第13話『三國ノ華・桜散りし時のはじまり』(13/13)
……西暦二〇三〇年、世界は大きなパラダイムシフトを迎えている。
子元と薙瑠は二〇〇〇年後の日本で生きるため、一年間の準備期間を必要とした。
精神的、のみならず、身体的にもそうである。
桜薙瑠の身体に宿る青燕は、同じイメージアイコンを持つ某短文投稿型SNSと一体化し、偽りの三國志を破壊するトリガーの発動は回避された。
……確かに回避されたのではあるが、忘れてはならないのは、薙瑠は過去に心肺機能に重症を負っているのである。
当然、転生後祝いもそこそこに即日高天原クリニックに検査入院した薙瑠は、目まぐるしい精密検査に泡を喰いながらもその診断結果を伝えに来た高天原医師は開口一番どえらいことを申し渡した──
「──子元殿と薙瑠ちゃんは、永遠に生きるかもしれません」
太陽因子は、恒久的な力をもたらす恒星、その中でも古今東西最も人類の習俗に身近な太陽のエレメント。学術的なことは省くが……微粒子状のそれはかがやくナノマシンで、二〇二〇年に突如として来訪した地球外生命体の置き土産である。自己増殖し、とりついた宿主の身体に作用し、永遠の命をもたらす、華と似て非なるエレメントだ。
転生してもなお、不老不死の肉体を得た司馬子元と桜薙瑠。
その存在はもはや鬼を超越し、神にひとしい。
さて、何もかも環境がかわった薙瑠だが、それでも変わらない存在意義がある──偽りの世界を糺すことだ。
──信じられないかもしれないが、実は、薙瑠は今でも戦っている。
もっとも、彼女はもうひとりで抱え込まなくていい。最愛の子元が隣にいて、経済的にも養っているし、薙瑠ちゃんがピンチなら荒垣総理大臣が自衛隊を派遣して援護するだろう。
──実は、簡単に薙瑠ちゃんに会える方法がある。
簡単なことだ。
もし、読者諸氏が薙瑠ちゃんの活躍をみてみたいのならば、某短文投稿型SNSで日本各地の創作クラスタが描いたり書いたりしたコラボ作品を覗いてみるといい。
青い鳥がイメージアイコンだからすぐにわかるはずだ。大半の読者諸氏はこれを利用して、自分の創作仲間と交流しているはずだ。筆者もこれを利用して、三國志から少し分岐した世界での薙瑠ちゃんの活躍を歴史書に残したとあるクリエイターと出会えたのではあるが……と、まあ、それはともかく、
で、その作品の数々を見渡せば、薙瑠ちゃんがいる。確かにいるのだ。
子元や薙瑠ちゃん、きちゅねが様々な媒体を通し、日本全国津々浦々の創作クラスタが作り出した仮想世界に赴き、時には戦い、時には日常を満喫している。
仮想世界の創造主を創作クラスタという。
偽りの世界は、三華ひとつだけではない。
薙瑠ちゃんは、今もあちこちのパラレルワールドを行ったり来たりしながら、サイバー空間で子元と楽しく暮らしている。
今でも薙瑠ちゃんと子元は、SNSを媒体に生きているんだ──‥‥‥
それが、コノハナチルヒメ作戦の全貌。
三華世界ではそれこそ桜のように限りある儚い命の薙瑠ちゃん。その華を『キャラクター』としてツイッターを媒体に〈昇華〉させる。
それこそが、日本国政府の謀略だったのだ。
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……さて。
毎度のことながら少々メタフィクション的な論調にはなるが……え? あとがきでやれって? 知るか。筆者はこの俺だ。筆者たる俺はやたらと筆者筆者と連呼しているが、ん、いや、待て、俺という一人称はやや品がないか? まあいいや、ともかくとしてだ。
この二次創作とて、筆者の脳内の妄想を垂れ流しているだけの仮想世界に過ぎない。だから平気で作中に語り手として出現してきた。で、あくまで二次作品であるので作者ではなく筆者なのだ。
いやはやなんとも職権乱用もいいところだ。
二〇〇〇年の時空を超えて俺の仮想世界に出演していただいてるので子元と薙瑠ちゃんへのギャラがいくらか気になるところではある。
この最終話を以て、子元と薙瑠ちゃんとうちの子が紡ぐ物語は終演となる。
ヤマタノオロチに巨大ロボに戦艦大和に戦隊ヒーローに和洋中の飯テロにうちよそでBLにNLと色々とド派手にやらかした訳ではあるので、原作者様たる言詠紅華先生が当方の仮想世界に「何を感じるか」という一抹の不安こそあれど、これからの編纂の過程を予感しつつも、これだけは申し上げたい──
《 俺は【三國ノ華◇偽リノ陽ノ物語】の時間に出逢えたことに、心からの感謝を送ります。 》
……以上。(伝われ)
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……そうして、青春、朱夏、白秋、玄冬と季節は廻り廻る。
今は二〇三一年。
この年、秋津悠斗内閣総理大臣あらため秋津宮悠斗親王が即位し、新元号が公布される。
玉突き人事でこそあれど、誰もが荒垣健内閣総理大臣に導かれる新時代の到来に熱狂していた。
その新時代への改新の中核にあって国民的推しCPとして輝く司馬子元と桜薙瑠のあでやかなる思い出は写真となり、ふたりの暮らす家を甘美に彩るのだ。
春はを携え花見に興じ、
夏は浴衣姿で花火を見上げ、
秋は縁側で月を見上げ、
冬はこたつで蜜柑を頬張る。
みんな大切な思い出だ。
それが、ふたりの選んだ未来であった。
三華戦役から一周年。この時間で紡がれる終わりの始まり、堂々完結のその物語、その終章、その最終話は──‥‥‥
《 三國ノ華◆二つの國の物語 第五章「福音篇」 最終話『三國ノ華──桜散りし時の始まり──』 》
……東京駅京葉線ホーム上階まで電車の警笛と線路を踏み鳴らす音が響き、立ち食い蕎麦屋はどんぶりを抱え啜り込む男たちの背中で埋め尽くされる。
『──この時間は、予定を変更し立花内閣官房長官による新元号発表をお届けします。平成に続く二度目の譲位。来年度二〇三一年四月一日より改元される新元号に日本中が注目しています』
新幹線救出作戦の英雄たる青生土門はずるずるとうどんを啜りながら液晶テレビに釘付けになる。
『ただいま、終了致しました閣議で、元号を改める政令が決定し、され、第一回臨時閣議後に申しました通り、本日中に、公布される予定であります』
「大将 かき揚げ追加」
「はいよ」
立花官房長官は額を傾け、チラ見。上下が合っていることを確かめる。
『新しい元号は【紅桜】であります』
額を高らかに掲げ、まぶしすぎるフラッシュが焚かれる。
「くおう!」
「紅桜ねえ」
「卵」
「くおうだよ?」
「たまごだよ」
「はいよ」
うどんの残り汁に卵をからめ、割り箸でぐるぐるかき回し、一気に吸い込む。
ガラガラと戸が軋む。
「いらっしゃい」
黒いコートにサングラスの男は遠慮なくカウンターにつく。
「さて、熱いところをもらおうか」
「あいよ、かけ一丁──あれ、あんたもしかして荒垣総理大臣!?」
「え!?」
「嘘だろ!?」
「荒垣閣下!?」
サラリーマンたちのざわめきを気にせず、七味唐辛子をこれでもかとぶっかけ、ズズッと啜りこむ。
「おいおいおい」
「死ぬわあいつ」
まさか試合前に炭酸抜きコーラを一気飲みしている訳でもあるまい。
サングラスにあっけにとられた青生の顔が映る。
「いや、あれこそが立ち食いの奥義!」
青生は感嘆した。
どんぶりを高らかに携え、喉仏が大げさに動く。
ぶはーっ! とどんぶりから唇を離す。見事な食いっぷり、一分も経たずに完食だ。
爪楊枝を歯に通すと、その男はサングラスを外し、太い眉を吊り上げ不敵な笑みを浮かべた。
彼こそ、荒垣健内閣総理大臣ではないか!
いつの間にか店の周囲には遠巻きにSPが群がっていた。
「お迎えに上がりました──青生さん」
* *
紅桜元年四月六日──
太陽がかがやき、草原を照らす。
小鳥がさえずり、信号機から飛び立つ。
皇居のたゆたう水面に鳥たちが反射する。
そこを通過する女の子の影──
《わたし桜薙瑠! どこにでもいる普通の女子大生♪︎
いっけなーい、遅刻遅刻~!
だって今日は入学式☆イケメンな旦那様と待ち合わせしてるの♡》
……とキャピキャピのルンルンの筆者の適当なナレーションが入りながら、薙瑠ちゃんがジャムトーストを咥えてダッシュするお決まりな光景が繰り広げられる。
その姿は黒くフレッシュなスーツだ。
皇居二重橋が開門し、口をにやつかせながら敬礼で見送る。さりげに皇居に家があるとかまぢやばたにえんではある。
「子元様、待った?」
「いや、今来たところだ」
これまたお決まりな台詞を交わす。
薙瑠ちゃんは敬語がだいぶ抜けてきたが様付けだけは譲らぬ模様。
「行きましょう、子元様!」
「ああ、行こう薙瑠!」
ふたりは手を繋いで、東京駅丸の内改札口へ駆け込んだ──
* *
東京都文京区文京シビックホールを貸しきった逍遙学園入学式は国家斉唱で始まった。
付属幼稚園、初等部、中等部、高等部、大学まであるめちゃくちゃでかい学園。創作クラスタから政治家に自衛官まで育成するそれはかの有名な国際信州学院大学も真っ青な大学だ。
君が代は
千代に八千代に
さざれ石の
巌となりて
苔の蒸すまで
子元と薙瑠ちゃんがツイッターを触媒に不老不死となった今、実に意味深な国歌である。ひょっとしたら太古の日本人はこれを予感していたのかもしれない。
そうして学園長の挨拶がセッティングされる。
初等部一年生の東城遥(6)が高らかに叫んだ──
「あっ、おじいちゃん!」
『学校では学長と呼びなさい!』
笑いの渦に包まれ白髪をかきむしるは、東城幸一前統合幕僚長だ。自衛隊制服組の頂点に君臨した武人だ。
『それでは東城閣下は国会の出席がございますので、ここで退席です』
挨拶もそこそこに幸一は離席。
自然発生的に拍手が巻き起こる。
秋津英子文部科学大臣は今や天皇たる息子の名代として来賓のトリで挨拶。
美咲がマイクを握る。
『それでは各学部の主な教職員を紹介します。芸術創作学部、東城美咲、はい、私ですね』
「あ、お母さん」
『学校では学部長と呼びなさい!』
一同爆笑。
『政治経済学部、柏木神爾元国務大臣』
『軍事戦史学部、国枝晴敏元防衛大臣』
……等々。
「ん、外務大臣と防衛大臣は更迭か?」
ちゃっかり薙瑠ちゃんの隣についた子元が薙瑠にささやく。
「えっ、ご存知ないんですか! 後任の防衛大臣は……」
* *
【 国 会 中 継 】
【 衆議院予算委員会 ~衆議院第一委員会室より中継~ 】
「はーっくしょん!」
茱絶のくしゃみの音が国会中継に響き渡る。
『ただいま、茱絶内閣府特命担当大臣のくしゃみで議事が中断しております』
言わなくてもいいのに公共放送のアナウンサーが律儀に、それでいて淡々と解説する。この男性アナウンサーは新人の類であるようで天然ぶりが隠しきれない。
【 内閣府特命担当大臣(三國政策統括担当大臣) 茱絶 】
なんとなんと! 茱絶は保守党公認で衆議院議員に当選! 美咲の後任の三華担当大臣として初入閣していた!
このウルトラCには民衆党も労働党もぶったまげた。俺もたまげた。
彼曰く、自分を存在が受け入れてもらえる場所で暮らしたいとのことである。それがまさかの政治家だ。
『失礼しました。衆議院予算委員会です。午後のこの時間は、紅桜元年度第一次補正予算案の審議をお伝えします。予算委員長は西村篤志元復興大臣。東城美咲特命担当大臣の父君にあたります』
委員長がレジメをめくり、咳払いする。
『それでは、護憲民衆党の質疑に入ります。公民党の持ち時間の範囲内でこれを許します』
『委員長!』
議会政治の体裁として、あくまで議員側から動議を諮るスタイルだ。
『虎屋和希君!』
【 護憲民衆党・リベラル野党フォーラム 虎屋和希 】
彼は元千葉市長。若き青年政治家は三十代で護憲民衆党と浪花野郎衆の推薦で千葉県知事に立候補し、恐るべきことに県内すべての選挙区で保守党擁立の県議会議員を打ち負かしトップ当選した英傑だ。まだアラフィフの彼はこの勢いだと還暦前にこの国の最高権力者の椅子に座りかねない。
『虎屋和希です。国会議員では初めての質疑にはなりますが、千葉県知事を辞してまで代議士になりましたのは、民衆党が国政系と護憲系に分派する前から内閣官房副長官として民衆党政権を支えた荒垣総理大臣とよきライバルとなるためです。荒垣政権とは今後とも是々非々でいきたいと考えております。
荒垣健内閣総理大臣と立花康平内閣官房長官が優秀な野党議員に襟を正す。
『さて、今ここに、先の衆議院解散総選挙にて当選同期の茱絶大臣がおられますので、質問通告はしていないのですが、大臣の意気込みを伺いたく思います』
茱絶が口を波線にする。
『茱絶大臣は今幸せに過ごせていますか?』
『はい──とっても素敵な毎日です!』
彼はとびきりの笑顔でそう言った。
と、第一予算委員会室の木目調の扉が開く。
「お、きたきた!」
やれやれと身をすくめたのは、あの時の新幹線の運転手である!
【 国土交通大臣 兼 防災担当大臣 青生土門 】
「すまん、遅くなった!」
「遅れました!」
【 防衛大臣 東城幸一 】
【 内閣府特命担当大臣(異世界担当) 兼 クールジャパン担当大臣 東城美咲 】
「あら美咲ちゃん!」
「お義母さん!」
東城藤子が嫁を抱き締める。美咲も嬉しそう。嫁姑の理想形である。
で、亭主に振り返り、
「遅いわよあなた!」
「ええ~俺だけキツくね!?」
与野党爆笑。
【 副総理 兼 外務大臣 拉致問題担当大臣 東城藤子 】
東城家のうち三人が国務大臣はさすがにびびる。中でも東城藤子はえぐい。北朝鮮で事実上ナンバー2として権勢を奮う悪役令嬢ぶり、単純に武官としての階級を比較しても幸一より偉い。なにしろ元帥なのだから。
一族による政府要職の寡占は司馬家も真っ青だ。
で、その司馬一族と言えば……
* *
……三國鼎立の戦乱の世から晋を建国した司馬昭は皇帝として即位。
誰もが、司馬一族に導かれる中華文明の黄金期に熱狂した。
そこまでは、おおむね史実通りだが──
二〇〇〇年後の本職の政治家である荒垣と立花から進言を受けた丞相司馬仲達はさっそく政治改革に着手。
自らを丞相の首席、すなわち首相と称したのだ。首相は日本と同様に国会の多数派から選ばれる仕組みだ。
さらに、議会を開設。衆議院と鬼神院を儲け、人、鬼、神にそれぞれ議席枠を儲ける議院内閣制に移行したのである。鬼神院には爵位を与えられた呉、蜀の高官の姿もあった。
政治のみならず、産業分野においても進化めまぐるしい。
荒垣の妻の家業たるミネサカグローバルホールディングスは土木インフラの技術を伝授。
石油、石炭、鉱物資源、農業、漁業の開拓が加速した。
すなわち、西暦二六〇年代にも関わらず、晋は世界最先端の文明を持った先進国となりおおせたのだ!
これまでの歴史においては、民主主義は中世のイギリスにて国王に対抗して議会が立法権と司法権を握り、さらに母国語の話せない国王を首相が輔弼することで民主主義が加速した。
そのプロセスを省略し、超文明が定着したのは、コノハナチルヒメ作戦によって二〇〇〇年の時間の差を逍遙樹に託し、大陸の生態系を擬似スーパーコンピューターに見立てた生体ネットワークとして構築したからである。
いわば、晋の国そのものがひとつの命といってよい……
*
*
*
晋──洛陽。
高い空に雲が流れ、青と白のコントラストが美しい。
下界では満開の桜が楽しそうに咲いている。
──この桜を息子とその嫁と一緒に見たかった。
首相官邸執務室の幾何学模様の格子を見上げながら、晋初代内閣総理大臣たる司馬仲達鬼神院議員は、後ろ手で手を組み、背中でぶっきらぼうに言った──
「烏──お前に頼みたいことがある」
立派な調度品にもたれかかるのは烏の人影。
「なんか久しぶりに聞いたぜそれ」
「……うるさい」
そういっている割にはその声は随分と優しい父親の声だった。
「子元と薙瑠の様子を見に行け? だろ?」
「わかってるならさっさと行け」
──バサッ!
その音を残し、部屋に烏の羽根が舞っていた……
* *
……司馬一族は運命を分かつこととなった。
ようやく父と和解した司馬子元ではあるが、二〇〇〇年後の異国にて桜薙瑠と添い遂げる未来を選んだ。
誤解されやすいが、彼は日本国民となったのではない。
転生ではなく移住とも言うべきか?
紅桜刀を今でも大切に持っている薙瑠ともども、三華世界の姿のままだ。
芝桜は国民的推しCPであると同時に、日本と魏が紡いだ二つの国の物語の結晶でもあるのだ。
そんな彼を見かね、日本国政府が打診した役職が──【駐日晋大使】であった……
日本での彼らの暮らしを覗いてみよう──
*
*
*
東京都千代田区九段下──靖国神社。
烏のつがい巨大な鳥居に止まる。
片方は赤、青、黄のネオンサインに包まれ、片方は英霊が眠る静謐の森。
烏の漆黒の瞳が見下ろすのは、参道を手を繋いで歩く子元と薙瑠の姿。
そこへ、海上自衛隊制服姿の東城洋介とスーツ姿の美咲、重たいランドセルをしょった遥が歩み寄る。軍服姿の麗雪もいた。
「子元殿! おっといけね、司馬師大使閣下」
「よせ」
「では遠慮なく──お前、俺の嫁にっ……!」
「日本には馬鹿の一つ覚えという言葉があるらしいが?」
一等海佐から海将補に昇進した洋介のギャグセンスが進歩していないことを看破してしれっと毒を吐いた子元は不敵な笑みを浮かべ、洋介の肩を掴む。
「焼きそばパン買ってこい」
「えっ! どこで覚えたんですか!??」
「あと肉まんもお願いしますね。ふふ」
「嘘だろ!? まさかの薙瑠ちゃんも!?」
「あ、あるよ肉まん」
美咲自身ももごもごと口一杯に頬張りながら皆にもほかほかの肉まんを配る。
はむ、と薙瑠ちゃんが小鳥のようについばみ、子元がワイルドに頬張る。
ちゃっかりと美咲にあーんしてもらう洋介。
義理とはいえ姉妹になった美咲と麗雪もあんまんと一口ずつ交換。
おいしい味が口一杯に広がった。
ふかふかの生地に、熱々の肉汁が染みこみ、野菜の歯ごたえが旨い。
「おいしいね、あったかいね」
遥が両手で抱えて口一杯に頬張る。
女の子が幸せそうに食べる様子はこの上なく愛おしいものだ。
「お~い」
「薙瑠ちゃん」
「おっ! 六華將のお出ましだ!」
「──神流様!」
桜の花びらがはらはらと舞う中、一緒に現代日本で生きる未来を選んでくれた六華將たちに、薙瑠ちゃんは元気よく駆け出していった……
ここは、子元と薙瑠ちゃんが選んだ新天地──現代日本。
綺羅、綺羅とかがやく濃紺の星空には、夜は姿を隠す金烏の反射光で玉兎がかがやき周りの雲を虹色に染める。
その光に向かって、ふたりの幸せを見届けた鴉斗と紗鴉那が飛び去っていった────‥‥‥‥
《 「三國ノ華◇偽リノ陽ノ物語」二次創作企画「三國ノ華◆二つの國の物語」製作委員会presents 》
夫或時間之物語。
如在伝者則是万世不朽也
──とある時間の物語。
語り継ぐ者在るならば、物語は万世不朽なり──