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YDT  作者: ヨダツ
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帰宅の静寂

この世界は現実です。

地球という星に存在し、日本という国に出没しています。

ファンタジーなんていう生温い世界とは比べ物になりません。

それは、とんでもなくカオスな世界。

今、あなたもそのカオスに触れていることでしょう。


ヨダツという男が居る。

埼玉を拠点とし、気の向くままに近辺を徘徊するのが日課。

彼は常に考えている。

この世の中の全てが、何を理由に存在しているのかと。

答えは常に出ている。

明確な理由はなきにしろあらず、意味の無いものはひとつとしてない。


それでも考える必要があるのだ。


生き物は常に生き続けるから生き物であり、それが行き着く先は全て死である。

死ぬことが決まっているのに、何故産まれる必要があるのか。


そこの自動販売機は、そこで突っ立って愛想良く飲み物を売るだけが生きる理由ではない。

まあ万が一その可能性があるとしても、必ずその結末が訪れるとは限らない。

別の所へ移されて、改めて突っ立ち始めることもある。

スクラップされて、新しい部品へと生まれ変わることもある。

生き物だけは、いつ何時も何れは〝死ぬ〟運命。 決まった結末を迎えるのに、何が楽しくて産まれるのか?


ヨダツは動いた。


駅が爆発した。


大量の人が飛び散った。


くそつまらない駅のホームに、死屍累々のアートが完成した。


「ああ、そういうことか。」


ひとつの答えがまた産まれた。

それはとっても簡単なことだった。

生き物というのは、死ぬために産まれるものだ。


都内で老人が人を轢いた。


人々は悲しみにくれた。


老人は何も問われなかった。


それはそうだ。


産まれるための真の理由を突き詰めたのだ。


ヨダツは動いた。


「また、新しい〝産まれる理由〟をひとつ考えよう、このままでは何も面白くないからね。」



この世界の産まれる理由が今ここに定まった。

「」


首尾良く犯罪が行われるほど日本という国は終わったものだと卑下するつもりもないが、全ての犯罪を取り締まり罪人を拿捕できるほどに徹底されていると買い被ることもない。


今回、仕事終わりのサラリーマンが集って出てきた駅の改札であれだけの大量殺人をやり遂げたのに警察はちっとも迅速さが窺えない。


駅から徒歩で10分近く歩き続けてようやくパトカーのサイレンが聞こえてきた。


それでもヨダツは、相変わらずだ。


背後から迫り来るパトカーに対して一度も振り向くことなく、乱れのない歩幅で歩き続ける。


他に出歩く者が居ないこの夜道を、けたたましく走るその連中は間違いなくヨダツを追っていた。


横へつけたかと思うと、更に後ろから追っていたもう一台が前方へ回り込みヨダツの行く手を遮った。


「…。」


警察が各車両からゆっくりと降りて、ヨダツを囲うように歩み寄ってきた。


「君、今さっき駅に居た者だろう。」


質問に対してひとつ頷く。


「爆発が起きたのも見ていたはずだ。

あそこから生き残った人間は君だけ、乗客は勿論駅舎で働いていた駅員も丸ごと焼け死んだ。」


頷き伏せた頭のまま、静かに話を聞き入れる。


「…君は何故逃げきれたのか。」


たまたまだ、と言えばそれまでだが、この者たちは事態の粗筋をよく理解していないように思えた。


「…願いが叶った。」


「願い?」


ゆっくりと頭を上げ、正面に居る警察に人差し指を向けた。


「人は…、必ず死ぬ運命だ。」


指を差された警察は、その言葉を静かに受け入れていた。

両手がわなわなと震え始めるが、ヨダツの言葉を聞き入れることしか出来ない。


別の警察が近付いて状況を掴もうとする最中、ヨダツの指がそちらへすっとスライドされた。


液体がべちゃりと飛び散る音がしっかりと耳に届いた。


「死ぬ事は、人間において願い続けた夢ことさ。

例えどんな人生を歩もうとしても必ず人間は死ぬ、その為に生き続ける。」


そう口にするヨダツの左手には、首元からすっぱりと切り離された警察の頭部が握られていた。




人間の生きる意味を追求したい。


人間が産まれる意味を理解したい。


暫くして、近くの交差点に行き着いた。


深夜の交差点、車、人の気配は何一つなく、誰の為か知らないままの信号の光が道路を微かに照らすだけだ。



「…。」


ヨダツが信号を見つめていると、信号もヨダツを見つめているようだ。


「君は。」


赤信号の君に問う。


「何の為に、そこに生き続けている?」


赤く光る信号は、深く息を吸ってからゆっくりと答えた。


「生きる意味を探すためだ。」


答えを貰ったが、それは答えを貰っていないに等しいものだった。


「生きる意味は見つかりそうか。」


一寸の揺らぎもなく、冷徹に言葉を送る。


「いつか、その内。」


顔色を青くした信号、その下をくぐり抜けてヨダツは交差点を後にした。

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