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フェイト・オブ・ザ・ウィザード~元伝説の天才魔術師は弾丸と拳を信じてる~  作者: シノヤン
十二章:コールド・ハート

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第93話 箸休め

 彼らが帰投したのは、戦いが終わって六日後の事であった。ささやかな式によってジョージは弔われ、息をつく間もなく守り人との同盟の締結を騎士団は行った。急遽レングートの郊外にて彼らの滞在のために専用の居住区が用意され、その後は各地へと派遣されて食料に使える植物の栽培や近隣住民の護衛に従事する事となったのである。


 ブラザーフッドによって占領されたという地域にも動きがあり、クリス達の任務に余計な戦力を割かなかったことが功を奏した。十分な戦力と共に着実に鎮圧を進める事が出来たらしく、ひとまず農耕地の奪還とそれによる食料供給については大幅に状況が好転していた。


「…ふん」


 そんな聞こえの良い内容ばかりが連ねられている新聞を手に取り、久しぶりにと流し読みしていたクリスだったが、しまいには鼻で笑ってゴミ箱に捨てた。たとえ食料が揃おうとも、肝心の装備が整わなければどうしようも出来ない。機密事項となっている武器事情に関しては公に出来ないからなのだろうが、餓死という死因が回避できただけであって事態そのものは未だに切羽詰まっていた。


 次の指令が下されるのもそう遠くは無いと、クリスは久々の羽休めに運動場を歩いく。グレッグが帰還するや否や、義手の製作を研究開発部に依頼するなど精力的な姿勢を見せているらしいが、確認に行くのは億劫であった。変に気を遣ってしまいそうでこれまでと同じような接し方が出来る気がしなかったのである。


「クリス !クリス !」


 腹に響く様な低く野太い声が聞こえた。見ればジョンが運動場の端っこで何やらしているらしく、物珍しそうに見ているメリッサやアンディもいた。


「何をやってる ?」


 近づいたクリスは近くに置かれている色の付いた大きめのブラシや、小振りのバケツに入っているペンキに目をやりながら彼らに尋ねる。


「エ !エ…カイテル !」

「彼、凄いんですよ。才能があります」


 兵士達が退屈そうにしているジョンを憐れんでプレゼントしたものである。専用の住まいを作る筈が、立て続けに起きている事態のせいでそれも滞っていた。変にストレスを溜めさせて暴れることが無いようにと、一番隅にある壁なら使っても良いという条件で自由に遊ばせてもらっているらしい。それ以上に気になったのは、間違いなく人身売買を斡旋していたアンディが何事も無さそうに彼と打ち解けていた点である。マーシェといい、こんな姿にしてしまった事に対する釈明はちゃんとしたのかと、クリスは少々複雑な気持ちになっていた。


「ウサギか ?それにこっちは…チューリップだな。上手く描けてるじゃないか」


 壁に描かれた数多の絵の中から、クリスは一番最初に目についたものを褒めた。少し荒さはあるものの、どこか朗らかな雰囲気と躍動感が感じられ、特徴も上手く捉えられている。賞賛が嬉しいのか、ジョンも誇らしげであった。


「ソウダ…クリス !ドウブツ…カイテ !ショウブ !」

「え ?嫌…いいよ俺は」


 突如としてジョンが提案をして来る。それに対してクリスはなぜか不機嫌そうに断りを入れたが、メリッサが近くにあったブラシを手渡して来た。


「色々あったし、気が滅入ってるでしょ。肩の力を抜くのも大事よ」

「ええ。たまには息抜きも良いんじゃないですか ?どんな絵を描けるか、ちょっと気になりますし」


 メリッサは無邪気に言いながらブラシを持たせる。アンディもそれに便乗してクリスへ催促をした。


「息抜きはこれ以外でやるよ。悪いが――」

「ダメ… ?」


 クリスがブラシを突き返そうとした時、ジョンが酷く落ち込んだ様子で肩を竦め、こちらを見ながら言った。自分に好意を持ってくれている者からの落胆というのは、クリスにとって酷く堪えるものだった。結果としてクリスは、「どうなっても知らんぞ」と愚痴をこぼしながら渋々壁の前に立って適当に描き始める。


 十分ほど経った後、クリスを除く全員が一点を凝視して困惑していた。焦げ茶色の体色と無駄に突き出たマズル、不規則な形で平面上に並んでいる四本の足、鼻の周りにある長い髭、そして死んだ魚のような目を持つ生物が描かれていたのである。


「これは…その…前衛的というか…」

「キツネ ?かな ?うん、たまにいるよね…こういうの…尻尾が無いのは…まあ…」


 言い出しっぺであるメリッサとアンディは思考が一瞬停止したのか黙っていたが、どうにか必死に褒められる点を探している様子だった。


「コレナニ ?」


 一方でジョンは正直だった。一切包み隠さず何を描いているのか分からないとクリスに申し立てるが、当の本人は黙ったまま壁から背を向けている。


「…ぬ」

「え ?」

「犬だよ…」


 思わず聞き返したアンディに対して、クリスはその奇妙な絵のモデルが犬である事を告げる。笑っても良いのか、フォローをしてあげるべきなのか、表情が見えないせいかイマイチ分からなかった。


「…お前の勝ちだ」


 暫くの間、周囲に何とも言い難い空気が取り巻いた後、クリスはジョンの体を軽く叩きながら自分の敗北を認めて立ち去っていく。可哀そうになってきたから消してあげようとするジョンだったが、残る二人は他の者にも見せてやりたいとそれを拒否していた。


 本部へ戻ったクリスが食堂にでも行こうかとしていた時、入れ替わるようにしてイゾウが食堂の出入り口から現れる。


「よう」

「…ああ」


 グレッグやジョージの事について文句でも言われるのだろうかと内心で身構えていたクリスだったが、イゾウは特に言及せずに挨拶だけしてから通り過ぎようとする。


「次の任務は俺とお前、後メリッサも連れて行く。詳しい事は後で団長から聞いてくれ」


 背後からイゾウが声をかけて来る。クリスは立ち止まったものの特に反応することなく手を一度上げてから食堂へと消えていった。

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