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異世界ラーメン道  作者: R66
1/3

1 朝ラー

サブタイトル間違えて入っていました。

入力時の勘違いです。

初っ端からすみませんでした。

「ヘイ、ラーメンお待ち」

 俺はカウンターの客にラーメンを差し出す。

 客はこれから迷宮に潜る冒険者だ。


「いつも通り美味そうだな」

「美味そうじゃない。美味いんだ」

 俺は訂正する。

「ズルズルズルズル、ゴクゴクゴクゴク。ごちそうさん」

 冒険者は、あっという間に完食して銅貨5枚を置いていく。

「ヘイ、毎度」


 空いたカウンターがすぐに埋まる。

「ガンジロー、大盛をくれ」

 開いた席に座ったのは、三級冒険者のティナ。

 常連の客というよりも、家族と言った方が近いだろう間柄だ。


「ティナ、少し待っててくれ。お前の分はきちんと残してあるから大丈夫だ」

「そう言って、昨日も全部お客さんに出した。私だって食べたい」

 昨日のことを言われるとちょっと弱い。

 ティナには恩義があるので、俺の店では基本永久無料だ。

 ティナは永久無料に甘えて、いろいろ注文してくるので、俺もティナに甘えて、というか、あまり気にしないで、他の客を優先させてしまう。

 昨日は麺がない分、お好み焼きを作って食べさせてやったのだ。

 ティナはそのお好み焼きを、ものすごく喜んで食べていたので、もう終わった話だと思っていたのだが、未だに引きづっていたとは。食べ物の恨みは恐ろしいという奴か。


「俺はティナと一緒に朝飯を食いたかったんだが。もう少し待っててくれないか」

 この後、ティナと一緒に迷宮へ潜る予定なのだ。

 ティナが先に朝飯を食べ終わってしまうと、俺が朝飯を食べたり、店の片づけをしている間、『早く早く』とうるさいのだ。


「まぁ、ガンジローが私と一緒に朝ご飯を食べたいって言うなら、待っててあげても良いけど」

 顔を少し赤くしてティナがもじもじしながら言った。

「美容にいい飲み物だから、これを飲んで少し待っていてくれ」

 俺はティナにスムージーを出す。

「これ美味しい」

 一口飲んだティナが驚いたように言う。

「だろ。ティナ専用だ。それ飲んで少し待っていてくれ」

 コクンと可愛くうなづくティナ。

 これで少し大人しくなった。


「ちょっとそれは不公平だ!」

 カウンターの端に座っていた、肉屋の娘、ミーチャが声を上げた。

「そんなチートな飲み物、ティナ専用にしていい訳があるか。そんなことなら肉を卸すのは止める!」

 ボリュームのある胸をはじけさせるようにしてミーチャが抗議する。

 ミーチャの親父さんには世話になっている。

 肉の仕入れに影響が出たらこの店は持たない。

 こんなスムージー一つ仕入れが出来なくなるとは思えないが、子離れのできていないあの親父なら、もしかすると百分の一、十分の一くらいの確率で仕入れを止めるかも知れない。

 いや、仕入れはさせてくれても、タダ同然で貰っていた鶏ガラをくれなくなるかも知れない。


「いや、そこまでチートなものじゃないから。飲みたかったら作ってやるから」

 俺はそう言ってミーチャのためにスムージーを作って差し出した。

「ふん、これで私の魅力も大幅アップ」

 ニコニコしながらスムージーを口に含むミーチャ。


「ちょっと、私専用って言ってたのに、舌の根も乾かないうちに他の女に飲ませるなんて……、あんた一回死んだ方が良いんじゃない」

 ティナが腰の剣に手を掛ける。

 朝から食べ物のことでこんなに喧嘩するなよ、と泣きそうになりながら弁解する。


「さっきティナに出したのは、ティナ専用に作った、大人専用のものだから。ミーチャに出したのは、ミーチャ専用に作った子供用のものだから、中身が違う訳よ」

 俺は冷や汗をかきながら、腰の剣に手を掛けているティナに説明した。


 三級冒険者は、この店をあっという間に破壊しつくすことが出来る。

 こんなサービス品のスムージーで、客同士がけんかするとは思わなかった俺は、一生懸命ティナを説得した。


「お子ちゃまにはお子ちゃま用のものが似合う」

 そう言って機嫌を直すティナ。

 言った本人の機嫌はよくなったかもしれないが、言われた当人の気持ちはどうなっているのか。

 そういう事を全く考えないで言う所が怖い。

 いや、分かって言っているのか?


 言われたミーチャはそれに抗うかのように、余計な一言を言った。

「あっちの飲み物はおばさん専用なのね。私若いから、肌ぴちぴちだから、これで良いわ。私の専用は美味しいし」

 お互いにお互いのスムージーをディスっている。

 どっちも俺が作ったものなんだが。

 なんで女って言う奴は、仲良くできないんだよ。

 この店は、食事を提供する場であって、喧嘩の燃料を提供する場じゃねえ!


 険悪な空気が、秒単位で加速する。

 他のお客さんも、ピリピリした空気を感じ取ったのか、麺とスープを口に入れる速度を早めた。

 そんな食べ方絶対美味しくないから。


「ちょっと、食べ終わったら、早く他の客に席を空けな。いつまでもこんな店で粘ってるんじゃないよ。ここは喫茶店じゃないんだから」

 男前な言葉で嫌な空気を払拭してくれたのは、治安維持隊の騎士であるオフェリアだ。

 ティナに嫌みを言っていたミーチャは、オフェリアに睨まれ、すごすごと店を後にした。


「済みません、オフェリアさん」

 俺はお礼を言った。

「ガンジローは駄目ね。いくら店の味が良くても、客あしらいが下手じゃ、商売人としてやってけないわよ」

 そう言って、オフェリアはカウンターに銅貨5枚を置いて出ていく。


 俺はほっと一息吐いた。

 空気が緩んだことを感じた客は、麺をすする速度がゆっくりになった。

 あとで治安維持隊に差し入れを持って行こう。


 ミーチャとオフェリアが空けた席に、次の客がすぐに座った。

「「ガンジロー、ラーメンをくれ」」

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