第3話『木花咲耶姫を継ぐ國、その名は日本』(3/13)
「三國ノ華──二つの國の物語───」
製作委員会presents
──決して忘れやしない、父の怒り。母の亡骸。
幼き神は生まれながらに父から憎まれ、斬首された。
その祝福されぬ神の名は──カグツチ。
誕生したその命と引き換えに母の命を奪った。
その罪は国ひとつ差し出してもあがなえぬほど重い重いものであった──
そう伝えられている、神話では。
「(──天子様の大御心は拝察の及ぶところではない──)」 ……そうイザナミとカグツチは思ふ。
今や魔界皇帝となりおおせた大帝イザナギは巧緻なる幾何学模様のステンドグラスからの陽射し降り注ぐ玉座にて、帝国軍を率いる。
その帝国こそまさに、百鬼夜行作戦で時空間の狭間から魏に攻めいった蛮族ども、正確には魔界帝国だ。
ワインレッド、というより血のようにどす黒い赤絨毯が敷かれた皇帝玉座の間において、皇帝は気怠そうに頬杖をつき、破壊と暴力に愉悦をおぼえる。
彼らの行動、大帝の行動理念は重臣すら預り知らぬ。重臣から末端の下戦士に至るまで彼らは先祖から複製された形代の肉体であり、幼少期はともかく彼らの社会に疑問を差し挟むことを彼らは知らない。
今、忠実なる大帝の重臣と、彼らに指揮される下戦士は敵を蹂躙し、弄び、嘲笑い、叩き潰した。
野蛮な闘志に比例して青い焔が松明から噴き上がる──!
「むなしい……実にむなしい。人が家を作り、村を作り、地方を作り、国を作ってきた。歴史はその繰り返し、諸行無常だ。縄張りを広げるために血で血を洗い、敵と言う名で指を差す。我が最愛のイザナミも人間界のために命を奪われたのだ」
──どういうことだろうか!? 神曰く、神話は偽りだとでも言うのか!?
大帝はうそぶき、富士山頂上の浅間大社奥宮を見据えた。
「……そうは思わんか? 木花咲耶姫よ」
イザナギの眼前に情景が映った。
女神、いや、鬼だ。
紅桜のごときあでやかな長髪に赤い角。そのうちの一本には包帯らしきものが巻かれている。幼女体型を着物が包み込み、背丈は判然としない。
桜の社で木花咲耶は祈る。何を祈る?
富士──不死とも読める。帝が不死の薬を焼いた故事は多少教養のある者にとっては常識だ。
さて、一説によれば、竹取物語のかぐや姫のモデルは木花咲耶姫らしい。
美人薄命の木花咲耶姫と、不死の薬を与えたかぐや姫。
もはや、これは、偶然ではなかろうぞ。
「(──薙瑠や、妾は此処で三千世界のすべてを視ておる。見守ってそなたの幸せを祈っておる。祈ることしかできぬ。妾は祈ることしかできぬゆえ、だからこそ現し世の生ある者を信じたいと思ふ。天皇の御前に集いし神と鬼と人が手を携えた時、偽りの陽の物語がまこと偽りとなり、人が為す新たなる創世の神話──二つの國の物語となるのじゃ──)」
……コノハナサクヤが見上げる先には濃紺の天球が広がり、蒼穹の彼方には、無限の星々……恒河沙の銀河が流れゆく……
ああ、一三七〇〇〇〇〇〇〇〇光年の時間の何と偉大なることか。
恒星のベールから惑星が生まれ、惑星は海と緑に、あまねく生命に祝福された。
生命の樹に純愛宿り、紡がれゆく……
太古の記憶。
悠遠の神代から続く人々の営みは神話となり、新たなる時代の幕開けを告げる……
その物語、その舞台、その國は──
《 三國ノ華二次創作 第二章「純愛篇」第3話『木花咲耶姫を継ぐ國、その名は日本』 》
……なぜコノハナサクヤを知っているかと問われた秋津悠斗はこう言ってのけた。
「──日本にはコノハナサクヤの血を代々受け継ぐ皇帝──天皇陛下が君臨される国家体制が二六九〇年続いています──」
魏の一行が刮目する。
「何だと───!!?」
堪らず仲達が問いただした。
「ここからは某が」
「頼みます」
斯波高義副総理兼財務大臣が引き受けた。
彼は秋津より年上の三十一歳。秋津総理大臣よりやや年上の彼は当初から宮内庁長官、ひいては庁長官から省大臣に昇格される手筈の宮内大臣を所望していたが、家柄を期待され副総理格の財務大臣となりおおせたのだ。
司馬氏と斯波氏の邂逅は運命のいたずらだろうか?
「コノハナサクヤヒメを娶ったニニギノミコトは、ハツクニシラススメラミコトであらせられる神武天皇の曾祖父にあたる神でございます。以来皇室には、神の皇子と鬼の皇女がお生まれになります」
じっと聞いていた桜薙瑠も思わず、やっとこさ覚えた首相という肩書で問いかける。
「秋津首相……何かの冗談ですか? 少々話がみえないのですが……」
魏国一同が狼狽する。
「神と鬼の政略結婚は古より行われ……女性に言うのは憚られますが、いわゆる近親婚もなされたこともあります」
「……」
「八百万の神々という言葉があるように、神や鬼の末裔は億兆赤子が大倭豊秋津洲にあられますれば、それでうまく取り運んでいたものなのですが、神武天皇による橿原の地での開闢から二六〇〇年ほど経った頃、こちらの世界の暦で西暦一九四五年ですね──日本は戦争に負けています」
「……負けた?!」
司馬子上が目を見開いた。
「皇室の存在と民の暮らしは守られましたが、敵の姦計により、神を受け継ぐ男系男子が臣籍降下されました。そして鬼ではなく人が皇室に嫁ぐようになりました。畏れながら、今の皇太后陛下、皇后陛下、皇嗣妃殿下、がそれにあたります。そして丁度物部政権の終盤、皇嗣家の内親王殿下が人に手篭めにされその皇子を即位させ人が皇室の外戚となり権勢を振りかざす動きもあります」
この席はあくまで本番である日魏首脳会談が瑕疵なくとり行えるよう設けられた事前担当者会合である。従って先に述べたように一通りのブリーフィングはしてあるが、ここまで突っ込んだ話は初めてだ。
「──遠からず、神と鬼の血が薄まり、我が国はタイムリミットを迎えます」
「──まさかあんたら!?」
腕を組んでいた魏サイドだったが、六華將の一角たる鷺草神流が頭を跳ね上げる。手元には【ヤマトヲグナ作戦】の冊子が丁度来ていた。
「私達の世界の華を使って國の延命を図る気──!?」
日本サイドは、応えを返さず──。
神流はこれを肯定と捉えた。実際、その通りだった──
……百鬼夜行作戦を終え帰還した高天原博嗣は日本国政府、当時の物部泰三内閣総理大臣に、〈太陽因子〉と〈華〉が一致する旨報告。
事実上の富国強兵政策たる物部ドクトリンを喧伝する保守党物部政権はこれを技術革新の好機と捉えた。
民衆党政権で脆弱性が露呈した原子力発電の代替エネルギーとして、常温核融合炉を実とする華力発電なるSF的技術革新に至る。機密事項のためブラックボックス化。便宜上一般名詞である太陽炉と呼称される。
桜薙瑠が戦艦大和の機関部に〈華〉を視たのも、秋津首相が〈華〉を賜った旨礼を申したのも、この技術革新によるものなのだ。
現代日本は妖術を使えない代わりに科学技術を磨いて政治軍事を飛躍させたのだ……
「……薙瑠ちゃんに何かしたら許さないわよ──!?」
「いや、そこはご安心ください。今は言えませんが、少なくとも司馬子元と桜薙瑠の両名にに危害を及ぼす真似は致しません」
東城洋介が一武官の身でありながら日本国政府を掩護射撃してやる。
「でもね、洋介殿──」
抗弁したのは子上だ。
「委細を言えないけど謀略のために利用させてください、なんて通ると思ってる? 一応僕たちも国を預かる身なんだけど?」
日本サイドはうなだれた。口語調だが鋭い指摘だったからだ。
そのような中、薙瑠はあの村の記憶がフラッシュバックしてしまっていた。
他者から向けられる「かわいそう」という視線が耐えられなくて。
他者から向けられる哀れみ、好奇の目と特別扱いが不愉快この上なくて。
他者から向けられる「助けたい」「守りたい」が紙切れのように軽薄に感じられて。
──偽りの時間でも、私にとっては大切な居場所なの!
──洋介も美咲も秋津首相も荒垣長官も武官も文官も「無責任に助けようとする大人」なんでしょ!?
……そう言ってしまいたかった。
それが、喉まで出かかっているけど、言葉に出す前に繊細な人間にありがちな脳内で一旦シミュレーションすることを繰り返し、その場で言うタイミングを無くしていく。
そうやって、薙瑠が置いてけぼりのまま議論が白熱し、うるさいノイズの中に聞きたいことが紛れ込み、聞くと聴くがごちゃごちゃになる。
自分のことで大騒ぎされるぐらいなら放っておいてくれたほうがマシ、だから迷惑になるという建前で自分を護りたい──と、もしかしたら薙瑠は常日頃思っているのかもしれない。
薙瑠は水色の華服の裾を握り、口を一文字に結び、顔を真っ赤にして、理不尽に堪えていた。
そして唯一、秋津内閣総理大臣の妻だけが桜薙瑠の心からの聲に耳目を凝らした──。
う そ つ き
「──おい、薙瑠?」
子元が伸ばした手を、あろうことか払いのけ、薙瑠は目元を腫らして、右目からひとすじの雫をこぼす。
彼女は机上のヤマトヲグナ作戦なる冊子をひったくる。
「──存在意義を侮辱した埋め合わせに子元様と添い遂げさせてやろうなんて、本当に親切で優しくてありがとう。 ──‥‥‥〈紅桜・霞ノ型〉」
冊子を両腕で抱え込んで口元を隠して泣いている様子は、男たちに罪悪感を感じさせ、女たちに悲しさを感じさせた。
桜薙瑠は感情の濁流を受け止めきれず、その姿をくらませてしまった──
* *
薙瑠が出ていってしまった会議室は寂しいことこのうえなかった。
子元が洋介を鋭くにらみつける中、
「……馬鹿だな、私たち」
ぺったんこ座りで沈黙を破ったのは美咲だ。
「薙瑠ちゃんはお仕事と恋の板挟みになって苦しんでた。何もできなかった……助けられないのに、助けたいなんて言って、薙瑠ちゃんを、傷つけた」
「ちっがーう!!!!!」
託児所からいつの間にか会議室に乱入した遥がコミカルな表情で鼻息をスチームのごとく噴き鳴らし、美咲の肩を掴み前後に揺さぶる。
「そんなのおかーさんらしくないよ! おかーさんはいつもげんきいっぱいでみんなをはげましてきた! それがおかーさんでしょ!」
「でも」
「助けられないなら、放っておくか?」
「ううん」
洋介に美咲は首を振った。
「お嬢ちゃん、忘れちゃいけない、俺たち東城家はパラダイムシフトの節目節目で政府を支えてきた。公私混同かもしれないが、俺はかみさんが北朝鮮に拉致されたから物部さんを総理大臣に推して自衛隊で出世したし、洋介と美咲ちゃんは戦艦大和に一緒に避難して結ばれ、その艦で子元と薙瑠ちゃんに出会ってる。俺たち一家こそ恋人、家族、友人を大切にする日本人の象徴じゃないのか」
幸一が腕を組み、頼もしい笑みを浮かべた。
「──私は、私は! 薙瑠ちゃんにちゃんとお話して、その上で未来を選んでもらいたい、誤解されたままお別れするなんて悲しすぎるよ」
美咲は日本国政府一同を見渡し決然と言ってのけた。
魏国サイドも、薙瑠の涙と美咲の決意に呑まれてゆく。
「美咲殿、あんた……」
仰々しく声をかける神流に、美咲は笑ってみせた。
「美咲でいいよ」
仲達がため息をついた。
「どうも日本側は謀略や詐術が下手すぎる。そこにいるんだろ──烏」
「……薙瑠の居場所ならわかる、案内するぞ」
* *
「(どうして、声をかけてきたの?)」
「(私が、かわいそうだから?)」
……薙瑠は桜の木の下でうずくまっていた。どうもここが落ち着くらしい。
すきとおった青空に雲がうつろい、草花が萌え、どこから迷い込んだのかきつねが薙瑠に頬ずりする。
「薙瑠ちゃん! 迎えに来たよ」
「……」
「薙瑠ちゃんを励ますこと、カッコよく言えたらいいんだけど、なんて言葉をかけたらいいか、わかんないや。芸能人やってるくせにね。薙瑠ちゃんが背負ってる重いものをちゃんとわかってなかった。忙しいのに呼び出して、命がけのお仕事があるのにそれを否定して、ごめんなさい」
「……」
「勘違いされたままお別れしたくないから言うね、私たちは薙瑠ちゃんと子元殿が日本で暮らしてくれるだけでいいの。国の偉い人はともかく、私は利用なんてこれっぽちも考えてないよ」
「……」
「私なんかじゃ頼りにならないかもしれないけど、秋津総理大臣も荒垣官房長官もいるよ。日本の政治家や官僚の人たちが頭をひねって、魏を守る方法を探してる。薙瑠ちゃんがそれが嫌ってはっきり言うその時まで、薙瑠ちゃんと生きる未来を諦めたくないんだよ!」
「……」
「私、薙瑠ちゃんからたくさん大切なことを教わったよ。好きな人に真っ直ぐ向き合う強さ、自分より大切なもののために戦う強さ。そんな薙瑠ちゃんが大好きだよ。ほんとに尊敬してるんだ。ほんとだよ」
「……」
「もし、日本が嫌になったら洋介が魏國に帰すから、観光していってくれないかな。私、薙瑠ちゃんとごはん食べたいし、買い物にも行ってみたい。だから、だから──」
「──美咲さん、大丈夫ですか」
和音を奏でるような低く落ち着いた声をかけたその老紳士は仕立てのよい背広を纏い、傍らに歩くは気品のある老淑女。車椅子に鎮座する肉体はかなりの高齢だ。
日本人なら誰もが畏れる存在が腰を沈める車椅子を洋介が真心を込めて丁寧に押す。
「上皇h──!」
驚き立ち上がろうとする美咲をその上皇なる老人は平手で制する。
「桜薙瑠さん、やっとお会いできましたね」
よしよし、とその手は姫様のように温かかった。薙瑠は目を丸くする。
「……あなたは?」
「いや、私は──」
「僭越ながら紹介致します、この方は──」
洋介に老人は苦々しい表情を浮かべ、目を閉じる。
「──上皇陛下。この日本の先代の帝であらせられます」
紗鴉那の天夜眼が上皇の玉体に釘付けになる。
まぎれもなく、この異国の帝は、姫様の末裔……
……そして、同じあたたかさの手を重ねる三十路の女性。
芯の強そうな彼女は、奇しくも、薙瑠とぴったり同じ身長だった。
「立ち上がりなさい、あなたはこんなところで立ち止まっている場合じゃないの」
「あなたは──」
「ふふ、私の正体はあなたが一番よく知っているはずよ」
──そうだ。私は彼女を知っている。
彼女が、己の内に在り、偽りの陽の物語の創造主であるからだ──
「薙瑠ちゃんは、これからどうしたいの?」
自分で自分の未来を決める。
それが内閣総理大臣夫人が桜薙瑠に課した試練だった。
* *
「中トロです」
強面な板前が盛り台に寿司を供する。
新雪のかがやきを魅せるまばゆいシャリに、淡く光るトロの脂。
カウンターには司馬仲達に張春華がつく。右隣に荒垣健内閣官房長官とその妻、ミネサカグローバルホールディングス代表取締役社長たる峯坂優結。国土交通省関東地方整備局企画部企画課課長補佐から天下りしたキャリア官僚である。
左隣に秋津悠斗総理大臣、国枝防衛大臣、柏木外務大臣だ。
「おしゅしー♪︎♭︎♡☆」
と、遥が『(*´▽`*)』と顔文字にできそうな顔で無邪気に微笑む。
東城家と子元、子上、薙瑠、神流はテーブル席だ。
で、双方の文武官もカウンター席。
酢飯のほどよい酸味と新鮮なマグロの旨み、それらがワサビによって引き立てられ醤油のコクで染め上げられる。日本人にとってこれ以上の贅沢はあるまい。
黒い大皿に寿司が運ばれてくる。ひとり十貫程度か? 吸い物もついてくる。
遥の祖父たる東城幸一統合幕僚長がビールのジョッキをあおり年配男性特有の自慢話を始める。
「俺な、魚の三枚おろしができるんだぜ」
「へ~」
「アジのなめろうって料理があってな、鰯に生姜とか葱とか薬味をからめて味噌味にするんだよ。それがうまいのなんの」
幸一は漁村出身である。
「奥様も料理上手なんでしょうね~」
子上の無邪気な問いに、東城家全員が固まる。未就学児の遥までもが幼女なりに口にチャックをしていた。
「(……!)」
まさかその奥様が某国にかどわかされたとは言えまい。雰囲気が悪くなる。
北朝鮮から妻を奪還するため、東城幸一は政権与党保守党を支持、ひいては大泉剛一郎政権、物部泰三政権樹立に尽力したのだ。高卒で統合幕僚長の地位に君臨しているのがその証左だ。
──その物部泰三政権において、東城が防衛大臣に推挙した男がすぐそこのカウンターにいる。
相手の杯に清酒をなみなみと注いでやる。
「やっと一杯奢る約束を果たせました」
「ああ、そうだな」
と、その男は数年前、【百鬼夜行作戦】を共闘した司馬仲達との旧交を温めていた。
司馬は品位を損なわない程度に豪快に飲み干す。日本酒の米の甘さとアルコールの辛さが喉を爽やかに焦がす。
そして仲達もお返しに注いでやる。
仲達のカウンターパートにあたる彼、荒垣健の素性を少し洗ってみよう。
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~二〇一二年~
◆【ヤマタノオロチ討伐作戦】(当時34歳)
─〈告知神獣〉に対する戦艦大和のレールガンを使用した自衛隊火力一点集中による反撃作戦─
※オロチの尾から妖刀出現。
~二〇一八年~(当時40歳)
◆【百鬼夜行作戦】
─日魏連合艦隊による〈華〉と〈太陽因子〉の共鳴による魔界軍迎撃作戦─
~二〇二〇年~(当時42歳)
◆【ヤタガラス作戦】
─地球外生命体に対する全世界同時反撃作戦─
~二〇三〇年~(現在51歳)
◆【ヤマトヲグナ作戦】
─司馬子元と桜薙瑠の現代日本転生を目的とした天皇と木花之佐久夜毘売との血脈を術とする歴史介入ならびにパラレルワールド創世を主軸とした日本神話を典拠とする草薙剣と大和武尊に肖かった統合作戦計画─
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……これらをやってのけたのが、内閣官房長官にして内閣府特定事案対策統括本部担当大臣たる荒垣健。五十路だが覇気ある黒髪短髪に男らしい据わった目付き。鼻筋は通っており、英雄と呼ばれるにふさわしい男だ。特に二〇二〇年の地球外生命体襲来では全世界同時反撃作戦を主導した偉業を誇る。
秋津政権の組閣人事は後輩をねじこんだり義父を官房副長官にしたり挙句の果てに父の盟友を幹事長にしたりとただでさえ異例づくめであるが、元総理大臣が官房長官になるのは前例がないだろう。
二〇一二~二〇二〇年の物部泰三政権と、二〇二〇年から秋津総理総裁選任まで務めた羽賀信義政権において、自身も一度内閣を率いた青梅一郎副総理兼財務大臣の例があるように、普通は副総理など実務から離れて名誉職的なポストにつくものであり、荒垣にもそれが打診されたが、当人曰く、
「名誉職より実務をやらせろ、俺が内閣官房長官だ!」
……とのことである。
まあ、荒垣らしいと言えば荒垣らしいが。
現在、峯坂優結と交際。互いの仕事もあるし、結婚となると妻側の名義変更等手続きがやたら繁文縟礼となるのがフェミニストを自任する優結の許せぬところらしい。
運命が少し変わっていたらもっと早く飲めたはずの荒垣健と司馬仲達。
「……」
「……」
無理に何か気を利かせた言葉を言う中でもなかった。
男と男、いや、漢と漢の友情だ。これこそまさに盟友と言うべきものだ。互いに国を預かる者として最高の理解者でもある。
──はらはらと桜の花びらが舞い、清酒の水面に薄紅色が妖しく光った──‥‥‥