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映画みたいな恋に憧れて【ショートバージョン】

作者: 武正幸

 深夜のオフィス。気がつけば、残っているのは僕と先輩の二人きりになっていた。


「山田君、進捗はどう?」

「何とか、あと30分くらいで仕上がりそうです」

「よかった。こっちの資料ももう直ぐ終わるわ。何とか終電には間に合いそうね」


 如月絵里(きさらぎえり)は、僕の上司で営業部きってのやり手だ。営業成績は、毎月営業部トップを維持している。しかも美人でスタイル抜群。部下にも優しく、社内では男性社員の憧れの的というだけでなく、女性社員からも慕われている。もちろん僕も如月先輩に憧れを抱いている一人だ。


「山田君は、最近耳かきした?」

「え?耳かきですか?・・・しばらくしていない気がします」

「それはいけないわ。私がやってあげる」

「え?」

 如月先輩に促され、パーテーションで仕切られたミーティングスペースに二人で入った。如月先輩は、躊躇なく靴を脱ぎ、椅子を踏み台にして長机に昇り、そのまま卓上に腰を下ろした。

「はい。ここなら横になれるでしょ? 私、耳かきをしてあげるのが趣味なの。これなんて言うか分かる?」いつの間に手にしたのか、如月先輩は竹の棒の先に白い綿毛がついている道具を見せてきた。

「見たことはありますが。名前は知りません」

「・・・そう。じゃあ、ここに来たら教えてあげる」如月先輩が、自らの太ももに僕を導く。僕は靴を脱ぎ長机に昇り、吸い寄せられるように、先輩の膝枕に収まった。如月先輩の太ももは暖かくて適度に張りがあり、大人の女性の良い香りがする。世界最高峰の枕がここにあった。


「ぼ・ん・て・ん」如月先輩のささやき声が、彼女の吐息と共に僕の耳元で転がった。


 頬に、何か液体が落ちてきた気がして僕は眠りから覚めた。あまりの心地良さと仕事の疲れで、数分間眠ってしまったようだ。見上げると、夢の続きのような光景が目の前に広がっていた。それは、幸福な夢ではなく、悪夢だ。タコと海老が合体したような巨大な怪物が、その大きな口から粘液を滴らせながら、そこに存在していた。怪物が僕に語り掛ける。

「・・・山田、ごめん。おなかが空いて私、我慢出来ない。・・・君を食べていい?」巨大な怪物は、如月先輩だった。

「あなたに食べられるなら、僕は幸せです。あなたと一つになれるのですね。」僕は運命を受け入れていた。

「・・・じゃあ、いくよ。山田、好きだよ」

「・・・ぼくもです」








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