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第8話『国際連合安全保障理事会』(8/13)

 ……舞台は太平洋を渡り、アメリカ合衆国ニューヨーク──国際連合本部ビル。


 国連安保理の常任理事国は言うまでもなく第二次世界大戦の勝利国であるアメリカ合衆国、グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国、フランス第五共和国、ロシア連邦共和国、そして──中華人民共和国(ちゅうかじんみんきょうわこく)だ。

 すなわち、魏中紛争の調停を取り計らう国連安保理緊急事態会合に当事国が拒否権を誇示せんとする異常事態としかいいようがない。全世界のマスコミ、ひいては全人類が成り行きを見守っている。 


 つい最近まで議長国は日本国が務めていたが公平を期するため日本側から議長を辞退、これには日本の正義感をアピールする狙いもあるが、ただちに後任議長国を選出する議事に入った。

 選ばれたのはインドであった。

 C字状の円卓についた各国首脳が同時通訳のヘッドホンを耳にはめる。

 ラジェンドラ首相が議長席につき木槌を打ち鳴らす。

『これより、魏中紛争事案の調停のため、国際連合安全保障理事会緊急事態閣僚級会合を開会します、冒頭、各国にお諮りしますが、事案の重大性に鑑み各国の首相、国家元首級の出席を許可していますが、異議ありませんか?』


 異議などない。各国ともプレゼンスを誇示したいためむしろ大賛成だろう。


 我らが日本国の特命全権大使たるや、国枝晴敏防衛大臣と柏木神爾外務大臣の双璧。頼もしいツートップだ。

 常任理事国はいずれも大統領、首相クラスが控える。

 アメリカ大統領エヴァンゼリー・ジョナサン・ジョーカー。

 イギリス第一大蔵卿アーサー・パーカー。

 フランス大統領マニピュエール・ボヌフォワ。

 中国国家主席周陣兵。

 そして、ロシア大統領はウランゲリ・プシャーキンだが──


『──異議なしと認めます。現在ロシア大統領が離席しているため少々お待ちください』

 各国が見つめるのは【CHINA】と銘打たれた席、周陣兵(シュウジンペイ)国家主席が遼国強(リョウコッキョウ)首相に耳打ちする。

「(どういうことだ。我が国とロシアは同盟国のはずだろう「(プシャーキン大統領の常套手段ですよ。わざと遅刻して自分が格上だと見せつけるんです)」

 遼首相の言葉に周は渋々納得した。


 *

 *

 *


 ……時系列は遡る。


「実は中国共産党指導部から内々に提案を受けていてな。スケープゴートとして例の誰かさんを十字架にかけるとしたら?」

「おっと! 荒垣閣下、その先は慎重に言いたまえよ? ……誰だ?」

「中華人民共和国国家主席──周陣兵(しゅうじんぺい)だ」

「今の話国連安保理で報告する。外国国家元首を陥れようとするその謀略──」

 荒垣の背筋が凍りつく。

「──傑作だな」

 荒垣は軽くコケた。 

「荒垣健内閣官房長官、大した男だ。さすが元スパイ! 一度ならず二度も三度も世界を救うとは」

「で、どうなんだ!? のるかそるか」

「もちろんやるぞ。今日決行だ」

「今日か!?」

「なんだ、ユイ夫人とデートか?」

「安保理当日だぞ!?」

「報道が入るし絶好の舞台になる。既に我がロシアは国境沿いに地上部隊を布陣している」

「う~ん、完璧だな」

「た、だ、し、魏國当局の同意が必要だ」

「なぜ」

 プシャーキンが荒垣に耳打ちしたのはあまりにも大それた計画だった。


 *

 *

 *


 ……ロシア連邦大統領ウランゲリ・プシャーキンがやっとこさ議場に入る。

 ローマ教皇や英国女王を待たせた前例もあるからさほど驚く様子はなかったはずだが、連れてきた司馬子上(しばしじょう)のほうに皆がどよめく。

「子上殿にもオブザーバーとして参加してもらう」

 プシャーキンがそう言うと中国代表が渋々頷き、他の参加国は拍手で迎える。


 インド首相にレジメが渡され、彼は咳払いしながら読み上げる。

「ただ今、緊急特別総会の議決が出されました!」

「国連安保理は(しん)の国連加盟を認め、中華人民共和国を常任理事国とするアルバニア決議を破棄、晋を安保理議長国として認めます!」

「なんだと!?!?」


 ガシャーン! とガラス張りの廊下を懸垂降下する特殊部隊がぶち破る!


『GOGOGOGO! MOVEMOVEMOVE!』

 米軍のデルタフォースのようだ。

 何が何やらわからぬまま周陣兵国家主席は弾劾。

「貴様ら、何をしているのかわかっているのか!?」

「貴様こそ今までどんな政治をしていたかわかっているのか周陣兵!」

「お前が汚職撲滅の名の下に権力闘争をした、党中央規律検査委員会の粛清リストの中に俺の息子がいたんだ!」

「俺の妻だっていたんだ!」

「あいつは汚職なんかしていない。赴任先で親切な農民から弁当をもらっただけなのに!」

「──!」

 周は文化大革命で追放され苦労する父親の背中を見て育ってきた。 

 一瞬だけ、目を見開いた。

「だからこそ、だからこそ、俺は決めたんだ! 私の指導のもと官僚とコンピューターで管理統制されてこそ、全人民は正しく生きられると! だから学者連中に金を湯水のごとく与えてきた!」


「──違う! 断じて、違う!」


 子上は精一杯首を横に振り、人差し指を周に突きつける──

「道具はあくまで道具なんだ。道具と人間の主従を間違えてはならない。周陣兵殿は間違えている。それでは組織の歯車となる人間を増やすだけの恐ろしい社会が生まれるだけなんだ!」

「ええい! 武装警察、何をしている! この裏切り者をつまみ出せ!」

 小物臭ただよう国家主席に武装警察は知らんぷりをする。

「つまみ出されるのはお前だ!」

 ロシア大統領プシャーキンが周の首根っこを引きづる。

 遼国強(りょうこっきょう)国務院総理は司馬子上(しばしじょう)に拱手した。



「──永遠の忠節を誓います。新皇帝陛下」

「期待していますよ、遼丞相閣下」



 国連安保理の円卓のネームプレートには──【晋】のプレートが誇らしげにかがやいていた。

  

   *    *


【 東京都千代田区内閣府庁舎──JNSC。国家安全保障会議九大臣会合 】


 秋津悠斗 内閣総理大臣

 斯波高義 財務大臣

 国枝晴敏 防衛大臣

 柏木神爾 外務大臣兼総務大臣兼国家公安委員長

 荒垣健  内閣官房長官

 立花康平 経済産業大臣

 青葉繁樹 国土交通大臣

 桜俊一  事務担当内閣官房副長官

 高倉登  国家安全保障局長

 藤原永満 内閣危機管理監

 東城幸一 自衛隊統合幕僚長


====================================


「送り込むのは東京都庁ロボ、アクアラインデストロイヤー、戦艦大和、ほか晋王朝開闢陸海空統合任務部隊です」

「国連軍からの派遣は?」

「難しいですね。今はアテにしないほうがいいかと」

「中国軍は遼首相の働きでなんとか押さえましたが、問題は魔界艦隊です」


「これが、国会図書館で子元殿と薙瑠ちゃんにも読んでいただいた書物です」


 *

 *

 *


 話の舞台は日本神話の神が地上に降りたった頃にさかのぼる。神とは言えど、当時は一地方豪族であり、他の豪族との戦乱の時代だった。

 ニニギノミコトに不貞を疑われたコノハナサクヤは屋敷に火を放って出産した。

 それははじめての事件ではなかった。


「あなにやしえをとこを」

「あなにやしえをとめを」


 オノゴロ島に降り立ったイザナギとイザナミは国津神を産む。


 新月の晩──


 イザナミとカグツチの母子が安らかに寝息をたてる宮に現れたのは──人間(ヒト)

 剣を携え、防具を身に纏う。

「カミが子供をこしらえておままごとか!」

「我らのクニを侵すカミとやら、断じて許せぬ!」


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ──刃が振り下ろされ、稲光が閃いた!


 *

 *

 *


 鬼が現れた世界を無かったことにする。それが桜薙瑠と六華將に与えられた存在意義(しめい)だった。

 鬼が消えれば、三國鼎立のパワーバランスが崩れ、再び戦乱の世が始まる。

 鬼の力を背景に、三國帰晋させ、司馬氏が導く天下泰平の世を築くのだ。


 そんな思いを巡らせていた立花は青い鳥がマスコットの短文投稿型SNSを開く。

 それを見た荒垣は目をかっぴらく。

「ちょっと貸してくれ立花さん!」

「おいおいどうした荒垣」


青鳥(せいちょう)の正体が、わかったかもしれない────ちょっと特事対に行ってくる!」


 立花はあっけにとられたまま上着を抱えて駆け出す盟友を目で追った。


     *    *


 ……内閣府庁舎から首相官邸への地下秘密通路を駆ける荒垣健内閣官房長官は二〇一八年当時防衛大臣として仕えていた物部泰三(もののべたいぞう)から託されたメッセージを思い出す。


「「薙瑠ちゃんを守れ!」」「「薙瑠ちゃんは神だ!!」」「「歴史改変を許すな!!」」「「保守党政権を許すな!!」」「「天皇陛下万歳!!」」「「国賊茱絶粉砕!!」」


 北方領土奪還だの大日本愛国結社だの尊皇義勇軍だの血気盛んな改造車に日の丸を掲げた右翼団体街宣車に全労連だの日教組だの登り旗を掲げた市民活動家のうるさいシュプレヒコール地底のここにまで鳴り響く。ちょこちょこと機動隊に捕獲されている模様。  

 マスコミの中継ヘリが入れ替わり立ち替わり上空を駆け回る。

 それとは対照的に、デモ隊が立ち寄る牛丼屋や蕎麦屋やファストフード店、コンビニなどでは店員が今日の仕事を黙々とこなす。世間はどうでも仕事は仕事だ。

 

 荒垣の脳裏に浮かぶのは、物部から託されたメッセージ。



 ……少しだけセピア色に褪せた、荒垣の記憶の時間(せかい)

 二〇一八年初夏、八月十五日の首相官邸。内閣総理大臣執務室の物部泰三(もののべたいぞう)内閣総理大臣と荒垣健(あらがきたける)防衛大臣。

「(荒垣君、防衛大臣の椅子の座り心地はどうですかね?)」

「(順調、です、)」

 空自パイロット、防衛省情報本部、民衆党(みんしゅうとう)政権で内閣官房副長官を務めた彼は何人かのボスに仕えた経験から当たり障りのない返答をした。

「(ほう? 改新党(かいしんとう)に不穏な動きがあるようですが)」

 閣僚ポストを餌に荒垣を防衛大臣として入閣させる代わりに、改新党の議席を保障したのだ。

「(荒垣君、改新党ごと一派閥として保守党に入党してほしい)」

「(え)」

「(私は次期総理大臣は荒垣健(あらがきたける)だと思っています)」

 荒垣は答えられなかった……

 


 ……………………特事対がフロアに籠って丸二十四時間が立とうとしている。

 外部との接触を避けるため、首相官邸敷地から一歩も出ていない。

 机に突っ伏して寝ている職員もいた。

 遥がうさぎさんのクッションをだっこして寝息を立てている。

 ペットボトル、カップ、割り箸、弁当箱が無造作にビニール袋にまとめられている。


 だが、徹夜した甲斐はあった。


 カップ麺の残り汁を口に含んだ洋介が、徹夜で論議した結論を荒垣に伝える。

 それは、洋介が美咲とおうちデートする口実に誘った世界興行収入第一位の金字塔を打ち立てた映画を遥に暇潰しに見せてひらめいた。ガス惑星の衛星を資源目当てで採掘する民間軍事会社、その主人公がその星の生態系を解明するシーン。


「つまりコノハナサクヤとは、植物の根と根が結ぶ生態系のネットワークが宿る意識体のことだったんです!」

「こちらも解明できた。ヒントはツイッターだ。幻華譚で記された薙瑠ちゃんの役割とは、青燕をその身に宿し、時が来たら(からだ)から解き放つこと。つまり青燕をのあらたな依り代に移せば、幻華譚は偽りの世界にならなくてすむ! その新たな依り代となるのが短文投稿型SNSであるツイッターなんだ!」

「移す方法を考えなくてはいけませんね」



「簡単だ──ハッシュタグで世界で同時にTLで呟き、(いつわ)りの陽の物語を(ひと)の意志が()す正史に書き換える」



「このことを主要メディアにリーク。作戦名は、コノハナチルヒメ作戦だ」


     *    * 


 ……同日。

 内閣総理大臣の命を受け、防衛省にて国枝防衛大臣が背広組制服組を交えた幹部会議を招集、東城統合幕僚長から鈴村統合任務部隊指揮官へ三國世界への海外派遣が下命された。

 晋王朝開闢(しんおうちょうかいびゃく)陸海空統合任務部隊(りくかいくうとうごうにんむぶたい)

 作戦の運用は七段階。ツクヨミ作戦、アマテラス作戦、ヤタガラス作戦、スサノオ作戦、タケミカヅチ作戦、コノハナチルヒメ作戦、そしてこれらを包括する作戦名がタカミムスビノカミ作戦だ。


『──環境大臣の玉城(たまき)だ。現時刻を以て日本国内すべての原発を強制停止、太陽炉発電に切り替える──』

『了解、原子力規制庁より日本国内の全電力事業者にスマートグリッド送電網の系統切替を! 以下を当該地域に指定する、新北陸電力、新東北電力、新東京電力、新中部電力、新関西電力、新中国電力、新九州電力、新沖縄電力、以上送電管区内において華力(かりょく)発電所を起電力プラットフォームとするスマートグリッドを構築せよ!』

『──こちら経済産業大臣立花、了解した。華力発電への切替を経済産業省からも要請──』

『西日本からの周波数変換電力、六五〇〇〇〇〇〇キロワットアワーを維持!』

『──以後五十時間、全都道府県をロックダウン、不要不急の外出自粛を要請──』

『──経済財政諮問会議議長より答申あり、マイナンバー制度と紐づけたベーシックインカムを即時実行!令和十二年度補正予算より支出せよ――!』

『──内務省に、刺刀(しとう)警察庁長官を責任者とする最高警備本部を設置──』

『──統合幕僚長へ内閣総理大臣より下令あり。海上自衛隊自衛艦隊司令官を指揮官とし陸海空三自衛隊を統合運用するジョイントタスクフォースを編成。陸自と空自は統合任務部隊司令部に隷下部隊を差し出せ──』

『──東京都庁ロボ、各モジュールを護衛艦に搭載開始──』


 ……機材と人員が入り乱れる通信の中、ヘリコプターにて子元と薙瑠は戦艦大和に降り立つ。

 魏國(ぎのくに)から異国へふたりを連れてきた紅花の軍船が、今や異国から魏國へ出撃しようとしている。

 


「──さあ、作戦開始だ!」



(第三章「衝天篇」)

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