1話 転生??
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世間では晩御飯を食べているだろう時間、駅近マンションの一室では男がリクライニングチェアに深く腰掛けて、窓の外に見える夜景を眺めながら寛いでいた。
男は何か憂鬱な表情を浮かべながら自身の近くにある小さなテーブルに手を伸ばし、十分に冷えたメロンクリームソーダの500mlペットボトルを乱暴に掴み取った。
ゴクゴクと喉の音を立てて豪快に飲むと男の口から溜息に似た声が漏れ出た。
「ッハァァ~~」
男の名前は鈴木 律。清潔感のある黒髪短髪で顔は整っているとも不細工とも言えぬザ・一般人、ジーパンにベージュの長袖クルーニットを着ており服のセンスもごく普通。
会社勤めの社会人2年生になった今は新人社員にありがちな働きたくない病と向き合っている最中だった。
「何で働かなきゃならんのかねぇ・・・」
自分しか居ない今は独り言が増えてしまう。この日曜日の夜という時間になると明日また仕事なんだという残念が頭の中に過る。
まるで休日という天国から追放される法的手続きのように思われて心底嫌だった。
メロンクリームソーダの甘さでこの憂鬱を相殺出来ないかと期待したがまるで意味は無いようだし、とりあえず気持ちを紛らわせようと現実逃避に定番のゲーム機へと目を向けた。
その時だった。
突如として身体全体が光に包まれ何かに引っ張られるような感覚が走ると眼に映る男部屋の景色が暗転した。一瞬の出来事だった。
♦♦♦♦♦
「うわぁ!!」
謎の光に遅れて律から驚いた声が出た。
急に体が光ったと思ったら今度はなぜか自分は見知らぬ場所に居るようだ。
真っ白な部屋の中心にはただ六角形の台があるだけだがなぜか部屋は明るく、台の上には律が尻餅をついて座り込んでいる。この部屋には2人の人物しか居なく、律と台座を真っすぐ見下ろして立っている知らない男だけだった。
(??誰だろう?)
恐る恐る律を見下ろす男をよく見ると、驚くほど神秘的な雰囲気の持ち主だった。王冠を思わせるような光輪が頭上にあり、長い金髪、見た目30歳前半であろう堀の深い顔、白人肌の逞しい肉体に純白の羽衣をまとい、衣服はゆったりとした白い布をキトン風に巻き金色の腕輪とベルトを装着している。さらに男とその周囲は神々しくも優しい光を放っていた。
(なぜこうなった。)
あまりの事態に頭がついてこない。自分が何かしたのかと直前の行動を思い返すも皆目見当もつかない。
目の前の男は静かな表情を浮かべるだけで直に襲って来る様子もなさそうので思い切ってこの状況を聞いてみることにした。
「だ、誰ですか?あの、初めましてですよね??」
「・・・神。我は全能の神オーゼス。其方に会うのは初めてだ。」
(うわっ渋い声・・)
脳裏にこびり付くゆったりとした重厚な声が律の全身に響き渡った。
言葉が通じるみたいでホッとした。
「か、神?様ですか・・・」
今の事態、この男の声と雰囲気を考えるとコスプレとかドッキリではなさそうだ。つまりマジであることが濃厚か。
というか、まさに神だと言わんばかりの西洋の神話に出てきそうな恰好だし、うん、まあ神なのでしょうね。オーゼスなんて神は聞いたこと無いけど。
「汝、リツよ、其方は選ばれたのだ。何も知らぬであろうがこれより其方は異世界へと渡り第二の人生を歩むこととなる。」
「え?第二のってどういう意味でしょうか?それに異世界って───」
「言葉で伝えるよりも肌で感じた方が良かろう。では始めよう、むん!」
そういう事じゃなくてちゃんと説明して欲しかったが、すでに目の前の神はこっちに手をかざして何やら集中しているので話かけるのはまずかったし、自分の身体は光の渦に飲まれ足元にはサークル状に読めない文字の羅列が浮かんでいたので諦めた。
・・・・?しかし何も起きない。いや、不可思議な現象はさっきから連続して起きているのだが自分は異世界とかいうところに行かず台の上で座ったままだった。
「む?違ったか。何せ初めて使う術だからな。」
どうやら失敗したらしい。
(ホントに全能の神なのか??)
「待ってください、まず何でこんなことになったのか説明───」
「むん!!」
こっちを完全に無視し、オーゼスとかいう神は先ほどと同様の現象を起こすが、台の上からはピクリとも動かなかった。
「むぅ、術に間違いなど無かったのだぞ・・・。力を足してみるか」
「異世界転生するんですよね!?フィクション作品でよく見る───」
「むん゛ん゛ん゛!!!」
またもや無視する神にイラっと来ていたその時、先ほどとは比べ物にならない光の嵐に飲まれた。多分相当な力を込めたのであろう。
「うわっ!?」
自分に何かが入り込んできている。奇妙な感覚だ。五感で表現できないもう一つの感覚、絶対的で荘厳な力の流動を感じる。決して抗うことが出来ない大宇宙の法則の様な確固たる力に支配され、ようやく目の前の景色が暗転した。
野菜って何で不味いんだろうなぁ・・