ケンダマ世界大会で優勝した俺は、難癖付けてケンダマ部を廃部にしようとしてきた幼馴染生徒会長にざまぁしたくない
「玉名先輩。ケンダマ世界大会優勝おめでとうございます!」
「ありがとう」
「すごかったです。まさか初級技の『もしかめ』を制限時間内に1万回こなして優勝しちゃうなんて……大会記録も大幅更新でしたね」
「本当は2万回行きたかったんだけどね」
「素晴らしい向上心です! 尊敬しちゃいます! 私も玉名先輩みたいなすごい拳士になりたいです!」
「基本を怠らずに頑張れば、きっとなれるよ」
「はい!」
「さて、そろそろ帰ろうかな」
「……先輩」
「何だい?」
「先輩は去年、伝説のケンダマ技『稲妻落とし改』を巨大ケンダマ兵器に落とし、平和ケンダマに変換する事でツルギ財団の世界征服の野望を見事阻止されましたよね」
「そんな事もあったなあ」
「それだけじゃありません。先週ンダーマ銀河帝国の放ったケンダマ彗星群が地球を襲った時も、ケンダマロボに乗り込んで地球を玉にした完璧な『地球回し』で彗星群を全てかわし、地球を救ってくれたじゃないですか。さらにケンダマを愛する心を込めた『ロウソク』で平和の灯を灯し、ケンダマ銀河帝国との和平交渉まで優位に進めてくださいました!」
「いや、俺はただこの地球とケンダマが好きだから、自分がすべきと思った事をしただけさ」
「謙遜しないでくださいよ! 先輩はこの地球を救った英雄なんですから。もっと誇りに思っていいんですよ! ノーベル平和賞とか国民栄誉賞程度じゃ、先輩の偉業を称えるには不釣り合いなくらいです」
「ノーベル平和賞のメダルは貰えてうれしかったけど、別に称えられてもねえ。俺にはケンダマがあればそれでいいんだ」
「……本当にそれでいいんですか?」
「え?」
「先輩、何かやり残した事はありませんか?」
「別にないかな。去年に世界大会優勝目前でツルギ財団が乱入してきて世界大会が中止になった時は悔しかったけど、昨日優勝できたしね」
「それとは別の話です」
「……うーん。なにも思い浮かばない」
「あるじゃないですか! やり残した事が! 物凄く肝心なことです!」
「わかんないけど」
「ざまぁですよ! ざまぁ!」
「ざまぁ?」
「憶えてないんですか先輩! 先輩の幼馴染のカレンとかいう女が、生徒会長権限だとかなんだとか言ってケンダマ部を廃部にしようとしてきたじゃないですか!」
「ああ、あったねえそんな事も」
「あの女、『ケンダマは下らない子供の遊び』だの『結果の出せない部に価値は無い』だの好き勝手言ってたじゃないですか!」
「うん」
「ざまぁしてやりましょうよ! 先輩を馬鹿にした事を後悔させてやるんです! あの女図々しいですから、英雄になった先輩が『久々に二人で話そうか』とか呼び掛けたら恥ずかしげも無くホイホイ付いてきますって。そしたらあの女、『今までごめんなさい。ケンダマがこんなに素晴らしかったなんて……私達またあの頃みたいに……』とか幼馴染を笠に着て偉そうに言ってくる訳ですよ! くー! 嫌な女! で、そんな嫌な女に先輩が一言『ごめん。ケンダマを馬鹿にしたお前を、俺は許すことは出来ないんだ』とクールに突き放してやる訳ですよ! さめざめと涙するカレン! 先輩は背を翻し、足早に去っていくのです! いいじゃあないですか。ざまぁの中にちょっとした切なさもあって、それでいてしっかりとざまぁしていて最高じゃないですか!」
「ええ……。嫌だよそんなの」
「何でですか!?」
「俺、マンガとかの幼馴染キャラがすごく好きでさ。あの、自然とタメで話す感じが。すごくよくってさあ。とくに同級生が最高でね……。まあ、確かにカレンとは色々あったし嫌いは嫌いなんだけど。それでも腐っても同級生幼馴染だから、そこを計算に入れたら『ちょっと好き』って事になってしまうんだよ」
「えっと……ちなみに一学年年下とかは……」
「無いね。学年が違ったら恋愛対象としては見られないかな」
「……そうですか」
「まあとにかく、俺はざまぁとか興味ないから」
「でも……!」
「なに?」
「でもあの女は、先輩だけじゃなくてケンダマ部やケンダマの事も馬鹿にしていたんですよ? それはいいんですか?」
「まあ、それは確かに悔しいけど」
「でしょう!? ざまぁしましょうよ! ざまぁ!」
「うーん。でも、悔しいからざまぁするっていうのもちょっと違う気がするよ」
「何でです!?」
「侮辱に侮辱で返すっていうのは、結局やってる事が相手と同じじゃないか。そんな事をしていては、ケンダマを軍事利用しようとしたツルギ財団と同じになってしまう。本来ケンダマは人と人を繋ぐとても楽しいものだ。誰かを傷付けたり侮辱したりする為の道具じゃない。俺はそんな風にケンダマを利用したくないんだ。確かにケンダマを侮辱されたのは悔しいけど……侮辱してくる相手と同じ土俵に立たない事が本当の意味での意趣返しじゃないのかな」
「でも、あの女が最初に『結果の出せない部に価値は無い』とか言って来たんでしょ? 偉そうに! 大体あの女、生徒会長として完全に無能ですよ! 生徒会が主催した体育祭もグダグダだったじゃないですか! 先輩のケンダマパフォーマンスのお陰で最終的には盛り上がりましたが……」
「あったねえそんなことも」
「大体、社長令嬢だからって特例で1年から生徒会長になった癖に、なんであんなに無能なんですかね? 『結果の出せない部に価値は無い』なら、結果の出せないあんたにも価値無いだろって言ってやりたいです!」
「うーん。確かに相手の発言を逆手に取って自己矛盾に陥らせるのは痛快かもしれないけど……『結果の出せない部に価値は無い』という主張自体を否定する事は出来ていないよね。俺は『結果の出せない部に価値は無い』とは全く思わないね。部室が隣の南京玉すだれ部は全然結果出せてないけどみんないい奴だし、南京玉すだれを全力で楽しんでいるじゃないか。俺は彼らを否定するような事はしたくない」
「むうううう……」
「ざまぁとかはもういいじゃないか。それよりケンダマを楽しんだ方が有意義だと俺は思うよ」
「えー。それじゃガンジーじゃないですか……」
「そうだね。もうガンジーだよ。俺は。非ざまぁ非服従を理想とするケンダマ界のガンジーだよ。よし見てて! ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」
「出た! 玉名先輩の『アジア一周』! 流石です!」
「よーし、俺もガンジーのように平和のケンダマ糸を紡ぐぞ!」
「先輩……私も……」
「なに?」
「あの……私も紡ぎたいです。玉名先輩と一緒に……」
「むっ……!」
「先輩?」
「ごめん。今ちょっと、ケンダマ神からテレパシーがあった」
「ケンダマ神!?」
「ケンダマ界で一番偉い人だよ」
「そんなすごい人が先輩を……」
「また何か地球の危機が迫っているのかも知れない。話を聞きにいかないと。ほっ! 『宇宙一周』!」
「……あっ! 先輩! ……行っちゃった」