6/10
男の子は、勇気を出す。
そりゃ突然知らない男に話しかけられたら驚くよな。
拾った本を差し出すと、彼女はさらに驚いた顔で自分の鞄を確認する。
やっぱり彼女ので正解みたいだ。
意外に抜けてるところがあるのかな。
そう思ったら可愛いなと思った。
「ありがとうございます」
彼女は笑顔でその本を受け取る。
初めて見た笑顔はますます可愛くて、俺も自然と笑い返していた。
俺が笑ったのを見た彼女は突然真っ赤になって、俺もつられて顔が赤くなる。
「電車降りちゃって大丈夫ですか。あと、お礼…」
休日出勤だから、出勤時間は決まってないし、次の電車はすぐ来るだろう。
お礼、と言われて一瞬、ごはんでも一緒に、という言葉が頭をよぎった。
いや、でも今それを言うと、彼女に奢らせてしまうことになるんだろうか。
「すぐ次のに乗るから大丈夫。お礼も気にしなくていいですよ」
軽い男と思われたくないのもあって、気づいたら格好つけていた。
数分で電車は来る。最悪また来週の電車で声を掛ければ、どうにでもなる。
「じゃ、じゃあせめてお見送りします」
思いもよらない返答が来て、彼女はその場にとどまった。