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 9話  最悪の始まり

訪問ありがとうございます。


拙い文ですが良ければ読んで頂けると幸いです。


感想・ご指摘・ご不満など、お待ちしております。

恐怖と暴力が渦巻く地獄を見下ろしながら上空に浮かび続けている天空の巨城では、城の主人でかつ、唯一の住人が悩まし気に考え事をしている様子だった。



12(メートル)の巨大な体、全てを反射しそうな硬質化した皮膚、すべてを極めし者に現れる黄金の(すじ)、髪に代わって白い雲のようなモノが(なび)き、耳と一体化した角が頭部の両脇から伸びている。

さらに、この恐ろしい化け物の身を彼自身が製作した強力なアイテムが飾る。オーロラの様に波打つ《獄衣》、宝石のない奇妙なリングを両手の指に装着していて、複雑な天力式を刺繍した腰布が主人の威厳を示す。

右腕には竜の顔をしたメタリックなムカデが怪しく螺旋状に巻き付いており、左耳に髑髏の耳飾りが光っている。

地獄の頂点、リツが巨城の前にある広場で腕を組んで立ち尽くしているのだった。



「誰を連れて行こうかな」



リツは天国への初陣に誰を選抜するか考えていた。

万が一、いや、億が一にも天国の住人が自分より強いということも想定して、囮用に出来るだけ高位な奴を連れて行きたい。

三獄の間に君臨する3人の皇帝を連れて行けば良いのだが、奴らには上位の神が落ちて来ていないか血眼になって探してもらうという使命があるので、地獄の管理から離れて欲しくない。

獄意によって生み出されたリツの配下達は、管理者が居ないと勝手に争いを始める為、リツが居ない間は三皇帝が必ず地獄に居る必要がある。

三皇帝はリツ直々の教育(拷問)のおかげでリツが居なくてもしっかり仕事をする。



そもそもタツと名付けた、リツが常に身に着けているメタリックなムカデからライジェスとマフナの残念な事を聞いたし、ドルガは超遠回しに興味ないと言っていた。地獄生まれ地獄育ちの奴らからしたら天国なんてどうでも良いのかもしれない。



三皇帝の次となると当然、各三獄の間の東西南北を統治する王達だ。3×4で合わせて12人居るのだが、管理の理由からごく少数しか連れていけないし、さらに天国などの、他の冥界世界へ行く方法が話をややこしくする。



神の罪人から得た情報から導き出された結論を簡単に言えば、人化しないと行けないのだ。



しかも完全に人化しないと行けないらしかった。これはさっき黄泉へ行く際に試行錯誤してやっと理解した仕組みだった。

地獄を含め、冥界に行く魂は黄泉という場所より訪れる。地獄に落ちてくる罪人の出どころは黄泉だった。これも神の罪人情報だ。

つまり天国へ行くとなると、地獄から黄泉へ、黄泉から天国へ行くことになる。戻る際もルートは同じだ。



完全に人化するということは、獄意の完全分離技術が必要だし、そのためには繊細な魂力(こんりき)のコントロールが不可欠になる。

リツの頭の中で王達の候補が上がるが、王を連れるとなると、その地の事情も考慮する必要がある。配下達の中で勢力争いや下剋上などが頻繁に行われているため、適当に王を連れ出すのも面倒だった。

そんなことをしたらまた新たに配下を生み出さなくてはならなくなり、ほぼ一日中城に籠って鍛えているリツにとって無駄に時間を浪費するということは我慢ならないことなのだ。



今の地獄はというと、まず頂点にはリツ、そしてその下に《獄炎の間》という獄炎が吹き荒れる暗黒の大地全体を支配する女帝マフナ、《獄氷の間》という銀の獄氷が覆う世界を支配する皇帝ドルガ、《獄雷の間》という獄雷が駆け巡る空間を支配する皇帝ライジェスが位置する。



彼ら三皇帝は配下の間では燼虐皇と呼ばれているが、これはリツの前以外で皇帝たちが何をしてきたかを物語っている。

皇帝の下には三獄の間の東西南北を統治する王達が居て、何をやっていたんだか、配下の間では蝕壊王と呼ばれている。

さらにその下には王達が抱える貴族に相当する連中が居て、王達より領土を貰っている。貴族の奴らは大半がエンマという種族で、巨体で大きな角を持つ。

さらに貴族領の中に多種多様な部族が居て、リーダーが首領という地位を貰って部族の土地を管理している。



種族はアビスエレメント、トレントエグゼクター、ソウルコレクター、(サディスト)ドラゴンなど、無数に存在する。

そして各部族はヘルボーンズという地獄最低位の存在を雑用として使役し、罪人などは主にこのヘルボーンズが捕らえて、記憶情報を首領辺りが王から貰ったアイテムを使用して覗き見るといった運用をしている。



決められたことを守った上で、配下達はリツ自身に関わることやリツの命令に穴を見つけては殺し合ったりする。

現在の情勢で言うと、《獄炎の間》の東国が最も大きく領内も最も荒れている。これは女王ラメリーが鍛錬により皇帝に匹敵しうる力を持っているため皇帝派と女王派の間で衝突が起きているからだ。次に、《獄氷の間》の北国が最も小さく領内も結構荒れている。ゲルゼゴルゲ王が怠け者なため、領内では不満の声がチラホラ上がっているせいだ。



この2つの国などから王を連れて行くと領内がメチャクチャになるので置いておくしかない。

リツが争わない指示を出すようにしても良いのだが、なにせ地獄は地球の2万倍もの面積があり、配下も無数に居るため面倒だった。時間が掛かりすぎるため、特別なこと以外は一々命令したりしていない。それに最近のリツは血に飢えた配下を見るのも面白いと思うようになっていた。



誰を連れて行くか決めたリツは天力(てんりき)で創り出した連絡用の仮想空間"アナザーリアリティ"にアクセスした。



真っ暗な中、光り輝くテーブルと椅子がリツ達だけに必要な光を作り出している。"アナザーリアリティ"でのリツはパーカーのフードを被り、ジーンズ姿で座っていた。



パチン



とリツが指を鳴らすと、先ほどまで生気を失ったマネキンの様だった前に座る3人のアバターが血相を変えて跳ね起きた。

3人は一斉に立ち上がり、深々とリツに頭を下げるとリツの言葉を待った。



「座れ。お前達を呼び出した理由は他でもない、天国へ行くためだ」



リツの許しを受け、ドルガ、ライジェス、マフナの三皇帝は速やかに着席し、背筋を伸ばして傾聴した。



「そこでだ、今から言う奴らに指示を出せ。完璧に人化して黄泉へ来いと伝えろ。俺は先に黄泉で待っている」



「ハッ!」



3人が勢いよく返事をすると、リツが名前を告げた後、全員"アナザーリアリティ"のアクセスを切断した。



リツは天空の巨城に意識を戻すと、人化した。魂力から獄意を分離させ、12mの巨体がみるみる人間へと変わる。

黒髪の若者がグレーのパーカーにブルージーンズ、黒いスニーカーを履き、フードを深く被った姿になった。"アナザーリアリティ"のアバターと全く同じ格好だ。

ただし、リツが身に着けているアイテムはそのままなので、オーロラの獄衣やタツが異様な雰囲気を(かも)し出している。

リツは罪人たちが通るルートを天力に働きかけ、フワッと風が巻くと同時に天空の巨城前の広場から姿を消した。




♦♦♦♦♦




黄泉からやって来たリツ達は、余りに(ぬる)い景色に驚きを隠せなかった。



穏やかな雲、強くも心地よい日差し、日光の照り返りでより生き生きと見える野原、少し遠くには緩やかな川が流れていて、川の近くには複数の人間が見える。



「不快だな」



リツの口からは憎しみと怒りが漏れ出る。リツの背後に控える3人の配下達はビクリとした反応を見せ、のどかな風景とは裏腹に緊張が走った。



「す、数分お時間を頂ければ地獄と同じ景色に塗り替えた世界をご覧に入れます」



そう言ってリツに発言したのは、《獄炎の間》の南を統治するオルゾン王だ。人化したオルゾンは、ガタイのいい30代くらいの男で、黒のファー付きマントに青の全身溶岩スーツを着ていて、スーツは顔まで及んでいる。目の周りにはオレンジ色をした炎のマークがあり、黒色皮のグローブとレギンスを装着し、背中には筒形カプセルがある。



「それは十分に情報を得てからだ。だがその前に」



リツの全身から一瞬、大気を揺るがす白い光が発せられた。



「……拍子抜けだな。この世界に脅威となるような魂力の持ち主は皆無だ。では、まず川付近に群がっている情報源から取り掛かるとしよう」



「畏まりました、(あるじ)様」



オルゾンが主人に頭を下げながら答えると、リツは天力を発動させ、一瞬周囲の風が巻き上がると4人は集団転移した。



リツ達が川付近へと出現すると、それぞれ違った衣類を身に着けている人間達は、急に現れたリツ達を見て驚いた。



「うわっ!い、今急に現れなかった?」



赤い髪に白いワンピースを着た気の優しそうな女性が驚いて声を上げる。



「ワシも突然現れたように見えたわい。誰じゃろう、ここいらでは見かけん顔じゃ」



近くに居たオーバーオールとシャツを着たハンチング帽のお爺さんが、好奇心のある表情で続けて反応を示した。



川の付近に居た住民たち全体に突如現れた来訪者の話題が伝染し、ザワザワしだした。



「見かけないね、この国に来たばかりなんじゃないかな。きっと彼らは今何も分からずに困っていると思う。助けてあげなくちゃ」



お爺さんの隣に居た人懐っこそうな好青年が、そう言いながら持っていた縄跳びのロープを丁寧に巻いて地面に置き、リツ達へ向けて歩き出す。



「待ってアルト、あの人達の中に武器を持っている人がいるわ!」



白い頭巾と紺のコタルディを着た女性がリツ達の異変に気付き、アルトと呼ばれた青年を呼び止めた。



オルゾンの両脇に立っている2人は確かに武器を持っている。

1人は《獄氷の間》の西を統治するジャザー王で、人化した姿は、短髪でライトブルーの髪をした青年。明度低めの水色をした半袖サメパーカーに七分丈の白ズボン、右目に黒い眼帯を装着し、青のカジュアルレースアップスニーカーを履いている。手には三又の銛を持っていて、銛の先からは暗黒の冷気が立ち込めている。

口角の上がったニヒルな口からは、ギザギザの歯が見える



もう一人は、《獄雷の間》の南を統治するメイプイ女王で、人化した姿は、青い長髪に長いまつ毛と青い唇をした20代くらいの女性。機械チックなスレンダーラインのドレスを着ており、エメラルド色のドレスには幾つもの黄色いラインが引かれている。機械チックなエメラルドのヒールを履いていて、宝石を散りばめたマリアティアラが額にある。

シルバーアームレット(腕輪)を右腕の二の腕にはめていて、星形の宝石が飾られている。ガンベルトを腰に巻き、マシンガンを二丁を携帯している。



「大丈夫さ、きっとリルさんたちに貰ったんだよ。ほら、彼らは武器以外にも立派な道具を持っているし、取り合えずその辺も聞いてみよう」



アルトは立ち止まって肩をすくめた後、女性の注意を気にせず歩き出す。



瞬間、リツの身体から白い光が(ほとばし)った。人間達からどよめきが聞こえる。リツは少し首をかしげて東の森の方へと顔を向けると、人間達の方を見向きもせずに配下に命じた。



「東の神殿を調べる必要がありそうだ。こいつらにはもう用はない、()れ」



アルトは何のことかさっぱり分からずどう声を掛けたら良いか戸惑ったが、次の瞬間、頭の無い自身の身体を上空から見ている自分に気付き、頭の中が真っ黒になった。

丸い物を可愛いと思う気持ちって何なのだろう。

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