魔王がやって来た。王子と結婚しない転生聖女様
「殿下、敵が退却しました。追撃しますか?」
「捨て置け!」
俺は、王太子だ。今日も国境の付近で、隣国と小競り合いをしている。全く嫌になる。
「治療士が足りません!」
「ええ、見捨てるな。治療士よ。奮起せよ。報賞金をはずむぞ」
我国には、聖女がいるが、治療魔法を使えない。それは仕方ない。だって、聖女だもの。
聖女は我国の神殿で、結界を張っている。では、何故、敵兵が我国に越境してくるって?
対魔族向けの結界なの。え、対人は出来ないかって、出来ないよ。出来ても人が通れないのだから空気も通れ無くねえ?それに商人とか使節団とか、いろいろ面倒でしょう?
そうでしょう?
「殿下、あちらに、光が!」
「何だ、あれは?」
俺の前、30メートルくらい前に、光球が現れ、やがて、光が収束すると、一人の少女が現れた。黒目黒髪に、スカートが、何だ。はしたない。太ももが見えてやがる。
俺は紳士だ。兵に命じて、毛布を被せた。だって、村娘の作業用スカートでも膝下だもの。
あのチラチラ見えるのが、って、フン。
「あの~私、日本から来ました。あれ、手に光がーー」
少女がそう言うと、手から光が出て、パーーと負傷兵に掛かった。
「あれ、治っている」「この方は聖女様だー」
ワッショイワッショイ、聖女様だ!と現場はたちまち大騒ぎになった。
・・・・
「それで、殿下、この国に二人目の聖女が誕生したのですね」
「そうだ。教会はアルテシアの後ろ盾だが、新しい聖女は軍部に絶大な支持を受けている。王家が聖女に認定するしかない」
「え~と、私、聖女できませんけど」
「私が治療魔法を使えないのは女神様の思し召しです。殿下が気にする必要はありません」
「私、聖女する気はないけど」
「気にする。お前は6歳から、夜遅くまで、ずっと結界張っていたじゃないか?それが・・」
「その、聖女って、私には無理かな」
「対外の儀式は如何しますか?」
「ああ、異世界の聖女にやってもらう。お前は少し休め」
「だから、出来ませんって言っているだろうが、こっちの都合を聞け、この老け王子!」
「わかりました。そこまでいうのなら、婚約は・・」
「ああ、新しい聖女とするべしとの意見が多い・・婚約は一時、保留だ」
「おい、何で、転生聖女はいつも王子と結婚しなきゃならないの!こっちの意見を聞きやがれ、断れ!風見鶏王子!」
「何か、口の悪い聖女様・・みたいですが、大丈夫ですか?」
「ハハハッハ、異世界だからしょうがない!」
「しょうがなくねえよ。カボチャパンツはかすぞ!」
こうして、アルテシアに、婚約の話を、一時取りやめてもらった。申し訳ない。
異世界の聖女は、素晴らしい治癒魔法があるので、軍関係者の支持は絶大だった。
「おりゃ、負傷者は並べ、パパっと掛けるよ」
「「「おおーあっという間に治った。すげえ~」」」
「あの聖女殿、閲兵式の祝福をお願いします」
「はい、皆様、武運長久を、南無阿弥陀仏!」
「「「おおー力がみなぎった」」」
こうして、二人の聖女の就任、婚約など、いろいろなことが、うやむやになっていたところ。魔王がやって来た。
☆☆☆
それは、嵐の日であった。
「殿下、魔王がやって来ました!」
「何、我国の北方諸国は素通りか?見張り、何をやっていた!」
王城の上空まで、魔王がやって来た。体に黒い大きな翼がある。闇魔法で形作っているのだろう。
「魔王、何ようか?」
「どうも、魔王アキラです。城に入れて下さい!嵐なので、一時避難をさせて下さい」
「「「絶対にダメだ」」」
すると、異世界の聖女がやって来た。
「あれ、アキラって日本人?」
「そーだよ。俺、転生者だ。ヨロシクね」
「は、はい、はい、私もよ。中にお入り!」
☆☆☆
しばらく、異世界の聖女とアキラが話していた。意味が分からない。
「何?~こちら杉並区派出所、おわったの?アンダーピースは?」
「続いているよ」
「ところで、聖王国の聖女ちゃんも転生者なんだ。水晶通信で話しておくから、行ってみなよ」
「はーい。お給金たまったらこの国を出ます!」
私は、会話が落ち着いたので、四本角に話しかけてみた。
聞きたいことがある。
「四本角どの・・その、我国の結界を、どうやって、通りましたか?」
魔王に敵意がないとわかったので、どうやって来たのか探ってみた。
「え、あのさ、僕と君たちとは共通認識があまりないのね。だから、一から話してくれない?」
・・・・・・
「なるほど、それ、無理」
「「「え」」
「あのさ、僕達は二足歩行の動物なんだよ。似ているよね。僕は、大元は同じ動物から別れて、同じ系統の生物と思っている。
その中で、力とか魔力とか、何かの力に特化した種族を魔族と呼んでいるようだね。僕は魔族の魔王種、人間の体に、角があって、魔力、筋力が平均的に高いのが特徴だね」
「我が、魔族でも対人間結界を作ろうとしても、無理だったよ。冒険者ならまだいいけど、ダークエルフ族やサキュウバス族をさらおうとする奴らは許せないね。だから人間除けの結界を作ろうとしたことあったよ。二足歩行の動物だから考え方が似ているのかな」
「「「ええ」」」
「だって、考えてもみな。魔族も人も実体がある生物だよ。通れなかったら物質も通れない。空気とかどうするの?雨を弾くよ。ねえ」
「じゃあ、アルテシアのやっている結界は?」
「あれは、魔害獣と言われる畑を荒らす魔物の嫌いな魔力波を出しているようだね。我国でも取り入れているよ。ここまで大規模なものはしてないけどね」
「畑を荒らすって、魔物は人を襲わないのか?」
「人は襲うだろうけど、人は主食ではないよ。考えてもみな。結界が弾けたら、魔物が大挙して押し寄せてきて、人を襲う。じゃあ、こいつら、今まで何食っていたの?魔物が全部肉食だったら、動物はすぐに絶滅しちゃうよ。こいつらの食物連鎖とか考えたことある。魔物は魔物で食物連鎖完結しているよ」
ところどころ意味が分からなかったが、アルテシアの結界は、我国を守っているものらしい。
何とも言えない会談だった。親父、じゃない陛下は、ちっ、来ていやがらない。
「四本角どの。我国に来た目的は?」
「ああ、嵐が来たから、雨除けに、もう上がっているから、帰るね。有難う。魔族領に帰ったら正式に御礼の手紙と魔石を送るよ」
私は聞きにくいことを聞いた。
「我国を・・侵略する意図はありますか?」
「無いね。聖王国や帝国、北方の王国ならまだしも、この国に魔族軍を派遣するメリットある?ないよね。だけど、魔族や他の国に対する備えは大事だよ。その中で、魔族対策費を優先するかしないかは貴国が決めることさ」
「出でよ!黒い翼よ!」
魔王は去って行った。
☆☆☆
「どうしたら、いい、四本角殿の話を、臣下や民が聞くわけが無い・・」
「はーい、老け王子、良い提案がありまーす」
「老け・・とは何だ。私は23歳だ」
「じゃあ、苦労性王子!」
「そ、それは否定しない・・」
・・・・
異世界の聖女の提案で、聖王国の転生聖女がやって来た。
この聖女、最強聖女と評判で、魔王軍に先陣を切って戦い。魔王とサシで講和会議をした強者だ。
「なるほど、なるほど・・この国の聖女アルテシア様の結界は素晴らしいけども、こんなに時間を掛ける必要はないわ。この魔道具で、アルテシア様の出す対魔害獣魔力波を記憶させて、村や穀倉地帯に配ればいいわ。アルテテシア様は監修をしなさい。比較実験も大事ね。小さな畑でいいから、対魔害獣魔力波を流しているところと、いないところを比較するの、そうれば、朝から夜まで、祈る必要はないわ」
一人の神官が怒り気味に聖女様に食って掛かった。
「聖女が長い時間祈るのは、我国の伝統です!」
バシ、グハと聖王国の聖女は、神官の腿を蹴り上げ、前に倒れた所をアッパーカットをする。
神官は空中で一回転して、床に落ちた。
「じゃあ、私が、お前に、魔力波を覚えさすから、お前が朝6時から23時まで、やりなさい。〇〇を取って、女になってもらうわ。それで、聖女認定してあげる。聖王国筆頭聖女の命令よ。いい?いやなら、これが新しい伝統よ」
「「「・・異論ありません」」」
・・・・・
「それで、今度は、貴女ね。紛争で、治療師が足りないから、彼女をこの国から出したくないと言う訳ね。王子様」
「ああ」と遠慮気味に言った。正直怖い。
「ちゃんとこの子お給金は払っていたみたいだから、少しだけ肩を持つわ。紛争の理由を話しなさい」
私は長年の問題を聖王国の聖女様に説明をした。
「ふむふむ。国境付近の牧草地の帰属問題ね。で、王子、この牧草地を狙って、隣国が攻めて来ると、もう意地みたいなものね。諦める理由が必要よ。王子、この牧草地を女神教会に寄進しなさい。今まで通り牧草は近隣住民で採っていいわ。ここに女神教会を建てるわよ!」
カンコンカンコン!
「何だ、何だ、教会が建っているぞ。立て札がある。何、ここは女神教会の寄進地?じゃあ、しようがない。我国が攻めるわけにもいかないぞ。撤退だ!」
隣国は、兵をまとめて退散した。
元々、軍事費と勝って得られる利益を計算して、やめたかったのだろう。
あれから、音沙汰はない。
異世界の聖女は、聖王国の聖女とともに、国を去り。
私は、アルテシアの魔力波を魔道具に記憶させて、村々に配る事業の陣頭指揮を執っている。
そして、晴れて、アルテシアと婚約することになったが、
「おや、息子よ。魔王は去ったか?儂はいつでも戦えるように準備しておったのに、儂に恐れをなして逃げたな。ハハハハハ」
国境付近の砦まで逃げていた親父は、鎧を着てきやがった。
チ、陛下には隠居してもらおう。
「陛下、万歳!皆、ワッショイだ」
「「「ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ!」」」
と、国王が隠居すると決まっている城まで、運び、「さあ、陛下の良いとこ見てみたい!」と勢いで、辞任書の印鑑を押してもらい。貴族会議全員一致で辞任賛成になった。今までの事なかれ主義に、皆嫌気を差していたのだろう。親父、アバヨ!
伝統は、多くは因習もあり、選別が必要だ。
「陛下、四本角殿より、感状と魔石が届きました」
「うむ。これは・・・・」
エコー魔道具用に加工して有りやがる。それも沢山、あいつ、この先まで読んでいたか。それとも、聖王国の聖女様が教えたか。
チ、魔族と少し交流してみるか?
最後までお読み頂き有難うございました。