21話 白い宝石箱
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※甘い話はもうちょっと先です。(って誰も期待してない感)
奴隷商人モコバの案内で、ロイ達一行はロデイナ国最高級宿に来て居た。
23人も奴隷を引き連れて歩いているのは怪しいのだが、奴隷商人モコバが先頭で案内をしているので、通行人は騒いだりしなかった。
宿は6階建ての巨大な白いブロックの建物で、〈白い宝石箱〉という銀色の看板が掛かっている。
ロイの奴隷達は、最高級宿を目にして「「ふわぁ…」」と感嘆の声を漏らした。
ロイはちらりと一人の奴隷を見る。病気で2階に監禁されていた人達は髪の毛が伸び放題になっている。いくらロイでもムダ毛処理のスピリットなど習得していない。さらに、全ての奴隷は布1枚を体に巻いているだけの恰好だ。
「モコバさん、ご案内ありがとうございます。案内の他にもう一つ頼みたいことがあります」
モコバは眼を潤わせ、満面の笑みで何度も頷く。
「何なりと仰ってください!このモコバ、貴方様からの頼み事とあらば、最大限お力添え致しますぞ!」
「この宿にコーディネーターの方を連れて来て欲しいのです。彼らの身支度をしたくて」
モコバは笑顔のまま、小さくパンッと手を叩いた。
「服と美容ですな!本当に何とお優しい御方だっ!奴隷に買い与えようとは。それであれば、王宮御用達のコーディネーターをご用意させていただきますぞ!」
モコバは鼻をフンフン言わせながら、大喜びで走って行った。まるでロイの力になれるのが嬉しいみたいだった。
「それじゃ、みんな付いてきてね」
ロイは笑顔でそう言うと、宿の中へと入って行く。ロイの奴隷達はお互い顔を見合わせてポカンとした後、慌てて宿へ入った。
宿のフロントは何もかもが煌びやかで、無駄に金や銀で装飾されていた。
大理石の床、金の花瓶には色彩豊かな花が生けてあり、黒い豪華なソファが並べられている。
磨き上げられた大理石の受付には黒髪オールバックにチョビ髭の男性が姿勢正しく業務を行っていた。
ロイは受付に向かう。受付の男性はロイに気付いてニコリと営業スマイルを作るも、すぐに口角は下がることとなった。
ロイはマスクと帽子を被っているし、後ろに汚らしい服と恰好をした奴隷をゾロゾロと引き連れているのだ、受付の男性は黒いベストと白いシャツを手で払い、ここは豚小屋じゃないんだぞとでも言いたげな表情をした。
「すみません、24部屋1泊お借りしたいです」
ロイが全員分の部屋を借りると言い出した。奴隷全員が一斉に眼を丸くして飛び上がった。すると、奴隷の中で20歳くらいのブロンドのショートヘアをした男性が土下座をしながらロイの横に出る。
「ご、ご主人様っ!!奴隷の身分で横から進言致しますことをお許しくださいっ!我々奴隷はご主人様への感謝と敬愛の念を抱いております!我々のせいでこれ以上ご主人様へのご負担が掛かるなど見過ごせませんっ!我々奴隷などに宿など不要でございますっ!野営か最下級の雑魚寝宿一室が普通なのですよ!これではお金の無駄遣いです!」
奴隷の男性の言葉と同時に、他の奴隷はその場で一斉に跪き、ウンウンと頷く。
「そちらのお連れ様の言う通りですな。そもそもお客様、失礼ですがお金は御持ちでしょうか。1人部屋を24部屋1泊で金貨120枚になりますが」
受付の男性はロイを胡散臭そうに見る。
「みんなは気持ち悪いと思うかもしれないけど、オレは、みんなのことを家族だと思ってる。だから、みんなで一緒に泊まりたいんだよ」
ロイは銀の袋を取り出し、金貨120枚をジャラジャラと受付に置く。
「「こ゛し゛ゅ゛し゛ん゛さ゛ま゛ぁ!!」」
ロイの奴隷達は全員ロイを見上げながら大粒の涙を流していた。つい先ほど薬でも治せなかった不治の病を治すという奇跡の力と優しさを体験したばかりだ。そして今度は未だかつて無い人の温もりに触れ、奴隷達の心は溢れる幸せでどうにかなりそうだった。
ある奴隷は顔が赤くなるまで泣きじゃくり、ある奴隷はひたすら感謝の言葉を贈り続け、女性同士で抱き合って喜びと幸福を共感する奴隷も居る。
受付の男性は信じられないという表情をした。
「ま、まさか本当に御持ちだとは!し、失礼致しましたお客様。であれば、当店の1人部屋は24部屋も空きがございませんので、5人部屋を4部屋と4人部屋を1部屋ご用意させて頂きますがそれでよろしいでしょうか。お値段は夕食と朝食付きで総額金貨48枚です。」
「それだと男女で数が合わせれないから5人部屋を3部屋と3人部屋3部屋に変更してください」
ロイは宿に来るまでに確認したのだが、奴隷は男性が5人、女性が18人だ。男性は3人部屋の2部屋で寝れば問題無い。
「畏まりました。それでは5人部屋を3部屋と3人部屋3部屋全て1泊で総額金貨48枚になります。1人部屋と2人部屋以外は1人当たりのお値段に変わりがございませんので」
ロイは頷き、受付の台に出した金貨を整理した。
「それでは鍵をお渡し致します。こちらが2階の5人部屋3部屋分の鍵、そしてこちらが4階の3人部屋3部屋の鍵になります」
ロイは受付の男性から6個の鍵を受け取った。
「みんな立てる?とにかくまずは部屋に行って休もうよ。一緒に付いて来てね」
奴隷達は奴隷同士で顔を見合わせた後、涙を拭って立ち上がり、ロイの後を追って2階へと向かった。
2階の5人部屋の前に集まると、ロイは少し苦笑いしながら、口を開いた。
「あはは、部屋割りとか決めてないけど、大丈夫かな?取り合えず女性の皆さん、15人は適当にこの3部屋に入ってね。はい、これ鍵ね。残りの3人の女性は4階の3人部屋だから少し待ってて。男性は3人部屋2部屋で固まるよ」
ロイは近くに居た女性達に鍵をそれぞれ3個渡す。鍵を受け取ったのは奴隷商店で1階に居た女性達だ。
と言うのも、奴隷商店の2階に居た女性達は髪やムダ毛が伸び放題のため、恥ずかしがってロイの前に来ないからだ。そして奴隷商店で1階に居た女性達はそれを分かって居るので元2階組を隠すようにロイの近くを陣取って壁を作っている。
ロイは部屋割りが終わるのを待っているのだが、鍵を受け取ったはずなのに女性達は動かない。
シーンと静まり返る中、意を決した1人の女性がロイの前に土下座した。彼女は奴隷商店で1階に居た赤毛の長い髪をした女性で、見た目は20代後半だろうと思われる。
「ご、ご主人様のご決定に奴隷が疑念を抱くことをお許しくださいっ!ですがっ、ですがっ!!まさか本当にご主人様は奴隷と同じ部屋で宿泊されるのでしょうか!?」
ロイに疑問を発言することが余程勇気の要ることだったのだろう、土下座している女性の白い肌は小刻みに震えてる。
「あははっ、みんなは家族って言ったよね。…あれ?もしかして嫌だったって意味かな?」
23人の奴隷が全力で首を横にブンブン振った。勢いで女性の長い髪がワチャワチャとなる。
「と、とんでもございませんっ!!言葉に出来ない喜びと嬉しさでした!!今でも胸一杯の幸せを感じております!!」
答えたのは前で土下座している赤毛の女性だ。
それを聞いてロイは安心した。
「あはは、大袈裟だなぁ。身元を引き取ったんだから、当然だよ。気にしないで」
ロイの明るい笑顔も相まって、奴隷達の胸にグッと来る言葉だった。
「「こ゛し゛ゅ゛し゛ん゛さ゛ま゛ぁ!!!」」
奴隷達は歓喜に溺れ、皆一瞬ロイに抱き着こうと思ったが、思いとどまって自分の手を揉み、誤魔化した。
「それと家族なんだから、オレのことは気軽に『ロイ』って呼んでほしいな」
「「お、お呼び出来ません!!!」」
みんな興奮して口々にロイへと抗議する。
「ご主人様を軽率にお呼びするなど言語道断です!!」「この身と心を捧げるご主人様を軽んじるなどあってはなりませんっ!!」「ご主人様のご命令を果たすことが出来ない私共をお許しくださいっ!!しかし、他の主人であればまだしも、ご主人様を呼び捨てるなど、奉仕の精神に反しますっ!!」
みんなの余りの熱量に気圧され、ロイは降参するしか無かった。ロイはどちらかと言うと家族を意識して欲しかったが、みんなが嫌だというのに強制したくは無かった。
「あはは、わかったから皆落ち着いて。好きに呼んで良いよ」
「「ありがとうございますご主人様!!!」」
ロイが折れてくれたことで、皆は安心したみたいだ。
「それじゃ、女性のみなさんは適当に部屋に入ってね」
ロイが部屋割りを促すが、またも奴隷達は動かない。今度は目をウルウルさせてロイを見ている。
「よ、宜しければ、私をご主人様とご一緒の部屋にさせて貰えないでしょうかっ!!」
奴隷全員が同じことを言おうとしていたが、一瞬早く発言したのは、クールブロンドのショートカットをした女性だった。だが、多方からあれよあれよと異論が出て来る。
「ち、ちょっとミシェル!ズルいっ!ご主人様、是非とも私をご指名下さいませっ!!」「元々ご主人様は男女で分けるって仰ってたもん!ぼくとご主人様は一緒だもん!!」「な、何でカイがご主人様を取るのよっ!男は大人しく譲りなさいってば!!」「お、男だからとかじゃなくて、フツーにご主人様とご一緒してお喋りしてーじゃねーか!!」「イークス、貴方何を言っているのかしら!?今は女の勝負なのっ!!しゃしゃり出ないで頂戴っ!!」「ご主人様、お色直しまで待って頂けないでしょうか!今はご主人様にお見せできる姿では無くてその…」
23人が口々に叫び出す。ハッキリ言って他のお客さんに大迷惑だ。ロイは早急に鎮静化することにした。
「ゴホン、みんな聞いて」
ロイの声を感知するや否や、全員がピタッと言い争うのを止め、ロイに向き直る。
「「失礼致しましたご主人様」」
全員立ったまま、深々と頭を下げた。
「最初に言った通り、部屋は男女で分けるからね。オレの部屋は年齢の低い子と一緒にする。それから、みんな、部屋に誘ってくれてありがとう。ホントに嬉しかった」
ロイに思わぬ言葉を貰い、みんなは少しポウッとした。
その後、女性達は部屋の前に別れて整列する。だが、中に入ろうとしない。
「あれ?どうしたの?」
ロイはまた何かあるのかと思った。
「いえ、お見送り致します」
女性達のロイを見る眼はキラキラしていた。
「あはは、ありがとう。それじゃ、コーディネーターの人が来たら呼びに行くから」
ロイは笑顔でお礼を言うと、4階へと上がって行った。
余った3人の女性は年少組だった。もしものことを考えてロイと同じ階にしたのだろう。
ロイは4階に行き、女の子達に鍵を1つ渡した。だが、また部屋に入ろうとしない。
「見送ってくれるの?ありがとね」
ロイが女子に手を振る。女子達は眼をキラキラさせた上に顔を赤くして、ブンブン手を振り返す。
続いてロイは20歳位の男性に鍵を渡す。フロントで進言してくれたブロンドの男性だ。
ようやくロイは自分の部屋を開け、男性組で一番年齢の低そうな2人を引き連れて部屋に入る。
とここで、ロイが部屋に入っている隙を突いて、ロイとの相部屋を獲得したラッキーボーイの1人が見送っていた女子に向かってハッキリとしたドヤ顔を見せた。
「く、悔じいっ!」「勝ったつもりかしら?喜んで居られるのも今の内なんだから!」「はぁ!?ムッカつくぅ!!」
ラベンダーピンクの髪をした一番年齢の低そうな女子は悔しそうな表情になり、病気だったせいで無造作に伸びてしまったパールピンクヘアーの女子は額に無数の青筋を浮かべ、オレンジの髪をした女子は眉間にシワを寄せて男子を睨む。
ラッキーボーイの1人はその様子を見て満足すると、ロイの居る部屋へと入って行った。
女子達は部屋に入り、バタンッと怒り任せに大きい音を出してドアを閉めた。
「ほんっと、カイの奴最低っ!何時か絶対仕返ししてやるわ!!」
伸び放題の髪を撫でながら、パールピンクヘアー女子のチィウは先ほどのドヤ顔をしてきた少年カイにまだ腹を立てている。
「きっと嬉しいからだよ。私達もご主人様と寝れることになったらカイみたいになっちゃうでしょ?」
ラベンダーピンクの髪をした女子、メルルはカイの取った行動に理解を示しているようだ。
「そりゃそうだけど、今頃カイがご主人様のお姿と匂いを楽しんでると思うと腹が立つわ!」
オレンジの髪をした女子アイリーはカイがロイに好き放題していることを想像し、嫉妬心を燃やしている。
愚痴を溢しながら3人の女子は部屋の中へと歩いていくと、豪華な部屋の景色が眼に飛び込んできた。
5メートル程はある広い天井、天井からは《ウォーターストーン》を一つ一つ使った豪華なシャンデリア、ダイニングスペースには高級そうな茶色いテーブルクロスが掛かった黒い食卓テーブル、リビングスペースには菓子のバスケットを大量に乗せた丸いセンターテーブルを今まで触ったことの無さそうな質感の黒いソファーが3つ囲うように置かれている。寝室とバスルームは別のようで、これだけでもメチャクチャ広かった。
「う、うそでしょ…」
「ほえぇ…」
「こんなの見たことない…」
女子3人は見た事の無い豪華な部屋に度肝を抜かれ、フリーズした。
アイリーは余りの光景に鍵を持つ手が緩み、スルッと鍵を落としてしまったが、床はワインレッドの高級そうな赤い絨毯なのでポトッという音しかしなかった。
「はぁー…本当に綺麗、夢みたい」
贅沢なシャンデリアと間接照明が一級品の品々をキラキラと照らし出す部屋の景色は、奴隷の女子3人には夢の世界に思えた。
「キャー!見て!高そうなグラス。あ、でも、落としちゃたらヤダなぁ」
「それよりアレ見てよアレ!、お菓子があるじゃない!"ご自由に御召し上がり下さい"って書いてあるわよ!宿のサービスだわ!!」
「ほ、ホントね。お、美味しそうじゃない…」
チィウは2人に子供っぽく見られまいと、必死にお菓子へ飛びつきたい気持ちを落ち着かせながら余裕を持ってリビングスペースへとやって来た。
「どれどれーっ!?メルルもお菓子食べたーい!」
アイリーがお菓子を発見したことによって部屋の物色は中断され、リビングスペースのソファーと豪華な白い椅子に3人はそれぞれ座る。
植物系スピリットで製造された透明な膜でお菓子は1つずつ包装されており、女子3人はワクワクしながら素早く包装を取って食べ始めた。
「ふあぁ、しっとりしてて、ムグッ、舌触りがよくて、ハムッ、あっまーい!!」
メルルはパンケーキ風のお菓子を幸せそうに食べている。
「ん゛ーっ!美味しっ!外がサクッとしてて、中がフワッと口の中で溶けてくっ!」
アイリーはタルトの様な焼き菓子を眼を閉じて味わう。食べたことが無い高級菓子にアイリーは虜になった。
「ーッ!-ッ!!-ッ!!!」
チィウは濃厚なバタークッキーの深い味わいに悶絶し、美味しさの余り眉がハの字になった。
「美味しいっ!」
「とんっでもなく美味しいわ!奴隷どころか、庶民だってこんなの食べれないわよ!」
「これが贅沢な味わいなのねっ!はぅー幸せー!」
モコバの奴隷商店で結構長いこと一緒だったため、奴隷同士は年齢関係無く仲が良い。
女子3人はお菓子の味に満足し、仲良くハイペースでバスケットに手を伸ばしていく。
「あ、あの、ご主人様が口にするような食べ物食べちゃって良かったのかなぁ…」
お菓子に手を出した後になって、メルルは不安になって来た。主従関係に敏感なエスティカにおいて、奴隷が主人と同じ食べ物を食べるなど絶対あり得ないことなのだ。
「か、家族と仰って頂いたわ。大丈夫よメルル」
アイリーは照れながらロイの言葉を持ち出し、メルルを安心させる。家族という温かな単語は、女子3人の心に癒しを与えると共に、ロイとの太い繋がりを意識させられるので、言いながらも照れてしまう。
「そうね、か、家族ですから、お叱りは無いでしょうね。それに、嘘ということも無いわ」
一瞬照れながらチィウもアイリーに賛成する。
「メルルも嘘は絶対無いと思うなぁ。あの時、すぐ2階の皆を助けに行ってくれたもん」
「ご主人様が嘘を仰るわけないじゃない。チィウ、ご主人様を疑ってるわけ!?」
アイリーの無神経な言動にチィウはカチンと来て立ち上がった。そして鋭い目つきでアイリーを睨む。
「私はあの時2階でご主人様から直に治療して貰ったのよ!!??醜かった病気の姿も一切動揺せずに真剣になって駆け寄ってくれたし、目の前で奇跡のような秘技も見たわ!!!ご主人様の全てを信じてる!!嘘だと勘違いしないでって言いたかっただけ!!」
アイリーとメルルは奴隷商店の1階に居たので、チィウだけがロイのソードスピリットを体感している。ロイに対する想いは2人よりも特別だ。
「ご、ごめんチィウ、誤解してたみたい」
「ごめんなさい、チィウ」
アイリーは申し訳なさそうな顔でチィウに謝罪し、なぜかメルルも一緒になってチィウに謝った。
「ま、分かってもらえたらそれで良いわ」
チィウは2人が謝ってくれたことで気を静め、ソファーに座り直した。
誤解も解けて和解できたが、楽し気な雰囲気は無くなってしまった。次に話を切り出すのが躊躇される。
「ご、ご主人様ってカッコ良いよね…」
沈黙を破り、メルルが頭に過ったことをそのまま口にした。
途端にアイリーとチィウが明るくなった。
「当ったり前じゃない!二度見しちゃう様な整ったお顔だし、大きなクリっとした眼も素敵だし、茶色い髪も綺麗で完璧なんだから!」
アイリーがロイの見た目を力説する。
「見た目は勿論だけど、上級市民とは思えないあの温かい笑顔がすっごくキュンキュン来る」
チィウは伸びたパールピンクの髪を撫でながら、目に焼き付けておいたロイの記憶を思い出す。
「それだよね、あの笑顔反則だよね。それに、ご主人様、とぉーっても良い匂いしない?近くにいらっしゃった時に香りがしたんだけどね、メルルお股抑えちゃったもん」
メルルの踏み込んだ発言を聞き、アイリーとチィウは顔を真っ赤にして慌て出した。
「もうっ!メルルのせいでご主人様の香り思い出しちゃったぁ!!ニヤニヤ止まんないっ!」
「そ、そういうのは寝る時に話すことじゃない!!もうすぐご主人様とも会うんだから止めて!!」
アイリーとチィウは興奮してソファーに座ったまま足をパタパタさせる。
メルルは急いでどう話を修正したら良いか考える。
「えへへ、ごめんね、メルルも変な気分になっちゃってた。ええと、じゃあ、ちょっと2人に聞きたいことがあるんだけど良いかな」
メルルはそう言って2人に目を配らせると、お菓子を口に運ぶ。
「しょうがないわね。聞いてあげるわ」
「メルル何を聞きたいのかしら?」
アイリーとチィウもメルルに続きを促した後、残り少ないお菓子に手を伸ばす。
「モグ…、ご主人様について何か知らいないかなと思って。メルルはご主人様がお金持ちのキーパーさんってことしか知らなくて」
「ムシャ…、そうね、私もお店の一階で聞こえて来たことしか知らない。ご主人様がお越しになる前に凄腕のキーパーが現れたってモコバの奴が話してるのを聞いたことがあるけど、ホントそれだけ。後はご主人様がモコバの奴に名乗られたことしか知らないからメルルと一緒」
「ムァ!ご主人様ってキーパーなの!?何よそれ!私なんてご主人様がモコバの馬鹿に名乗られた所も知らないわ、病気で2階に居たんだから!ってもっと早く教えなさいよ!!」
チィウは自分だけ知らなかったことに腹を立てる。
「ずっとご主人様と一緒だったからお話出来なかったの。ごめんねチィウ」
奴隷商店から宿の道中では、ロイが居たので私語は出来なかったのだ。
「そうそう、ご主人様に嫌われるような事なんて出来る訳無いじゃない」
そう言われるとチィウは責めようが無かった。
「そっか、それもそうね」
チィウの癇癪が収まってメルルはホッとすると、最後のお菓子を頬張る。
「ホム…、それじゃみんなご主人様のことほとんど知らないってことなんだねぇ」
「ハムゥ…これは憶測だけれど…」
アイリーが何やら得意気に話始める。
「きっと、ご主人様は治療の奇跡をご専門にご活躍なさるキーパーだわ。多分、ご主人様の貴重なお力を見出したキーパーのお偉い様がご主人様の等級を上げて下さったの」
それを聞いてメルルはポカンとし、チィウは少し引っ掛かった表情をした。
「私もアイリーと同じ考え。でも、キーパーって特殊戦闘職でしょ?確か戦闘スピリット技を持ってないと入隊出来ないって聞いたことがあるもの。ご主人様は戦闘技をお持ちなのかしら」
「2種類もスピリットを持てるわけ無いのだから、きっと、ご主人様は治療の奇跡だけでも十分キーパーとして活躍なさっているんだわ!」
アイリーはキラキラした眼でロイが活躍している姿を想像する。
「メルルはキーパーさんの事全然知ないから分かんないけど、そうなの?」
「アイリーの言ってたことが一番近いと思う。ご主人様から直接お伺いしたいけど、そんなこと無礼だからするわけないし。誰が他に詳しい子居たっけ?」
チィウは2人に視線を向ける。
アイリーは他の奴隷仲間にロイについて何か知ってそうな人物が居るかと思い起こしたが、あることに気が付いた。
「あっ、そう言えば、カイとアルノーは今頃ご主人様とお喋りして詳しくなってると思う」
女子3人は憎い仲間を思い出し、とても不機嫌な顔になった。
「お喋りどころか、絶対ご主人様に抱き着いてるわ。特にカイ」
チィウがカイに憎悪を燃やす。
「絶対そう!あいつ猫被りだからご主人様にメチャクチャ甘えてるんじゃないかしら。アルノーはそんなことしないと思うけど」
アイリーはカイがロイにしていることを想像し、ますます不機嫌になった。
「ナデナデしてもらってたりして…ゴクリッ」
メルルは妄想を膨らませ、ロイにご褒美を貰う様をイメージして思わず口の中の唾を飲み込んだ。
コンッコンッコンッ
女子3人はドアをノックする音を聞き、飛び上がった。
「入るよー?」
ドア越しで声は小さく遮断されているが、ロイの声を女子3人が聞き間違う訳が無い。
((ご主人様だっ!!!))
3人は大慌てでお菓子の包装やら食べカスやら片付け、アイリーは通路に落としていた鍵を拾ってドアを開けた。
「よ、ようこそお越し下さいましたご主人様」
アイリーが息を切らしながら頭を下げる。ロイはマスクと帽子を被った姿のままだ。
「あはは、急がせちゃってごめんね。コーディネーターの方に来て貰ったから、身支度は自由にお願いしてもらってね。服は測って貰ったら明日の朝この部屋に届けて貰うから3人で受け取って欲しい。もうお金は支払ってるから遠慮なくね」
アイリーと後ろに控えているメルルとチィウはサッと素早く土下座して感謝の意を唱える。
「ありがとうございますご主人様っ!」「お心遣い感謝致しますっ!」「私共にお恵み下さったご厚意、誠心誠意の奉仕でもって必ずお返し致します!!」
3人の好意はありがたいが、ロイは皆にもっと対等であって欲しかった。
「あはは、気にしなくても良いのに。それと、床に伏せなくても良いんだからね?」
ロイは苦笑いしながら3人の気を緩めようとするが、女子3人は熱の籠った顔でブンブン首を横に振る。
「「全て本心の表れでございますご主人様!!」」
ロイは3人を落ち着かせながら、1人のコーディネーターを部屋に招き入れる。
パチパチパチ
部屋に入って来たコーディネーターの女性はロイと女子3人のやり取りをみて、思わず拍手した。
「素晴らしい信頼関係ですねー!購入されて間もないと聞いていたので荒れているかと思っていましたが、これほどだなんて。マスクのご主人は一体どういった方?貴族様じゃないですよね?アイツら奴隷を家畜みたいに扱いますから」
少しラフに話すこのコーディネーターは、赤紫のショートヘアに、褐色の肌、腕まくりしたシャツに黒いベスト、茶色いズボンの腰にはベルトと一体化した美容道具を収納するホルダーがあり、見た目年齢30代といったところだ。
「オレはただのロイですよ」
サラッと流すつもりで言ったつもりだったが、コーディネーターの女性は眼を丸くして飛び上がった。
「え゛っ!!?ロイってあのロイ様のこと!?だったらこの子達との信頼関係も頷けるケド、ホント?あっいや、でしょうかっ!?」
ロイは心の中で毎度のこの流れにうんざりしていたが、笑顔で指輪の紋章を見せる。
「あはは、そうですが、そんなに驚かれるような人間じゃありませんよ」
コーディネーターは指輪の紋章を見て、目が飛び出しそうになるくらい衝撃を受けた。
「キャー!!!て、天子ロイ様っ!!!本物のロイ様ぁんっ!!!ウソみたいっ!!!こんな奇跡あるんだっ!!嬉しいっ!やっと会えたぁ!!」
コーディネーターの女性は涙目でピョンピョン跳ねながら、ロイに会えたことを喜んでいる。それを女子3人は何故か自慢気な表情で見ていた。
「ろ、ロイ様ぁ…、あ、握手してもらえませんか?」
コーディネーターの女性が握手して貰おうとロイに近づく。
シュバッ
アイリー、メルル、チィウの女子3人が素早くロイの前に立ち塞がり、額に青筋を浮かべながらコーディネーターを睨んだ。
「「ご主人様に軽々しく触れようとしないで頂けます??」」
「そこを何とかっ!」
コーディネーターの女性は顔の前で合掌して女子3人にお願いする。
ロイは慌てて女子3人を止めに入った。
「大丈夫だから、みんな落ち着いて!握手ぐらいどうってこと無いから。ねっ?」
この後なんとか女子3人を説得し、女子3人が監視する中、コーディネーターの女性と軽く握手してから、ロイは部屋を出て行った。
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