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49話  ケルミット王国

訪問ありがとうございます。


拙い文ですが良ければ読んで頂けると幸いです。


感想・ご指摘・ご不満などお待ちしております。

草木が生い茂るジャングルに5人の集団が見える。


5人の視線は不自然に植物が生えていない地面へと向けられていた。


茶色い土の地面は何かに掘り返された様に散乱しており、掠れた赤色のサークルが描かれ、中央には途切れて読めない文字や記号が微かに見られる。


「一足遅かったか…」


そう声を漏らしたのは、集団の先頭に立って居る男だ。


この男は見た目20代後半くらいの整った容姿をしていて、黒髪に茶色い眼、そして頭以外を光沢のある純白の鎧で覆っており、鎧には青い煌びやかなマントを取り付けていた。


「また"ターンオーバー"が終わり次第、次のダンジョンを捜索致しましょうかカズキ様?」


カズキと呼ばれた黒髪の男は振り返り、訊ねてきた金髪碧眼の女剣士を横目でチラリと見てから首を横に振った。


「いや、そろそろ頃合いなんじゃないかと思ってさ、もう終わりにしたいし」


「しかしカズキ様ぁ~、我々は鍵を2つしか所持しておりませんのではないですかぁ~?」


カズキの言葉を聞いて、今度は赤い髪をした猫耳ショートカットの猫獣人魔法少女が質問した。


「タツヤの鍵を貰うよ」


カズキのこの発言を受けて他の4人は表情を変えた。


「っ!!、ということは我々は…」


ロングの銀髪をした女アーチャーを途中で遮り、カズキが言葉を受け継ぐ。


「ああ、スカイタルに行く。戦争だ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ


カズキが言った直後、大地が大きく揺れた。


どんどんと揺れは大きくなり、ゆっくりとジャングルが沈んでいく。


徐々にだが確実に地面が下がっていき、密林は土の中に吸い込まれていった。


数時間後、下がり切った地面から水が湧き始めた。


みるみる水は溜まっていき、辺り一面は空を映すブルーの水面になった。


そして次に水面が凍り始める。


風は冷たくなり、ブリザードが吹きつける。


ジャングルだった場所は、やがて白銀の世界へと変わってしまったのだった。



♢♦♢♦♢♦♢♦♢



ダンジョンの景色が一瞬で消え去り、周囲は沢山の建物と往来する人に切り替わっていた。


「およよっ、ダンジョンにお家がいっぱい生えてたのだよぅっ!」


「はわわっ、知らない人もいっぱい増えたね増えたねっ」


鼠獣人のマイノとハンナが真っ先に反応した。


「わぁ!凄いオシャレな場所だねレナお姉ちゃんっ!!」


サリアも気分が高揚している様だ。


妹のサリアに腕を引っ張られながらレナは周囲を観察する。


「ここは…?」


見慣れない場所にレナは戸惑う。


「ようこそケルミット王国へ」


驚きを隠せない様子のレナ達に、王冠を頭に載せた黒髪の男がそう言った。


男は黒い背広の上着とズボンを着ており、白いしっかりしたシャツの首元には細長い青色の帯を巻いている。見慣れない格好だ。


「ケルミット王国!?なんだそれはっ、我らをスカイタルに連れて行く約束では無かったのか!?」


驚いていたモニカの表情が急変して険しくなる。


「ああ、そっか、ごめんごめん、忘れてたよ。君達はここをスカイタルって呼ぶんだったね、そのスカイタルというのがここケルミット王国なのさ」


「そ、そうなのか、それは失礼した。先ほどの失言は詫びよう、すまないタツヤ殿」


勘違いと知って、慌ててモニカはタツヤという黒髪の男に謝った。


「いやなに、気にしなくて良いよモニカさん、こっちも先に言っておくべきだったしさ」


タツヤにフォローされてモニカはペコリと頭を下げた。


「そんな、こちらが悪いのに…タツヤ殿は人柄の良いヒュームなのだな」


「僕だけじゃないさ、ケルミット王国の国民は全員良い人だよ、これからここに移民することになるモニカ達も含めてね」


それを聞いてモニカの顔が明るくなる。


「素晴らしい!それは本当に良かった、これからここで暮らすのが楽しみだ」


希望に満ちたモニカにタツヤが笑顔を返す。


「それじゃ、案内するから皆ついて来てね」


タツヤに連れられてレナ達は歩き始めた。


滑らかに舗装された綺麗な地面をひた歩く。


サリアや鼠獣人の2人は目をキラキラさせながら真新しい景色を堪能している。


「ちょっとタツヤっ、あんた国王なんだから皆に色々説明してあげなさいよっ」


タツヤに付き従っているオレンジ色の髪をした女性剣士が我慢出来ずに口を開いた。


彼女はダンジョンで出会った時もタツヤと一緒に居た2人の内の一人だ。


「あーそうだったね、ジュディの言う通りだ、ごめんね皆、ここの事全然分かんないよね、じゃあ僕から王国の主要な施設だとか場所について説明するよ」


「そ、その、待ってくれタツヤ殿、出だしを挫くようで悪いのだが、その前に先ほどから言っている王国や国王というのは何だろうか?」


説明し始めようとしたタツヤに割り込んで、モニカが疑問を挟む。

行族社会の地上には国など存在しないのだ。


「そっか、じゃあ最初から説明しよっか、今日は丸1日ダンジョン攻略の予定でスケジュール空けておいたから時間の余裕もあるし」


タツヤは悠々と歩きながらケルミット王国について語り始めた。


「ここはね、君達が居た地上より随分と上空に漂う島なんだよ。それくらいは聞いたことがあるんじゃないかな」


「ああ、スカイタ…いえ、ケルミット王国が空にあるという事は皆が知っているな、だが、大抵の人は本当にそのくらいしか知らない」


モニカが知っている事を答える。


「そうだよね、僕らは滅多に地上へは行かないから」


予想通りの答えを聞いてタツヤは頷く。


「…全ての始まりは、上空に浮いていたこの島に僕が初めて辿り着いて、そして住むことにしたことなんだ。訳ありでね」


タツヤは一拍空けてから口を開いた。


「聞きたい?」


「差し支えなければ」


モニカが静かに答える。重たい事情に深入りする様で悪いが、なぜ地上を捨てて上空に人が住むことになったのかという経緯は気になった。


「僕はずっと無能だったんだよ、地上ではね。役に立つ様なスキルや魔法が無かった、だから僕は迫害されていたのさ」


タツヤは深刻なことを軽い調子でさらっと言った。


モニカ達が同情の眼差しを向ける。まさしくサリアや鼠獣人達が同じ境遇だった。


「ある日僕は日に日に増す嫌がらせや暴力に耐え切れなくなって行族を抜けた。そして偶然にも1羽の大きな鳥に出会い、仲良くなって背中に乗せて貰ったんだ」


タツヤは言葉を続ける。


「そしてこの空の島へと辿り着き、僕はこの空の島に永住することにした。なぜなら、役に立たないと思っていたスキルや魔法が初めて役に立ったからね、僕のスキルや魔法が活躍するためには不変の土地が必要だったんだ」


モニカ達はタツヤの方を向いて歩き、尚も静かにタツヤの話を聞いている。そのうち、鼠獣人の2人はチラチラと建物や物資に目が行って意識が散漫になっている様だった。


「ここは本当に何も無い島だったけど、空に浮いているおかげで"ターンオーバー"の影響を受けない場所だった。僕はスキルや魔法を使って豊かな土壌を作り、家を建てて快適に暮らしたよ」


「タツヤ殿1人でだろうか?」


モニカがすれ違うケルミット王国の国民を横目で見ながら言った。


「最初はね。偶に地上へ降りて素材を採取してる時に、怪我をして動けなかったジュディを助けて空の島で介抱したことがあってね」


「助けられてあげたのよっ」


なぜかジュディは腕を組んで得意気だ。


「そしてそのまま定住して、それからちょくちょくそういう感じの事が増えていったんだ」


「定住者が増えたということだろうか」


「そういうこと。島に人が増えたから、僕はその分の作物や家を(こしら)えて皆の生活が豊かになる様な施設や仕組みを作っていったんだ」


「ち、ちょっと待ってくれ、ではここに見える建物も全てタツヤ殿のスキルや魔法で建てたのだろうか」


行族にも職人スキルを持った人は居たが、この規模と量を一人で建てるなど不可能だ。


それにそもそも、この凹凸の無い滑らかな道路にしろ、圧縮魔法の規格を超える巨大な建物にしろ、行族の職人では難しそうな高い技術が用いられているように見受けられる。


モニカは信じられない気持ちでタツヤに疑問をぶつけた。


「そうだよ、正確には創ったが正解かな、僕はこの島がある限りクリエイトポイント(CP)で簡単に創り出すことが出来るんだ」


「クリエイトポイント?」


「物をつくる為に必要なコストのことさ。魔力を引き換えに技や魔法を発動させるのと一緒で、僕はクリエイトポイントを消費して物を創り出してるからね」


「物を創り出す?よくは分からんが、タツヤ殿はどうやら我々と根本的に違う様だな」


モニカはクリエイトポイントが何のことかイマイチよく理解出来なかったが、恐らくタツヤの持つ力はモニカ達の知っている様なスキルや魔法とは別モノなのだろうとは推測出来た。


「まあ、そうだね。だからこそ地上で暮らしていた頃は酷い目に遭ったよ」


「それは気の毒だったな、だが今のタツヤ殿の暮らしを見れば、大半の行族は羨ましがるだろう」


周囲をよく見れば、モンスターや天変地異を恐れずに豊かに暮らすことが出来ているというのが良く分かった。


だからこそ、モニカはこの楽園のような場所を羨ましがる行族も居るだろうと思った。


現に自分たちがそうだったのだから。


「もし地上の連中が今更僕の力に泣きついて来たとしてももう遅いけどね。あ、いや、僕が認めた人は別だけどさ」


「…それを聞くと、やはり我々はその秘宝を取りに行って正解だったと思えて来るな」


モニカの視線がタツヤの手に収まっている杖へ移る。


「まあ、そいう取引だからね。それで話を戻すと、僕はこの島の君主、つまり君達の言い方だと長になって、この島を国と定めたんだ。そして僕が国を治める王となった」


「なるほど、つまり王国や国王は単に島や長の名称だったのだな」


「そうだね、その認識で大きくは違わないね」


タツヤは王国の歴史を語った後、現在の施設や法律について説明していった。


「この道にある建物は全てお店かお店の倉庫だよ、ここは西町の商業区だからね」


周りを見渡せば、様々な看板や外装をした店が所狭しと並んでおり、通りの景観はカラフルで、行き交う人の数も多かった。


「およよっ、美味しそうな匂いなのだよぅっ!お腹が減って来たのだよぅっ!」


「はわわっ、綺麗な衣服だね衣服だねっ、どんな生地なのかななのかなっ」


マイノとハンナが目に留まる事を逐一口にする。2人の鼠獣人は楽しそうだ。


「レナお姉ちゃんと後で一緒にあのお店行ってみたいなぁ」


「ふふっ、後で行こっか」


サリアとレナも楽しそうに歩いている。


左を見れば飲食店や雑貨屋に家具屋、右を見れば本屋に食品店に仕立屋といった具合に、この場所だけを切り取って見ても多種多様な店が見えるのだ。


行族社会では有り得ない光景だった。


タツヤに気付いた国民が少し立ち止まって会釈をし、タツヤがお返しに手を振る。


「この先にある角を右に曲がれば娯楽施設が沢山あるし、このまま真っ直ぐ進めば中央広場に出るね、でも僕らは君達の住居に向かってるから左に曲がるよ」


そう言った通りタツヤは角を左に曲がった。モニカ達もその後ろに続く。


「我々の住居を頂けるのか?世話になってばかりですまんな」


モニカ達にはありがたい話だった。


ダンジョンに行く時、皆はバレないようにカスタムハウスを置いて来ていたのだ。


「気にしないで良いよ、一応国民の義務で成人になったら働いて貰うことになるからね。まあ、少し働いてくれたらで良いんだけどさ」


「何でも任せてくれっ!この様な素晴らしい環境でなら喜んで働けるぞっ!」


モニカはこれからの明るい未来を想像して興奮気味だ。


「やる気を持ってくれたみたいで嬉しいよ、まあ程々で良いからね。それで、この国には法律があるから覚えておいてね」


「その、タツヤ殿、法律とは何だろうか」


「行族で言うところの掟みたいなものかな」


「なるほど、法律とは掟のことか」


「そう、この国では相手に危害を加えたり盗んだりしたらダメだよ、まあ、普通に生活していたら法律なんて気にしなくて良いんだけどさ」


「安心してくれ、我が血族に懸けてその法律というのを破ることはせんぞ」


「ありがとう、法律を守ってくれると国王としてとても助かるよ」


と言っていると、タツヤが立ち止まった。


「到着したよ、ここが君達の住居さ」


タツヤが紹介した住宅街はどの家もしっかりしたデザインと建築様式をしていて、モニカ達は啞然とした。


「素晴らしい家だ!落ち着くデザインで居心地が良さそうじゃないか!」


「気に入ってくれた様でなによりだよ、じゃあ1人1軒ずつ選んでね」


「「えっ!?」」


モニカ達は耳を疑った。


「ほ、本当に1人1軒貰えてしまうのだろうか?」


「勿論だよ、1軒ずつ少し構造だったり特徴が違うから君達で相談して決めてね」


「あ、ありがとうタツヤ!恩に着るっ」


「僕の案内はここまでだから、後の事はこのカーリーに聞いてね」


タツヤに紹介されたのは茶色いツインテールの女従者だった。


カーリーは白いフリルとエプロンの付いた黒いワンピースの服を着ており、服と同じ感じのカチューシャと頭に着けている。これも行族では見かけない恰好だ。


「カーリーと申します、皆様、ご不明な点は私にお申し付けください」


カーリーが自己紹介をした所で、タツヤはモニカ達と別れた。


タツヤとジュディが王城に向けて歩いていると、自警を兼ねている王国騎士団員が凄い勢いでこちらに走って来た。


「タツヤ様っ!ち、丁度良いところにっ!ご、ご報告致しますっ!西壁よりモンスターに騎乗した武装集団が現れましたっ!!」


鎧を着た騎士団員は慌てているが、タツヤは落ち着いている。


タツヤがケルミット王国に施した防衛機能は完璧であり外敵の侵攻など容易に排除可能だ。それを裏付ける実績もある。今まで通り心配する必要は無かった。


何せしこたま溜め込んだクリエイトポイント(CP)を防衛機能にかなりつぎ込んでいるのだから。


「それで?騎乗している連中はどんな奴らなのさ?」


「"アナライズ"が妨害されて詳細は不明ですが、純白の鎧を着た黒髪の男が集団を率いています!」


それを聞いてタツヤの落ち着いた態度が消え、顔の表情は硬くなった。


「…神に会うのは僕だカズキ、君に鍵は渡さないよ…」


タツヤはモニカ達から貰った杖を握りしめ、一度深く深呼吸した。


「ふぅ、君は急いで騎士団長を呼んできて、僕もすぐ西壁に向かうよ」


「は、はいっ!了解でありますっ!」


王国騎士団員は慌てて走り出した。


「タツヤ、いよいよって訳ね?」


「ああ、戦争だ」


タツヤはジュディにそう答え、"テレポート"のスキルを使って2人は西壁の付近へと瞬間移動した。


タツヤとカズキが対峙したであろう頃、時を同じくして地上では、新しく誕生した氷の大地より光の柱が天高く昇った。


膨大なエナジーを含んだ光の柱は徐々に太くなり、やがて消え去った。


そして光の柱を生み出していた氷の大地の地下深くに、次元を歪める程強大な空間の裂目が忽然と現れる。


それは生きとし生ける全ての存在にとって、決してあってはならない出来事だった。




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