3話 奇跡
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黒い地面には尖った岩が散在し、地面には赤い裂け目が毛細血管のごとくそこら中に血走っていて裂け目からは暴力を振るうかの様に荒々しく赤い炎が暴れている。山の様に大きな岩、螺旋状の段がある巨大で深い縦穴、起伏のある丘等があちこちで見られるが、やはりどれも黒く、裂け目が無数に展開され赤い炎が噴き出している。
噴き出す炎のせいで植物など当然1本も見当たらない。空は不気味に光っている雲が一面を覆い尽くしている。この不気味な雲は不規則に渦巻いておりまるで生き物の様に見える。
そんな生命を憎んでいるかの様なこの地に、無謀にも突如として一人の男が現れたのだった。
──此処?
この世の終わりの様な場所だった。ジーパンにベージュの長袖クルーニットという部屋で寛いでいたままの服装で暗黒の大地に降り立った律は目に映る景色が予想していた異世界と全く違い唖然とした。
「痛っ!!?」
謎の場所に気を取られていたのも束の間、すぐ全身に激痛が駆け巡り出した。自分が何かに襲われているわけでも何でもない、ただ黒い地面の上に立っているだけで皮膚は黒く変色し始め、衣服もボロボロになっている。もう既に目を開けて居られなくなった。周囲には地面の裂け目から赤い炎が出ているのが見えたが、熱くは無い。得体の知れない何かに全身が蝕まれている。
特に足の裏は猛烈に痛い。なぜだかは勿論分からないが大気より地面の方が害悪だということは分かる。オレンジの靴下しか履いてないため余計に足が痛かった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
痛みに叫ぶが何かが良くなる気配など無く悪化している。次ぎから次へと引きおこる謎の事態に頭の中はパニック状態だ。だが深呼吸で落ち着かせることなど出来ない。空気が異常に薄い上に吸い込む度に内臓が強烈な痛みに襲われる。
(し、死ぬ!あと数分も持たない!!死んじまう!!!)
もう声も出せない。全身から汗が吹き出し、すべての毛が消え去った。手足がガクガクと震え、体の内と外に走る激痛に身も心も随分と蝕まれれている。
命が尽きようという時に自分が思ったのはこんな仕打ちをした神とか名乗る者への怒りだった。
(騙されたんだ!!畜生!痛てぇ!!何が異世界だクソ野郎!!!何だって俺がこんな目に合わなきゃならねぇんだ!何したって言うんだ!!!こんな環境すぐ死んでしまうだろうがよ!!!チートスキルだとか何かよこせ!!)
あまりの事態に忘れていたが、異世界といえばチート。漫画やアニメで人気のジャンルだったので律もそこは知っている。
(そうだスキルだ!こういうのはええと・・・ステータス!!)
自分が所持している能力が分かるコマンドみたいな言葉を心の中で念じるも何も起きなかった。
(クソっ違ったか!?ステータスオープン!オープンステータス!!ウィンドウ!!コンソール!!!プロパティ!!インフォメーション!!ライブラリ!!鑑定!!)
手当たり次第に試したが何も起きない。この極限の中、律の頭の中には異世界に来たのだから何か特別な力を授けられているはずなんだという思い込みに支配されてた。だが、その思い込みこそが奇跡を手繰り寄せたのだった。
もうすぐ呼吸も出来なくなってしまうであろう時、ふと何かに気が付いた。いや、ずっと気付いていたが今になって大事なことなんじゃないかと思われた。
ここへ送り込まれた時、五感では表現できない何か流動する力の様なものが入って来た。ここに居る今もなお、この何とも言えない力を感じている。
(これだ、いや、もうこれしか無い)
痛みや死に近づくにつれて発症する体の悲鳴が余計な雑念として邪魔をしてくるが、無我夢中で流動する力の感覚を探った。
(とにかく回復だ!回復するしかねぇ!痛い痛い゛痛い゛い゛!ああ!どうすりゃ良い!?念じるだけじゃダメなのか!?)
念じても何も起きないと分かると、律はありとあらゆる治療のイメージを力の感覚に訴えかけた。
(ダメだ・・もう意識が・・・く、苦しい・・・)
律はとうとう黒い地面に倒れこみ、そして動かなくなった。
♦♦♦♦♦
何処からか音が聞こえてくる。
いや、声だ。声が段々大きくなってきている。何かがこちらに近づいて来ているみたいだ。
「ウオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
それがうめき声だと分かって、律は目を覚ました。うつ伏せに倒れていた体を起こし、立ち上がった。
目の前に広がるのは黒い地面に裂け目から赤い炎、周りに散らばる尖った岩・・・眠り落ちる前と同じ、この世の終わりのような場所だ。どうやらあの死線を乗り切ったみたいだった。何処も痛くないし、ちゃんと呼吸もできる。
(確か死にそうになって俺は──)
律は自身の状態を確認しようとしたが、先ほどから聞こえていたうめき声の持ち主が見えたので後にした。
見ればそれは人だった。律と同じく飛ばされて来たのか現地の住人なのかは知らない。こんなところにも人が居るんだと安心したが、すぐにその考えを改めた。白い肌に黒髪の貧相な中年男性が全裸で頭を抱え、苦しみうめきながらヨタヨタと徘徊している。
(苦しんでるみたいだ。さっきの俺と同じ症状ではなさそうだが状況は似てそうだ。あの経験が何かの役に立てるかもな)
律は男性に近寄って声を掛けようかと思ったが、自分が全裸であることに気付き一瞬躊躇った後、あの男性も全裸なので同じことかと思い直して声を掛けた。
「大丈夫ですかー!?」
「ウオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
律が声を掛けるも、同じ調子でうめき声を上げるだけだった。
「ダメだ聞こえていないか」
もう少し近くで声を掛けてみようと、男性との距離を詰めた。すると男性に反応があった。闇雲に徘徊していた男性がこちらに直進してきたのだ。律は掛けようと思った声を飲み込んだ。様子がおかしい。いや、何かに苦しんでいたので最初から様子はおかしかったのだが、今直進してくる男性は襲い掛からんばかりの様子で走って来ている。
律は取り合えず男性と距離を置こうと逆方向に走ったが、まだ起きて間もなかったせいかはたまた回復の反動なのか、足が鈍くて追いつかれてしまった。
「ウオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
うめき声を上げる男性に左腕を掴まれ、バランスを崩した律は黒い地面に尻餅をついた。男性は両手で律の腕にしがみ付き、口を大きく開けて噛みついてくる。
「この野郎っ!」
律は自由な右手で男の首を鷲掴みにして左腕から引き離した。
(病気なのか何なのか知らないが、もはやこいつは俺の敵だ。)
律は全力で右手に力を込めた。驚くべきことに男の首を握り潰さんばかりの握力が出た。男の顔色が急に悪くなり、泡を吹いて律の左腕を掴んでいた両手が脱力した。
律が男の首から右手を離すと、男は崩れ落ちるように倒れピクリとも動かなくなった。おそらく死んだのだろう。初めて人を殺したが、何の違和感も無かった。血を吸う蚊を殺した程度の気持ちだった。
律は先ほどの死線を乗り越えた時、精神に変化があった。それは人にあってならない変化だった。
(片手で人って殺せるんだっけ?)
律は己の力に驚いていた。平均的な成人男性レベルの握力だったはずだ。それが何だ今のは、ウェイトリフティングの選手を思わせるような力の入り方だった。急いで自分の手や体に目をやるが、外見は普段と変わりない自分だった。
もしかするとこの力と完全回復したことは別なのかと考える。集中すると僅かに力の源泉を感じられるが、以前よりハッキリと分かる。さらに発覚したのが、妙な感覚が2種類あるということだった。全身に流動するシュワシュワとしたエナジーみたいな感覚と頭の中で宇宙が渦巻いているかのような感覚だ。
力が強くなっているのは全身に流動するエナジーみたいな感覚のせいだ。ということは回復できたのは頭の中の感覚か。もしくは2種類が折り合って回復できたのかもしれない。
「一体この力は何なんだ」
正直、今冷静に考え直すと、この謎の力は意図して授けられた物とは思えなかった。この地に降り立った当初は微弱過ぎたし、使い方も余りに不透明すぎだ。この意味不明な力に頼るという考えが無ければ律は死んでいたし、そもそもこんなこの世の終わりみたいな場所に放り出すという時点で善意なんて欠片も無い。
あのオーゼスとかいうクソ野郎のことを思い出すだけで全身が煮えくり返り、怒りで我を忘れそうになるが、またうめき声が聞こえてきた。
「ウオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
律は沸騰していた頭を落ち着かせ、うめき声の方を見た。なんと先ほど確かに殺した男が起き上がっている。潰した首も元に戻っており、以前と同じ姿で律目掛けて襲い掛かって来た。
「オラぁ!!」
男の身に何が起こっているのかよくわからないが、イライラしていた律は全力で男の顔面を殴った。男の顔面は無残に拉げ、顔中血まみれになった。
「ウオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
それでも男はうめき声を上げ、襲うのを止めない。律は重なる不遇によって哀れみや道徳といった人としての心を失いつつあり、獲物を狩る狩人の如くカッと目を見開いて、容赦なく男の顔面を殴った。男の頭部はスイカを砕いたみたいに破裂した。頭部を失って倒れた男を律は修羅の形相で見下ろしていた。
(ホント何なんだコイツは)
しつこかった男を粉砕し少しは気の晴れた律だったが、倒れた男にまた異常なことが起こった。首から先、消えた頭部に男の半透明な顔が出現し、一瞬のたうち回ると男は元に戻っていた。
「は?」
不死だとでもいうのか。このまま殺し続けて確かめても良いがホントに不死だった場合時間の無駄になる。今は他にまともな人が居ないのか確認するべきだ。となるとこの男は拘束する必要がある。少し考える。律は全裸であり拘束具などは持っていない。辺りに植物は皆無だ。
近くの裂け目に落とす事にした。
律の周囲にも無数の裂け目があり、黒い地面から赤い炎を噴き出している。とりあえず男を掴んで近くの裂け目に放り投げた。
「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
シュゥゥゥという燃えた音を発しながら男はもだえ苦しみ裂け目の底へと落ちて行った。熱くないこの炎だが、やはりちゃんと燃えるようだ。まあ確実に普通の炎よりヤバイだろう。炎に入った瞬間、凄い勢いで男が外側から消失していったからな。不死身っぽい男がだ。
律は何事も無かったかのような顔をして歩き始めた。目的は律の他にまともな人がいるのか調査するためだ。もはや律自体まともか怪しいところだが、本人は至ってまともだと自負している。
「おいおいウソだろ」
歩き始めてしばらくすると、律はとんでもないことに気が付いた。裂け目が繋がっているのだ。裂け目自体は無数に点在しているのだが、裂け目を避けて抜ける道が無い。つまりこの裂け目をどうにかしないと先へ進めないことが発覚した。
(どうしたら・・・)
裂け目から出る炎の高さは平均6メートルくらいで裂け目の幅は一番狭そうなところで2メートルある。この裂け目の向こう側には赤い裂け目が入った山の様な黒い岩が無数に見えるため、奥に進めることは分かっている。
ジャンプしてもせいぜい2メートルくらいしか飛べない。ここに来る前より高く飛べているが今は無意味だ。
となると当然、ここは異能に頼る他無い。2つの超感覚の内、全身に流動する感覚は見た目こそ変わらないが筋力に影響している。この感覚を探ればフィジカル的な強化や能力を得られるかもしれないが、生身で赤い炎の中を通るなんてことは絶対出来ない。いくら肉体が強化されようとあの赤い炎に触れて無事で済む未来は想像できなかった。
頭の中に渦巻く感覚を探る他無い。この感覚が死にかけの状態を回復させてくれたはずだ。問題はどうやって回復したのかハッキリ覚えていないことだった。これじゃ使い方が分からないのと変わらない。律は手で地面を触って足以外で触っても痛くないことを確認し、胡坐をかいて全裸のまま座り込んだ。
律は頭の中で宇宙が渦巻いているような超感覚と向き合った。空は常に奇妙な雲に覆われているため昼や夜が無く時間は正確に測れていないが、かなりの時間を掛けることになった。なぜか回復してからというもの空腹にはならなかった。あらゆる推測と検証を繰り返し、そして遂に超感覚を解き明かしたのだった。
この超感覚は法則そのものだった。例えば体が回復するという感覚を頭の中の超感覚で構築すると、実際に体が回復するし、髪の毛を伸ばす様に超感覚に働きかけると実際律の頭髪が伸びた。勿論元に戻すことも自在だったので元に戻した。
呪文や魔力などとは違うので魔法とも言い難く、もっと別の力に思えた。極めれば何でも出来そうだったので律はこの力を天力と名付けた。
しかし、天力には今のところ、限度があった。物を生成したりといった律以外の何かに関与することが出来なかったのだ。だが、それも解決しそうだ。
というのも、天力が発動する時、天力じゃない方の超感覚に微弱な反応を感じ取ったので、天力は天力じゃない方の超感覚を元に発動していると思われた。
つまり今度は全身に流動するシュワシュワとしたエナジーみたいな感覚を研究すれば天力で何でも出来るようになりそうだった。律は再び胡坐をかいて座り込んだのだった。
2つ目の超感覚は1つ目より遥かに難解だった。研究し過ぎて3つ目の超感覚を発見したくらいだ。ようやく全てを理解出来た。と思いたい。まず、全身に流動する力はやはりエネルギーそのものであることが分かった。故に魔法やスキルといった物とは全く別物だった。律はこの超感覚を魂力と名付けた。
次に、これが研究するのに一番時間の掛かったことなのだが、魂力を強化させる方法を知った。
これにはメチャクチャ繊細な技能と集中力と感覚が必要で、エグいほど難しかった。流動する魂力をまず圧縮させる。圧縮方法については様々な方法があると思われ今後の課題だが、今は体の中央に球状の魂力になるまで力んで圧縮させている。すると魂力に不純物が発生する。今度は不純物同士が衝突したりしない様、圧縮した魂力を徐々に解放していく。
完全に元の大きさまで魂力が戻ると魂力は緩んでいる状態になるので自然に不純物が外へ排出される。この時天力などは一切使用してはならない。不純物が完全に消え去った時、魂力は以前に比べ強くなっているのだ。
簡単そうに聞こえるが全ての工程が激ムズだったし、失敗すると魂力が大幅に弱体化するので途方もない時間が掛かった。
そして強くなった魂力の状態でも実現出来ない天力があることに気付き、その先を研究すると3つ目の超感覚があることが判明した。
3つ目の超感覚は出力だった。場所で言うと身体の表面に位置する。律はこの超感覚を超力と名付けた。この超力も天力同様、魂力に依存する力だった。超力と名付けたのは、まさに超能力みたいなことが出来たからだ。岩を操作したり自分を浮かしたり出来た。この力の凄い所は魂力を出力できるということだ。超力で魂力を出力変換すると波動になった。
波動を使えばあらゆる物を攻撃出来た。威力は魂力に依存し、鍛えると裂け目から噴き出ている赤い炎を消せた。すぐに赤い炎は復活するけど。魂力に量という概念が無い為、無限に波動を放出できるし、放出したからといって元の魂力が弱体化することも強化されることも無かった。代わりに超力を使い続けると疲労感に襲われるので連続使用には限りがあった。律はこの3つの超感覚をまとめて三元力と呼ぶことにした。
三元力を駆使し、律は衣類を作成した。元々着ていたはずの普段着を身に着けた。今度は靴も履いている。黒と白のスニーカーだ。
「完璧だ。先へ進もう」
律は超力で魂力を押し出す。魂力が超力に刺激されたせいで体が白く発光し、出力変換の影響で右手に火花と電流を掛け合わせたような青白い波が集まる。赤い炎に右手を向けて波動を放った。ウェーブ状の波動はドゥゥゥンという重低音を発しながら出力方向へ直進し、赤い炎に着弾して炎を掻き消した。まあ、手を向けずとも波動は撃てるがノリだった。律は超力で自身を浮かせ、炎が消えた裂け目を突破した。
絶大な力を手に入れたが歓喜の様子は無く、律の顔には怒りが刻まれたままだった。
少し進むと、研究していた時に何度も聞こえていたゴゴゴゴゴゴゴという地響きをまた耳にした。地面も少し揺れていたし、地震だろうと放っていたが、地響きの音が大きくなっている。これは音の発生源に接近しているという証拠だ。
「そうか、上から見れば早い」
律は自身がもはや何でもできることを思い出し、地上を直進するのを止めて超力で上空へ飛んだ。
「なっ!何なんだアレは!?」
それはバカみたいな大きさだった。直径およそ20メートル長さ300メートルはあろうかという、鎧の様な外骨格を持つムカデ状の多足が生えた太い胴に、顔はドラゴンを思わせる爬虫類に似た雰囲気、顔や外骨格は真っ黒で、腹と目と口内は赤く光っていて夥しい数の鋭く尖った黄色い牙が開いた口から見える化け物だった。
律が目撃したのは、ワームの巨大な化け物が全裸の人間達を追い回して捕食する無残な光景だった。
「クソっ!!」
律はワームの化け物の頭上へと天力で転移し、上空で両手をワームに向けて全力で波動を放った。炎を払った時とは段違いの広範囲と質を持ったウェーブが深い重低音を発しながら直進し、ワームの頭に命中した。
はずだった。着弾と同時にスッという間の抜けた音が出ると律の波動が雲散した。
「ウソだろっ!?」
律は驚愕した。全力の波動が効かないという事は、手の打ちようが無いということを示している。天力というのは何でも出来るが、魂力に依存している為、波動の効かない対象には全ての天力が無効となる。これは赤い炎を対象に実験済みだ。
念の為、滅却と名付けた対象を消し去る天力を発動させるも、やはりワームには効かなかった。
「ダメだっ!せめてあの人達だけでもっ!!」
天力で生き残っている人達をワームから離れた場所に転移させた。するとワームの近くにいる存在が律だけとなったためか、ワームが上空に浮かぶ律に気が付いた。
「グゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
激昂したワームが耳を破るような咆哮が轟いた。
「う゛っ!!」
律は両手で素早く耳を塞ぎ、生存者たちの場所へと転移した。
生存者達は皆大人で、20代~50代くらいの男女が合わせて11人居る。男の方が7人居て多い。人種もバラバラだった。黒髪、金髪、赤毛、白髪、容姿もバラバラだ。耳が長く尖っている者もいるし、背丈が小さくて長い髭の者も居る。
なぜか人相が悪い人が大半で、そして全裸だった。一瞬女性の裸体に目が移ったのも束の間。
「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」
あのうめき声だった。律がこの地に来て初めて出会った人間の男みたいに、生存者は全員狂ってヨタヨタと徘徊している。
「は!?お前らもか!?この世界の人間は全員こうだっていうのかよ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴという地響きがまた近づいて来た。どうやったか知らないがさっきのワームが追ってきたのかも知れない。
「もう知るかっ!!」
そう吐き捨てて律は狂った生存者を無視し、飛翔した。
「時間が必要だ、あの化け物を倒せるくらい鍛え直さなくては!クソっ、何処か安全な場所は無いのか!?」
取り合えず地響きがした方角と真逆の方へ進むと、遠方に山の様な黒い岩を発見したので頂上付近の段上に着陸して座り込んだ。この岩も無数の裂け目と赤い炎が点在している。高さは地上から500メートル程だ。ここでならワームの接近にも気が付き易い。
「ったく、どいつもこいつも全員敵だってか!?何なんだよここは!?何で俺がこんな目に遭わなくちゃならねぇんだ!!何で俺なんだよ!!!」
原因となった人物の記憶が頭にチラつく。
「俺は一生忘れねぇからな!!オーゼス!!!あのクソ野郎、絶対に許さねぇ!殺す!ぶっ殺してやるよ!!仲間も全員皆殺しだコラぁあ゛!!!」
律の叫びは僅かにこだまし、周囲に響いて消えた。腹いせに波動で頂上の岩を吹き飛ばした。ドガァーンという轟音と岩が粉々に消え去ったことに満足した律はぼんやり消え去った頂上を眺めていた。
「?これは・・・」
すると頂上跡地にはバスケットボール程の大きさをした青く輝く鉱石があるのを見つけた。岩や地面が黒い分、青い鉱石というのは異様に思えた。
鉱石の方角から肌を刺すような感覚が迸っていて、鉱石は禍々しい力を含んでいるということが律には分かった。
それは、後に《煉獄》と呼ばれるようになる価値の高い鉱石だった。
雲って良いよね。何で良いんだろ。