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特別回【破】『うちよそオールスターズ☆みんなで薙瑠ちゃんに届けよう!太陽因子と華のドリームコーラス♪』(∞/13)

 ──血沸き肉踊るドラムマーチの轟音に、鼓膜が張り裂けそうなトランペットの暴風が吹き荒れる。ピアノは打楽器だと言わんばかりに鍵盤と連動した羊毛のハンマーが鋼の弦にぶちこまれ、東京駅での告知神獣に立ち向かう人類の反撃のマーチを高らかにうたいあげる。



『これより──救出作戦を開始します!』  

 


 新幹線が音速の三分の一の超高速で並走し、線路の弧にあわせ離れたり近づいたりする。


【 東海道新幹線 N700系 (臨時ダイヤグラム救援車) 】


 ようやく近づいたところで、駅員が非常用ドアコックに手をかけ、扉が圧縮空気を放出して全開。暴風が皆の髪を吹き上げ、視界をさまたげる。

 駅員は慣れた手つきで新幹線と新幹線の間に鉄板を渡す。


 頭上では超々高々電圧の架線が疾走し、足下では鉄筋コンクリートの高架橋が殺人的な勢いで駆け抜ける。時速三〇〇キロメートル。秒速だと八〇メートルを越える。体感速度は音速に等しい。

 落ちたら、死ぬ。

 その恐怖が国枝晴敏防衛大臣と柏木神爾外務大臣の軍服と制服を冷や汗まみれにする。

 ガタガタと頼りなく震える鉄板を渡りきり、駅員が鉄板を引っ込めようとふと前を見て────障害物だ!


 耳目を聾する派手な火花と音を立て、ひしゃげた鉄板が何度もバウンドを繰り返しながら転がり、見えなくなった……


 それを窓越しに乗客らが不安そうに肩を寄せあい、見守る。


『乗客の皆様にお伝えします。落ち着いて聞いてください。これよりひかり109号は10号車と11号車の連結を解除、11号車以後最後尾までのモジュールで皆様を脱出させます!』


「なんだって!?」「無茶だ!」


『乗務員が誘導します! 我々が助かるにはこれしかありません。そして我々には心強い味方がいます。今乗り込んだ国枝大臣に柏木大臣。そして──』


 ざわめく車内に機転を効かせた女性乗務員が政府記者会見を繋げる──荒垣健(あらがきたける)内閣官房長官だ!

 内閣危機管理センターのU字状の大テーブルに堂々と構え、マイクに力強い弁を振るう英雄の姿は世界中の誰より頼もしく思えた。


『乗客の皆様。首都圏の皆さん、安心してください。俺が救出作戦の総指揮を執ります。必ず皆さんを無事に帰します──ヤマタノオロチ、円盤、魔界軍から皆さんを守った時のように!』 


 乗客の歓声と日本全国津々浦々の老若男女の熱狂が爆発した!

「荒垣閣下だ!」

「荒垣閣下なら大丈夫だ!」

「助かる! 助かるんだ!」


 役人根性が染み付いて何でも無難に済まそうとする輩はこういう時に「必ず助けるというフレーズを用いると後で失敗した場合云々」とよく言うが、荒垣はそこらへんをわきまえている。

 

『車両編成後方に、乗客の皆様集まってください』


 民間人がいい意味で日本人の国民性を発揮し、誰に指図された訳でもないのに高齢者、女性、乳幼児、身障者らを優先して脱出モジュールへ送り出す。

 物陰に控えた烏兄妹が天夜眼(あまのやめ)を用い、乗客の中に鬼が紛れていないか生体スキャンするのを欠かさない。


 司馬子元(しばしげん)桜薙瑠(さくらちる)東城洋介(とうじょうようすけ)が無言で頷き、自分らが敵を食い止める旨目線で決意する。

「美咲、脱出モジュールに乗客の誘導を頼む」

 洋介が美咲に振り返る。

「わかってるって。自衛官の妻だよ?」

「ありがとう、愛してる」

 洋介が美咲のおでこに口付けして、銃を携え通路を疾走。

「遥を頼む!」

「任せて!」

 子元、薙瑠、洋介は連結解除の最前線となる11号車をすばやく防衛陣地とさだめ、荷物棚によじのぼる。洋介は右。子元薙瑠は左だ。

「〈紅桜・霞ノ型〉」

 子元に引き上げられた薙瑠は続いて術式でその身に一種の光学迷彩を施す。

 子元、洋介はカーテンで偽装。

 荷物棚に隠れた三人はあとは敵の通過を待つばかり。


「自衛隊さん、これを使ってください」

 何人かの有志が名乗り出て、キャリーケースやスーツケースを手渡していく。

「バリケードぐらいにはなるでしょう」

「いいんですか!? 高いでしょう」

「スマホと財布があればなんとかなります」

「これくらいしかできることがありませんから」

 自衛官の目に熱いものがこみ上げる。

「ありがとうございますっ!」


「……日本もまだまだ捨てたもんじゃないな」


 そう口元を綻ばせた車掌は青生土門(あおうどもん)。車掌複数名、運転士を統括する列車長の重責にある。

 日夜様々な人間に触れる中年の彼だからこそ感慨深いものがある。

「車掌さん、これあげる!」

 幼子が差し出したのは、鉄道会社とコラボした新幹線変形ロボの玩具だ。

「車掌さん、ぼくにできることはない!?」

 その幼子は金髪に青い瞳。外国人だろう。耳がハンチングで隠れているのがやや気になるが。

「う~ん……なら、ボクは小さい子供たちを守ってくれるかな?」

「わかった! あ、あと僕アレクシスって名前だよ」

「頼むよ──アレクシス君!」


     *    *


 春華を脱出モジュールに送り出した仲達は柏夫人と鉢合わせする。

「しばらくね仲達。前世以来かしら?」

 仲達は目だけ動かし一瞥するが、ため息をつく。

 柏夫人はなまめかしい仕草で仲達の肩まわりに腕を回す。

「……何の真似だ」

「いい知らせがあります。我が中国軍の日本総攻撃が始まりました。気の毒ですが、お前の息子が選んだ新天地は間もなく我が軍に破壊されるでしょう──前世で私を選んでおけばよかったものを」

「柏夫人」

「何かしら──」

 

 ──鬼の姿になった仲達が柏夫人の喉筋に誘宵(いざよい)冥刻(めいこく)を突きつけた!


「な、何をするのです、仲達?!」

「貴様の汚れた舌で春華(しゅんか)を侮辱することは許さん! 服飾や化粧で取りつくったけばけばしさを自身の魅力と錯覚する愚かさを知れ!」

「か、柏夫人」

「落ち着きなさい」

 彼女は自身を救出しようとする兵卒を平手で退かせた。

「ものわかりがいいな。さあ、新幹線の統御を運転士に返してもらおうか?」

「ちいっ……」


 特公警察と自衛隊の制服に身を固めた柏木外務大臣と国枝防衛大臣が拳銃を柏夫人らに突きつける!

  


 ……車両をいくつもまたいで柏夫人の救援に向かう兵士らが通り過ぎる時――子元と薙瑠が舞い降りる!


 子元の宵月(よいづき)泡沫(うたかた)が閃き、薙瑠の紅桜(くおう)が煌めく!

 すかさず洋介がライフルで狙撃!


 日本と魏の共闘により、かくして新幹線奪還に成功したのである。


     *    *


 ……運転席にたどり着いた青生が博多側に鼻先を向ける新幹線最後尾の運転台に陣取り、全システムを自席に掌握。レバーに手をかけ、ペダルを踏み込む。

 駆け抜ける景色の中にあって運転台に置いたのは、鉄道会社とコラボした新幹線のヒーロー。その玩具だ。頼もしいお守りだ。


『乗客の皆様にご案内します。脱出責任者を務めます青生です。連結解除のち十秒後に非常ブレーキが作動する手筈になっています』


 双頭の新幹線にあって前後を区別するのは進行方向のオレンジの灯と反対側の赤の灯。それはまるで人間の双鉾のようで……青生は目を瞑る──


『子元と薙瑠ちゃんは脱出モジュールに移乗! 護衛をお願いします!』

 




「頼む……、守っててくれ──俺が乗る新幹線で、誰も死なせない!」 

 



 ──カッ! と烈火のごとく熱き魂のまなざしが見開かれた!

 腹を括り──スロットルを押し込む!!


『連結解除! 脱出モジュール出発進行!』

 幌の裂け目が広がり……徐々に徐々に離れていく。

『ATC作動まで──十──』

 子元が先にジャンプして、薙瑠を受け止める態勢を取る。

『──九』

 薙瑠は助走をつけ──宙に浮かび──子元の胸に飛び込んだ!

『──八』

 宙に舞い広がる青瑪蝋のつややかな髪が突風から解放され元に戻っていく。 

『──七』

 ぶるぶると震える薙瑠を子元は抱きしめつつも、目線は後方車両から動かさない。

『──六』

 徐々に遠ざかる鉄の車輪が摂氏一千度の火花を撒き散らし、その鉄輪を四基咥えこむ台車ごと燃え盛る。モーターの電磁石とコイルはとっくに溶解している。

『──五』

 ドン! と非常用ブレーキが発動し、急減速の衝撃が車内を揺さぶる。

『──四』

 脅える遥をアレクシスが抱きしめる!

『あなたは?』

『──三』

『僕が君を助ける!』

『──二』

 そして運命の時。

『──一』

「きゃあ!」



『──ATC作動!』 



「うわああ!」

「うおおお!」

「きゃああああ!」

「絶対ヒーローが助けに来てくれる! 信じてるから!」


 その時──車体が巨人の手に包まれたかのように停止した。あながちそれは間違いではなかった。


「あれは……東京都庁ロボ!?」


 その巨体は爆炎を上げ、はるかかなたへと飛び去っていった──‥‥‥


     *    *


 東邦新聞のヘリコプターが新横浜駅上空に差し掛かる。

『ご覧ください。新幹線車両が煙を上げています。なんとか脱出に成功したようです!』

 カメラがズームする。

『この脱出モジュールには、張春華氏、司馬子元氏、桜薙瑠氏、そして民間人らが乗っています。国枝防衛大臣と柏木外務大臣は走行中の車両です』

 機長がレポーターにメモを差し出す。

『え!? これ読むの!? ……え~、今入った情報です。ヤマタノオロチ上陸! ヤマタノオロチが三浦半島から湾岸沿いに東京に進撃してきます!』


【 NKHニュース速報:東京湾にヤマタノオロチが出現した模様。首都侵攻の可能性あり 】


『身を守る行動を取ってください! 命を守る行動を取ってください! オロチはすぐに上陸します! 沿岸沿いの方は内陸に避難してください! 二〇一二年の東京湾巨大生物上陸災害を思い出してください!』

『現在東京湾で微弱な潮位の変化が観測されています』

『速報です──Jアラートが発令されました! 全国の都道府県市町村に対する防災無線を活用した、国民保護に関する情報の布告です』


【 国民保護に関する情報 】

【 警戒情報。警戒情報。ヤマタノオロチが首都圏に侵攻 】

【 対象地域:東京都。千葉県。神奈川県 】


『先程、災害緊急事態の布告を内閣総理大臣が宣言、二度目のヤマタノオロチの討伐を目的とした治安出動が決定されました。緊急措置として国会の承認を事後に回し、船橋喜彦護憲民衆党代表、玉野雄一郎国政民衆党代表、蘇我和成労働党議長、和田部舞公民党代表、初音首都第一党代表、吉本浪花野郎衆代表、大河幸福福音党総裁が快諾しました!』


【 航空自衛隊がパトリオットミサイルを配備 防衛省 】

【 災害用伝言ダイヤル#171を開設 内務省 】

【 斯波副総理、天皇皇后両陛下に地下シェルターへの避難を進言 】


『先程、石井伸之(いしいのぶゆき)東京都知事が都公安委員会に対して有害鳥獣駆除名目での自衛隊治安出動の可否を諮問し、即時同意されました。これにより、東京都を担任する陸上自衛隊東部方面隊を主力としたヤマタノオロチ討伐を国枝晴敏(くにえだはるとし)防衛大臣が命令。既に編成されている晋王朝開闢陸海空統合任務部隊に東部方面隊が組み込まれます』

 アシスタントディレクターが次の原稿を差し出す。

柏木神爾(かしわぎしんじ)内務大臣が青山春之助(あおやまはるのすけ)元千葉県知事に協力要請! 東京湾アクアラインに交通規制が敷かれました。何か動きがある模様です!』


 海原がモーゼの如く割れ、塩辛い濁流と共に異形が姿を表す。

 ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、まだ出てくる。むっつ、ななつ、やっつ。八頭の頭を持つヤマタノオロチだ!


 三國ノ華がオロチ狩りに突入してしまったではないか!


 リポーターが玉のような汗を浮かべ、目を見開きまくしたてる。

『いよいよ最後、今、オロチが我々のヘリコプターにあぎとを開きました。我々の運命もどうなるか。私は最後まで報道の使命を果たすことができてしあわせでした。みなさん、さようなら。さようなら』


 間の悪いことに車両から乗客を脱出させるところに、オロチが火焔放射を吐きかけてくる──!


「もうすぐ、もうすぐ、お父さんのところに行けるからね」

 アレクシスが遥を抱き締めながら、うわごとのように繰り返す。

 守るつもりがすっかり甘えきっている。


 ──薙瑠が幼子を抱き締める。

 子元が泡沫(うたかた)を展開し、水のシールドで薙瑠(ちる)ごとふたりの子供を守る──。


 泡沫の表面は煉獄の焔に焼かれ、子元が少しでも気を弛めれば灼熱の火焔が彼の大切な人を襲う。

『大丈夫か!? ふたりとも』

 東京湾に着いた洋介は待機させていたヘリコプターで戦艦大和に向かう。

「大丈夫だ洋介、すぐに冷凍弾をここに撃つように戦艦大和に命じろ」

『まともに喰らえば命はない!』

「兄貴と慕うのならば、俺を信じろ!」

 子元の覚悟を感じ取った洋介は押し黙った。

 誰が漢の決意に水を差すことができよう。

「主砲、三基九門冷凍弾装填!」

 無線越しに大和艦内がどよめく。

「艦長!?」


「──薙瑠ちゃんが選んだ男性に、子元が選んだ女性に、俺は娘の命を託す!」


 太田はうなずき、口元のインカムに手を添える。

「部署を発動します──対地上戦闘!」

 ここからは副長兼砲雷長たる太田拓海が戦闘指揮官となる。

『対地上戦闘!』 

 アラームと共に海曹、海士が艦内を駆け巡る。

『右対地上戦闘、CIC指示の目標、主砲、攻撃始め、』

 砲雷長の命令を受けた砲術長が前甲板に二人、後甲板に一人分乗する砲術士に発砲指示。

『イルミネーターリンク、目標位置、北緯*******、東経*******、レールガン攻撃始め!』

 主砲塔が重々しく、旋回。

 四十五口径四十六センチレールガンの仰角を取る。

『用意よし』

『撃ちィィィ方ァァァ始めェェェ!』



『用意──撃てエエエェェェ!!!』



 山のようにでかい爆炎が膨れ上がり、戦艦大和を腹の底に堪える轟きが揺さぶる。

 成層圏をくぐり抜け──着弾!


 液体窒素が弾け、子元の泡沫の外側の業火を静めた。


 白煙のたちのぼる中、子元が薙瑠の頭を撫でて、起き上がる。

 薙瑠の顔から眼帯がめくれる。

「おねえちゃん、その瞳……」

 はっと薙瑠が刮目し、瞳が揺らぎ、顔をそむける──見られた。見られてしまった。

 薙瑠の眼帯はいつの間にか紐が千切れてしまっていた。

 アレクシスはそんな彼女をきょとんとした表情で見つめる。

「かっこいいよ!」


「かっこ、いい……?」 



 薙瑠が眼帯を外す決意をしたのはおそらくこの時だっただろう。



 SH60Kヘリコプターが子元と薙瑠、春華を迎えに来たようだ。

 吹き下ろすブレードの風で青瑪蝋の髪が吹き上がり、薙瑠の紅桜色の瞳があらわとなる──その瞳に不安の色は、もうなかった。


     *    *

 

【 東京湾アクアライントンネル 人工島 海ほたる 】


 海ほたるの立体的な外壁構造が複雑に変形し、中から、なんというべきか巨大なドリル軍艦が出現する。

 銀色の駆逐艦にドリルをくっつけたようなデザイン。

 その名こそ、まさに轟t──いや、(てん)ではなく(うみ)を轟かす【アクアラインデストロイヤー】である!

 

 アクアラインデストロイヤーは海を白濁させ、浮上し、ガスタービンエンジンで浮上する。

 その司令塔に構えるは面と小手をを外した剣道着に竹刀。彼こそまさに青春ドラマの巨匠から千葉県知事に登り詰めたタレント──


「──すまんね、今少し俺の青春に付き合ってもらうよ」


 ──青山春之助(あおやまはるのすけ)は直立不動でアクアラインデストロイヤーの司令塔に陣取り、御年八十のしわくちゃの顔の中にも昭和の青春ドラマのスターの面影を感じさせた。


「俺は若者の青春を開拓する。俺の通った道はアクアラインとなる! 俺は若者の活路を切り開く漢だああああ!」


 ──舳先のドリルが猛回転する!

 オロチも負けじと八つの顎から放たれる火炎放射で牽制──!


「喧嘩上等! 俺は漢だ!」


 デストロイヤーが主砲で応戦!

 直撃し、オロチが怒り狂いながらデストロイヤーを追撃する。


「さあ走ろう! あの夕陽に向かって! そうともこれが青春さ!」


 デストロイヤーがオロチを陽動し向かう先には──戦艦大和!

 戦艦大和を威風堂々と横っ腹を晒し、四十六センチメートルの内径を穿つ主砲三基九門がオロチを睨みつける。


『──ヤマトよりアクアラインデストロイヤーへ、ここからは俺たちが引き継ぎます!』

『アクアラインデストロイヤーよりヤマト、了解!』

『対水上戦闘──! 右舷に近づく目標。レールガン攻撃始め!』

『用意、よし!』

『撃ちィィ方ァァ始めェェ! 用意、撃て──!』


 ──発砲!


 ……戦艦大和が食い止めている間に、アクアラインデストロイヤーは急旋回し、お台場に滞空。貨物扉を開く。

「ドラム型格納庫、ガバメンジャービークル、発進!」

 筒状格納庫が回転し、黒塗りのセンチュリーを鋼のスロープから吐き出していった──‥‥‥


     *    *


 東京都千代田区丸の内──東京駅前再開発エリア。


「なんとか仲達らを撒いたな」

「さあて、この隙に皇居を制圧してやろうか?」


 武装警察、人民解放軍を率いる柏夫人が隊列を眺め、ほくそ笑む。


「「「「「────待て!」」」」」


 柏夫人が振り向いた先には──


 斯波財務大臣、荒垣健内閣官房長官、桜俊一内閣官房副長官、国枝晴敏防衛大臣、柏木外務大臣が横並びに構える。


「てめえら、絶対、許さねえ!」


 荒垣が熱い拳を握り締める。


「「「「「正義執行端末(ジャスティスライセンス)、起動───緊急出動! ガバメンジャー!!!!!」」」」」


年功(ねんこう)を司る五奉行──桜俊一(さくらしゅんいち)!』

 桜色(ピンク)の爆炎が炸裂!

勇気(ゆうき)を司る五奉行──荒垣健(あらがきたける)!』

 赤色(レッド)の爆炎が炸裂!

戦略(せんりゃく)を司る五奉行──國枝晴敏(くにえだはるとし)!』

 緑色(グリーン)の爆炎が炸裂!

情報(じょうほう)を司る五奉行──柏木神爾(かしわぎしんじ)!』

 青色(ブルー)の爆炎が炸裂!

家柄(いえがら)を司る五奉行──斯波高義(しばたかよし)!』

 黒色(ブラック)の爆煙が炸裂!


『『『『『国家権力で悪を討つ! 我ら、行政戦隊(ぎょうせいせんたい)───‥‥‥』』』』』


 足をズザッ! と踏み込み、腕をブンブン振り回して天を指差し、決めポーズを取る行政戦隊なるレッド、ブルー、グリーン、ブラック、ピンクの五人組ユニット、その名こそ──




『『『『『──────ガバメンジャー!!!!!』』』』』




 ドッカーン! と────ダメ押しに大爆発! 大々々々々爆発!


【 うちよそオールスターズ☆奇跡の五奉行大集合 】と言わんばかりの超展開だ! 筆者はあくまで正常運転であるがここからはギャグパートとなるので読者の寛大さに期待したいところ。


 ※この番組は筆者のノリとご覧のスポンサーの提供でお送りします。


『……変身できてへんやんけ!』

 美咲のツッコミは今日も冴え渡っている。ワラワラ超会議の洋介との掛け合いは伏線といったところか。

 行政戦隊ガバメンジャーはまだ本気だしてないだけと言わんばかりにガバピンクが変身アイテム的なものを取り出す──前言撤回、これはただのガラケーだ。


『『『『────着装(ちゃくそう)!!!!!』』』』


 青いガラケーがカチャっと開くとキーがピロリロリンと点滅し、電波が防衛省の鉄塔に受信する。


『──ガバメンジャー、令和十二年度補正予算、課金! ──ぐはっ!』 


 政治家と官僚の板挟みとなりデスクワークを続けた内閣官房副長官御年六〇の苦労が祟り、背骨に激痛が走る!


《──ナショナルパワーは年功序列! ケアぎっくり腰!》


 超~最悪なタイミングでマスコミがテロップを打ち、バラエティー番組みたいにテロップがガクンと傾く。まぢ意味わかんない。

 


 ……確かにガバメンジャーはテレビの前のおともだちにスマイルとお茶の間で見守るおうちのひとに失笑をチャージしたことには違いない。

「ぎっくり腰だって~」

「こら、笑ってられるのは今のうちですよ」

「いいんじゃよよしえさん、さあおじいちゃんと遊びましょうね~?」

 ゲラゲラ笑う子供を親世代がたしなめ、祖父母世代がなだめる……



 ……これから巻き起こる血湧き肉踊る一大カタルシスを予感し美咲がひとつため息をついてエレクトーンにつく。椅子の上でお尻をもじもじ動かし、蜂蜜色の毛先が(ヘアアイロンで毎朝人工的に仕込んで)カールしたゆるふわ系の髪を後ろでヘアゴムで束ねた。高校以来のスタイルだ。いくつかのボタンを切り替え、指を走らせる。

 実年齢は三十路だけどわたし美咲(みさき)には幼女の気持ちがまだひとかけらだけ残っているんだからっ!

 仕事用でA社で購入したI型のスマホにイヤホン端子を挿し込み、イマドキの若者が友達とカラオケに行った時に輪番で自分の歌が回る前に恥をかかぬようにあらかじめ動画サイトで見つけて耳コピする感覚で旋律を脳内にインストールする。右手中指でエレクトーンをトントンとつつきながら拍子を取り、目を瞑り、目元にきゅっとシワを寄せ、首をかしげ、口を波線にしながら一通りざっくり聴いた上で要所要所を繰り返し、絶対音感に絶対の忠誠を誓うディーヴァたらんとするプロ意識で鍵盤を叩いてゆく。


「美咲、やるならもっと広いところで──」


「───う、うるせえええええええええええええ~~~~~~~~! い、ま、話しかけるなや! 聞き取れるわけないやろ! ……このドアホ! 安月給! ほんまありえへん! なに考えとるん!?」


 ──プロの美咲の逆鱗に触れた洋介に愛するハニーの鉄板入りブーツが重力加速度で殺人的勢いと化し急所にクリティカルヒット! 


「────あべしっ!」

「君の、忌々しい、雑音が、〇・一デシベル以下に、なるまで、蹴るのを、やめない!」

 ドカッ! バキッ! ボカッ! 最後に右ストレート!

 洋介が白目向いて鼻水垂らしてぶっ飛びゴロゴロ(中略)ゴロゴロと転がり壁にぶつかり、ガクッ、と意識を失う。

「衛生兵ーっ! 衛生兵ーっ!」

 幸一が痙攣する洋介の身柄を引きづり退避した。

  


 ──そんな茶番はさておき、俺たちの戦いはこれからだ!



 ……既に茶番どころか地獄絵図の釜を開いてしまった気がしないでもないが。

 

 筆者の筆力がないので便宜上顔文字で表現するが、幼稚園年長さんのとうじょうはるかちゃん(5さい)がマスコミのカメラに向け『(*>∇<)ノ』みたいな顔で全国のよいこのみんなに呼び掛ける。

 筆者の性癖がロリコンと誤解されかねないが当作は東京都世田谷区に一軒家を構える海産物一家の時空間ではないので主人公ヒロインが三十路となったため世代交代とテコ入れを図った次第。


『テレビのまえのみんなー! げきじょープレゼントの光るグッズ的なあれで応援してほしいのらー!』


 遥ちゃんはぴょんぴょんして、くるくるまわって、ワンピースがふわふわしながら──


『みんなー、いくよー、せーの──がばめんじゃー! がんばえー!』

「「がばめんじゃー! がんばえー!」」


 親御さんに抱っこされてお姫様や魔法少女のコスプレ衣裳に身を包む幼稚園年中さんくらいの物心つかないくらいの未来のかわいいプリンセスたちが劇場特典のパンフレットにひらがなで印刷された覚えやすいフレーズを親御さんに読んでもらいながら思い思いのエールを託していく。


『もっともっと! いっくよーお!?』

「「ガバメンジャー!」」「「がんばえー!」」


 過去の甘美であでやかなる記憶を引きづる小学生、中学生、高校生、大学生、専門学校生、社会の理不尽を優しい思い出を武器に耐える先輩プリンセスがリクルートスーツ姿でレインボーにかがやくペンライト、サイリウムを高らかに振りながら自身を困難を乗り越え未来を切り開くためにためにガバメンジャーと薙瑠ちゃんに感情移入しながら魂の叫びで熱狂する。


 ちなみに安物の折ると光るアレをイメージしていただきたいが、これただの景気づけのサイリウムではない。

 〈太陽因子(たいよういんし)〉が封入されておりオーディエンスの盛り上がりに比例して太陽因子──〈(はな)〉が百花繚乱の花吹雪を散らす代物だ。


 するとそれを触媒とし、防衛省電波塔から微粒子状に分解された変身スーツが転送されそれぞれのパーソナルカラーに光りかがやく粒子となってガバメンジャー各々の周囲に渦を巻く。タイミングを合わせて五人の衣服が霧消し、薙瑠の肌着によく似た黒のインナースーツ姿になる。待ちかねていたかのように粒子が全身タイツの要領で各々の身体を包む。

 肘と膝にカーボンファイバーのプロテクターが造成され、胸部から背中にかけてメカニカルな機巧が展開し、歯車(はぐるま)が回り、さらにその上から分厚い特殊合金の複合装甲が固める。



 〈 行 政 戦 隊 ガ バ メ ン ジ ャ ー 〉



 ──と迫力あるフォントのタイトルロゴが威風堂々と丸ノ内の高層ビルにプロジェクションマッピングされ、レッド、ブルー、グリーン、ブラック、ピンクが応援してくれたちびっ子たちへのサービスに手を振って、観客との一体感を醸し出し、舞台演出をする。


『ありがとみんなー! みんながいっしょうけんめいおうえんしてくれたおかげで、わたしたちのまちに、ガバメンジャーがたすけにきてくれたよおー!』


 遥が呼吸をととのえ、司馬一家を見つめる。


『ちるちゃん、がんばれー!』

『私たちのぶんまで幸せになってね!』

『日本人は歓迎するぞ!』

『サインくれー!』

『国の誉れじゃ!』

『ありがたや、ありがたや、』


 日本全国津々浦々、老若男女が薙瑠を歓迎しているではないか! 

 ああ、なんたる壮観たる展開か!

 

 薙瑠ちゃんが顔を綻ばせ、豊かな笑みになる。


 ──丸の内オフィス街が桜吹雪に包まれた!


 司馬一家とそのお嫁さんになった薙瑠ちゃんが額から深紅の角を生やし、髪をかわいい赤いリボンでくるんっと結び、桃色の髪とリボンがふわ~っと靡いてめっちゃかわいい~。

 薙瑠ちゃんの左隣には鬼の姿になってちょっとやんちゃっぽい属性が追加されたワイルド系イケメンな子元様が現れ、薙瑠をよしよしする。

 同じく彼女の左隣には鬼の姿になった子上君が現れ、薙刀を肩に担いでふたりの門出を祝う。

 空気を読んで仲達が子元のさらに左隣に一騎当千の仲達さんが眉に力を込めながらも男らしい頼もしい笑みを浮かべ、両刀を構える。

 春華さんが水月を構え、妖艶な笑みを浮かべる。


『信じられません! 全く信じられません! いまだかつてこんなことがあったでしょうか!? 前代未聞です!』


 ……いやもうほんと全くその通りで、フェイクニュースを繰り返す朝陽系、そして政権寄りの産政系と中立の東邦系と公共放送のリポーターが珍しく事実のありのままに伝え、日本全国津々浦々への生中継の地上波デジタル放送に乗せ、まくしたてるではないか! 


『視聴者の皆様、この光景が見えますか!? 我々は今歴史が変わる瞬間に立ち会っているのです! 魔界軍の侵略に、東京の蹂躙に終止符を打つ、希望のスーパーヒーローたちが飛んでいきます! はるかかなた二千年も前の三國志の戦乱の世からはるばるやってきた英傑たちが、日本国政府と共闘して、あの忌々しいヤマタノオロチを討伐しています! 日本が二〇年間悩まされたあのオロチの悪夢が終わるのです!』


 その胸熱展開は、さしずめ──






劇場版(げきじょうばん):うちよそオールスターズ☆みんなで薙瑠(ちる)ちゃんに届けよう!太陽(たいよう)(はな)のドリームコーラス♪ 》

 





 ……みたいな?


     *    *


 敵のモブ兵士の回りを活動服姿の自衛隊と警察が取り囲む。

 その数は敵部隊と同じぐらいだ。

「「たとえ武器の使用に制約があろうと!」」と警察官。

「「腕っぷしでねじふせる!」」と自衛隊。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 自衛隊と警察が花を持たせる、そのガバメンジャーはこの時、巨大ロボット戦に持ち込もうとしていた。


『──コアストライカー、ビルドイン!』


 東京都庁ビルに黒塗りの高級車が集結し、足元のエレベーターから進入。

 白煙を上げながらドリフトし、火花を撒き散らしながらエレベーターがそれを咥え込み、外部装甲を閉鎖。

 エレベーターの四隅の赤色灯が薄暗がりの秘密通路を鮮やかなレッドに照らし上げる。

 

『コアストライカー、コンバットモード!』


 荒垣がシフトレバーを切り替えると、都庁が光を発し、最初に底面にキャタピラが出現。一片がプールぐらいあるべらぼうにでけえキャタピラがあらゆる建物を踏み潰す。


『このまま靖国通りから進撃して!』と荒垣。

『ヤマタノオロチを制圧する!』と斯波。

『俺たちにはまだ戦艦大和がある!』と国枝。

『国連安保理に緊急提訴だ!』と柏木。

『薙瑠ちゃんと子元君は我々が救う!』と桜。


 都庁の壁面が一斉に開き──幾百もの小型ミサイル発射、乱れ撃つ!!


 有機的な機動を繰り広げるミサイルカーニバルを背景に薙瑠ちゃん&司馬一家が蝶舞蜂刺の軌跡で縦横無尽に天空を駆け巡り、ヤマタノオロチの頭をひとつずつ屠殺!


 同時に戦艦大和が艦砲射撃で敵地上部隊を釘付けにする。


 ──アクアラインデストロイヤーがドリルをオロチめがけ突貫!


『オロチの無力化に成功! 行くぞ、即決裁判だ!』


 ガバメンジャーにしか与えられていないジャスティスライセンスのうちレッド、つまりヤタガラス作戦で人類の勝利を導いた荒垣健(あらがきたける)内閣官房長官兼内閣府特定事案対策統括本部本部長のみ、スイスジュネーブの国際連合のサーバーへのAAA(トリプルエー)クラスのアクセス権限が認められている。


『──(かしわ)夫人! 幕張メッセにおける幻華譚を口実とした武力攻撃、日本国政府高官への暗殺未遂、本邦国賓たる魏国訪問団に対する営利目的誘拐ならびに、司馬仲達閣下に対するハニートラップの容疑で──国際刑事裁判所に緊急提訴!』


 ──特事対(とくじたい)が指名手配した敵に対しては、ジャスティスライセンサーの要請により、大海原のはるかかなたに位置する国際刑事裁判所から、わずか数分で判決が下されるのだ──


『────有罪判決(ギルティ)、抹殺許可!!!!!』


『カードリーダー、令和十二年度第二次補正予算、フル課金!』

 

『『『『ラジャー!!!!』』』』

太陽因子装填小銃(ソールバスターライフル)、セーフティーロック解除』

 五人皆がその銃を天に向け、プラズマ球の閃光が迸る。

『『『『──太陽因子(ソールエレメント)、フルチャージ!』』』』

『──戦艦大和より緊急通信、これより敵に艦砲射撃を敢行する!』

『都庁ロボ、スタンバイ!』


『──数字や理屈を捏ね回して人の心を踏みにじる秩序を作る貴様らにっ!』

 柏木外務大臣が構える。


『──俺たち政治家と自衛隊、そして全国民は、絶対負けない!』

 國枝防衛大臣が構える。


『──人間が強く優しい気持ちを忘れずに生きていくために何が必要か、君などには、わからないだろう!?』

 桜副長官が構える。


『それは恋人と家を紡ぎ、仲間と仕事を紡ぐ──』

 斯波大臣が構える。


『──人を信じ、愛しあう心だああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』

 ──荒垣長官がトリガーを引いた!



「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」




『──太陽之華共鳴(ツインドライヴ)・オールスターズ・レインボーバスター!!!!!!!』  

 高密度に圧縮臨界した太陽因子が虹色のビームとなりオロチを呑む!

『──レールガン──弾、着!』

 戦艦大和のレールガンが敵地上部隊に直撃!

「行くぞ薙瑠」 

「はいっ、子元様っ!」

 ──宵月と泡沫の二刀流の構えの子元がオロチに閃き、すかさず薙瑠が紅桜の一太刀を浴びせかける!

『とどめだ! 都庁ロボ、ロケットパーンチ!』  

 ──ダメ押しに鉄筋コンクリートの鋼の拳がオロチに叩き込まれた!



「「「「「おのれえええええええええええええええええええええええええええ」」」」」





 ────────────爆発!!!!!!!!





 ガバメンジャーもとい五奉行が南側の東京駅の赤煉瓦の駅舎に振り向き、威風堂々と構える。

 その場へ仲達、春華、子上がふわりと舞い降り、──正面に薙瑠ちゃんをお姫様だっこして子元が着地。

 鋼の拳を構える超巨大都庁ロボが夕陽を浴びてその勇姿をたたえる。


 群衆の歓声が爆発した──!


 ああ、だれがその勇姿の前に感動せずにいられようか!








 《 劇中劇:うちよそオールスターズ☆みんなで薙瑠ちゃんに届けよう!太陽と華のドリームコーラス♪ 》──END──








 ……月明かりが東京の夜景にほほえみかけ、ネオンサインの中に人々が溶け込む。


 女の子ってこういうのが好きなんでしょ? と言わんばかりにきらびやかな装飾が施された木目調の馬車がカラコロと薙瑠の前に停車する。

 それを先導する黒塗りのリムジンは窓を開け、中から手を振るやんごとなき方に老若男女が驚く。

 ボーイスカウトが紙製の日の丸を配り、皆が自発的に後ろに配り始める。

 祈る子供もいた。涙を流す老婆もいた。  


「「天皇陛下万歳!」」「「天皇皇后両陛下万歳!」」

 

 黒塗りのリムジンが慎重に停車し、重厚なドアが開き、先に降りた天皇陛下(てんのうへいか)が革靴を踏み鳴らし、皇后陛下(こうごうへいか)の手を優しく取り一緒に降りる。

 天皇の燕尾服の裾がふわりと舞い上がる。


 天皇は静かに玉音を下賜する。

「子元君、薙瑠ちゃん。よくぞ東京を守ってくださいました。日本を代表し厚く御礼申しあげます」

 皇后が薙瑠を抱きしめる。

「宮廷舞踏会があるから楽しんでいってね」


     *    *

 

「今までありがとう。あなたの助けがなくても、日本の人々は私を受け入れてくれたから」

 薙瑠は眼帯をそっと外し、桜があしらわれた綺麗な小物入れに収めた。

 空色の瞳と桜色の瞳が暖色系の柔らかな室内灯をたたえ、ゆらめく。

 カーテンが揺れ、月明かりが小物入れを宵闇へいざなった──‥‥‥


 薙瑠はきらびやかな青いドレスに身を包み、子元はタキシード。

 白い肩が出ているから恥ずかしいのか、子元が自分をエスコートしているから恥ずかしいのか薙瑠にはわからなかった。

「(子元様、とても楽しそう)」

 それでも、今日からは空色の瞳と桜色の瞳のふたつのまなざしで子元の姿を感じていたい……

 二人のシルエットは楽しそうにくるくると廻りつづけていた。


 シャンパン片手に談笑する日魏双方の政府高官に秋津悠斗内閣総理大臣が歩み寄る。

「そういえば秋津総理大臣、新たな宮内庁人事ですが……」

 斯波がちらちらと仲達を見やり、空気を読んだ彼が席を外す……


 ……木目調の扉が閉められると、皇族以外の者が全員中世の騎士のように秋津悠斗内閣総理大臣にひざまずき、主君への忠誠心を証明する。

 上皇がまるで孫を見るかのような優しく温かいまなざしで悠斗を見守る。

「殿下、お手を煩わせ申し訳ありません」

 日頃勇ましい荒垣が目を伏せ、遠慮がちに言葉を紡ぐ。

「いや、よくぞ陛下と東京を守ってくれた」

「これも高貴なる殿下の御威光の賜物にございます」

 桜内閣官房副長官が微笑んだ。

「これからも頼むぞ。俺を支えてくれ──」









「仰せのままに────秋津宮悠斗親王殿下(あきつのみやゆうとしんのうでんか)









 …………劇中劇、ひとまず終演。とっぺんぱらりのぷう。



 某幸福映画と微妙に似てる気がしましたが執筆当時気づきませんでした。ご了承下さい

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