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男の子は、思い付く。
彼女が俺の為に電車を待っている。
これは夢かなにかなのだろうか。
そう思ったけれど、それ以上彼女は電車が来る方に顔を向けたままこちらに視線を戻さない。
こっち向け。
こっち向け。
こっち向け。
彼女に向かって祈り続ける。
人が少なくはないこの駅のホームで、世界に二人しかいないみたいだ。
近くで見る彼女の横顔はとても凛としている。
姿勢が良くて、髪もさらさらと風に揺れている。
その風に乗って彼女のいい匂いがふわっと流れてきて、思わず赤面してしまう。
変態か、俺は。
いつも寝たふりをしているから、こんなに彼女を見たのは初めてだった。
一緒に電車を待たせたりして、迷惑してないだろうか。
そう思っていると、電車がホームに入って来た。
彼女との時間も、もう終わり。
また来週。あの時間に。
俺は慌てて持っていた紙に連絡先を記入し、彼女に手渡す。
「これ…!」
押し付けるように彼女に手渡して、俺は電車に飛び乗った。