かげくんが許してくれそうもない。
では、どうするか。答えは簡単。
「取引だよ、真面目君。」
「…、?」
真面目君の目は、段々と虚ろになっていく。
これ、取引内容聞き取れるかな?まあ、いいや。
「今から君を、助けてあげる。でもその代わり、さっき君が見ちゃった子…あの子は祓わないで。これが取引内容だよ。」
約束できる?
そう聞くと、真面目君は動かなくなってしまった。
『え、死んで…ッ』
「ないよ。安心して。」
身体を痙攣させる体力さえ尽きたらしいが、まだ生きてはいる。迷っているのだ。
祓い屋としての矜持か、自分の生命か。 どちらかの狭間で、揺れている。
「…めんど…くせ…もう……ぃぃ…ょ………」
ようやく捻り出した答えは、どちらと取るべきか迷う答えだった。
それは、祓い屋の矜持を面倒だと放って、自分の命を取ったのか。生きることを、生きるために考えることを面倒だと放って、祓い屋の矜持を取ったのか。
そう言った後彼は、もう抵抗は無駄だと悟ったのか、大人しく、もう既に影に落ちている魂を、闇に落とそうとしていた。
なるほど、彼は矜持を取ったらしい。
面倒臭いは、こっちのセリフだ。
「かげくんに、ずっと気をかけて、祓われないようにしなくちゃね。」
『…!じゃあ!』
「うん、言ったでしょ。見殺しになんかしないって。」
そして僕は、その厄介者の魂をすくってやった。
そして本題である、紫の煙と対峙した。
「給食の時間、あと5分しか無いかもな。」
そんなことを考えながら、紫の煙を、伸ばした影から覗く無数の手に、引きずり込ませた。
真面目君に憑こうとしていた紫の煙は、やがて跡形もなく消滅し、真面目君だけが廊下に倒れて、その場に残った。
そして、チャイムが鳴った。何のかって?それは…
「…あ、給食の時間、無くなった。」
給食の時間の終了を告げるチャイムであった。
なんか…謎なまま終わっちゃいましたね。
二話目はクラスメイトとわちゃわちゃさせる予定です。
いろいろ謎な部分が多いですが、今後少しずつ明かされていく予定です。今後とも、この作品をよろしくお願いします。