8話 天国
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作者のヤル気がモリモリ湧いてきます!
晴れやかな空、心地よい風が肌を優しく撫で、可愛らしく咲き誇る花畑を揺らす。ここに住まう人達は誰もが自信と幸福に満ちた顔で、お喋りをして笑ったり、小鳥や木々に思いやりを持って接したり、楽し気に歌ったりと、皆がゆとりある心で過ごしてる。
花畑から少し外れた場所に、石材で出来た神殿が建てられているのが見える。神殿の中心部には光り輝く泉があり、泉は神秘的な草花に囲まれている。この神殿に1人の女性が銀の水差しと金のコップを持ってやって来た。
女性は、大人の体型をしており、長いブロンドの髪で金の瞳、頭上には小さな光輪が浮かび、背中に白い翼が生えている。ドレスの様に白い布をピッタリ巻き付けた恰好をしている。
女性は常に優しく微笑みながら、しゃがんで金のコップで泉の水を掬い、銀の水差しに移していく。
「あぁ、本当になんて綺麗なのかしら」
女性は泉の輝きに目を奪われ少しウットリしつつ、銀の水差しに十分な水が溜まると、ウキウキしながら神殿を立ち去った。
神殿を出たところで待ち構えていたかのように小さな生き物が、銀の水差しを持った女性に突撃した。
「リルー!あそぼーっ!」
リルと呼ばれた女性は突然のことで少し驚いたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「わっ、んもうー脅かさないでよルピル」
ルピルと呼ばれた小さな生き物は緑の髪に薄い羽と尖った耳を持った女性の妖精で、緑のワンピースを着ていて、動く度に羽から金色の輝く粉が舞う。
「ぷぷぷっリルってば、今おかしな顔したー」
ルピルの笑い声につられてリルまで笑いが込み上げてきた。
「ウフっ、フフフっ、もうルピル!ウフフフフっ」
2人は楽しくて思いっきり笑い合い、暫くして落ち着いたあと、リルが用事を思い出して我に返る。
「あぁ、そうだったわ、ルピルごめんね、私もあなたと一緒に遊びたいのだけれど、この《命の水》を運ばなくちゃいけないの。終わったら遊びましょ」
リルは銀の水差しを持ち上げてアピールする。お預けを告げられてルピルはガッカリした。
「えー、なんでー?それってリルがやらなきゃダメ?」
ルピルはツンツンした顔でリルに迫った。
「うん、私は天使だし、それに、この世界の全てが好きだから。勿論ルピルのことも好きなんだよ?でも、天樹に《命の水》をあげないと困っちゃう子がいるから」
「うー、わかった。それじゃまたあとで遊んでね!約束だよ!」
ルピルは渋々納得した。
「うんっ!勿論!」
リルは花のようなフワッとした笑顔で答え、ルピルに手を振りながら天樹へと向かった。
リルは花畑を通過し、暫く歩き続けると森へと辿り着いた。道中、お話し好きの女の子に呼び止められたり、ボールを持った男の子に声を掛けられたが、愛想よく断った。
森の中を進むと、他の木に比べ、一本だけ巨大な樹木があった。
見上げると巨大な樹木の枝の上で気持ちよさそうに寝ている小人がいる。小人は優しい顔をした男の子で、金髪に水色のシャツ、グレーのズボンを履いていた。
「ジット、持って来たわ」
リルが小人に声を掛ける。小人は眠い目を擦りながら上体を起こした。
「ふあぁ~、誰?ああ、リルじゃないか。おはよう」
リルは呆れた表情で言葉を返した。
「ジット、今はお昼なのよ?それと、ほら、持って来たわ《命の水》」
リルは翼で羽ばたくと、ジットに銀の水差しを渡した。
「うわっ、重っ!どれだけ入れて来たのリル!?ボクこんなに飲めないよ」
ジットは信じられないという目でリルを見た。
「ご、ごめんなさい。これだけ大きな森だし、その、いっぱい必要かなと思って」
身をすくめてリルはジットに謝った。少しだけ口から出した舌がお茶目で可愛らしい。
「しょーがないなぁ、時間を掛けてちょっとずつ飲むしかないね。ありがと、リル」
ジットはやれやれといった表情で銀の水差しの中身を口に入れた。
途端にジットが座っている巨大な樹木が緑に光だした。光は柱となり、巨大な樹木のてっぺんを超えてグングン伸び、やがて細くなって消えた。
すると今度は森中の地面が一瞬光り、辺りに暖かい空気が立ち込めてきた。
その様子を見届けて、リルは満足げに頷いた。
「困ったらまた言ってね、天樹の精霊さん」
リルは地面に降り立つと、ジットに手を振って別れの挨拶をした。
「あ、そうだリル、さっきベルとチルがハープを持って森の上を飛んで行ってたよ」
「また2人でダンスパーティーに行ってるのね!あの子達、ちゃんとお仕事してるのかしら」
リルはプンプンして頬を膨らませえると急いで2人の元へと向かった。
広場の壇上では、ハープとフルートが奏でる音楽に合わせて、数組の男女が優雅に踊っていた。
そのうちの1組には、白い翼を持った女性が見られる。ライトブラウンの髪と瞳、リル同様のドレスの様に白い布をピッタリ巻き付け頭上には小さな光輪が佇んでいる。
「ベル、誘ってくれてありがとう。ホントにとても嬉しかった。今、ベルとこうしていられて最高の気分だよ」
ゆったりと2人のペースで踊りつつ、ベルとペアの若い男性が感極まりながら語り掛ける。男性は黒髪黒目で茶色いチュニックと黒いズボンを着ており、ベルに熱い視線を向けている。
「アタシも。来てくれてありがと。ユウタと一緒に居るだけで幸せだよ、勇者サマ」
目と目を合わせてお互いの想いを確認し合い、グッとくる温かな心の気持ちよさを噛みしめながら2人は踊り続ける。
ユウタがわざとベルを強く引き寄せたりする度に、ベルから「アッ」などの小声が嬉しそうに漏れる。
かくして一旦演奏者の休憩が入り、壇上からベルとユウタは退場するが、ベルはユウタに夢中で段差に躓いてよろけてしまう。
「大丈夫かい」
電光石火の速さで、ユウタがベルの後ろから腕を持って支える。
「あ、ありがとユウタぁ」
ユウタの急なフォローを受け、ベルはキラキラした目でユウタを見た。
前後で重なる2人の顔は近づいていき──
「ベル、何サボってんの」
長女のリルがジト目でベルとユウタを見ていたのだった。
「ごめ~ん、ベル、リル姉止めれなかったぁ」
二へへと笑いながら3人目の天使がやって来た。妹のチルだ。プラチナブロンドの髪と瞳、頭上に小さな光輪、白い翼、服は姉たちと同じものを着ている。そしてベルは姉の邪魔で折角の良い雰囲気を壊され、拗ねていた。
「なっ、なにが止めれなかったよ!私がいけない訳!?あなた達がサボるのがダメなんじゃない!!」
プンスカ怒り出したリルを横目にユウタは苦い顔をし、ベルはプイっと姉を無視して耳を塞ぎ、チルは愉快そうに両手を口元に当ててクスクスと笑い出した。
この何気ない日常を崩したのは、4人目の天使だった。
「……ルおねぇちゃ…」
遠くの空から声が聞こえ、リルは声の方を向く。まだ幼い子供で水色の髪と瞳をした末妹のミルが顔をクシャクシャにして泣きながら猛スピードでこちらに来ている。
「ミル!どうしたの!?」
ミルは長女リルを見つけると、急降下して地面に降り立つと、ボロボロと涙を流しながらリルに抱き着いた。
「わ、わ゛た゛し゛ま゛も゛れ゛な゛か゛った゛」
そういうとまたビェーと声を上げて泣いた。
「ああっ!ミル、大丈夫?何があったの?」
リルは落ち着かせる為にミルの頭を撫でつつ、不安と嫌な予感を胸にミルに質問をする。
「ヒック、フゥ、あ゛の゛ね、西の川の近くに居る人たちが、み、みんな死んじゃったの」
場が凍り付く。リルの顔から血の気が失せ、心臓が止まったかのようなショックを受けた。
「え」
あまりのことに一瞬リルの頭は上手く回らなかった。しかしすぐに気を取り直し、ミルに聞くべきことを聞いた。
「し、死んじゃったってここは天国なのよ?天国で満足出来た人達は自分からスッと消えちゃうけれど、死ぬなんてありえない。ミルは死んじゃった理由を知っているの?」
「知らない人達が来て、皆に乱暴して、それで、それで、グスッ」
リルの頭の中には疑問が渦巻いていたが、今は飲み込み、ミルに殺したと思われる連中について聞いた。
「ミル、その悪い人たちはまだ西の川に居る?何処かへ行ったの?」
ミルは涙を拭いながら声を絞り出すように答えた。
「神殿に行くって言ってた。ミルは怖くなって、に、逃げちゃったの゛お゛」
リルはギュッとミルを抱きしめた。
「ミル、大丈夫よ、ミルはお姉ちゃんに知らせてくれたもの。ミルは正しいことをしたわ。後はお姉ちゃん達にまかせて休んでて」
そう言い、ミルをユウタに預けた。
「ま、待ってくれ、俺も行く!俺は勇者だ!」
ユウタはリルに抗議するが、手を上げて制された。
「元ね。気持ちは嬉しいけど、私たちに任せて。天国は天使が必ず守って見せるわ」
天国では生前の力を使えないことをこの場に居る全員が知っていた。ユウタは力なく腕を下げ、ベルを真っすぐ見る。
「無理しないでくれよベル」
「分かってる」
3人の天使達は決意を胸に、謎の侵入者の元へと羽ばたいて行った。
靴下って両方同じの履かないとダメなのかな。